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世間はもう年始年末の準備で忙しい12月。
シンタローは溜まっている仕事をそこそこに切り上げ、元旦に備えるべく御節の材料の買出しに出る事にした。
どれだけ忙しくても、これだけは毎年欠かしていない。これも料理人の性と言うヤツだろうか。
どうせ食べる相手は決まって誰かさんになるワケだが。
いつもの総帥服から厚手のニットに古びれたジーンズに着替え、そのままコートを羽織って車で出ようとした瞬間、
後ろから呼び止められ、シンタローはウンザリした顔で声を掛けられた方へ振り返った。
「何だヨ。」
「今から買い物に行くんだろ?パパが運転してあげようか!?」
意気揚々として話しかけてくるマジックに、シンタローはバッサリと切り捨てるように『結構です。』と答えたが、
そう言われて大人しく引き下がる男ではなかったので、強烈な押しに押されて段々疲れ始めてきたシンタローは
はぁ、と大きくため息を一つ零すと大人しく助手席のドアを開け、どかっと無作法にシートに座った。
続いてマジックが運転席のドアを開け、シートに座る。
昔はシンタローも今ほど大人では無かったので、先ほどのような事があると延々とこの父親とケンカしっ放しだった。
しかし最近は、とりあえず疲れたら勝手に好きなようにさせる、と言う結論に達したらしい。
その方が無駄な体力の消耗も減るし、無益な暴力を奮う事も自分が酷い目に合うことも無くなる。
どうしても譲れない時はやはり強情を張らせてもらうが、それ以外の些細な事に関しては極力譲るように心がけていた。
飽くまで、マジックのためではなく、自分のために。
狭い車内で野郎が二人。何てロマンも欠片も無いのだろう。と考えていたら、
「凄くイイ感じだよね、今。」
と、マジックが言うので‘あーそうですね。’とシンタローは心にもない返事を返した。
(この人は一体いつまでこーなんだ?)
少しは落ち着きってものを持ってもイイんじゃないのか。
まだ20代のはずの自分の方がコイツよりも老けてる気がする。
そんな事を悶々と考えていると、前を向いたままマジックがふっと小さく肩を揺らした。
「シンちゃんが何考えてるか当ててあげようか?」
「ナニ。」
「‘こいつは一体いつまでこーなんだ?’」
ズバリ当てられて、シンタローが思わず目を丸くする。
そのままマジックはシンタローを見ずに続けて言った。
「‘少しは落ち着きってモンを持って欲しい’・・・かな?」
「・・・・・よく解かってんじゃねーの。」
少しだけ拗ねたようにシンタローが顔を背けると、彼はアッハッハと笑った。
「シンちゃんの考えてる事なんて、パパには全部お見通しなんだよ。」
実際、マジックはシンタローの先手を打つのが非常に上手い。
性格的な陰湿さも手伝っているのだろうが、それ以上に彼はシンタローの事をよく見ているからだ。
「パパはきっと死ぬまでこうだよ。」
「そりゃイイ迷惑だ。」
「最期まで、シンタロー馬鹿なままだ。」
それがまるで極々当たり前で、自然な事のように車を運転しながらマジックがそう言うので
シンタローは小さく『あ、そ』とだけ答えた。
頭を向けているせいで顔こそは見えないが、シンタローの耳がほんのり紅く染まっているのをマジックは見逃さなかった。


買い物の途中、タバコが切れてそこら辺のコンビニに入ると、入り口の前で数人の子供(と言っても15、6歳)が言い争っていた。
子供同士のする事だと、買ったタバコをコートの裏側にあるポケットに突っ込むと車の外で待っているマジックの元へ走り寄った。
すると、マジックの眉間に凄まじく皺が寄っているのでシンタローは少しぎょっとした。
暖房の効いた暖かい車内に戻ってワケを聞くと、どうやらあのコンビニの前の子供が原因のようだ。
「一体どんな言葉使いなんだか!!」
余程気に入らなかったのか、彼はずっとその話題を続けていた。
「今ってあんなもんだろ。っていうかオレだって綺麗な日本語ってワケじゃねーしな。」
「そう!そこだよ!シンちゃんも直しなさい今すぐ!みっともないから!」
「はぁ?オマエはどっかの国語教師かっつーの・・・」
変な事にすぐ拘るんだ、コイツは。
ヤレヤレ、とシンタローが肩を落とすと、マジックは大きな声で叫んだ。
「‘何故習わない正しい言葉を!美しい母国語を!’」
・・・『My Fair Lady』の一説だ。そう言えば如何にもこの男が好きそうな映画だ、とシンタローは苦笑した。
マジックの書斎には大量の本や、ビデオが置いてある。
小さい頃から、よく秘密で盗み見していた。
マジックが現役で、自分がまだほんの子供だった頃、そこが一番の遊び場所だったから。
「オレもその映画は何回も見たぜ。」
「・・・勝手にパパの書斎いじったね?」
「ヒギンズ教授の悔しそうな顔が気に入ったんだ。」
―――下町の花売りの娘を、英国の女王や王子が気に入る程美しいお姫様に育てておきながら、
彼女の気持ちにまったく気付かず、ケンカの末家出され、やっと彼女と自分の気持ちに気付く。
「そんな話だったよな?」
「よく覚えてるね。でもパパはお姫様の気持ちの方がわからないなァ。
何で勝手に怒って勝手に飛び出してっちゃうんだか。」
(だろうネ。)
窓を少し開けて、シンタローは先ほど買っておいたタバコを1本取り出して火をつけた。
ふう、と煙を吐く。苦い。
「オレはイライザの気持ちの方がよく解かるけどな。」
「そう?」
「そうだよ。」

―――――――――『パパには全部お見通しなんだよ。』

マジックがシンタローの事を全て理解しているつもりでも、本当は、まだ、色々、解かっていない事はたくさんある。

例えば今、シンタローが吸っているタバコが、実は自分と同じ銘柄だったり。

タバコの吸い方まで真似している事も、シンタローは秘密にしている。

解かっていない事は、まだまだホントはたくさんあるのだ。

「・・・アンタのイライザが言うんだから間違いねぇさ。」

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