【眠れない】
マジックとシンタローはお互い背を向けてベッドに横たわっていた。
何故こんな事をしているのかと言うと、事は数時間前に遡る。
マジックが、今度の休日に二人きりでピクニックへ行こう!とシンタローに
強請るように持ち掛けた。
シンタローははっきりと、そしてゆっくり‘い・や・だッ’と憎憎しげに答えた。
しつこくお願いをされて、いい加減ウンザリしたシンタローは
だったら、もし、
今夜同じ布団に入って、手を出さない事ができたら一緒に行ってやっても良い。
と一つの条件を立てる。
マジックは即・‘無理’と答えた。
だったら大人しく諦めるんだな、とシンタローはマジックから視線を外し
手元の新聞に目線を移す。
シンタローの素っ気無い態度に落ち込むものの
いいや、諦めてなるものかとマジックはその条件を飲んだ。
そして今に至るわけだが。
マジックはベッドから落ちるぎりぎりまで自分の身体を外側に寄せる。
隣にシンタローが眠っていると思うと、もうそれだけで理性がぐらついた。
シンタローの微かな息遣いが鼓膜を刺激する。
自分が一番愛してる者が傍で無防備な姿を晒しているのにこれで欲情しない男がいるだろうか。
いや、断じているはずがない!と、自分勝手な考えを頭の中で叫んでいた。
しかし今は耐えなければいけないのだ。
そうしなければ、休日にシンタローと二人でお弁当持ってピクニック計画が台無しになるのだから。
しかし暫くして、マジックの中で疑問が生まれた。
自分は、果たして、こんな苦痛に耐えてまでピクニックに行きたいのだろうかと。
ひょっとしたら馬鹿なんじゃないか・・・?とさえ思い始めていた。
それ程彼は極限状態に追いやられていた。
一方、シンタローの方は眠っているかと思いきや、実はちっとも眠ってなどいなかった。
マジックの事だ。一時間ももたず襲ってくるに違いないと思っていたのに
予想に反してマジックは五時間以上自分に手を出さず、しかも寝返りを打つフリをして振り返れば
ベッドに入った時の姿勢のままでいるではないか。
どーいうつもりだこの野郎ッツ!!!と怒鳴ってやりたい気持ちをなんとか押し殺す。
このままでは貴重な休日がアホらしい予定で潰れてしまう、と言う不安よりも
何故同じ布団で、自分が直ぐ隣で寝ているのにも関わらず何もして来ないのだと言う怒りの方が強かった。
絶対に手を出して来ると思っていたからこそあんな条件を出したのだ。
それなのに手を出して来ないと言う事は自分が思っている程この男は自分に惚れていないと言う事なのか。
マジックの背中に殺意を覚える。
今すぐ蹴り飛ばしてベッドから追い出してやりたい気分だった。
少し経って、シンタローは突然思いついたようにマジックの身体に身を寄せると彼の後ろ首に額を押し当てる。
(・・・ちょっと強引すぎただろうか)
それにしても恥ずかしすぎる。大体自分はこーゆー事には慣れていないのだ。
しかしどれだけ待っても何の反応も返って来ないので、ますますシンタローの怒りは増していくばかりだった。
マジックはと言えば、今の接触で鼻から血を垂らして枕を濡らしていた。
まずい。非常に不味い事になった。
枕が濡れて気持ち悪いから起き上がって取り替えたい気持ちもあるが
今起き上がると眠っているシンタローを起こしてしまう。
そうするとせっかく身体が密着しているのに離れなければいけないはめになってしまう。
あぁ、くそ!どうする!!
悩みに悩んだ末、マジックは起き上がって枕を取り替える事にした。
マジックの身体が動いたので、シンタローはぎゅっと目を瞑りながら身構える。
が、来ると思っていたものがちっとも来ないのに焦れて僅かに目を開けるとマジックはそこにいなかった。
怒りで身体が震える。
ベッドから身を起こし、シンタローはマジックに向かって―――――
眼魔砲を、撃った。
「・・・何で、パパ、撃たれちゃったのか聞いても良いかな。」
床に倒れ付しながらマジックはシンタローに問う。
シンタローは、
「さぁな」
と、部屋を出て行った。
何故、まだ何もしていないのにこんな目に合わなければならないのだと彼は泣き喚いたが
よもや、『何もしなかったから』こうなったのだとは夢にも思わないだろう。
マジックとシンタローはお互い背を向けてベッドに横たわっていた。
何故こんな事をしているのかと言うと、事は数時間前に遡る。
マジックが、今度の休日に二人きりでピクニックへ行こう!とシンタローに
強請るように持ち掛けた。
シンタローははっきりと、そしてゆっくり‘い・や・だッ’と憎憎しげに答えた。
しつこくお願いをされて、いい加減ウンザリしたシンタローは
だったら、もし、
今夜同じ布団に入って、手を出さない事ができたら一緒に行ってやっても良い。
と一つの条件を立てる。
マジックは即・‘無理’と答えた。
だったら大人しく諦めるんだな、とシンタローはマジックから視線を外し
手元の新聞に目線を移す。
シンタローの素っ気無い態度に落ち込むものの
いいや、諦めてなるものかとマジックはその条件を飲んだ。
そして今に至るわけだが。
マジックはベッドから落ちるぎりぎりまで自分の身体を外側に寄せる。
隣にシンタローが眠っていると思うと、もうそれだけで理性がぐらついた。
シンタローの微かな息遣いが鼓膜を刺激する。
自分が一番愛してる者が傍で無防備な姿を晒しているのにこれで欲情しない男がいるだろうか。
いや、断じているはずがない!と、自分勝手な考えを頭の中で叫んでいた。
しかし今は耐えなければいけないのだ。
そうしなければ、休日にシンタローと二人でお弁当持ってピクニック計画が台無しになるのだから。
しかし暫くして、マジックの中で疑問が生まれた。
自分は、果たして、こんな苦痛に耐えてまでピクニックに行きたいのだろうかと。
ひょっとしたら馬鹿なんじゃないか・・・?とさえ思い始めていた。
それ程彼は極限状態に追いやられていた。
一方、シンタローの方は眠っているかと思いきや、実はちっとも眠ってなどいなかった。
マジックの事だ。一時間ももたず襲ってくるに違いないと思っていたのに
予想に反してマジックは五時間以上自分に手を出さず、しかも寝返りを打つフリをして振り返れば
ベッドに入った時の姿勢のままでいるではないか。
どーいうつもりだこの野郎ッツ!!!と怒鳴ってやりたい気持ちをなんとか押し殺す。
このままでは貴重な休日がアホらしい予定で潰れてしまう、と言う不安よりも
何故同じ布団で、自分が直ぐ隣で寝ているのにも関わらず何もして来ないのだと言う怒りの方が強かった。
絶対に手を出して来ると思っていたからこそあんな条件を出したのだ。
それなのに手を出して来ないと言う事は自分が思っている程この男は自分に惚れていないと言う事なのか。
マジックの背中に殺意を覚える。
今すぐ蹴り飛ばしてベッドから追い出してやりたい気分だった。
少し経って、シンタローは突然思いついたようにマジックの身体に身を寄せると彼の後ろ首に額を押し当てる。
(・・・ちょっと強引すぎただろうか)
それにしても恥ずかしすぎる。大体自分はこーゆー事には慣れていないのだ。
しかしどれだけ待っても何の反応も返って来ないので、ますますシンタローの怒りは増していくばかりだった。
マジックはと言えば、今の接触で鼻から血を垂らして枕を濡らしていた。
まずい。非常に不味い事になった。
枕が濡れて気持ち悪いから起き上がって取り替えたい気持ちもあるが
今起き上がると眠っているシンタローを起こしてしまう。
そうするとせっかく身体が密着しているのに離れなければいけないはめになってしまう。
あぁ、くそ!どうする!!
悩みに悩んだ末、マジックは起き上がって枕を取り替える事にした。
マジックの身体が動いたので、シンタローはぎゅっと目を瞑りながら身構える。
が、来ると思っていたものがちっとも来ないのに焦れて僅かに目を開けるとマジックはそこにいなかった。
怒りで身体が震える。
ベッドから身を起こし、シンタローはマジックに向かって―――――
眼魔砲を、撃った。
「・・・何で、パパ、撃たれちゃったのか聞いても良いかな。」
床に倒れ付しながらマジックはシンタローに問う。
シンタローは、
「さぁな」
と、部屋を出て行った。
何故、まだ何もしていないのにこんな目に合わなければならないのだと彼は泣き喚いたが
よもや、『何もしなかったから』こうなったのだとは夢にも思わないだろう。
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【うそつき】
自分に向けられている感情が、親が子に向ける感情以上のものである事は知っていた。
だがそれを知っていたからと言って、自分にはどうする事もできない。
マジックは父であり、自分はその息子なのだから。
あの島で『おまえも私の息子だよ』、と言ってくれたあの言葉をとても大切にしている。
だから、例え血の繋がりなど無くとも
シンタローはマジックと父と息子以上の関係を結ぶ気は全く無かった。
壁に両腕を押さえつけられ、無理やり口付けを交わされる。
お互いの唇を離すと、シンタローはマジックに向かって何故こんな事をするのだと
強く叫んだ。
何故?理由なんて解かっているくせに。
マジックの返事に一気に頭に血が昇る気がした。
オレはアンタと、こんな事をする仲にはなりたくないんだ!!
シンタローは精一杯、力の限り、思いをぶつける。
マジックはそれに失笑した。
「こんな仲にはなりたくない?」
両腕を掴む手に力が込められて、シンタローは低くうめき声を上げた。
肩口に顔を埋められる。金髪が肌にあたり、マジックのつけている香水の香りが
シンタローの鼻腔をくすぐった。
「父親の他人との情事を盗み見ては冷たい態度をとっていた子の台詞とは思えないな」
シンタローの顔が一瞬にして強張る。
胸に鋭い刃が突き刺さったような感覚に襲われる。
耳鳴りがする程動悸が高まるのを感じた。
知って・・・知っていたのだ。
自分が、父が度々部下と関係を持っているところを覗き見ていた事を。
「嫉妬していただろう?」
「違う!!!」
全身で否定を主張する。
あの時の、あの感情は、アンタが、母がいるのに別の誰かを組み敷いているのが許せなかっただけだ。
自分に言い聞かせるようにそうマジックに告げた。
全てを見透かすような青い瞳に恐怖を感じる。
マジックは静かに、すうっと目を細めた。
私の心をとらえたくて、部下を妬み
止めようとしても溢れ出る醜い感情を認めるのが嫌で
自分で自分の気持ちに気付かないふりをしていただけだろう。
シンタローは心の奥の大事な部分を容赦なく抉られた気がした。
これ以上、もう、自分の中に踏み込んで欲しくなくてシンタローは必死に
‘やめてくれ’と懇願した。だがマジックは止めない。
無慈悲に全てを暴こうとする彼の態度にシンタローは目に熱いものが溜まるのを感じた。
親、と子なら
永遠に離れる事のない絆が得られる。
それが崩れるのが嫌だから、自分の気持ちを押し殺しているだけのくせに
ただの痛がり屋なんだよシンタローは。・・・そんなにも、パパを独占したいと願っているくせに。
今も昔も、オマエは我が侭な子供のままだ。
言って、マジックはもう一度シンタローの口をキスで塞いだ。
ゆっくりと舌で歯列を割って彼の舌を捕らえる。
唇の端から吐息が漏れ、唾液が顎を伝った。
熱いキスにシンタローの閉じた瞳から涙が零れ落ちそうになる。
本当は
ずっとこれが欲しかったのに。
親と子、以上のものになってしまったら
自分とマジックの間にあるものが薄っぺらい絆に変わってしまう事を恐れて
自分自身にすら欺き続けていた。
父の部下に嫉妬する感情に支配されたくなくて
この怒りは父の母に対する裏切りを憎んでいるのだと、自分に言い聞かせていた。
マジックがどんなに自分を愛していると言ってもそれは、自分が息子だから至極当たり前の事で
彼は恋愛感情と親子間の愛情を履き違えているのだと思うようにしていた。
でなければもし、自分が彼の想いに応えたとして
父の心がいつか自分から離れて行ってしまったらと。
そう考えた時、死にたくなる程胸が苦しくなったから。
一生相手を自分に繋ぎつける絆を守りたくて真実からずっと目を逸らしていた。
こんなにも心は彼を望んでいたのに。
長いキスを終えて相手の顔を確かめる。
暫く見つめ合って、
シンタローは俯きながら、オマエなんか嫌いだ・・・ とマジックに言った。
自分に向けられている感情が、親が子に向ける感情以上のものである事は知っていた。
だがそれを知っていたからと言って、自分にはどうする事もできない。
マジックは父であり、自分はその息子なのだから。
あの島で『おまえも私の息子だよ』、と言ってくれたあの言葉をとても大切にしている。
だから、例え血の繋がりなど無くとも
シンタローはマジックと父と息子以上の関係を結ぶ気は全く無かった。
壁に両腕を押さえつけられ、無理やり口付けを交わされる。
お互いの唇を離すと、シンタローはマジックに向かって何故こんな事をするのだと
強く叫んだ。
何故?理由なんて解かっているくせに。
マジックの返事に一気に頭に血が昇る気がした。
オレはアンタと、こんな事をする仲にはなりたくないんだ!!
シンタローは精一杯、力の限り、思いをぶつける。
マジックはそれに失笑した。
「こんな仲にはなりたくない?」
両腕を掴む手に力が込められて、シンタローは低くうめき声を上げた。
肩口に顔を埋められる。金髪が肌にあたり、マジックのつけている香水の香りが
シンタローの鼻腔をくすぐった。
「父親の他人との情事を盗み見ては冷たい態度をとっていた子の台詞とは思えないな」
シンタローの顔が一瞬にして強張る。
胸に鋭い刃が突き刺さったような感覚に襲われる。
耳鳴りがする程動悸が高まるのを感じた。
知って・・・知っていたのだ。
自分が、父が度々部下と関係を持っているところを覗き見ていた事を。
「嫉妬していただろう?」
「違う!!!」
全身で否定を主張する。
あの時の、あの感情は、アンタが、母がいるのに別の誰かを組み敷いているのが許せなかっただけだ。
自分に言い聞かせるようにそうマジックに告げた。
全てを見透かすような青い瞳に恐怖を感じる。
マジックは静かに、すうっと目を細めた。
私の心をとらえたくて、部下を妬み
止めようとしても溢れ出る醜い感情を認めるのが嫌で
自分で自分の気持ちに気付かないふりをしていただけだろう。
シンタローは心の奥の大事な部分を容赦なく抉られた気がした。
これ以上、もう、自分の中に踏み込んで欲しくなくてシンタローは必死に
‘やめてくれ’と懇願した。だがマジックは止めない。
無慈悲に全てを暴こうとする彼の態度にシンタローは目に熱いものが溜まるのを感じた。
親、と子なら
永遠に離れる事のない絆が得られる。
それが崩れるのが嫌だから、自分の気持ちを押し殺しているだけのくせに
ただの痛がり屋なんだよシンタローは。・・・そんなにも、パパを独占したいと願っているくせに。
今も昔も、オマエは我が侭な子供のままだ。
言って、マジックはもう一度シンタローの口をキスで塞いだ。
ゆっくりと舌で歯列を割って彼の舌を捕らえる。
唇の端から吐息が漏れ、唾液が顎を伝った。
熱いキスにシンタローの閉じた瞳から涙が零れ落ちそうになる。
本当は
ずっとこれが欲しかったのに。
親と子、以上のものになってしまったら
自分とマジックの間にあるものが薄っぺらい絆に変わってしまう事を恐れて
自分自身にすら欺き続けていた。
父の部下に嫉妬する感情に支配されたくなくて
この怒りは父の母に対する裏切りを憎んでいるのだと、自分に言い聞かせていた。
マジックがどんなに自分を愛していると言ってもそれは、自分が息子だから至極当たり前の事で
彼は恋愛感情と親子間の愛情を履き違えているのだと思うようにしていた。
でなければもし、自分が彼の想いに応えたとして
父の心がいつか自分から離れて行ってしまったらと。
そう考えた時、死にたくなる程胸が苦しくなったから。
一生相手を自分に繋ぎつける絆を守りたくて真実からずっと目を逸らしていた。
こんなにも心は彼を望んでいたのに。
長いキスを終えて相手の顔を確かめる。
暫く見つめ合って、
シンタローは俯きながら、オマエなんか嫌いだ・・・ とマジックに言った。
【至近距離】
オレの身体は猫になっていた。
あぁ、夢の中か。と大して慌てた素振りもしないでそこに蹲る。
今いる場所が何だかとても温かくて心地よくて、
ずっとこのままでいたいなんて考えてしまう。
遠くの方で大きな声がして、ビックリして起き上がると後ろから手が伸びてきて
そのまま抱き寄せられてしまった。
顔を上げると天井では無く親父の顔が見えた。
どうやらオレはマジックの膝の上で寝ていたらしい。
何だってこんな夢を見ているのだろうか。
でもオレは今、『シンタロー』じゃないからコイツにこんな事されても抵抗する必要もなくて、
だから、
大人しく抱かれたままでいた。
「おとー様、猫なんていつの間に飼い始めたの?」
グンマが目を輝かせて寄って来た。
親父は‘可愛いでしょ?’とオレの喉を撫でる。
おいおい・・・。質問に答えてやれよオッサン。
抱いても良い?とグンマが聞くのでオレはそれから逃げるようにしっかり
親父の胸にしがみついた。
グンマは「おとー様に凄く懐いているんだねぇ~」と笑っていたが
そうじゃなくて、オマエだと落とされそうで嫌なんだヨ!と、
思わずツッ込んでやりたくなる。
親父はそうだと良いなぁ、とオレの身体を抱き上げて顔と顔を引き寄せた。
人前で何しようとしてんだ、オマエは!
きつく歯を立てて鼻を噛んでやる。まったく・・・。
「でも僕、猫ちゃんも大好きだけどワンちゃんの方が好きかなぁ?」
グンマの言葉に少しムッとして耳を横にふせてしまった。
悪かったな、猫で。
どうして?と親父が聞くと、
「ほら、猫は家につくけど犬は人につくって言うでしょ??だからかなぁ。
きっと猫よりも犬の方が、飼い主を大切にしてくれるんじゃないかと思って・・・」
と、グンマは答えた。
何かちょっと、嫌な気分に、なってしまう。
くそ、グンマめ。
そんなつまんねー事ばっか知ってないでもっと役に立つこと勉強しろよ!
マジックは違うよォ、とグンマに言った。
「本当は猫だって犬に負けないぐらい、ご主人様が大好きなんだよ。」
ただ、
自分で会いに行くのが恥ずかしくて、主人が帰ってくるのを家で待ってるだけなんだ。
だってそこに家があれば絶対帰って来てくれるって信じていられるじゃない。
とっても可愛くて、いじらしいよね。
親父の言葉に、めちゃくちゃ恥ずかしくなってしまったオレはしきりに暴れて床に降りた。
あぁ、もう、本当に・・・
バカ。
オレの身体は猫になっていた。
あぁ、夢の中か。と大して慌てた素振りもしないでそこに蹲る。
今いる場所が何だかとても温かくて心地よくて、
ずっとこのままでいたいなんて考えてしまう。
遠くの方で大きな声がして、ビックリして起き上がると後ろから手が伸びてきて
そのまま抱き寄せられてしまった。
顔を上げると天井では無く親父の顔が見えた。
どうやらオレはマジックの膝の上で寝ていたらしい。
何だってこんな夢を見ているのだろうか。
でもオレは今、『シンタロー』じゃないからコイツにこんな事されても抵抗する必要もなくて、
だから、
大人しく抱かれたままでいた。
「おとー様、猫なんていつの間に飼い始めたの?」
グンマが目を輝かせて寄って来た。
親父は‘可愛いでしょ?’とオレの喉を撫でる。
おいおい・・・。質問に答えてやれよオッサン。
抱いても良い?とグンマが聞くのでオレはそれから逃げるようにしっかり
親父の胸にしがみついた。
グンマは「おとー様に凄く懐いているんだねぇ~」と笑っていたが
そうじゃなくて、オマエだと落とされそうで嫌なんだヨ!と、
思わずツッ込んでやりたくなる。
親父はそうだと良いなぁ、とオレの身体を抱き上げて顔と顔を引き寄せた。
人前で何しようとしてんだ、オマエは!
きつく歯を立てて鼻を噛んでやる。まったく・・・。
「でも僕、猫ちゃんも大好きだけどワンちゃんの方が好きかなぁ?」
グンマの言葉に少しムッとして耳を横にふせてしまった。
悪かったな、猫で。
どうして?と親父が聞くと、
「ほら、猫は家につくけど犬は人につくって言うでしょ??だからかなぁ。
きっと猫よりも犬の方が、飼い主を大切にしてくれるんじゃないかと思って・・・」
と、グンマは答えた。
何かちょっと、嫌な気分に、なってしまう。
くそ、グンマめ。
そんなつまんねー事ばっか知ってないでもっと役に立つこと勉強しろよ!
マジックは違うよォ、とグンマに言った。
「本当は猫だって犬に負けないぐらい、ご主人様が大好きなんだよ。」
ただ、
自分で会いに行くのが恥ずかしくて、主人が帰ってくるのを家で待ってるだけなんだ。
だってそこに家があれば絶対帰って来てくれるって信じていられるじゃない。
とっても可愛くて、いじらしいよね。
親父の言葉に、めちゃくちゃ恥ずかしくなってしまったオレはしきりに暴れて床に降りた。
あぁ、もう、本当に・・・
バカ。
【差】
親父と二人で渋谷に買い物に出た。
断じてデートなどと言うものではない。
この男とオレの間にそんなもんはまったくの無縁だ。
ただこの男が買い物に行くからどうしても付き合って欲しいと泣いてせがんで
昼飯も晩飯も奢りで好きなものを好きなだけ買ってあげると言うから
仕方なく付き合ってやっているだけでオレは別に来たくて来ているわけではない。
大分歩き疲れて、何処かに入って一休みしようと提案すると
マジックは駅の近くにあるビルの中のスターバックスで休みたい。と言った。
それを拒否する理由も特に見当たらないし、下の階のTSUTAYAで探したいものがあったオレは
別に構わないぜ、とすんなり承諾したが店に入ってさっそく後悔した。
何だってこんなに並んでるんだ。階段まで列が続いている。
お前らはそんなにスタバのコーヒーが飲みたいのかよ。
諦めよう、とマジックに耳打ちするがマジックは‘まぁまぁ’とオレを宥めた。
こんなに並んでまで飲む価値が此処で出されるコーヒーにあるとは到底思えないが
金を出すのはマジックだからして、オレは渋々大人しく並ぶ。
ようやっと注文ができて、先に中へ入って席をとっているはずの親父を探す。
親父は窓際のカウンターに座ってにこにこ微笑みながらオレを待っていた。
たかがコーヒー一杯と、こんなマフィン一つに余計な体力使っちまったぜと文句を垂れる。
親父は嬉しそうに‘そうだね’と言った。
窓の外から見える景色は渋谷駅からうじゃうじゃと出てくる人の群れと
横断歩道を渡る人の群れ。
近くで見ると全然違うのに、こうして遠くの上の方から眺めていると
人間なんて、どいつもこいつも似たようなもんばっかだな。と思う。
きっとあん中に入っちまえばオレもその内の一人になるに違いない。
コーヒーを啜りながら暫く眺めていると親父の視線に気付いた。
楽しいでしょ?と聞かれる。そうか?と答えた。
楽しいよ、とマジックは笑った。
・・・この男の考えてる事はよく解からん。
大体何でこいつアイスコーヒー頼んでるんだ。さっき寒いねーつってたの誰だよ。
マジックは長い指で紙でできているストローの袋を縒り始めた。
そして机に置いて、カップからストローを抜き取り、ストローからそれに水滴を垂らす。
ほーら。戻っていく戻っていく。
こちらに笑顔を向ける親父の額を、オレは勢い良く指で弾いた。
親父と二人で渋谷に買い物に出た。
断じてデートなどと言うものではない。
この男とオレの間にそんなもんはまったくの無縁だ。
ただこの男が買い物に行くからどうしても付き合って欲しいと泣いてせがんで
昼飯も晩飯も奢りで好きなものを好きなだけ買ってあげると言うから
仕方なく付き合ってやっているだけでオレは別に来たくて来ているわけではない。
大分歩き疲れて、何処かに入って一休みしようと提案すると
マジックは駅の近くにあるビルの中のスターバックスで休みたい。と言った。
それを拒否する理由も特に見当たらないし、下の階のTSUTAYAで探したいものがあったオレは
別に構わないぜ、とすんなり承諾したが店に入ってさっそく後悔した。
何だってこんなに並んでるんだ。階段まで列が続いている。
お前らはそんなにスタバのコーヒーが飲みたいのかよ。
諦めよう、とマジックに耳打ちするがマジックは‘まぁまぁ’とオレを宥めた。
こんなに並んでまで飲む価値が此処で出されるコーヒーにあるとは到底思えないが
金を出すのはマジックだからして、オレは渋々大人しく並ぶ。
ようやっと注文ができて、先に中へ入って席をとっているはずの親父を探す。
親父は窓際のカウンターに座ってにこにこ微笑みながらオレを待っていた。
たかがコーヒー一杯と、こんなマフィン一つに余計な体力使っちまったぜと文句を垂れる。
親父は嬉しそうに‘そうだね’と言った。
窓の外から見える景色は渋谷駅からうじゃうじゃと出てくる人の群れと
横断歩道を渡る人の群れ。
近くで見ると全然違うのに、こうして遠くの上の方から眺めていると
人間なんて、どいつもこいつも似たようなもんばっかだな。と思う。
きっとあん中に入っちまえばオレもその内の一人になるに違いない。
コーヒーを啜りながら暫く眺めていると親父の視線に気付いた。
楽しいでしょ?と聞かれる。そうか?と答えた。
楽しいよ、とマジックは笑った。
・・・この男の考えてる事はよく解からん。
大体何でこいつアイスコーヒー頼んでるんだ。さっき寒いねーつってたの誰だよ。
マジックは長い指で紙でできているストローの袋を縒り始めた。
そして机に置いて、カップからストローを抜き取り、ストローからそれに水滴を垂らす。
ほーら。戻っていく戻っていく。
こちらに笑顔を向ける親父の額を、オレは勢い良く指で弾いた。
【後ろから】
今夜は一緒に寝ようね、と言われ
シンタローは目の前の男を殴り飛ばした。
まったく相変わらず、フザけた事を・・・。
しかし就寝する際、寝室の鍵はかけずベッドへと身を投げ出した。
だが、深夜を回っても一向にドアが開く気配はない。
シンタローは枕に顔を埋めながら、一人悶々としていた。
来る、つっといて来ないのは何事だ!
今すぐ跳ね起きてあの男の元へ飛び出して行きたい気持ちでいっぱいなのだが
それだとまるで自分が夜這いされるのを期待していたかのように見えて
そう思うと文句など言えるわけもなく、シンタローは起き上がれずにいた。
期待していたかのように、と言うが実際期待していたのだろう。
何せ風呂に入る時間も今夜はやけに長かった。
心の準備もあったろうに、それを、踏み躙るような真似をするなんて
寝たくても怒りが激し過ぎてシンタローはちっとも寝付けなかった。
どれくらいの時が経っただろうか、
身体を横向きに倒してやっと睡魔が訪れた頃に、ドアがギィ・・・と静かに音を立てて開いた。
ドクン、と一気に心臓が早鐘のように胸の中で鳴り響く。
全ての神経が耳と、背中に集まる気がした。
自分以外の者の重みでベッドが軋む。
気配だけであの男だと解かった。
眠気など、とうに覚めている。
しかし、ここで目を開ければ、自分が、マジックを待っていたのだと
そう思われても仕方が無い故に、シンタローはぎゅっと目を瞑り狸寝入りを決め込んだ。
マジックの呼吸が近づけば近づくほど、動悸は激しくなり
舌が喉の奥にはりついて・・・額に汗が滲む気がした。
すると、足と足の間に膝を割り入れられて
敷布団についていない方の腕の隙間から手を差し込まれる。
胸を触られ、それでも寝たふりを続けるがマジックの舌が耳に触れた瞬間、
ついに耐え切れずシンタローは声を漏らした。
「起きた?」
耳元で囁かれ、シンタローの顔がかぁっと熱くなる。
「とっくに気付いてただろ・・・」
枕に顔を押し付けるようにして言う。
マジックは正直に、‘うん’と答えた。
「でもちょっと触れただけで、シンタローはすぐ反応しちゃうんだね。
・・・そう言う所が好きだよ」
腰を抱かれながら言われたその言葉に首にぞくぞくとしたものが走り抜ける。
吐き出す吐息にはもう熱がこもっていて、
それを見透かされるのが嫌で顔が上げられないでいた。
自分の背中を抱きしめるその胸の広さに、もう欲情していたのを知られたくなかったのだ。
着ていた寝巻きの前ボタンを、マジックは一つ一つ丁寧に脱がしていく。
肌に触れるか触れないかの、ぎりぎりの距離の指先に、呼吸が乱れる。上手く息ができない。
まだ、ちゃんと触られてもいないのに。
そんなシンタローがマジックは愛しくてたまらず、彼の後ろ首に
いつもより濃い 紅い痕を残したのだった。
今夜は一緒に寝ようね、と言われ
シンタローは目の前の男を殴り飛ばした。
まったく相変わらず、フザけた事を・・・。
しかし就寝する際、寝室の鍵はかけずベッドへと身を投げ出した。
だが、深夜を回っても一向にドアが開く気配はない。
シンタローは枕に顔を埋めながら、一人悶々としていた。
来る、つっといて来ないのは何事だ!
今すぐ跳ね起きてあの男の元へ飛び出して行きたい気持ちでいっぱいなのだが
それだとまるで自分が夜這いされるのを期待していたかのように見えて
そう思うと文句など言えるわけもなく、シンタローは起き上がれずにいた。
期待していたかのように、と言うが実際期待していたのだろう。
何せ風呂に入る時間も今夜はやけに長かった。
心の準備もあったろうに、それを、踏み躙るような真似をするなんて
寝たくても怒りが激し過ぎてシンタローはちっとも寝付けなかった。
どれくらいの時が経っただろうか、
身体を横向きに倒してやっと睡魔が訪れた頃に、ドアがギィ・・・と静かに音を立てて開いた。
ドクン、と一気に心臓が早鐘のように胸の中で鳴り響く。
全ての神経が耳と、背中に集まる気がした。
自分以外の者の重みでベッドが軋む。
気配だけであの男だと解かった。
眠気など、とうに覚めている。
しかし、ここで目を開ければ、自分が、マジックを待っていたのだと
そう思われても仕方が無い故に、シンタローはぎゅっと目を瞑り狸寝入りを決め込んだ。
マジックの呼吸が近づけば近づくほど、動悸は激しくなり
舌が喉の奥にはりついて・・・額に汗が滲む気がした。
すると、足と足の間に膝を割り入れられて
敷布団についていない方の腕の隙間から手を差し込まれる。
胸を触られ、それでも寝たふりを続けるがマジックの舌が耳に触れた瞬間、
ついに耐え切れずシンタローは声を漏らした。
「起きた?」
耳元で囁かれ、シンタローの顔がかぁっと熱くなる。
「とっくに気付いてただろ・・・」
枕に顔を押し付けるようにして言う。
マジックは正直に、‘うん’と答えた。
「でもちょっと触れただけで、シンタローはすぐ反応しちゃうんだね。
・・・そう言う所が好きだよ」
腰を抱かれながら言われたその言葉に首にぞくぞくとしたものが走り抜ける。
吐き出す吐息にはもう熱がこもっていて、
それを見透かされるのが嫌で顔が上げられないでいた。
自分の背中を抱きしめるその胸の広さに、もう欲情していたのを知られたくなかったのだ。
着ていた寝巻きの前ボタンを、マジックは一つ一つ丁寧に脱がしていく。
肌に触れるか触れないかの、ぎりぎりの距離の指先に、呼吸が乱れる。上手く息ができない。
まだ、ちゃんと触られてもいないのに。
そんなシンタローがマジックは愛しくてたまらず、彼の後ろ首に
いつもより濃い 紅い痕を残したのだった。