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ms4
■最終話 by Yukio

 淫らな雰囲気を壊すように、徐々に大きくなる電子音に、快感に目を細め甘い呼吸を繰り返していたシンタローが何事かと体を強ばらせる。
「…な、…何の音……」
 音の方向へ顔をゆっくりと向けると、シンタローの視線の先には机に置かれた時計。無言で、マジックがそれを止めると部屋にはシンタローの息遣いが響いた。
「残念。シンちゃんとの時間はここまでみたい」
 口ぶりとは裏腹に、上機嫌に時計の針を指差すと、机に置いた走り書きの評価表に書き込みはじめる。カリカリとボールペンを走らせる男を、未だ状況を把握できないシンタローがうつろに見つめていると、書き終えたのか音が止むと同時に顔をあげたマジックが満面の笑みを浮かべてシンタローを見つめる。
「ありがとう。シンちゃんのおかげで、素敵な表が完成したよ。見てみるかい?」
 目の前に評価表をちらつかされて、シンタローはまるで顔を打たれたかのように男の目を見つめたまま体を強ばらせた。
 マジックが言った『一番のボタン』の箇所の欄には、一際大きく花丸が描かれている。
「ボールペンだけで、こんなになっちゃうなんて…ね。」
 そういって、紙を四つに折るとスーツの内ポケットに忍ばせて、拘束した紐に手を伸ばす。
「おいっ…どういうつもりだっ」
 淡々と腕の拘束を解いていくマジックの様子に、困惑するのはシンタローで。先ほどまでの威圧的な青い瞳が一変して、普段のふざけた顔に成り下がっている。
 男には自分がどんな状況にいるか、どれだけ切羽詰った状態なのか手にとるようにわかるはずだ。なにより、そうさせたのは目の前で、涼しい顔をして腕の諌めを解いている男の仕業なのだから。
 どう責任とってくれるんだ!っとばかりに、黒いまつげに縁取られ、快感に濡らした瞳で睨みつければ…。
「ん?いかせて欲しかった?それとも、パパのが欲しかったのかな?」
 マジックは親指の腹で、シンタローの奥に埋まったままのボールペンを撫でる。一瞬にして訪れる快感にシンタローは場所を忘れて喘ぎ声を漏らしそうになり、必死に奥歯をかみ締める。その様子に、男の瞳の色が濃くなった。
 簡単にシンタローを無防備にできることに満足したのか、意地の悪い笑みを浮かべて、ボールペンを抜き去った。
「だめだよ…。お仕事溜まっているんだろう?非常に残念ではあるが、私の時間は終わってしまったからね…。この続きはまたにしょう」
 まるで、子供の頃仕事だといって出かけるマジックに、駄々をこねた自分を諭すように頬をなでるマジックに、まるで自分だけが置いてきぼりもくらったようで、シンタローは恥ずかしさに顔が赤くなるのを抑えられなかった。
「だれがっ!さっさと、解いて出ていきやがれっ」
 やっと自由になっても、無理な拘束のせいですぐには動かず痺れたように、肩の筋肉が強ばっている。それでも、歯を食いしばって情けない腕を心の中で叱咤すると、無理やり動かしてマジックの肩あたりを押し返す。
「はいはい。自由になったのなら、足の紐は自分でとれるよね。パパはこれから、このデータを打ち込まないといけないから」
 胸に忍ばせた評価表の紙を指差すと、軽くウィンクして踵を返す。
「ふざけろ!二度と来るんじゃねぇっ」
 本来なら眼魔砲の十発や二十発放ちたいところだか、足首の拘束を解く方が先決だ。早く紐を解きたいのに、指先は未だ痺れて思うように動かずにイライラだけが募る。それを煽るように、ドアから顔だけを覗かせたマジックが
「異議申し立てがあるのなら、私の元まで来るようにね」
 ニヤリと口角を吊り上げて笑みを浮かべる。
 焦れてせめてもの意趣返しに、近くにあった時計を手にとって投げれば、寸前の所で閉ざされた扉に阻まれ、派手な音を立てて床に転がり落ちた。
 絨毯の上に散らばった、部品の数々に舌を打つと、足首に手をかけると足の痛みを無視して半ば無理やり拘束を解いた。
「ふさけんじゃねーっ!あっっのクソ親父!!」
 早く頭から追い出し、できるだけ早く現実に業務に向き合おうと、ヒリヒリと痛みを訴える皮膚の感覚を無視してモニターに向きなおった。


 一方廊下に出たマジックは、一枚の扉を隔てて聞こえる衝撃音に、笑みを深める。
「シンちゃんは可愛いね…」
 そう呟いて、シンタローの先ほどまでの痴態が頭の中に浮かび上がるのか、不自然な忍び笑いがマジックの口元から零れ落ちる。
 これをネタにまだまだシンタローに関われそうだ。
「ふふ、やっぱり、私は天才だね」
 来た道を引き返しながら、ゆっくりとした歩調が早まり、それはツーステップまで踏むようになっていた。わかっていても、こんなに楽しい事は常にあるわけではない。ともすればば、クルリとターンまでしてしまいそうな自分を抑えるので精一杯だ。胸元の内ポケットに指を差し込むと大事そうに、四つ折りの紙を取り出して、軽く口付けた。

「………マジック様」

 廊下に転々と落ちる、鼻血のそれとわかる赤い点。
 浮かれた調子でスキップを踏みながら去っていく後ろ姿を見送るティラミスとチョコレートロマンスが揃ってため息をついた。
 総帥職を譲ってからも、結局は自分のやりたいことは全て貫き通し手に入れようとする姿勢は変わらないらしい。

                                      ―― 終


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