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m

世間はもう年始年末の準備で忙しい12月。
シンタローは溜まっている仕事をそこそこに切り上げ、元旦に備えるべく御節の材料の買出しに出る事にした。
どれだけ忙しくても、これだけは毎年欠かしていない。これも料理人の性と言うヤツだろうか。
どうせ食べる相手は決まって誰かさんになるワケだが。
いつもの総帥服から厚手のニットに古びれたジーンズに着替え、そのままコートを羽織って車で出ようとした瞬間、
後ろから呼び止められ、シンタローはウンザリした顔で声を掛けられた方へ振り返った。
「何だヨ。」
「今から買い物に行くんだろ?パパが運転してあげようか!?」
意気揚々として話しかけてくるマジックに、シンタローはバッサリと切り捨てるように『結構です。』と答えたが、
そう言われて大人しく引き下がる男ではなかったので、強烈な押しに押されて段々疲れ始めてきたシンタローは
はぁ、と大きくため息を一つ零すと大人しく助手席のドアを開け、どかっと無作法にシートに座った。
続いてマジックが運転席のドアを開け、シートに座る。
昔はシンタローも今ほど大人では無かったので、先ほどのような事があると延々とこの父親とケンカしっ放しだった。
しかし最近は、とりあえず疲れたら勝手に好きなようにさせる、と言う結論に達したらしい。
その方が無駄な体力の消耗も減るし、無益な暴力を奮う事も自分が酷い目に合うことも無くなる。
どうしても譲れない時はやはり強情を張らせてもらうが、それ以外の些細な事に関しては極力譲るように心がけていた。
飽くまで、マジックのためではなく、自分のために。
狭い車内で野郎が二人。何てロマンも欠片も無いのだろう。と考えていたら、
「凄くイイ感じだよね、今。」
と、マジックが言うので‘あーそうですね。’とシンタローは心にもない返事を返した。
(この人は一体いつまでこーなんだ?)
少しは落ち着きってものを持ってもイイんじゃないのか。
まだ20代のはずの自分の方がコイツよりも老けてる気がする。
そんな事を悶々と考えていると、前を向いたままマジックがふっと小さく肩を揺らした。
「シンちゃんが何考えてるか当ててあげようか?」
「ナニ。」
「‘こいつは一体いつまでこーなんだ?’」
ズバリ当てられて、シンタローが思わず目を丸くする。
そのままマジックはシンタローを見ずに続けて言った。
「‘少しは落ち着きってモンを持って欲しい’・・・かな?」
「・・・・・よく解かってんじゃねーの。」
少しだけ拗ねたようにシンタローが顔を背けると、彼はアッハッハと笑った。
「シンちゃんの考えてる事なんて、パパには全部お見通しなんだよ。」
実際、マジックはシンタローの先手を打つのが非常に上手い。
性格的な陰湿さも手伝っているのだろうが、それ以上に彼はシンタローの事をよく見ているからだ。
「パパはきっと死ぬまでこうだよ。」
「そりゃイイ迷惑だ。」
「最期まで、シンタロー馬鹿なままだ。」
それがまるで極々当たり前で、自然な事のように車を運転しながらマジックがそう言うので
シンタローは小さく『あ、そ』とだけ答えた。
頭を向けているせいで顔こそは見えないが、シンタローの耳がほんのり紅く染まっているのをマジックは見逃さなかった。


買い物の途中、タバコが切れてそこら辺のコンビニに入ると、入り口の前で数人の子供(と言っても15、6歳)が言い争っていた。
子供同士のする事だと、買ったタバコをコートの裏側にあるポケットに突っ込むと車の外で待っているマジックの元へ走り寄った。
すると、マジックの眉間に凄まじく皺が寄っているのでシンタローは少しぎょっとした。
暖房の効いた暖かい車内に戻ってワケを聞くと、どうやらあのコンビニの前の子供が原因のようだ。
「一体どんな言葉使いなんだか!!」
余程気に入らなかったのか、彼はずっとその話題を続けていた。
「今ってあんなもんだろ。っていうかオレだって綺麗な日本語ってワケじゃねーしな。」
「そう!そこだよ!シンちゃんも直しなさい今すぐ!みっともないから!」
「はぁ?オマエはどっかの国語教師かっつーの・・・」
変な事にすぐ拘るんだ、コイツは。
ヤレヤレ、とシンタローが肩を落とすと、マジックは大きな声で叫んだ。
「‘何故習わない正しい言葉を!美しい母国語を!’」
・・・『My Fair Lady』の一説だ。そう言えば如何にもこの男が好きそうな映画だ、とシンタローは苦笑した。
マジックの書斎には大量の本や、ビデオが置いてある。
小さい頃から、よく秘密で盗み見していた。
マジックが現役で、自分がまだほんの子供だった頃、そこが一番の遊び場所だったから。
「オレもその映画は何回も見たぜ。」
「・・・勝手にパパの書斎いじったね?」
「ヒギンズ教授の悔しそうな顔が気に入ったんだ。」
―――下町の花売りの娘を、英国の女王や王子が気に入る程美しいお姫様に育てておきながら、
彼女の気持ちにまったく気付かず、ケンカの末家出され、やっと彼女と自分の気持ちに気付く。
「そんな話だったよな?」
「よく覚えてるね。でもパパはお姫様の気持ちの方がわからないなァ。
何で勝手に怒って勝手に飛び出してっちゃうんだか。」
(だろうネ。)
窓を少し開けて、シンタローは先ほど買っておいたタバコを1本取り出して火をつけた。
ふう、と煙を吐く。苦い。
「オレはイライザの気持ちの方がよく解かるけどな。」
「そう?」
「そうだよ。」

―――――――――『パパには全部お見通しなんだよ。』

マジックがシンタローの事を全て理解しているつもりでも、本当は、まだ、色々、解かっていない事はたくさんある。

例えば今、シンタローが吸っているタバコが、実は自分と同じ銘柄だったり。

タバコの吸い方まで真似している事も、シンタローは秘密にしている。

解かっていない事は、まだまだホントはたくさんあるのだ。

「・・・アンタのイライザが言うんだから間違いねぇさ。」

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ms4
■最終話 by Yukio

 淫らな雰囲気を壊すように、徐々に大きくなる電子音に、快感に目を細め甘い呼吸を繰り返していたシンタローが何事かと体を強ばらせる。
「…な、…何の音……」
 音の方向へ顔をゆっくりと向けると、シンタローの視線の先には机に置かれた時計。無言で、マジックがそれを止めると部屋にはシンタローの息遣いが響いた。
「残念。シンちゃんとの時間はここまでみたい」
 口ぶりとは裏腹に、上機嫌に時計の針を指差すと、机に置いた走り書きの評価表に書き込みはじめる。カリカリとボールペンを走らせる男を、未だ状況を把握できないシンタローがうつろに見つめていると、書き終えたのか音が止むと同時に顔をあげたマジックが満面の笑みを浮かべてシンタローを見つめる。
「ありがとう。シンちゃんのおかげで、素敵な表が完成したよ。見てみるかい?」
 目の前に評価表をちらつかされて、シンタローはまるで顔を打たれたかのように男の目を見つめたまま体を強ばらせた。
 マジックが言った『一番のボタン』の箇所の欄には、一際大きく花丸が描かれている。
「ボールペンだけで、こんなになっちゃうなんて…ね。」
 そういって、紙を四つに折るとスーツの内ポケットに忍ばせて、拘束した紐に手を伸ばす。
「おいっ…どういうつもりだっ」
 淡々と腕の拘束を解いていくマジックの様子に、困惑するのはシンタローで。先ほどまでの威圧的な青い瞳が一変して、普段のふざけた顔に成り下がっている。
 男には自分がどんな状況にいるか、どれだけ切羽詰った状態なのか手にとるようにわかるはずだ。なにより、そうさせたのは目の前で、涼しい顔をして腕の諌めを解いている男の仕業なのだから。
 どう責任とってくれるんだ!っとばかりに、黒いまつげに縁取られ、快感に濡らした瞳で睨みつければ…。
「ん?いかせて欲しかった?それとも、パパのが欲しかったのかな?」
 マジックは親指の腹で、シンタローの奥に埋まったままのボールペンを撫でる。一瞬にして訪れる快感にシンタローは場所を忘れて喘ぎ声を漏らしそうになり、必死に奥歯をかみ締める。その様子に、男の瞳の色が濃くなった。
 簡単にシンタローを無防備にできることに満足したのか、意地の悪い笑みを浮かべて、ボールペンを抜き去った。
「だめだよ…。お仕事溜まっているんだろう?非常に残念ではあるが、私の時間は終わってしまったからね…。この続きはまたにしょう」
 まるで、子供の頃仕事だといって出かけるマジックに、駄々をこねた自分を諭すように頬をなでるマジックに、まるで自分だけが置いてきぼりもくらったようで、シンタローは恥ずかしさに顔が赤くなるのを抑えられなかった。
「だれがっ!さっさと、解いて出ていきやがれっ」
 やっと自由になっても、無理な拘束のせいですぐには動かず痺れたように、肩の筋肉が強ばっている。それでも、歯を食いしばって情けない腕を心の中で叱咤すると、無理やり動かしてマジックの肩あたりを押し返す。
「はいはい。自由になったのなら、足の紐は自分でとれるよね。パパはこれから、このデータを打ち込まないといけないから」
 胸に忍ばせた評価表の紙を指差すと、軽くウィンクして踵を返す。
「ふざけろ!二度と来るんじゃねぇっ」
 本来なら眼魔砲の十発や二十発放ちたいところだか、足首の拘束を解く方が先決だ。早く紐を解きたいのに、指先は未だ痺れて思うように動かずにイライラだけが募る。それを煽るように、ドアから顔だけを覗かせたマジックが
「異議申し立てがあるのなら、私の元まで来るようにね」
 ニヤリと口角を吊り上げて笑みを浮かべる。
 焦れてせめてもの意趣返しに、近くにあった時計を手にとって投げれば、寸前の所で閉ざされた扉に阻まれ、派手な音を立てて床に転がり落ちた。
 絨毯の上に散らばった、部品の数々に舌を打つと、足首に手をかけると足の痛みを無視して半ば無理やり拘束を解いた。
「ふさけんじゃねーっ!あっっのクソ親父!!」
 早く頭から追い出し、できるだけ早く現実に業務に向き合おうと、ヒリヒリと痛みを訴える皮膚の感覚を無視してモニターに向きなおった。


 一方廊下に出たマジックは、一枚の扉を隔てて聞こえる衝撃音に、笑みを深める。
「シンちゃんは可愛いね…」
 そう呟いて、シンタローの先ほどまでの痴態が頭の中に浮かび上がるのか、不自然な忍び笑いがマジックの口元から零れ落ちる。
 これをネタにまだまだシンタローに関われそうだ。
「ふふ、やっぱり、私は天才だね」
 来た道を引き返しながら、ゆっくりとした歩調が早まり、それはツーステップまで踏むようになっていた。わかっていても、こんなに楽しい事は常にあるわけではない。ともすればば、クルリとターンまでしてしまいそうな自分を抑えるので精一杯だ。胸元の内ポケットに指を差し込むと大事そうに、四つ折りの紙を取り出して、軽く口付けた。

「………マジック様」

 廊下に転々と落ちる、鼻血のそれとわかる赤い点。
 浮かれた調子でスキップを踏みながら去っていく後ろ姿を見送るティラミスとチョコレートロマンスが揃ってため息をついた。
 総帥職を譲ってからも、結局は自分のやりたいことは全て貫き通し手に入れようとする姿勢は変わらないらしい。

                                      ―― 終


ms3

■7話 by Hisui

シンタロー

 親父の声と指先が煽ることで、身体の熱が増しているのを嫌というほど自覚させられる。
 肌の上を滑る羽根の乾いた感触に腰が震え喉が撓れば、見ればわかるだろう、と言い返したくなるようなことをいちいち聞いてくる。
 その口調がまた愉しくて仕方がない様子なのが忌々しい。
「っ…く!」
 胸板の上、赤く染まった小さな突起を羽根の先でかさりとなぞられる。刺激を受けて込み上げる熱を堪え切れないと腰が揺らいだ。先端から蜜が伝い落ちる感覚にさえ息は乱れ、切ない喘ぎが自分の口から零れ落ちるのが口惜しい。
 鼓膜を擽る密やかに響く笑い声に更に背が反り返ってしまう。媚を売るように刺激を求める股間を奴の目の前に差し出すような格好となるが、与えられるのは軽やかな羽根が撫でる胸元の刺激だけ。
 今、口を開けばあまりのもどかしさに更なる刺激を強請ってしまいそうで、必死に唇を噛み締める。
「ねぇ、シンちゃん。恥ずかしくないの?」
 もう一度、マジックの耳当たりの良い声が快感と化して背中を伝い降りる。堪えた言葉が喉に込み上げてくるが、言葉にする前にごくりと飲み下した。
「お仕事をする椅子を濡らしてしまうなんてね…。ほら」
「…っ…い…!」
 胸元を嬲っていた羽根が離れると、固い感触が張り詰めた裏筋を軽く擦り上げてきた。
 その強い固い感覚に刺激をされた身体が達するまで後少し、というところで離れていってしまい、極めきれずに苦痛を覚えた身体が勝手に捩れる。
 狂おしい呻きが唇を割って溢れる。一度は飲み込んだ言葉が喉を震わせるが、それを言うまいと唇を固く噛み締めて堪えようとする。
「ごらん。こんなに濡らして…早く出してしまいたくて仕方ないんだろう」
 そう囁く声と共に羽根ほうきの柄が眼前に突き出され、思わず見詰めてしまった。
 室内の灯りを反射してぬらりと濡れて光る。それが先に股間を刺激したものだと判った。
 指先より少しだけ細身の柄が、噛み締めた唇と歯を抉じ開けて咥内へと突き込まれる。
「ぁう…っ…ぐ…!」
 咥内に広がる癖のある苦味に眉を顰め、吐き出そうと頭を動かしても、戒められた両腕が邪魔をして思うように動けない。柄を吐き出そうと舌が強張るが、その舌を押さえこむように力が加わり無様に顎を開かれてしまう。
 溢れる唾液が口端から喉へと伝い落ちた。
 楽しくて仕方がないという表情を浮かべて、低く喉を震わせて笑う声。堪えても堪えなくても、結局マジックは俺の浅ましさを嘲笑い、こうして無様に悶える俺を見下ろすのだ。
 ならば我慢なんてするだけ無駄なのかもしれない。そう思わないでもないけれど、やはり思わず出てしまった声が、俺から出たとは信じたくないほどの媚を含んで甘ったるく響くことがあれば胸糞悪くなる。あんな声を引き出されることが許せない。
 親父は「焦らしプレイの一種かい」と余計に興をそそられるようだが、俺にしてみれば他に矜持を保つ方法が思いつけない。
 だってそうだろう。こんな状態でいいように弄られて、声を殺す以外にどんな方法があるっていうんだ。これも愛だとか言ってんなら絶対間違ってるって気付けよ。
 けれど…そんなことをいくら言葉で訴えても無駄だということも解りきっている。
「まったく…可愛い子だね。シンちゃんは」
「か…はっ……」
 舌を圧迫していた柄を引き抜かれ、急に自由になった喉が引き攣って小さく噎せる。全身が強張り、股間から込み上げる脈動がよりはっきりと耳の内側を叩き、苦しい筈なのに同時に開放を求める熱による快感までが襲ってきて、どうにもならないもどかしさに身体が撓る。
「もしかしてここだけでイケちゃうんじゃない?」
 密やかな官能を孕んだ低い声が、甘い毒のように鼓膜から流し込まれる。
 目を開いて相手の姿を捉えようとしても、熱に侵されて脳裏で激しく脈打つ音に圧迫された視界は揺らぎ、はっきりと像を結ぶことができない。
 それでも、聞きなれた声と鼻腔を擽る馴染んだ濃厚な香りによって、今マジックがどんな表情をしているかまで容易に想像がついた。獲物を嬲る肉食獣の青い瞳に陶酔の色を浮かべ、魅力溢れる冷たい微笑を刻んでいるに違いない。
 先から強く弱く嬲られ続けたせいで、胸に尖る突起は熱を孕んで強く疼く。
 指よりも固く、爪よりも質量のある、ぬるりと濡れたものが押し当てられる気配に息が詰まる。
「っ…!あ、ぁっ………!!」
 固く腫れた粒だけを強くそれに転がされ、思わず声が喉から溢れた。同時に視界が真っ白に染め抜かれる。
 必死で堪えていた身体の奥から熱が迸り、頭の先から爪先まで全ての感覚が一点から放たれるような開放感。永劫に続くかと思える快感一色に塗りつぶされた世界に時間の感覚ごと意識が押し流され、どこか遠くで笑う声が聞こえたような気がした。

 全身の力が抜け、大きく喘いで息を継ぐ音に意識を引き戻される。頬を流れる熱いものが涙だと悟り、拭おうと腕に力を込めるが思うように動かせない。戒められた動かぬ関節が軋み、開かれたままの足の間から尻にかけてが体液に濡れ、温く湿って気持ちが悪い。
 正面に羽根ほうきを手にし、満足そうに笑顔を浮かべるマジックの姿があった。
 目の前で達してしまった悔しさと情けなさに唇を噛み締めて睨みつけるが、一向に動じる気配はない。
 視線が合うと一層深い笑いを唇に刻み、一歩を踏み込んでくる。差し伸べられた指から顔を背けようにも後ろで括られた両腕が邪魔をして思うようにいかず、顎を捕まえられる。
 吐息が触れるほどの距離まで迫った青い瞳に射抜かれ、反射的に息を飲む。
「乳首だけでイケちゃうなんて…後ろを弄ったらどうなっちゃうんだろうね」
 決して唇を吸うことなく囁かれる掠れた声が鼓膜を撫で、痺れにも似た快感を引きずり出される。
「なっ……!?どこまでやる気だよっ…!」
 再び身体の奥、先に放った自身よりもその奥が微かに覚えた疼きを打ち消そうと声を荒げても笑顔は揺るぐ気配はなかった。










■8話 by Yukio

マジック

「どこまで?最初に言ったと思うよ。どこが一番感じるか教えてくれって…ね。どこも感じ易いけど、どこが一番いいのかパパに教えて欲しいな」
「な………っ!」
(空いた口が塞がらないという感じだね。)
 唖然と眼を見開くシンタローを見つめながら、捕えた顎を指先でゆっくりとなぞりあげる。
「と言っても、シンちゃんに聞いても教えてくれなさそうだから、体に聴こうってわけ。今までのおさらいをしようか」
「ふざけんなっ!人をモルモットみたいに扱いやがって!!」
「じゃあ、どこかいいか教えてくれる?ちゃ~んとシンちゃんが答えられるなら、止めてあげる」
 どうする?っと肩をすくめると、机の上の紙にペンを走らせ、大雑把に表を手書きで作るとそれに今まで触った部分を書きとめ、シンタローの目の前に突き付けた。
「じゃじゃ~ん、”シンちゃんのボタンを探せ!”今までの評価表です~。さ、どこがよかった?これ以外に触って欲しいところがあったら自己申告してね」
 ちなみに5段階表だよ。と言葉を続ける私の声色とは対象的に、表に視線を走らせるとシンタローが唇を噛み締めて私を睨み上げた。
「はは、そんな色っぽい顔してもだーめ。シンちゃんが答えないなら、実験再開の前に復習といこうか」
 最初は…と言いながら、握ったボールペンで首筋から耳の裏をなぞり耳朶の中にボールぺンを浅く差し込んだ。
「んっ…っつ……」
 懸命に首を左右に振って、ボールペンが逃れようと身を捩る。
(そんなことしても無駄だよ。)
 耳朶の皮膚を触るか触らないかぐらいで、ボールペンを走らせながら顔をそこへ近づける。
「ここを舐めてあげたら、どうなったっけ?シンちゃんの坊やは立ち上がり始めたよね。5段階の2…3ぐらいかな?シンちゃんはどう思う?」
 そういって、表に書き留めると、シンタローの情の厚そうな唇から甘い吐息が漏れ、
「うるせぇ…いうなっ……」
 熱い息を吹きかえると、放ったばかりの敏感な身体がびくりと反応を返す。
「そう?次は…シンちゃんの大好きなここ」
「あぅ…ん…さわ……んなッ」
「ここは何?」
 耳から首筋、鎖骨を辿り胸元の赤い突起まで、ペンを走らせる。先ほどまで散々にいたぶられて真っ赤に色づき、ピンっと立ち上がりを見せている。
 そこをペンで捏ねくり回し、シンタローの答えを迫った。
「ふっざけんな……」
「おや?いえないの?吸って、羽ぼうきで可愛がってあげただろう?音を立ててしゃぶったら、いい声で鳴いてく……」
「やめろっ」
 顔を真っ赤に染めあげ、私をにらみ付けながら、言葉を遮ると荒く呼吸を繰り返す。
 胸が呼応するたびに、紅い突起も上下運動を繰り返して、それがねだっているようにしか見えない。
「ねぇ、ここはどこ?」
 グリグリと当てたボールペンで、胸を強く捏ねくりまわす。「身体の名称も言えないような、頭ではなかろう」と意地悪く言葉を続けると、自棄を起こしたように、シンタローが口を開いた。
「…ッ、ち、乳首だよ!」
 これで文句は無いだろう。っと頬を染めあげて、瞳の黒い色を濃くしながら私を睨みつける。
(本当、そういうトコロが大好きだよ…シンちゃん)
「惜しい!答えは、シンちゃんの感じやすい乳首でしょ。ほら、真っ赤に色づいてる」
 視線をシンタローと絡ませたまま、胸元を弄るペンを一舐めして、
 次は…っと視線を自身で濡れた奥まった場所に走らせると、その部分を察知したのかガタガタと往生際悪くシンタローが椅子をゆする。
「そんなに期待されると、パパ困っちゃうな~」
「っの!…くそ親父ッッッ」
 この状況だ。どうしようも無い。もう、諦めたら楽なのにね。
 唇が切れてしまうのでは?と思うほどにシンタローは唇を噛み締める。
「はは、視線で人が殺せたら、パパは何回ぐらい殺られてるかな」
 軽口を叩きながら、蟻の門渡りをなぞり、普段は隠された孔へと辿るとシンタローができる限り身を捩る。
「やめろ……」
 その声には幾分の怯えが生じているようで、思わず忍び笑いが漏れた。
「最近、してなかったもんね。痛いのは嫌? でも、シンちゃんので濡れてるから…」
 先ほどの射精ででた液体が、自身を伝って後孔がテラテラと怪しく光る。
 誘われるように、まだ硬いすぼまった部分をペンで撫でた。
「嫌だ…っ、は……っ」
「大丈夫、すぐにほぐれるよ…。大好きだろう」
 ボールペンの先が2センチほど、シンタローの後孔にもぐりこむ。思ったとおり、ペンが細身のため労せず滑り込むことができた。
「あ……っ、やめ、やめろ」
 一瞬、目を細めて喘いだかと思うと、すぐに目を閉じて進むペンを締め出そうと下半身に力が入るのが、指先から伝わってくる。
「そうは言っても、ほら……」
 シンタローの努力を無視して力をこめると、半分ほどねじ込むことができた。 シンタローは閉じていた目を見開くと
「…っ、抜け……っ、抜けよ!」
 散々暴れていたのに、ピタリと身体を強張らせると喚くように声を上げた。
「どうして?締めつけて離そうとしないのはシンちゃんなのに」
「ひ……ぁぅ」
 生理的に滲み出た涙を舌で舐めとると、後孔にささったペンを揺さぶる。
「ね、締め付けて抜けそうもない。それどころか、奥に引き込もうとしてる」
「あ…やっ……はっ……」
 頭を仰け反らせて、涙が頬を伝う。それを舐めとりながら、なおも中でペンを揺さぶると、前立腺を探るようにグルリと旋回させる。
「あっ、ああぁっ!」
 悲鳴じみた喘ぎ声をあげて、顎をガクガクと震わせるシンタローの姿を見つめて
「一番のボタンかな」
 彼の耳元でひっそりと囁いた。







■9話 by Hisui

シンタロー

 放ったばかりの身体の上を「確認」というマジックの言葉と共に、ボールペンの先が滑り落ちていく。そんな僅かな刺激に対してさえ、目に見える形で反応を返すのは単なる生理現象に過ぎないんだ、と必死で言い聞かせる。
 それらは全て俺の意志によるものではないのだが、目の前で楽しげにチェックリストを作って笑うこいつには、言い訳としても聞いてもらえないだろう。
 何が「ボタン」だ。人の仕事の邪魔をして散々嬲ってこんな状態にしておいて、そんなふざけた記録を取るモルモット扱いだなんてふざけるのもいい加減にしろってんだ。

 括られた身体は自由になるわけもなく、動く度にどこかしらの関節に小さな軋みが生じ、鈍い痛みが走り抜けていく。その感覚さえ、青い瞳に見詰められればどこかしら甘さを含んでしまうようだ。
 これが生理現象ではなく条件反射だなんて認めたくはない。だが、視線に細胞の一つ一つが沸き立つような熱を発し、あの瞳の上に淫らな自分の姿を映し出していくこの状況を他に何と言い訳しろというんだ。
 言い訳という言葉を使うこと自体が、あの視線からは逃れられない。そう俺が感じている証拠なのか。
 そんな屁理屈を、込み上げる熱を堪えて僅かに残った理性の内で捏ね回す。そうでもしていなければ、もっと早くに理性を手放してしまい、マジックを更に悦ばせることになりそうで。それだけはしたくなかった。

「あっ、ああぁっ!」
 ぐり、と身体の奥に僅かに埋め込まれた硬い異物が蠢く感触に身体が大きく撓る。強すぎる快感から背中に嫌な汗が流れ落ち、期せずして込み上げた涙で視界がぼやけた。俺の前に居るのが誰かを判別するのも難しい。
 あの瞳の蒼だけが目の前に居る人物が誰であるかを俺に伝えてくる。
 ただでさえ鈍る思考力を最後の最後で剥ぎ取るかのように、艶を含んだ甘い声が耳に響いた。その濡れた声を発しているのが俺の喉だなんて、信じたくもない。
「一番のボタンかな」
 甘さを含む毒のように滴る声が鼓膜を侵す。そのまま染み入って身体の内側へと浸透していく官能に押し流されまいと、唇を噛み締めた。
 ひくひくと鼓動と同じテンポで疼く身体の奥に埋め込まれた固いものが、何かを探るように更に奥へと突き入れらる。その先が何かを掠めた途端、更に高い声が喉を衝いて溢れた。
「ぁ…くっ…あぁっ!」
 固定された身体が撓っても、痛みを伴わぬ滑らかなゴムに括られた手足は動くことができず、開かれた股間では再び自身が形を変えようとしているのが感じられた。後ろに埋め込まれたペンの先を持つ手が離されたが、それを引き抜かれる気配はなく、体内で激しく荒れ狂う何かを堪えて大きく腰が揺らぐ。
 身体が熱い。もう何でもいいからどうにかしてくれ!と叫び出したくなるようなもどかしい疼きに苛まれる身体はみっともなく開かれ、全てをマジックの前に差し出したままだ。
 彼の手を離れてもなお残ったままのボールペンの先は、視線を感じて収縮をする内壁がきつく絡みつき、自ら抜け落ちる気配はない。生き残っている理性が屈辱に打ち震える。
 押し流されてしまえば楽なのに、と脳裏で囁く声が聞こえてきそうなほどに身体にかかる熱の負担は大きい。その負担が、屈辱が、余計に官能を煽っていく悪循環。
「ねぇ、シンちゃん?ここはどうなの?ちゃんと言えたらお前が好きなようにしてあげるよ」
 酷薄そうな薄い唇が、耳朶を含んで濡れた音を立てて吸い付いてくる。もっと刺激を求めて疼いている箇所は沢山あるのに、そこだけに与えられる愛撫のもどかしさに悶えて引き攣る腹筋が浮き上がった。連動して締まる体内に残る固形物の存在を痛いほどに意識してしまい、脳裏に渦巻く熱がそのまま声と化した。
「あ…っ…いい!」
「ふぅん。ここが気持ちいいの?」
 囁く息に濡れた耳朶が冷やされると、涙にぼやけた視界の中心に現れた指先が緩やかな弧を描いて流れていく。俺の足の間でみっともなく欲情した自身の下からもう一本突き出した細いプラスチックまで降りていった指は「ここ」とマジックが言うと同時に、それを軽く弾いた。
 途端に背中を走り抜ける強い快感に理性が大きく押し流されていく。支えていた糸が切れたようにこくりと頭が落ちた。
「ぅ、ん…!悦い…っから…ぁ!」
 甘ったるく舌足らずな声が勝手に言葉を紡ぎ、視界を塞ぐ涙が頬を熱く濡らしていく。
「いい子だね。ご褒美をあげようか…シンちゃんが好きなことを言ってごらん?」
 愉しげなマジックの優しい声が続きを促すように間近で響き、ペンの先を小刻みに揺らして身体の奥を擦られる。その振動のままに喉が鳴り望まぬ嬌声が迸る。濡れた視界の向こうに見えるはずの顔形はぼやけ、鮮やかな金色と青だけが俺を支配していく。
 もう、何でもいいから、早くこの甘い苦しみから開放して終わりにしてくれ。
 その言葉を紡ぐこともできず、ただ鳴き声をあげるしかできない身体がもどかしく、噛み締めることを忘れた唇が緩む。
 熱い吐息と共に溢れた唾液を掬い上げるように、伸ばされた指が顎の端を掠めていった。
「……ア…っ…」
「ほら。言えないの?」
 囁く声に促されても喘ぎしか零れない俺の喉にマジックの爪がそっと食い込む。答えに焦れた爪が皮膚を切り裂くように滑り、その刺激がまた更に熱を孕んで、なけなしの理性を悦楽の淵へ追い落とす。
 もう何度もこんなことは繰り返されていて、全てわかってるくせに…いつもこうやって言わそうとしやがって。
 俺が望んでいることを言葉にしたら、あんたが喜ぶのが判り切っていて、もっと俺は惨めになっちまう。
 こんなこと、言えるわけないだろう。
「っ…父さ…っ…ん!」
 身体の奥を抉る刺激に縋るものが欲しくて指が強張っても、腕を動かすことさえ敵わない。
 再び頬から涙が溢れ落ち、息が詰まって小さくしゃくりあげた。

 ピピピピピ…。
 遠くで軽い電子音が鳴ったような気がした。
ms1
■1話 by Hisui

 ガンマ団総帥を引退してからのマジックの生活は、基本的に「いかにシンタローと愛を語るか」を中心に成り立っているといっていいだろう。
 ワールドナイスミドル大会出場も、半自伝の出版も。全てはシンタローと自分の『愛』に投じるための私費作りである。
 いくら私費を投じても、なかなかシンタローが受け入れないからか、マジックの愛情表現はエスカレートしていく一方であった。
 そんなある日のこと。

「最近マンネリだよねぇ…」
 初恋を覚えたばかりの少女が零すような、深い深い溜息と共に整った眉が顰められる。
 その瞳は恋する乙女のように夢見がちな色ではなく、世界征服のためになら何でもした世界一の殺し屋軍団、ガンマ団総帥のものだったが。
 脳裏では、このところパターンを読まれてか、なかなか陥落しないシンタローをどう攻略するかを、高速でシミュレーション実行中。
 ふとした弾みで数年前の記憶の中、通りすがりに耳にした弟の台詞が思い出された。
『ちなみに俺の弱点は右の乳首のボタンだ』
 思わず思考が止まり、ぽん、と掌を打って顔を上げる。
 勿論視線の先には、決して日常において彼に向けられることはない、シンタローの満面の笑顔で作られた実物大ポスター(総帥服バージョン)である。

「弱点、ねぇ…」
 ふむ、と顎先を指でなぞって首を傾ける。
 思案を更に深め、マジックの口許に決定の意志を湛えた笑みが刻み込まれるまでに、そう大した時間はかからなかった。
「よし、それでいこう」
 思いついたら即実行。
 マジックは足取りも軽くシンタローのフェイクに囲まれた部屋からいそいそと出る支度をし、プライベート専用のエリアから出ると同時に端末の回線をオンにする。
「ああ、ティラミスかい?私だ。今日のシンちゃんの予定はどうなっていたっけ?」
 既に頭にしっかりインプット済のシンタローのスケジュールを再度確認すると、この時間に引き止めておけるよう、更に秘書達に念を押す。
 総帥業のノウハウを知っているから、というのは建前で、こういう時のために、マジックの子飼いの秘書達をそのまま現総帥に引き継がせたのだ。
 己の有能さに惚れ惚れしながら、先日発売した自分の歌の歌詞を口ずさみながら総帥室へと向かっていった。





■2話 by Yukio

マジック

 ついぞ緩む口元に、上機嫌に鼻歌を歌う私に、通り過ぎる幹部たちが顔をやや引きつらせながらも、立ち止り背筋を伸ばすと恭しく敬礼する。
 その気色の悪いものでも見るような顔色に、普段なら厳重注意ものだが、これからの楽しいイベントを思うと咎める気にもなれない。
 それでも、規律は規律。今回は減給ぐらいで許してやろうか…。
 そんなことを思いつつも、気がつくとスキップを踏んでしまう衝動を抑えながら、足早にシンタローのいる総帥室のドアに手をかけた。

 総帥室に入った私は、室内を見回し、予定通りティラミスとチョコレートロマンス、シンタローがいることを確認する。
「シーンちゃん。パパだよー」
 これで落ちなかった人間はいないと言わしめた、極上の甘い笑みを浮かべてシンタローをみると。
 エグゼブティブチェアに背をもたらせて、内容をチェックしていた、書類から顔をあげた瞳と視線が絡み合う。
 私の顔を認識して、億劫そうにため息をつくと、眉間の皺を濃く刻みこんで睨みつける漆黒の瞳。
「何の用だよ」
 不機嫌を隠そうともせずに、地を這うような低い声で言うと、再び書類に目を落とした。

 ………っ……。
 私の鼓動が、久しく感じてなかった高揚感に、ドクンと一つ高鳴った。
何の用だって?そんなの決まってるじゃないか。
 あんなことや。こんなことだよ・・・広がる妄想に思いを描いていると、現実に引き戻すようにシンタローが口を開く。
「悪ぃけど、これからアポが入ってるから、出てってくれ」
 書類とモニターをいったりきたり、忙しなく視線を動かしながら書類を持っていない手の甲で私を払う。
 しっしっ・・・。と犬などにするあれである。
 ……全く、悪いと思ってないね。まっ、そんな顔も今だけだよ。
 どうせ、次の私の言葉にその可愛らしい瞳をいっぱいに見開いて、驚くに違いないからね。
「ティラミス、その客人は誰だね」
 私の言葉にティラミスが、短く事務的に返事をすると、大げさに手帳とモニターに目を走らせる。
 シンちゃんの元へ、ゆっくりと歩を進めながら、ジャケットの内ポケットに手を滑り込ませると、予め用意したそれを指先で弄びながらティラミスの答えを待つ。
「総帥室での来客は、マジック様となっております」
「っ…!!何だってっっっ!!」
 ガタっ!と組んでいた足を毛の短い絨毯へおろすと、立ち上がった。
 追い討ちをかけるように、チョコレートロマンスが本日のアポは以上だと告げると、ワナワナとシンタローの肩が怒りに震えている。
「ご苦労、二人とも今日は下がっていい。また明日」
 視線はシンタローに向けたまま、軽く手をあげ事務的にいうと二人の出て行った扉の開閉した音が響く。

 シンタローの逞しい体の周りには、彼が身につけている真紅の軍服に似た、燃え上がるような怒りのオーラが見えるようだ。
「どういうことだ、これはっ?来客が、アンタだってっ?」
 敵でもあるかのように、私を睨みつける。そんな顔ですら、愛しい。
 私が手を伸ばすと、シンタローは苛立ちも露に私の手を叩き落した。








■3話 by Hisui

シンタロー

 午後に入ってすぐにティラミスから、来客のスケジュールが入ったことを告げられた。
 こういうパターンでアポを入れてくるのは、おそらくキンタロー辺りだろう。
 次の遠征でキンタロー発案の新しい装甲材を実装する予定だった。最終的な強度確認と詳細な実験値を提出でき次第、飛空艦の換装に取り掛かる段取りになっている。
 少しでも整備の時間を長く取らねばならぬため、実験が終了した時点で、即連絡してくることになっていたので、その件だと思い込み確認を怠った俺が馬鹿だった。

午後も遅くなった頃に現れた来客は、まったく空気を読まずにピンク色の空気を纏わせ、何だか余計なフェロモンまで振りまいていやがる。
「どういうことだ、これはっ?来客がアンタだってっ?」

「そうだよ。だから今は私とシンちゃんだけの二人っきり~の甘~い時間だっていうことだね」
「何が甘い時間だ。俺は仕事中だというのが見てわからねぇのか!」
 決裁書類の上に左手をばんと叩きつけて凄んでも通用しないのはわかっているが、やらずにはいられない。
 案の定、そんな態度に揺るぎもしないマジックは、ハートマークの舞い散る桃色の空気ごと机の向こうから俺の傍らへと回り込む。悠然とした足取りなのに、こういう時の行動はやたらと早い。
 腰掛けた椅子ごと背を向けようとしたが、手首をがっちりと捕らえられ、半身を捻るにとどまり身体に力が入ってしまう。
「シンちゃんは、いい子だろう?パパのこと、ちゃんと大事にしてよ」
 放せよ!と口を開きかけたが、絶妙のタイミングで耳元を囁きで擽られ、背中を走るざわつく感覚に言葉が詰まる。
 うっとりと細められた青い瞳に嫌な笑いが浮かんでいる。
 ずっと俺を捉えて離さない、征服者の持つ至高の青。
 幼い頃からずっと憧れ続けたこの色を持っているのが、何でこんな色ボケ親父なんだか。
 しかしそれと同時に、一族の中でも抜きん出た才能と実力を持った存在であることも知っているからか、未だにこの色に逆らえない俺もまだどこかに残っているらしい。
 しばらくその色に魅せられる。

「…ってぇ!」
 ぎり、と手首を逆手に捻り上げられ、関節の軋む痛みで意識が引き戻された。ヘッドレストまで持ち上げられた指の向こうに、ゆったりと綻びるマジックの唇。
 捻られた手首に何かが巻きつけられ、そのまま後ろへと引き上げられる。このままじゃ椅子に縛りつけられかねない。
 咄嗟に自由な肩と腰を浮かせ、傍らに立つ親父を振りほどこうとするが、同じタイミングで椅子の背後に回りこまれてしまった。
 右腕を既に固められてしまっていたから、これ以上の反撃を許されない。悔しさに奥歯をきつく噛んだ。頭上から愉しげに響く笑い声に更に神経を逆撫でされ、俺は精一杯凄みをきかせて睨む。
「何すんだよっ!離せ!!」
「何って…こうしないと、シンちゃん抵抗するだろう?」
 背もたれ越しに低く響く、心地良い声がほくそ笑む。俺より一回りごつい節くれだった指が目の前に伸ばされる。
 固く噛み締めすぎて震える顎先に、手入れの行き届いたマジックの指先が一本触れ、そのまま喉を伝い落ちていくと、総帥服のボタンにかかった。
 俺の身体は反射的に逃げようとするが、忌々しいことに頭上で括られてしまった右手と、いつの間にか上半身を腹の辺りでしっかりホールドしていたあいつの左腕に押さえ込まれていた。
 腰を跳ね上げて胸元のボタンを緩めていく手をかわそうとするも、肝心の上半身が固定されていてはどうしようもない。
 ジャケットとシャツのボタンを全て外し終えた右手は、俺を押さえていた左手と交代しジャケットごと服を開く。胸板に空調で整えられた外気が触れた。
服の端を掴んだままの腕は容赦なく左肩をはぐって後ろへ引き、身体を押さえる腕が緩むと同時に浮き上がる身体から袖を引き抜いてしまった。
「ちょっ…!冗談でもやりすぎだろっ!…っく!!」
 上半身の半分の肌を暴かれ、袖を抜いた腕めがけて左手で殴りつける。それも難なく掌で受け止められ、右手同様に鋭い痛みを伴って捻りあげられていく。
「おや、冗談でこんなことをするようなお友達がシンちゃんには居るの?…許せないね」
 右手を戒めた紐にゆとりがあったらしく、左手首に巻きつくと同時に右手が引き攣れる。そこにマジックのずいぶんと愉しそうな、それでいてどこかしら容赦のない声が重なり、鼓膜から背中、腰へと震えが伝い降りる。
ms


 意識が不意に浮き上がり覚醒する。
 うつぶせた胸板に冷ややかな触感のシーツ。僅かにだるさが残り寝返りを打つのさえ億劫な身体。
 それでいて意識だけは驚くほどクリアで、瞼を開こうとすれば、すぐに視界は明確。

 蒼い。

 目の前に広がる枕とシーツは全て蒼かった。視線を上げると見覚えのある誰かの部屋。
 眉間に皺を刻んだまま、そろりと傍らへと目を移す。予想通り、部屋の主の金色の髪が薄闇に浮かび上がる。
 見るからに柔らかそうな艶やかなそれが縁取る顔の輪郭は年月を刻んで鋭い。
 伏せられたままの碧眼が開けば、世界征服を掲げた冷酷無比な殺し屋集団のトップであった頃の冷たい青が見られる筈だ。
 当人は「今は引退したシンちゃんを愛するただのナイスミドルにすぎないよ」と主張するだろうが、一族に伝わる青い色を両目に宿していることに変わりはない。

 ゆっくり、ゆっくりと、肘をついて上体を起こす。
 細心の注意を払って。
 傍らで未だ眠るこの人が目覚めないように、寝台を揺らさないように。
 俺の肩を滑る毛布から二人で作り上げた温もりを、ひんやりとした明け方の空気に奪われることのないように。

 淡い薄明の薄青い紗をかけた視界に浮かび上がる寝顔。
 俺が身を起こした時に滑り込んできた冷たい空気の流れによって、眉間に小さな皺が寄ったものの、やはり端正な造作をしていて、綺麗な顔と呼んでいいと思う。
 こんな満ち足りた穏やかな表情をされると、際立つのは絶妙のバランスの配置と計算されつくしたパーツで、やはりあの美貌の叔父の兄なのだ、と思い知らされる。起きている時にそんなことを言ったら調子に乗ること請け合いだから、絶対に言わないけれど。

 纏う空気は緊張感の欠片もない。このまま首に手を掛けて締めたら、あっさりと縊り殺せそうだと思えてきて、冷たく青みがかって見える白い喉に親指をかけた。
 苦悶を訴えるように眉を寄せるか、気配を察して目を覚ますかと期待をして、間近に表情を覗き込む。
 変化はない。むしろ間近に観察したせいで、こいつが眠りながら口許に微笑を刻んでいることに気付かされる。こんなことをしている自分のばかばかしさを強調され、かけた指をそっと離す。

 血族に対しての甘さ、特別扱いっぷりは今に始まったことではないけれども、こんな調子で誰かに寝首をかかれたらどうするんだ。
 一族同士の結束の固さは確かに尋常の血縁の繋がりを越えているから、血族の前で無防備にしていても問題はないのかもしれない。  
 とはいえ、俺には一族特有の髪も瞳もなく、現在の細胞の組成に至っては相反するモノでさえあるのだから、厳密には違うとも言える。その事実が意識の隅に引っかかってしまい、余計にこの無防備さに苛立つ。
 こんなことを口に出したところで、こいつはきっと気にせずに笑うだろう。しかも、顔から火が出そうな余計な言葉を盛り込んだ挙句、過剰なスキンシップというオマケ付きで。

 俺に対するコレもまた、一族特有の過剰な結束の延長にあるものだろう。
 物理的な組成が何であれ、こいつらが俺にとっての一族で親族と呼ぶべき存在であることに何ら変わりはないのだし、こいつの立場でもそれは同じだから。きっと。
 成長を見守ってきた身体や、本当の血肉を分けた息子よりも、長い年月をかけて培われてきた意識というものはそう簡単に変えられるものではない。 
 「シンちゃんはパパにとって特別だよ」
 実際に言葉を聞かなくてもいつでも再現できるほど聞き飽きたこの言葉だが、俺の居場所を明確にしてくれている。

 その言葉を発する唇は今は噤まれて、何を思ってか微笑を刻む。指先を伸ばしてそのなだらかな線をなぞってみる。
 顎、頬骨と線を伝い、高く細い鼻梁を経て伏せられた眼窩へと形を辿っていくと、微かに睫毛が揺らめいた。
 不意に指に感じた瞼の震えに手を引き、間近に寄せた頭を起こそうとしたところで、肩から滑り落ちていた毛先を引かれた。
 間近に見開いた視界に瞼の下から覗いた蒼い瞳。唇の端が僅かに角度を変えて上がり、微笑みが深くなった。

 「っ!…起きてたのかよ」
 「あんなに見詰められたら、愛の力で起きてって言っているようなものじゃないか」

 頭を引き止めた毛先に唇を寄せ、細められた目が笑いかけてくる。
 身体の怠さも手伝って、殴り倒す拳を握るに留め、わざとらしく溜息を吐いて見せる。

 「寝ていればシンちゃんから寄ってくるだろうって思ってたんだよねぇ。予想通りの反応で嬉しいよ」
 「勝手に予想つけてんじゃねー!」

 すべてを見透かした態度で、笑みを含んで囁く声に顔が熱くなる。握った拳で頭をシーツに叩きこむと、顔を見られないように上掛を引き上げ、拒絶の意志を背中で示そうとした。
 視界から追い出した存在が押しかかってくる。頭上から零れる低い押し殺した笑い声。予想は容易にできたが、いちいちそれを裏切るのも面倒で上掛の端を下ろして視線だけを覗かせると、間近に楽しげな笑みを浮かべた顔があった。
 まったく、楽しそうな顔しやがって。予想通りの反応を返しているのは俺だけじゃないってこと、わかっていないだろう。いかにも仕方がない、という風を装って溜息混じりの声で囁き、視界から青い瞳を追い出す。

 「馬鹿親父」
 「シンちゃん馬鹿という点では誰にも負けないよ」

 伏せた瞼の上に落とされる柔らかな温もりに口許が綻びそうになるのを上掛で隠すと、それも予想通りとくすくすと低い笑い声が響いて、瞼といわず顔中に口付けを落とされる。
 悔しいけれど、この居心地の良さからはなかなか抜け出せない。
 伸ばした腕で頭を抱き寄せると上掛の隙間から伸ばされた腕に引寄せられる。
 全てが予想通りとなるほどに繰り返されたパターンの踏襲でしかないのだけれど、その繰り返し、居心地の良さが俺にとっては必要不可欠なのだと気付いた。
 この繰り返しが俺の居る場所を示すためのこの人なりの努力だろうから。
 そう思い至ると自然と口許が緩んだ。

 まだ夜が明けるには少しだけ時間がある。
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