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ms



天邪鬼お題5





1.あからさまな否定


「シンタロー。」
「ンだよ。」
せわしなくペンを走らせながら、返事をする。
有能な補佐は不満そうな気配など微塵も見せず、こう言った。
「お前はマジック伯父貴のことが好」
「いいや。」
外見28歳、内実4歳の従兄弟は時々突拍子もない質問をする。
もう慣れたけどな。
「最後まで聞いてから答えたほうがいいぞ。」
「聞かんでもわかる。」
「そうか?」
「ああ。無駄口叩いてる暇があったら仕事しろよテメェ。」
ぺったんぺったんと認証印を押す俺に、キンタローは真面目な表情を崩さない。
「俺が聞きたかったことはな。」

「お前はマジック伯父貴のことが、本当に好きではないのか、ということだ。」

その瞬間、俺の時間は止まった。
持っていた認証印が落ちて
重要書類にシミを作ったことも目に入らないくらいだった。
控えている秘書が咎める声も、どこか遠くに聞いていて……
「お前の返答でよくわかった。
いつも嫌いだ嫌いだと連呼しているが、お前は実は伯父貴のことが―――」
……立ち直るまで時間がかかりそうだ……




2.「かっこいい」なんて絶対言ってやらない


ある朝起きると。
親父が喪服を着ていた。
こちらに気づくと、いつものように「おはよう」と声をかけてきた。
「………はよ……どっか出かけんの?」
「うん。知り合いのお葬式にね。」
とは言っても、数えるほどしか会ったことないんだけど。と、付け加えた。
きゅ、と黒いネクタイを締めて鏡の前に立つ。

金色の髪は綺麗に撫で付けられいて。
黒いスーツに身を包んだマジックに。
不覚にも、見惚れてしまった。

「シンちゃん、どうしたの?」
「…いや、なんでもない。」
黙っていれば英国紳士。
口を開けば変態親父。
そんな奴が好きな俺って……
「夕方には帰ってくるから、いい子にしてるんだよ。」
お子様よろしく頭を撫でられて、憤慨する間もなくヤツは部屋から出て行く。
いつもこうやって子供扱いするんだ。
悔しい。
だから「かっこいい」なんて、絶対に言ってやんない。




3.わかりやすい反応


嘘をつくのはうまい方だ。仕事上、仕方ない場合もある。
うまいに越したことはないだろう。
……と思う。
だけど、目の前にいるこいつは。

「シンちゃんの嘘つき。」

と、俺の嘘を一発で見破るのだ。
癪にさわるったらありゃしない。
「嘘なんかついてねえよ。」
「それも嘘。」
意地悪な笑顔が心底憎らしくてたまらない。
この状況を楽しんでいるこの男が。


「嘘つきは、」


流暢な日本語を話す英国人は、紳士らしからぬ笑みを浮かべたまま。


「嫌いだよ。」


我知らず体が揺れて、目の前の人間を凝視した。
まさかそんなことを言われるとは思わなかったから。
「シンタローはわかりやすいね。」

私がお前のことを嫌いになるなんて有り得ない。
その逆はもっと有り得ないことだよ。

「だから、間違ってもパパのことを嫌いだなんて言わないで。」
指先で目元をぬぐわれる。
やっぱり俺はお前のことが嫌いだ。




4.照れ隠しに


仕事中にこっそり抜け出して、親父の部屋へ向かった。
ティラミスに見つかったら数時間の説教は免れない。
マジックに見つかったら数時間は寝室から出られない。
どちらもある意味命がけだ。

「シンちゃん!」
世の中ってうまくいかないもんだよなあ……
くるりと振り返れば、満面の笑みで手を振る親父がいた。
神様、そんなに俺のことが嫌いですか。
「わーいわーい! シンちゃんだー!」
見つかったなら仕方ない。この際だ。
大はしゃぎするマジックに手の中のものを押し付けた。
急いでヤツから離れようとしたが、いとも容易く腕を掴まれ、眼で「これは何?」と問われた。

ああ、恥ずかしい。
顔が紅潮するのが嫌でもわかった。
こいつはこれは何だと尋ねているだけなのに。
何でこんなに恥ずかしいんだ。
ちょっと親孝行したいとか思った俺がバカなのか。

「開けりゃわかるだろ!」
いても立ってもいられなくなったので、マジックの足を思いっきり踏んづけて。
一瞬、力が抜けたところを突いて逃げ出した。
情けない声が俺を呼んでいたけど振り向くのも恥ずかしくて、全速力で総帥室へ走った。
それは雪の舞い散る冬の日の出来事。




5.本当はね


「シンちゃ~ん、たまにはパパのこと好きって言ってよ~。」
「嫌だ。」
すりすりベタベタ……あああウザい!!
こんなやり取り、日常茶飯事なんだけど。
「離れろッ、邪魔だ! どっか行け!」
「どっか行けって言われても、ここはパパの部屋だもん。」
50過ぎた親父がだもんとか言うな! かわいくない!
それでも許容してしまうのは、俺の甘さか。

「そうか。じゃあ俺が出て行く。」
「嫌。」
俺の腰をがっちりと抱え、親父はぶんぶんと首を振った。
綺麗にセットされていた前髪がはらはらと額に落ちる。
「なら大人しくしてろ! セクハラすんな!」
「ええぇぇぇぇぇえ!? じゃあパパは何すればいいの!?」
盛大に不満を言うマジックをソファから落とすべく、ゲシゲシと足蹴にする。
「お前はセクハラしかすることないんかッ!?」
額に青筋をたてて怒鳴ると、しぶしぶ……という感じで親父は大人しくなった。

マジックにもたれかかり雑誌に目を落とす。
触れた部分から熱が伝わり、相手の呼吸のリズムを感じる。
無意識に合わせてしまう自分がおかしい。
すると、大きな手が俺の胸のあたりを叩きはじめた。
規則正しく、親が子供を寝かせるように。
「……寝ないぞ。」
「いいよ。パパがやりたくてやってるだけだから。」
だけど時間が立つにつれて、文字を追っても内容は頭に入らなくなってきた。

寝ない、と思ってるのに。
次第に瞼は落ちてゆく。

「寝てもいいよ。」
「………ん……」
雑誌はテーブルの方に投げ捨てて、もぞもぞと寝やすい位置を探す。

―――眠りに落ちる瞬間。ひどく優しい言葉が聞こえた。
「大好き、シンちゃん。」


俺だって、本当は。
でも、毎日毎日「好き」だって連呼されると。
その分、俺は言えなくなってしまう。
俺だって、アンタに負けないくらい。
本当は、好き。




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ms
会いに行こう

唐突かもしれないけどそう思うんだ。

無性に君に会いたい。
だって、そういう時ってあるよねぇ?
今、何をしてるのかなぁ?
この時間だと…総帥室で仕事中かな?
忙しくなったお前の、秒単位で刻まれるような1日のスケジュールだってもちろんパパは把握しているよ。
だって愛しているからね!
きっと眉間に皺を寄せて、なれない書類仕事をしてるんだろうねぇ…
お前は根が真面目だから。
一つ一つに時間をかけて真剣に取り組んでいるのだろう。
でも、それじゃ疲れちゃうよ。
パパはお前の事が心配だよ。
もっと休んで欲しいのに、一緒にいて欲しいのに…。

そんなことが頭に浮かぶ。

これって、お前のことが愛しくてしょうがないって事なんだよ?
いつでも、パパはお前の事ばかり考えてる。
でも、ただそう想ってるだけじゃつまらなくなるんだ。
だってお前のこと想ってただじっとしてるよりも-

お前の顔を見ていたいじゃない?
お前の声が聞きたくなるじゃない?
お前と触れ合いたくなるじゃない?

私はね、お前と一緒にいたいんだ。
離れていたくないんだよ。

そうとなったら即行動!

待ってるだけ、想ってるだけなんてつまらない!
会いに行こう。
・・・残念ながらお前からは会いに来てくれないだろうしね。
でも、会いたいと想っているは私だけじゃなかったんだよね。

 

「シンちゃーんvパパだよ~♪」
「でたな!アーパー親父…。何度言ったら分かるんだ!!仕事中には来るなって言ってんだろ!」

 

「でたな!」、だなんて…私はヒーロー漫画の悪役かい?
あぁ、でもそれって私が来るのが分かるってことだよね?
なんだかパパのこと考えてくれてるみたいで嬉しいよv
それに、「仕事中には」って、他の時間になら来て欲しいみたいに聞こえるのはパパの思い込みなのかな?
ちがうよね?会いに来て欲しいんだよねシンちゃんはv

素直になれないお前のかわりに、

会いに行こう-

ms
その夜、俺はトットリとミヤギ、コージ達と(+隅にいたアラシヤマ)で酒を飲んだ。

気晴らしになるはずだった-

 

 

自室に帰り、飲み足りなかった俺はさらに酒を飲んでいた。
そこへ、タイミング悪く奴は来た。

「ずいぶんお酒くさいね。誰と飲んできたんだい?」

俺は親父を無視して熱った身体をソファに沈める。
冷蔵庫から出しておいたビールを一気に煽った。

「まだ飲む気なの?」

隣に座った親父が身体に悪いと咎める。

-気晴らしのはずだったんだ・・・

「飲みたりねぇんだよ・・・。」

(イライラする・・・目が熱い・・・)

もう一本ビールを煽る。

「飲みすぎるとよくないよシンちゃん。」

俺を気遣う親父の声。
その声に、俺の目はさらに熱くなった。
覗き込んでくる親父の顔が涙でぼやける。

「シンちゃん?」

いきなり泣き出した俺に困惑する親父。

「どうしたの?なんで泣いてるの?」

(嗚呼、ぼやけて親父の顔が見えない…)

「親父…。」

俺はマジックの顔を両手で包むとそっと引き寄せた。

「シンタロー…?」

めずらしく戸惑った声を無視して唇を塞いでやった。

 

 

「シンちゃん?酔ってるの?」

(シンタローからキスだなんて…)

マジックは少し困惑していた。


(何か合ったのかな?)

酒に強い彼は滅多に酔うことはない。
それに、仕事に備えてか普段はブレーキをかけて飲んでいる。

「酔ってなんかねぇよ…。」

酔っ払いは、自分で酔っているとは言わないものだ。

「こんな積極的なお前はめずらしいからね。」
「あぁ?じゃぁ普段は消極的だって言いたいのか?」

酔っ払いは、なんでも挑発と受け取ってしまうようだ。

「ん~…別にそういうわけじゃないけど…」
「…気に入らない…」
「え?」

シンタローが小さく呟いた。

「俺だってなぁ……」

耳元にシンタローが囁く。

 

「アンタのこと愛してる・・・」

 

酒は理性を溶かしてくれる。
その夜、私はシンタローのその言葉に酔っていた。

ms
清く、正しく、生まれ変わったガンマ団。

「俺が総帥になったからには、俺のやり方でやらせてもらう。そこんとこよろしくな。」

ガンマ団シンタロー新総帥襲名式。
団員達の前で挨拶とともに、にっと不敵に笑ってみせた彼。
その笑みに、一体何人の団員が忠誠を誓った事だろう。

「よう!お疲れ!悪いな無理させちまって…。」
気遣う彼の言葉に、
「いえっ!自分は職務を全うしただけであります!」
真っ赤になって新兵が慌ててそう叫ぶ。
彼がフロアを行くだけで、
「総帥っ!おはようござます!」
「ん、あぁおはよ。」
「うっわー返事されちゃったよ~!」
「バッカ!シンタロー総帥は誰にでも挨拶返してくれるんだよ。」
「あぁ~今日も笑顔がまぶしいなぁ~。」
「カッコイイ…。」
皆、感嘆のため息をもらした。

「………。キミタチ?お仕事頑張っているようだね?」

そこへ黒いオーラを纏った男が一人。
「マジック元総帥・・・。」
おそるおそる振り向いた先には満面笑顔の元総帥が立っていた。

 

目は笑っていなかった。

mmm
世界征服のすすめ


「えー、諸君」
 マジックは、集会場に揃った団員をぐるりと見回した。
 最後列に近い位置に、シンタローは佇んでいた。彼の傍には、ミヤギ、トットリ、アラシヤマ、コージといった、のちに遥か遠方の島で行動を共にすることになる、実戦方面のエリートたちが固まっている。
「あ、おーい! やっほー、シンちゃーん! パパの声、そっちまではっきり聞こえるーっ?」
 演説台の上で、マジックはぶんぶんと手を振った。
 不意のことに、がくっ、とシンタローはこけかける。
 ……まともに喋れないのか、あの父親はっ。そんな眼差しを前方に向けるが、壇上の、場を統べる者はあくまでにこやかだ。
 周囲の視線が、シンタローに注がれていた。溜息をついて、彼はひらひらと手を振り返した。
「いいようだな。では、始めよう」
「……何が始まるんだっちゃか?」
「シンタローはんは知ってはるんどすか?」
「んー、まあ、大雑把な中身は。すげーめちゃくちゃだけど、一見――いや一聞? の価値はあるかもしれねえ」
 本当は認めたくない、と言いたげな表情で、シンタローは同僚に答えた。マジックは草稿に目を落とす。
「諸君らは、わがガンマ団の一員だ。ガンマ団といえば、世界に冠たる殺し屋組織……無論、それだけが全てではないが、最終的な目論見は世界征服にあることを、君たちは既に知っているだろう。だが、それは一体どのようにすればいいのか? 仮定に基づき、今日はそのことについて話を進めたいと思う」
 一旦言葉を切り、マジックは演説テーマを発表した。
「――『世界征服のすすめ』」
「でーっ、やっぱ最っ低……。あいつ、ネーミングセンスとかコピーセンス、まるきり持ってないんじゃねえのかァ? もちっとまともなタイトル付けりゃいいのに……」
 シンタローは心底嫌そうに呟いた。別にセンスなどなくとも中身がすばらしければいいのだが。
「……世界征服は、一朝一夕にしてできるものではない。入念な根回しが必要だ。切り崩しやすい部分から責めることも肝要である。そこで、……そうだな、日本人の団員もここには多いことだし、日本を征服する場合を例に取ってみよう」
 多いも何も、シンタローの士官学校入学以来、日本人もしくは東洋系が団員の主を占めているのが実情なのだが、それの持つ意味を正しく知る者は、今ここにはいない。
「日本を征服する為には、要は日本語を使えなくし、意思の伝達を不可能にしてしまえばいい。日本語を崩壊させるわけだ。その上で乗っ取りをかける。述べてしまえばこれだけのことだが、その為にはどのような手段を用いればいいだろう。考えてみたまえ」
「……弾圧しちまえばええんでねえべか?」
 ミヤギは囁いた。シンタローは、愚かなと言わんばかりの目で見返した。
「恐怖政治やってどーすんだよ! 日本の植民地支配のパターンを地でいく気か?」
「そげなこと言われでも……」
 壇上では、マジックが先を続けていた。
「長期的な展望で行なうには、被支配者の反発を最小限に食い止めねばならない。人道的見地、ヒューマニズムに則った、お涙頂戴大好きの国民性に訴える手段を取ることが必要だな。つまり――差別用語の撤廃」
 会場中にざわめきがはしる。差別用語なら、出版コード抵触や放送禁止用語といった方法で、今だって避けられている。この方法で、どうしたら日本語を崩壊させられるのだろう。既に大まかな内容を知っている――正確には一方的に聞かされている――シンタローだけが、肩をすくめて黙っている。
「といっても、差別だ差別だといきなり騒いでも、奇異な目で見られる恐れがある。……ちびくろサンボ、という物語が、黒人差別だというので、有害図書指定で一九八八年以降全面的に絶版になっているのは知っているな。しかし、ならば、白い肌を強調した『白雪姫』は何故指定を受けないのか。答えは、大人が読み聞かせるか、子供が自分で読むか、作品のその差にあるわけだ。大人はとかく、青少年の健全な育成を大仰に騒ぎ立てたがる。……日本の未来を担う子供たちに、『教育上よろしくない』と思われる言葉を覚えさせてはならない。どうだ、ヒューマニズム溢れる、思いやりに満ちた意見じゃないか。誰も我々の真の目的が、日本語の崩壊にあるとは思いもよるまい。まずはそういう名目で、差別に当たる言葉を排除してゆく。次第に、世論もそちらの方へ流れることだろう――」
「とんでもない論法じゃのぉ……面白いが」
 コージはひとりごちた。いったいこの先どう展開するのだろう。
「まあ、その辺りのところは割愛するが、とにかく、何が何でも殆どの言葉を差別用語とみなしてしまえばよろしい。誤解曲解OK。直截的表現でなくとも、差別感を連想させるだけで、それはもう駄目だ。過去にまで干渉して取り沙汰するのもいいだろう。ああ、固有名詞はあらかた使えんな。……例を挙げてみよう」
 マジックは一冊の文庫本を手に取った。
「これは、角○文庫だ。……今からもう一昔も前のことになってしまうが、社長兄弟分裂の闘争とその後の兄の麻薬取締法違反による逮捕、といった事件があったからには、角○はいかんな、○川は。世の中の同姓の人間が、長きにわたり、犯罪者と同じ苗字だというので、理不尽にも肩身の狭い思いをした可能性を否定できない。まずこれを削除だ。ついで、文庫。これには何の問題もないだろうか? 文庫というのは基本的に新書版より廉価で、普及版ということになっている。『普及』していないと断じられた新書版書籍に対して失礼だな。また、文庫の本来の意味は、書物を収めておく蔵、書庫だ。ということは、図書館だ。……身近に図書館のない地域の人が『文庫』の一言で差別感を煽られるかもしれない。これは、前述の連想パターンに曲解を上乗せしたものになるな。――削除」
 たかだか『○川文庫』の一語で、よくこんなにこじつけられたものである。聴講者は半ばマジックの話法に引きずり込まれ、固唾を呑んでいる。
「内容についても触れるかね? 一文だけ抜き出してみよう。ちなみにア○スラーン戦記第二巻だ。『はずむような足どりで家のなかへはいっていく少女を、ナルサスはやや呆然とながめやった。』……はずむような足どり、って、足の不自由な人はどうするのだろうね? 家のなかへはいっていくって、俗にホームレスと呼ばれる生活をしている人間が羨望と共に差別を感じないだろうか。第一、これは自宅ではなかったのだから、一歩間違えば住居不法侵入罪適用だ。ファンタジーにそんなものはない? 思い出したまえ、誤解してもいいんだよ。で、少女。男なら少年というな。年若い者という意味であるのに、それはなぜ男だけを指すのか。女性蔑視だな。……次の名前については今更言うまでもないし、呆然の呆は痴呆の呆、看護に疲れている身内にとっては文字だけで苦い思いが湧いてくるかもしれない。ながめやったというのは、目の見えない人に対して差別だ。――ほら、助詞と副詞しか残らないだろう。ことほどさように、ほぼ全ての単語は差別用語になり得るわけである」
 ここまでくると、こじつけもお見事としか言いようがない。
「そしてどんどん使用可能な日本語は減ってゆく。こーんな分厚い広辞苑だとて、語彙がなくなればページ数はがたっと減る。めざせ! パンフレット厚の広辞苑! これを合言葉に、用語削除の嵐風を吹かせたい。……だがしかし、削除し続けるだけでは芸がない。ここは一つ、我々で『差別にならない言い換え用語集』を発刊してみたらどうだろう。一言言うたび、記すたび、差別になるのではないかと怯えるようになる日本人にとって、もはや必要不可欠の書となるはずだ。国民は買わざるをえない。そう、どうせなら豪華装丁にしよう。五色分解フルカラーにホログラム加工、更に箔押しだ」
「同人誌のフェアじゃねえっての……」
 シンタローはぼそりとぼやく。何故それを同人誌と判るのかについて、深く問うてはならないのかもしれない。
「発行元である我がガンマ団には、印税で収益金が転がり込む。労せずして活動資金調達もできてしまった。いいことではないかね?」
 マジックはざっと聴衆を見渡した。感心したように頷く者、メモを取る者、唖然とした面持ちで聞き入る者――。
「――更にもう一つ狙ってみようか。固有名詞全廃となると、地名も駄目だな。言い換えなくてはならん。たとえば、そうだな……名古屋」
 集団の後方にいた名古屋ウィローは目をぱちくりさせた。
「何を言わせっせるんきゃあも……」
 自分の出身地がどう料理されるのか、興味津々で壇上を見つめる。
「中部地方で人口二百万人以上を抱える大都市、とでもなるか。だがこの表現ではまだそれ自体が差別用語だな、人口の少ない町が怒る。と、すると、座標で表さなくてはならん。北緯何度東経何度……緯度はともかく経度は、英国のグリニッジ天文台跡地の子午線が基準だ、基準にならなかった他国に対する不当な差別になるな、まだいけない。この際だ、我々で新しい座標を設定してしまおう。そのものずばりではならないから、ランダムにするために乱数表も必要になってくる。二冊組の本だな。地名一つ指すにもそれがなくては一言も話せないから、やはり国民は買わなくてはならない。得をするのはガンマ団だ」
 あざといほどの手口。その父らしさに、シンタローは苦笑を禁じ得ない。
「本題に戻すと、その頃には日本語は破壊されつくしているわけであるから、国を乗っ取ることも容易だ。さあ、差別用語を削除するという人道的手段で、自らの手を汚すことなく日本を征服できてしまったぞ。いやめでたい」
 まばらな拍手。アラシヤマは恐れがちに呼びかけた。
「あのぉ……シンタローはん?」
「何だよ?」
「わて、聞いとって思ぅたんどすけど……日本語を崩壊させるゆうことは、わてらも喋れへんのとちゃいますのんか……?」
「おお、言われてみりゃそうじゃの。アラシヤマ、ぬし、頭ええのお」
 コージはアラシヤマの頭をぐりぐりと撫でた。殆ど子供扱いだ。
「コ……コージはん、やめとくれやすっ」
「照れんでもええ。これは世辞ではないけん、わしの本心じゃ、安心せえ」
「わてはそうゆうことを言っとるんやあらしまへん! あんさんの、犬猫でもあやしはるみたいなその手がどすなあ」
 当人の意思はさておいて、はたから見たらじゃれている以外の何者でもない二人の様子を、シンタローは呆れたように見やり、咳払いした。
「ふざけてると、後で減俸くらうぞ、おめーら。……まあ、話を聞いてろって。判るからよ」
「……さて、日本の征服も当座叶った。活動資金も集まってくる。だが、意思の伝達ができないほど日本語を使えなくしてしまったら、我々は一体どうやって喋ればいいのだろうか。英語か? 心配は無用だ、諸君。ガンマ団に在籍している限り、制約なしに日本語の使用を認める。それが特権だ。――お、するとそれを求めて入団希望を出す一般国民も現れるか。その中に、埋もれた原石のごとき存在がいないとも限らない。征服者側の立場に寄りたいという野望家も何パーセントかはいるだろう。人材確保の心配もなくなったな、いいことだ。そして、日本を完全に支配下に置き、人々も我々の支配を受け入れるようになったら、改めて国民に日本語の使用を認めることにすればよかろう。いつまでも統制していては、クーデターを起こそうという不穏な輩が現れかねんのでな。――細かいことはまだあるが、これで我がガンマ団の日本征服計画は完了した。そうなると、それを足掛かりに、次はいよいよ世界征服だ……」
 壇上のマジックは、一息ついてから語を継いだ。
「……といっても、その一環として日本の場合を例にとったわけであるから、あえて同じことを繰り返すまでもあるまい。ここは、世界を手中に収めるに足る組織の在り方について話をしよう。シーンちゃん、聞いてるかーい?」
 マジックはまた手を振った。
 シンタローは思わず拳を振り上げる。最後尾から彼は怒鳴った。
「余計なことをせずに話を進めんか、クソ親父ッ!」
「ごほん。――先ほども述べたとおり、支配下に置いた者たちの反発心をでき得る限り抑えることが、征服者の必須条件だ。その為には、地域に根ざした組織づくりが必要になってくる。悪の組織だからといって、工業排水垂れ流しのどこぞの工場のような真似をしては、あっという間にバッシングされてしまうな? 地球にやさしい悪の組織。決め手はこれだ。無論、我がガンマ団は、早くからそれに着手している。限りある資源を大切に、節電・節水、コピー用紙は再生紙を両面使用……。諸君らが日頃使用する兵器も、実は屑鉄の再利用だ。今ブームになっているエコロジーを重視した組織を作ることこそ、ひいては世界征服を成功させることにもつながるのである」
 世界征服も、こう言ってしまうと何だかせこい。
「一方、地域密着型の組織という観点だが、何はともあれ、地域の皆様に愛される組織たらねばならん。人助けもそのうちだ。たとえば、往来で大きな荷物を抱えた老婆が立ち往生していたとしよう。その場合には、迷うことなくその荷物を持ってやるべきである」
「そんで、親切そうな顔のまま、荷物を奪って素早く逃げるんだべな」
 ミヤギの台詞に、アラシヤマは白い目を向けた。
「……アホどすな、あんさん。そないなことしたら、いっぺんに憎まれてしまいますがな。これやさかい、顔だけのお人は……」
「ミヤギくんたら……」
 ベストフレンド・トットリにまで呆れ顔をされ、ミヤギはふてくされたような表情になった。
「……『お婆さん、荷物をお持ちしましょう。横断歩道は危ないですからね、私に掴まって。どこまでいらっしゃるのですか、お送り申し上げましょう。いえ、礼には及びません、ガンマ団の人間(ここ強調のこと!)として、当然のことをしたまでですから』――こうでなくてはならないな。さわやかな近所付き合いも欠かすことはできない。ゴミはゴミの日に。挨拶も好印象を与える機会だ、有効活用すべし」
 総帥というより『シンちゃんのパパ』のノリだ。たしかにマジックは実践しているに相違ないが、いまいちハクに欠けるかもしれない。……いつものことではある。
「また、自A隊が行かないような、やらないような危険な仕事も進んで引き受けたい。理由か? そうすれば、ガンマ団の名も上がるし、相対的に自A隊の弱体化を促進させることもできる……弱体化すれば、いざ我々が征服にあたった際、防衛措置を取ることが不可能となる。一石二鳥ではないか」
 どよめきがそこかしこで起こった。満足げに、マジックは小さく頷く。
「そのような日常を繰り返すうち、地域住民の警戒心が弛んでくる日が必ず訪れる。『何だ、悪の組織といったって、自分たちの生活に何の支障も及ぼさないじゃないか』と思わせることができればしめたものだ。その時、我々はゆとりを持って、邪魔だてする自A隊なり軍隊なりを気に掛けることなく、一気に殲滅・征服を成功させることができるのだ。――地域に根ざした組織づくり、地球にやさしい組織づくりが世界征服の必然であることを理解し得ただろうか、諸君」
 シンタローは腕組みして、父を遠目に眺めた。言うとやるとでは大違いだろうが、見事に畳み掛ける、この舌の回転の良さだけは誉めてやってもいいかもしれない。
「長々と話してきたが、自分に可能な世界征服の手段はあっただろうか? 君たちも機会があれば、我がガンマ団の為、また自己栄達の為、可能な手段を実践してくれたまえ」
 そして、一拍の間。
「――以上」
 静寂の後に、嵐のような拍手が会場を埋め尽くした。


「総帥のお話、面白かったっちゃね~」
「……オラ、半分ぐれえしかわがんねかったべ……」
 わらわらと人が退いていく中、トットリとミヤギはそれに紛れた。
 アラシヤマは、混雑を避け、少しおいてから歩き出した。
 くいっと後ろから引き寄せるように肩を掴まれる。そんなことをするのは、団員多しといえども、一人だけだ。
「何どす? コージはん」
「アラシヤマ、この後、ぬしヒマかの?」
「暇……どすけど、それがどうしはりましてん?」
 アラシヤマはコージを仰ぎ見た。
「じゃったら、さっそく世界征服の第一歩を踏み出しに行かんか」
「世界征服の、第一歩……?」
「わはは。人助けじゃ。『皆様に愛される悪の組織』とやらの実戦じゃけんのー!!」
「ちょっ……待っとくれやす、コージは――…」
 反問を封じて強引にアラシヤマの肩を押し、コージは去っていった。
 シンタローは大きく深呼吸して、身体を伸ばした。
「はー……やーっと終わったぜ……」
「シ・ン・ちゃん」
 背後から降るよく響く声に、ぐっと呻き、シンタローは振り返った。
「まだいたのかよ!」
 先ほどの演説だか講義だかを終えて、とうに総帥室に戻ったかと思ったマジックが、手を挙げていた。できることなら会話は交わしたくない。
「パパのお話し、どうだった? ためになったかな?」
「……知らねーよ」
 つーん。そんな擬音つきで、シンタローは顔を背けた。マジックが、よよよ、と泣き崩れる。
「ひどい、シンちゃん……」
「うざってえ泣き真似してんじゃねェッ! 俺はこの後、用があるんだから、行くからなっっ」
 シンタローは叫んで、そっぽを向いたまま立ち去りかけた。会場を出しなに、
「――親父!」
 ……言葉を投げる。
「講義、85点つけてやる!! ありがたく思えよ!」
 一瞬驚いたようにシンタローを見、マジックは鮮やかに笑った。今日の親子関係は、何とか保たれている部類に入るらしかった。


それからしばらく、マジックの世界征服のすすめは団員の間で妙に好評を博したのであった――。



参考/「自己資金0から始められる悪の組織」「悪の組織の為の世界征服戦略セミナー」




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