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■1話 by Hisui

 ガンマ団総帥を引退してからのマジックの生活は、基本的に「いかにシンタローと愛を語るか」を中心に成り立っているといっていいだろう。
 ワールドナイスミドル大会出場も、半自伝の出版も。全てはシンタローと自分の『愛』に投じるための私費作りである。
 いくら私費を投じても、なかなかシンタローが受け入れないからか、マジックの愛情表現はエスカレートしていく一方であった。
 そんなある日のこと。

「最近マンネリだよねぇ…」
 初恋を覚えたばかりの少女が零すような、深い深い溜息と共に整った眉が顰められる。
 その瞳は恋する乙女のように夢見がちな色ではなく、世界征服のためになら何でもした世界一の殺し屋軍団、ガンマ団総帥のものだったが。
 脳裏では、このところパターンを読まれてか、なかなか陥落しないシンタローをどう攻略するかを、高速でシミュレーション実行中。
 ふとした弾みで数年前の記憶の中、通りすがりに耳にした弟の台詞が思い出された。
『ちなみに俺の弱点は右の乳首のボタンだ』
 思わず思考が止まり、ぽん、と掌を打って顔を上げる。
 勿論視線の先には、決して日常において彼に向けられることはない、シンタローの満面の笑顔で作られた実物大ポスター(総帥服バージョン)である。

「弱点、ねぇ…」
 ふむ、と顎先を指でなぞって首を傾ける。
 思案を更に深め、マジックの口許に決定の意志を湛えた笑みが刻み込まれるまでに、そう大した時間はかからなかった。
「よし、それでいこう」
 思いついたら即実行。
 マジックは足取りも軽くシンタローのフェイクに囲まれた部屋からいそいそと出る支度をし、プライベート専用のエリアから出ると同時に端末の回線をオンにする。
「ああ、ティラミスかい?私だ。今日のシンちゃんの予定はどうなっていたっけ?」
 既に頭にしっかりインプット済のシンタローのスケジュールを再度確認すると、この時間に引き止めておけるよう、更に秘書達に念を押す。
 総帥業のノウハウを知っているから、というのは建前で、こういう時のために、マジックの子飼いの秘書達をそのまま現総帥に引き継がせたのだ。
 己の有能さに惚れ惚れしながら、先日発売した自分の歌の歌詞を口ずさみながら総帥室へと向かっていった。





■2話 by Yukio

マジック

 ついぞ緩む口元に、上機嫌に鼻歌を歌う私に、通り過ぎる幹部たちが顔をやや引きつらせながらも、立ち止り背筋を伸ばすと恭しく敬礼する。
 その気色の悪いものでも見るような顔色に、普段なら厳重注意ものだが、これからの楽しいイベントを思うと咎める気にもなれない。
 それでも、規律は規律。今回は減給ぐらいで許してやろうか…。
 そんなことを思いつつも、気がつくとスキップを踏んでしまう衝動を抑えながら、足早にシンタローのいる総帥室のドアに手をかけた。

 総帥室に入った私は、室内を見回し、予定通りティラミスとチョコレートロマンス、シンタローがいることを確認する。
「シーンちゃん。パパだよー」
 これで落ちなかった人間はいないと言わしめた、極上の甘い笑みを浮かべてシンタローをみると。
 エグゼブティブチェアに背をもたらせて、内容をチェックしていた、書類から顔をあげた瞳と視線が絡み合う。
 私の顔を認識して、億劫そうにため息をつくと、眉間の皺を濃く刻みこんで睨みつける漆黒の瞳。
「何の用だよ」
 不機嫌を隠そうともせずに、地を這うような低い声で言うと、再び書類に目を落とした。

 ………っ……。
 私の鼓動が、久しく感じてなかった高揚感に、ドクンと一つ高鳴った。
何の用だって?そんなの決まってるじゃないか。
 あんなことや。こんなことだよ・・・広がる妄想に思いを描いていると、現実に引き戻すようにシンタローが口を開く。
「悪ぃけど、これからアポが入ってるから、出てってくれ」
 書類とモニターをいったりきたり、忙しなく視線を動かしながら書類を持っていない手の甲で私を払う。
 しっしっ・・・。と犬などにするあれである。
 ……全く、悪いと思ってないね。まっ、そんな顔も今だけだよ。
 どうせ、次の私の言葉にその可愛らしい瞳をいっぱいに見開いて、驚くに違いないからね。
「ティラミス、その客人は誰だね」
 私の言葉にティラミスが、短く事務的に返事をすると、大げさに手帳とモニターに目を走らせる。
 シンちゃんの元へ、ゆっくりと歩を進めながら、ジャケットの内ポケットに手を滑り込ませると、予め用意したそれを指先で弄びながらティラミスの答えを待つ。
「総帥室での来客は、マジック様となっております」
「っ…!!何だってっっっ!!」
 ガタっ!と組んでいた足を毛の短い絨毯へおろすと、立ち上がった。
 追い討ちをかけるように、チョコレートロマンスが本日のアポは以上だと告げると、ワナワナとシンタローの肩が怒りに震えている。
「ご苦労、二人とも今日は下がっていい。また明日」
 視線はシンタローに向けたまま、軽く手をあげ事務的にいうと二人の出て行った扉の開閉した音が響く。

 シンタローの逞しい体の周りには、彼が身につけている真紅の軍服に似た、燃え上がるような怒りのオーラが見えるようだ。
「どういうことだ、これはっ?来客が、アンタだってっ?」
 敵でもあるかのように、私を睨みつける。そんな顔ですら、愛しい。
 私が手を伸ばすと、シンタローは苛立ちも露に私の手を叩き落した。








■3話 by Hisui

シンタロー

 午後に入ってすぐにティラミスから、来客のスケジュールが入ったことを告げられた。
 こういうパターンでアポを入れてくるのは、おそらくキンタロー辺りだろう。
 次の遠征でキンタロー発案の新しい装甲材を実装する予定だった。最終的な強度確認と詳細な実験値を提出でき次第、飛空艦の換装に取り掛かる段取りになっている。
 少しでも整備の時間を長く取らねばならぬため、実験が終了した時点で、即連絡してくることになっていたので、その件だと思い込み確認を怠った俺が馬鹿だった。

午後も遅くなった頃に現れた来客は、まったく空気を読まずにピンク色の空気を纏わせ、何だか余計なフェロモンまで振りまいていやがる。
「どういうことだ、これはっ?来客がアンタだってっ?」

「そうだよ。だから今は私とシンちゃんだけの二人っきり~の甘~い時間だっていうことだね」
「何が甘い時間だ。俺は仕事中だというのが見てわからねぇのか!」
 決裁書類の上に左手をばんと叩きつけて凄んでも通用しないのはわかっているが、やらずにはいられない。
 案の定、そんな態度に揺るぎもしないマジックは、ハートマークの舞い散る桃色の空気ごと机の向こうから俺の傍らへと回り込む。悠然とした足取りなのに、こういう時の行動はやたらと早い。
 腰掛けた椅子ごと背を向けようとしたが、手首をがっちりと捕らえられ、半身を捻るにとどまり身体に力が入ってしまう。
「シンちゃんは、いい子だろう?パパのこと、ちゃんと大事にしてよ」
 放せよ!と口を開きかけたが、絶妙のタイミングで耳元を囁きで擽られ、背中を走るざわつく感覚に言葉が詰まる。
 うっとりと細められた青い瞳に嫌な笑いが浮かんでいる。
 ずっと俺を捉えて離さない、征服者の持つ至高の青。
 幼い頃からずっと憧れ続けたこの色を持っているのが、何でこんな色ボケ親父なんだか。
 しかしそれと同時に、一族の中でも抜きん出た才能と実力を持った存在であることも知っているからか、未だにこの色に逆らえない俺もまだどこかに残っているらしい。
 しばらくその色に魅せられる。

「…ってぇ!」
 ぎり、と手首を逆手に捻り上げられ、関節の軋む痛みで意識が引き戻された。ヘッドレストまで持ち上げられた指の向こうに、ゆったりと綻びるマジックの唇。
 捻られた手首に何かが巻きつけられ、そのまま後ろへと引き上げられる。このままじゃ椅子に縛りつけられかねない。
 咄嗟に自由な肩と腰を浮かせ、傍らに立つ親父を振りほどこうとするが、同じタイミングで椅子の背後に回りこまれてしまった。
 右腕を既に固められてしまっていたから、これ以上の反撃を許されない。悔しさに奥歯をきつく噛んだ。頭上から愉しげに響く笑い声に更に神経を逆撫でされ、俺は精一杯凄みをきかせて睨む。
「何すんだよっ!離せ!!」
「何って…こうしないと、シンちゃん抵抗するだろう?」
 背もたれ越しに低く響く、心地良い声がほくそ笑む。俺より一回りごつい節くれだった指が目の前に伸ばされる。
 固く噛み締めすぎて震える顎先に、手入れの行き届いたマジックの指先が一本触れ、そのまま喉を伝い落ちていくと、総帥服のボタンにかかった。
 俺の身体は反射的に逃げようとするが、忌々しいことに頭上で括られてしまった右手と、いつの間にか上半身を腹の辺りでしっかりホールドしていたあいつの左腕に押さえ込まれていた。
 腰を跳ね上げて胸元のボタンを緩めていく手をかわそうとするも、肝心の上半身が固定されていてはどうしようもない。
 ジャケットとシャツのボタンを全て外し終えた右手は、俺を押さえていた左手と交代しジャケットごと服を開く。胸板に空調で整えられた外気が触れた。
服の端を掴んだままの腕は容赦なく左肩をはぐって後ろへ引き、身体を押さえる腕が緩むと同時に浮き上がる身体から袖を引き抜いてしまった。
「ちょっ…!冗談でもやりすぎだろっ!…っく!!」
 上半身の半分の肌を暴かれ、袖を抜いた腕めがけて左手で殴りつける。それも難なく掌で受け止められ、右手同様に鋭い痛みを伴って捻りあげられていく。
「おや、冗談でこんなことをするようなお友達がシンちゃんには居るの?…許せないね」
 右手を戒めた紐にゆとりがあったらしく、左手首に巻きつくと同時に右手が引き攣れる。そこにマジックのずいぶんと愉しそうな、それでいてどこかしら容赦のない声が重なり、鼓膜から背中、腰へと震えが伝い降りる。
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