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mss



(最悪……)
 廊下を歩いていたシンタローは、前方十メートル先にいる人物を視界に捕えたとたん、反射的に顔を顰めた。
 このまま回れ右をして、見なかったことにしたいが、そうなると、後五分後に控えている朝の会議に間に合わない。普段なら、もう少し余裕を持って出てくるのだが、今日は、少し事情があって遅くなってしまったことが悔やまれる。そのおかげで、一番出会いたくない相手に対面しようとしているのだから、本当に最悪であった。
 何事もありませんように。
 そう願いながら、目の前からやってきた相手とすれ違う。
「おはよう、親父」
「おはよう、シンちゃん♪ 今日も可愛いねv」
 朝から、テンション高く満面の笑みで挨拶をしてくる相手をするりと避け、そのまま通り過ぎようとしたシンタローだったが、その去り際に、がっちりと腕をつかまれた。
 ビクッ。
 思わず身体が反応するのを、悔しいかな止められなかった。しかし、そこで怯むわけには行かず、キッと漆黒の瞳を光らせ、振り返った先にいる相手を睨みつけた。
「なんだよ、親父。今から会議に出なきゃいけないから、あんたの相手をする暇ねぇんだけど」
 そっけなく、そう言い放ち、ついでに握られているそれを振り払おうと渾身の力を込めたものの、向こうに予測されていたおかげで、成功はしなかった。
「会議? これから君の行く場所は、ベッドでしょv」
「なッ!」
 決定事項のように言われた言葉に、うろたえるシンタローを尻目に、マジックはその腕を掴んだまま、ずんずんと先ほどシンタローが来た道を引き返し始めた。通りすがりにつかまれたために、マジックの進行方向とは逆向きであったシンタローは、後ろ向きに歩くことになり、踏ん張ることが難しく、そのおかげで、どんどんと会議室からは遠ざかって行く。
「ちょ、ちょっと待て! 離せ、親父。俺は、仕事がッ!」
 しかし、その訴えは相手の耳にはひとつも入らないようだった。抵抗も形にならぬまま、引きずられるようにして自室に戻されたシンタローは、そのままベッドへと押し倒された。
「親父ッ!」
 すぐさま起き上がろうとしたその身体を、肩に手を置くことで押さえこまれる。身動きできずにいれば、マジックの右手が伸び、前髪をかき上げるようにして、額に触れた。
 少しひんやりとした手が、思わぬほど心地いい。つい、その冷たさを味わってしまえば、なぜか苦笑を浮かべたマジックと間近で視線があった。
「なんだよ」
 目線の近さに気恥ずかしさを感じ、ついぶっきらぼうな言い方をしたものの、相手の眼差しはいつくしむような柔らかなそれになった。
「熱がある時に無理したら駄目でしょ?」
 そうして告げられた言葉に、シンタローの眉間には皺が寄り、口元がへの字型に歪む。
「………やっぱり気付いたのかよ」
 不貞腐れた顔をすれば、当然といった笑みを浮かべたマジックは、しっかりと頷いた。
「当たり前でしょ? 一体何年、シンちゃんのパパをやってると思っているんだい? 君の顔を見て、すぐに分かったよ。熱があるなら、そう言いなさい。無理すれば、後で余計に寝込むことになるんだよ、シンちゃん」
「…………」
 たしなめるようにそう言うマジックに、シンタローの反応と言えば、押し黙ったままで、むすっとした表情を浮かべていた。自分に熱が出ていることを見抜かれたのがよほど気に食わないようだ。
 だが、かすかに潤んだ目やいつもより赤く火照った頬などから見れば、微熱などでは収まっていないのがわかる。確かに、注意深く見なければ、それとは分からないが、マジックの眼はそれを見逃さなかった。
「辛いなら素直に言えばいいのに――まったく、君は変わらないね」
 幼い頃から、そうだった。
 熱を出しても、お腹を壊しても、父親であるマジックには何も言わなかったのである。忙しい父親を心配させたくないという理由のために、体調が悪くても我慢する癖がついてしまったのだ。
 そのため、余計にシンタローの様子には気遣う癖が、こちらにもついてしまった。顔が見られれば、すぐに体調を確かめるように注意深く様子をチェックする。そうしないと安心できなかった。
 自分がいない時は、不安だったが、それは、心配なかった。淋しいが、体調が悪くなると、近しい者にすぐにそれを告げていたらしかった。父親が戻る前に、完治させるためだということはすぐに気付いたが、それでも父親としては哀しいものがあった。
 そんなふうに、シンタローの優しさは、時折そんな強がりも含んでいるから、マジックとしては、余計に過保護になってしまうのであった。もちろん、その全てが可愛いからというのは大前提だ。
 それはシンタローが大人になっても変わらない。同じ愛しさを、マジックは変わらず感じていた。
 もっとも、シンタローの方は少し違うだろう。
 今の状況は、 自分を心配させないためというよりは、こうして無理やり休まされるのを恐れるために違いなかった。
 ガンマ団総帥という地位に居続けるために、彼は今も並々ならぬ努力を続けている。多忙な総帥職を、毎日こなしていた。それでも仕事は減るわけではないから、多少の不調も、根性で押さえ込んで、仕事に励むつもりだったのだろう。しかし、そんな無理をして、さらに身体を壊せるようなことをさせる気などまったくなかった。自分が気付いた以上、体調が戻るまで、仕事は休止である。
「大人しくしておきなさい。すぐに高松を呼んでくるからね」
 言い含めるようにそう言い、額に添えていた手で前髪をすくい上げると、くしゃりとひと撫ぜしてベッドから離れた。
 すぐに起き出して、仕事に戻るだろうか、と思ったものの、幸いそんな気はなくしてくれているようで安心した。けれど、自分の姿が完全に消えてしまえば、それも危ういもので、また再び仕事に戻らないように、根回ししなければと、いそいそと内線電話へと手を伸ばした。
「………チッ」
 マジックの去ったベッドの上で、シンタローは盛大に舌打ちをした。マジックの目は、今はない。逃げ出そうと思えば、逃げ出すことは出来る。けれど、すでに諦めの気持ちが広がっていた。
 あちらが先手を打っているに違いないからだ。
 今朝、熱の所為で身体がだるく、支度をするのを手間取りながらも、会議に間に合わせようと必死になっていたのが、全てパァだ。
 おそらくもう会議は中止になっているだろうし、その後に控えていた業務も後日に回されているはずだった。その手際のよさには、感心させられると同時に悔しくなる。
 まだまだ自分は、父親には敵わないと実感させられるせいだ。
(いつか絶対に越えて見せるけどな!)
 そんなことを考えていると、向こうの部屋からひょっこりとマジックが顔を出した。何の用だと思っていれば、にっこり笑って告げられる。
「シンちゃん。後でお粥を作って持って来てあげるから、待っててねv」
 それはおそらく病気で寝込んだ時だけに食べさせてくれる、特製お粥であろう。食欲がなくても、それだけはいつもしっかりと食べていた。時には、それが食べたくて、仮病を使ったこともあった。それぐらい、美味しいお粥なのだ。
(これだけは、越えられないかもな)
 父親の味は、シンタローにとっては絶対だった。味の基準が全て父親が作ってくれた料理の味からなっている以上、それを完全に越えることは、シンタローには不可能である。だが、これはこれ。ひとつぐらい絶対に敵わないことがあってもいいだろう―――他は越えて見せるけれど。その決意は変わらない。
「はーいはいはい」
 おざなりに返事を返したシンタローだが、その顔には嬉しそう笑みを刻まれていた。
(それなら早く元気になりますか)
 特製のお粥を作ってくれる相手に報いるためにも、シンタローは、ベッドの中に潜り込むと大人しく瞼を閉じた。
 
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『彼は不老ですよ』
『不老…』
『ええ。あれ以上年を取ることはありません―――嬉しいですか?』

















 ―――なぜ、嬉しいと思う?

 愛しい人が永遠に若いままでいれば、幸か、不幸か。








「どうかしたのか?」
 その声と共にこちらを覗き込む相手に、常になく対応を遅らせ、驚いた顔を見せてしまった。
 くつろぐための柔らかなソファーの上で、溺れるように沈む身体を無様に動かすはめになる。
「あっ、いや。なんでもないよ、シンちゃん」
「……どうしたんだよ」
 その態度が、さらに相手の不信感を買ってしまい、眉間にシワを寄せられる。
 そんな顔など一時でもさせたくはないのに。
 そう思ったら、綺麗な顔に、くっきりと刻まれるシワに、手が伸びていた。
「そんなシワを作るもんじゃないよ。痕になったらどうする」
「まだ、なんねぇよ。俺は、あんたと違って、まだ若いし」
 会話ははっきりと反らされてしまって、それをむくれるように唇を尖らせることで示し、ぼふっとソファーの上に身体を埋める。
 これ以上の追求はない。
 興味がなくなったのか。
 それでよかった。




 どうして――――この子に真実という名の残酷な未来を告げられる?

 私は無敵ではない。

















『不老不死の身体なのか?』
『不老は完全に。けれど不死は当てはまりませんよ』
『そうか』
『あの身体は、人と同じ死を得られますから―――私は一度、ちゃんと死んだでしょう―――ただ、老衰だけがありえないというだけのこと。数多くある死因の中で、それ一つがなくなったとて、どうということでもないでしょうけど』
『そうか?』
『ええ。あのような地位についていて、無事平穏に人生をまっとうに送れるはずが―――顔、怖いですよ、マジック様』


















 ―――怖くもなるだろう?

 愛する者の無残な死など望まない、願わない。











「なんかあったわけ?」
 やはり動揺は顔に出てしまうらしい。いつもならば、そんなことはないのだが、この問題は、心に直接くる。取り繕うヒマをもてないほど、深く考えこむせいだ。
「いいや、何も」
 それでもやはり誤魔化してしまうのは、性分だ。
 この子には、自分の不安など背負わせたくない。親心というものだろうか。
 だが、その気持ちは、しばしばわかってはもらえない。
「ふぅ~ん」
 そういいながらも、こちらを気にしているのは、よくわかる。
 ちらりちらりと向けられる視線に確信をする。
 可愛い子だ。
 年齢をいくら重ねようとも、変わらぬ愛おしさを持ち続けられるのも、そういう幼い仕草を未だに垣間見ることができるからだろう。
 だからこそ、手放せなくなる。
 可愛くて愛しいから、傍で愛でなければ気がすまない。




 だがそれは――――いつまで出来る?

 私は永遠ではない。















『年を取らないことは、いいことなんでしょうかね』
『お前はどうだったんだ? ……ジャン』
『辛いですよ』
『笑顔で言うのだな、お前は』
『ええ。もう笑い事ですから。けど―――あいつは笑えませんよ。まだね……どうします?』
『どう…って』
『そう言う顔が出来る方が傍にいれば、あいつも大丈夫でしょう』

















 ――――馬鹿なことを。

 そうする者が私以外にどれほどいると思う。それこそこちらの嫉妬が追いつかないぐらいだ。








「こんな顔をする奴など、あれの周りにはいくらでもいるさ」
「あれ?」
 怪訝な声音は、すぐ真横から。こちらに身体を摺り寄せていた相手には、自分の小さな呟きをしっかり耳に入れていた。
「なんでもないよ。お前には関係ないことだ」
 まだ、お前の顔を曇らせることはない。
 気付かなければ、ずっとそのままで。
「なんだよ、さっきから。おかしいぜ」
「ああ、そうだな」
 おかしいのは、認めなければいけないだろう。
「……で、肯定してもなんにも言わないんだよな」
「分かっているなら、聞かないでくれ」
 これ以上は、話せない。
「ふんっ」
 疎外されたことに対する怒りも、それにむくれる顔もすべてが愛しく、大切なもので。
 怒ったのか、逃げていくそぶりを見せるそれに、離れることを恐れるように腕が伸びる。
 頬に触れる。
 するりと指先がすべる。
 手入れなどしてないのだろうが、弾力と張りは昔のままだ。
 そしてそれは一生のもの。
 何度か往復を繰り返せば、シンタローは、猫のように気持ち良さそうに目を細めた。
「父さん……」
 それから、ねだるような甘い声。
 自分だけに向けられる、羞恥を帯びた桜色に染まる頬に、誘うように僅かに開かれる唇。
 目を閉じて、首筋をそらせ、すべてを捧げられる。
 無防備な仕草。
(ああ…罪だ)
 この瞬間、その首を掻っ切ることは、いとも容易い。
 遠くない未来の情景の一片をみるような、そんな錯覚を覚えるほど。
 罪深き姿がそこにある。
 だが、揺れる視線を叱咤とともに愛しきものに留め置く。
 迷うなかれ。
 自分にすべてをゆだねるのならば、自分の意思一つでこの先の行く末は決定される。
「シンタロー」
 だが、今はまだ先のこと。
 触れた唇から漏れる息吹は、暖かい。それが途絶えるのは、まだ先。
 だから今はいつか来る時を思う。







 ねえ――――――お前をコロスのはいつがいいだろうか?

 







 私は神ではない。


ms










 こんな日常でいいのかな? 




「シ~ンちゃんv」

 甘えるような声。
 寝そべるようにしていた転がっていたソファーの端が少し凹む。
 誰が来たのかは、見なくてもわかる。
 そんな声で、自分を呼ぶのは、ただ一人。

「あん?」
 
 だから、雑誌を眺めていた視線をそのままおざなりに返事をすれば、相手は、それが不満であるように、ソファーにかけていた体重をじりじりと移動させてきた。
 鬱陶しいという感想は即座に抱くが、それもいつものことだ。慣れとは少し違うが、そのまま放置していれば、当然の権利とばかりに自分の隣にちゃっかりと腰を落ち着かせている。
 ここで初めてちらりと視線をあげれば、ナイスミドル大会優勝経験をもつマジックが堅苦しいスーツを崩しながら、こちらを見ていた。
 視線がぶつかる。

「あのねv パパ仕事が終わったんだよ」

「そりゃ、お疲れさん」

 労わりの言葉は一応与えてやる。
 目の前の相手から、総帥の地位を譲られてきた後は、隠居生活―――などさせてはおらず、元総帥という肩書きも有効活用させてもらっているのだ。
 それくらいの労いはしてあげられる。
 もっともこちらもお疲れ様であることは変わらない、今日一日分の業務を終えたのは、つい一時間ほど前の出来事だ。
 再び雑誌に視線を向ければ、すかさずマジックの抗議の声が聞こえてきた。

「冷たいよ、シンちゃん!」

「いつものことだろが」

 くすん、を鼻をすすりあげ、涙まで浮べ、器用に泣き真似してくるいい年のオヤジに、冷淡にいい放てば、相手は、出したばかりの涙をひっこめ、

「まあ、そうなんだけどねぇ~。たまには気を変えて、別のことを言ってくれないかなv とか期待するんだけど」

 肩をすくめつつ、あっさりと笑顔を作る。
 変わり身の早さは追随を許さぬ、といったところか。あれだけは、自分にはまねできない芸当だ。

「無駄なことを」

「だよねぇ。ま、いいけど」

 マジックの手が伸びる。横に座っているシンタローの頭に触れると、それを引き寄せるに動かした。
 抵抗もせずにぽすっと倒れてきてくれた息子の頭を膝に乗せ、マジックは、黒髪を一束手にとった。そこに口付けを一つ。
 いつもの儀式を終え、目を開けるマジックに、シンタローは、真上を見上げる状態で、口を開いた。

「忘れていた。おかえり」

「ただいまv で、これからヤっていい?」

 期待に満ちた顔で、尋ねるマジックに、ひくっと頬がひきつるのは、条件反射。
 こういうのは、初めてじゃないけれど、それでもいつでも顔は引き攣ってくれる。
 だからといって、それが嫌だという態度ではないことは、あちらもお見通しなのだから性質が悪い。

「いいよねv」

 すでに確定とばかりに顔を寄せてくる相手の額に手のひらを押し当て、思い切り突っぱねてあげた。

「明日、朝早い」

 明日のスケジュール頭に入れて、きっぱりと言い切れば、顔をあげたマジックは、離したばかりの黒髪を、再び手をとり、弄ぶように軽く引っ張った。つまんなそうに、くるくるとその髪を指に巻きつける。

「それじゃあ、一回だけだね」

「ヤるのかよ」
 
 心底うんざりした表情を見せるが、それで相手が諦めてくれるわけがない。
 それどころか、キッと表情を引き締め、握りこぶしまで作ってくれる。

「当然! 当たり前だよ。パパはシンちゃんとなら毎晩徹夜でヤっても構わないよ!!」

「俺はかまうわっ! ったく。ほら…」

 ぺしっと額を叩き、それから、伸ばした手を相手の首に巻きつけ、引き寄せた。

「本当に、一回だけだからな」 

「んv」

 吐息のかかる距離で、そう宣言すると、誓うように口付けを交わす。
 それでもそれは、神聖なる誓いのキスとは程遠い濃厚なもので、  

「ふっ……ぁ」

 銀の糸を引きながら離れるころには、すっかり息があがっていたりする。

「気持ちいい?」

「ん………けど、ヤるならベッドだからな」

「了解v」

 高まる熱を落ち着かせるように深呼吸して、寝そべっていた半身を起こし、立ち上がれば、相手が、すかさずその隣をキープして、エスコートするように手を回す。
 準備万全、いざ出発。

「じゃあ、行こうか♪」

 今日も親父で恋人な相手とともに、いつもの所へ。





 だって好きなんだからいいじゃないかっ!




m








イヤリング

--------------------------------------------------------------------------------






「シ~ンちゃんっ!」
 その声に、シンタローは振り返ると、そこには、若作り親父ことマジックの姿があった。
「よかった。探してたんだよ」
 手をぶんぶん振り回し、嬉しそうな顔で近づいてくるマジックに、
「なんだよ」
 常の状況から、警戒の態勢をとるシンタローだが、相手はなぜか、その場で立ち止まった。
 距離はまだ五メートルほどあるが、珍しいことである。いつもならば、そのまま抱きついてくるはずだ。
 訝しげに思うものの警戒したまま、睨み付けるシンタローに、マジックは、くすりと笑った。
「今日は、抱きつきは、まだお預けだよ♪」
「一生預けておけっ!」
 つい、習性で突っ込みをいれてしまったシンタローだが、マジックは気にする風も見せずに、ポケットに手を入れると、そこから何かを取り出した。
「今日は、これをあげようと思ってね」
 取り出されたそれは、ポンと宙に放りだされ、綺麗な放物線を描いて、シンタローの元にたどり着く。
「えっ?」
 無事、キャッチできたそれを手の平にのせれば、それは青色のビロードで囲われた小さな箱だった。よく指輪など、装飾品を納めている時に見るそれである。
「これ、なんだよ」
「開けてごらん」
 その言葉に、促されるように蓋を開けたシンタローは、その中に納められていたものを見ると、眉をひそめた。
「イヤリング?」
 そこに綺麗に並べて収まっていたのは、青い玉がついたイヤリングだった。その玉を囲む縁は銀だろうか、けれど、いたってシンプルな装飾のみのそれは、小指の爪ほどの大きさの青い玉を強調させるものであった。
「そう。それはね、私の妻の―――お前の母親から、もらったものだよ」
「母さんから?」
 意外なことを聞いたとばかりに、目を見張ってそれに視線を向けたシンタローに、マジックは、ゆっくりと傍に近づいて、開けたままの箱から、青い石を摘んで取り出した。目の前に掲げて見せる。
「ラピスラズリだそうだ。私の瞳の色と同じで、誕生石でもあるから相応しいとか言ってね。その昔、贈ってくれたものだ。そんなに高いものじゃないが、幸運と成功のお守りだ言ってくれたからね、大切にしていたものだよ」
「へぇー」
 この男から、母親のことを聞くのは、随分と久しぶりだった。なんとなく昔を思い出して、しんみりしていると、マジックは、手にしていたそれを、再び箱の中に収め、蓋を閉じると持っていたシンタローの手ごと押し付けた。
「そう言うわけだからね。シンちゃんにあげるよ、それ」
 そうして告げられた言葉に、シンタローは、慌てて押されたその手をマジックの方へと押し返した。
「なんでっ! そんな大事なもん、親父がもっていればいいだろう」
 これは、母さんが親父を思ってあげたものだ。
 自分が手にしていいものではない。
 だが、マジックは、笑みを浮かべたまま首を横へとふった。
「いいんだよ。私は、もうその加護は十分もらったからね。総帥職も退いた今の私には、その加護は必要ない。だから、お前にあげるんだよ。今度は、お前が守ってもらいなさい。―――――あれは、あんまり物を欲しがらない女性(ヒト)だったからね。お前は、もってないだろ? 母親の品なんて」
「父さん―――」
 シンタローは視線を落とし、その箱を見つめた。
 確かに、マジックの言う通り、母親の形見の品と言うものは、シンタローはもっていなかった。
 もちろん、母親が使っていた部屋や品は、そのままにしてあるが、生前その使っている中から、自分に贈られたものはなかった。自分が男だからだろうが、それでも、時折母親を思い出す時には、それを寂しく思う時がある。
 母親が贈った品。
 自分ではないにしても、母親の思いが詰まったそれがあるのは、嬉しくないはずがなかった。
「でも、どうしてイヤリングなんだろうね。指輪とかネックレスの方が、まだつけられたんだけど」
 首を傾げて、それを見るマジックに、シンタローも、異議なしとばかりに頷いた。
 ………確かに。
 イヤリングなど男ならば、そうそうつけることはないだろう。
「まあ、あれも、どこかずれたところがあったからねえ」
「そう…だったな」
 しみじみと懐かしむように遠い目をするマジックに、シンタローも、ぼんやりと視線を外に向けて頷いた。
 さすがにマジックの妻になる人らしく、息子のシンタローの目からも、凄い人だという思い出が強い。
 自分のことをいつも普通の人だと称していた彼女だが、夫であるマジックを平然とこき使い、息子が父親に溺愛されているのを見ては、拗ねたり、怒ったりで実家によく帰っていたりもしていたのだ。
 もちろん、その時には、シンタローもつれて行かれるから、慌ててマジックも向かえに行く。とはいえ、シンタローはダシに使われているだけだっただろう。子供の目から見ても、あの夫婦は仲の良いラブラブ夫婦だったのだ。
「まあいい。加護は石だけだしな。私は、さすがに手を加えられなかったが、お前は、好きな形に加工しなおしなさい」
 箱はまだ、シンタローの手の中。
 シンタローは、それを見つめ、握り締めた。
「………父さん」
「なんだ」
「――――ありがとう」
 照れくさげに、礼をつげると、マジックの身体が、ぷるぷると震えだした。
 なんだ? と身構えようとした瞬間、
「シンちゃーん!」
 堪え切れなかったように、マジックが両手を広げて、こちらに向かって飛び掛ってくる。
「えーいっ、そこでいい雰囲気ぶちこわすな。眼魔砲!!」
 よけるのは無理だと判断したシンタローは、反射的に、タメなし眼魔砲をマジックに向かってぶっ放した。

 チュドーン!!

「あっ………やべぇ」
 思わず、げっ!と顔を顰めるシンタロー。 それは、まれに見る大当たりであった。
 眼魔砲とともに、盛大に廊下の端にぶち当たったマジックは、ぶすぶすと煙を吐いている。じっと見つめていたが、ぴくりとも動かないそれに、シンタローは、そっと瞼を閉じ、もらったばかりのイヤリングの箱を握り締めた。
(ごめんなさい、母さん。あなたが守りたかったものは、俺が殺してしまいました)

 なーむー。

 一応とばかりに拝むと、シンタローは、何事もなかったかのように、黒焦げのマジックを置いて、仕事に出かけた。





「ふっ。お前……もうすぐ私もそこに、逝くよ」
 眼魔砲を直撃したマジックは、黒焦げのまま、遠い天国を見据え、微笑みを浮かべると、がっくりと息絶えた―――ように見えただけで、
「マジック様、ここで寝ると風邪引きますよ」
 忠義者のティラミスに見つけてもらうと、無事保護されたのだった。



 めでたしめでたし……………かぁ?










BACK


ms
「なまえ」







「シンちゃーん。バドミントンしよう。」
「ヤだ。」

ばべーんと豪快に部屋の扉を開けて入ってきたのは、やはりマジック。
手には羽とラケット。

「えーっ、しようよシンちゃん!!この頃遊んでなかったし~」
「だからって何だよバドミントンて・・・、しかもアンタ歳のくせに」
「むっ。・・あれシンちゃん、携帯鳴ってるよ?」

ウ”ウ”・・と机の上で震えていた黒い携帯を指差す。
あぁ、と手に取るシンタロー。

「げ」
「ん?」
「・・ぁいや、ただの迷惑メール。」

ウゼぇ・・と眉間にしわを寄せるシンタロー。

「良くくるのかい?」
「ん・・この頃結構くるな。アドレス変えるか・・・」
「・・・教えてね?」
「は?」

がちゃ、とマジックが持ってきたラケットを近くに置いているシンタローに近づく。
むぅ・・と頬を膨らませながら呟く。

「だってシンちゃん、アドレス変えたら教えてくれないしぃ」
「・・・いいじゃねぇか別に。嫌って程ホンモノに会ってんだから・・」
「でもっ!緊急って事が・・・!!」
「キンタローが持ってっから。」

・・そうだよね・・いつも一緒だもんね・・・と勝手に部屋の隅で暗くなり始めたマジックにため息。
そろりと近づく。
「・・・ったく・・。わかったよ」
「え?」
「考えんのメンドイからよろしく。」
「・・・イイの?」
「・・・」

渡された携帯を眺めてキラキラと瞳を輝かせる。
ああ、と一言残して部屋を去る・・・、
が。

「アイラブvマジックって打っちゃおうかな~♪」

ばたーん

「止めろぉおっ!!」

ガバッと携帯を引ったくり。

「え~・・考えていいって言ったのに・・・」
「・・そーゆーのって案外悲しいんだぞ!?送られる方とか。」
「え?」
「ほら・・たまに名前変わってたりするだろ?」
「・・あぁ・・・・なるほど。」

うん、と一瞬シンタローの話に納得しかけた様に見えたが。
ぱっと顔を上げ。

「でも、シンちゃんは好きな人変わらないし、いいよねvv」
「ちょっと待てぇ―ッ!!」
「なに?・・ほかに好きな人いるの!?いないよね!うんいない!!!」
「いないけど・・って勝手に完結すんじゃねぇ!」

はぁっはぁっ・・ しばらく大声を出していたため、乱れた息を整える。

「頼むから・・。」
「え~~・・・。わかった、シンちゃんがそこまで言うなら・・。」

しぶしぶという感じのマジックにホッと息をつく。
そして思い出したように。

「ってか、親父・・・アンタこそ変えろ。アドレス。」
「なんで?」
「・・・!!勝手に俺の名前入れるんじゃねぇって言ってんだよっ」
「ああ。・・・いいだろう?これくらい・・」
「・・・・もういい・・・。」

は~・・

シンタローは長いため息を吐いた。


END,,,

************************************************

カロス様からいただいてしまいました。
マジシンのほのぼの小説です~~!!
そして話題がメールアドレス。
何かこういう日常的な会話って良いですよね~~v
ふとした仕草に自分の気持ちがぽろりって出ちゃうような。
マジックパパの場合はぽろり所か全面に押し出していますが。(笑)
でもって最終的にほだされている(むしろ負けた……?)シンちゃんも可愛かったり。

ちなみに、私のケータイアドレスは
www.******ne.jp@~~~~だったり。
メールソフトによっては、www.がついている所為でホームページアドレス扱いになってしまうとか。

************************************************


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