キリリク3100小説『マジック×シンタロー甘甘』
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今までまとめていた髪を下ろし、総帥の赤いブレザーに袖を通す。
そんないでたちで、俺は親父の―――ガンマ団総帥の部屋の前にいた。
もっとも……親父が総帥であるのも今日までのこと。
明日からは、俺がその椅子に着くことになる。
緊張はしていない。そういったらまず嘘になる。
今まで世界制覇を目論んでいたガンマ団の意趣を180度かえるわけだし。
…………何より、俺が秘石眼でない。というのは事実だし。
すぐ下の奴らは、方言ばりばりの色物集団は大丈夫だと思うが、
さらにその下の奴らから反抗者が出るのは明らかだ。
もっとも、俺が本当の親父の子供ではなく、秘石から作られた存在だということを知っているのは、ごく一部の奴らだけなのが救いでもある。
あの事件ですべてが解決したとはいえ、事情を知らない奴らから見れば、グンマが『なぜか』親父の息子になってて、
代わりにいきなり現れた青年がルーザー叔父さんの息子を名乗っているのだから、混乱が起きるのは間違いない。
少しは収まったと思うが、まぁ……それは明日考えればいいだけのこと。
とりあえずは……
目の前の扉を眺めつつ、これから俺の身に起きるであろうことを想像し、
ちょっと憂鬱になってみたり。
壁に掛けられた時計を見て、今度はこの部屋の扉に目を向ける。
そんなことを何度繰り返したろう。
そろそろ準備は終わる頃だと思うのだが……
まさかサイズが合わなかったか?
いや、あれは私が計って、私がデザインした物だ。
そこんじょそこらのデザイナーならともかく、このガンマ団総帥が間違えるはずがあろうか(反語)?
それともデザインが気に入らなかったか?
似合ってると思うんだけどなぁ……
さては赤が気に入らなかったのか?……グンちゃんにも不評だったらしいし。
デザインはもちろん、サイズまで測っておきながら、私は息子が晴れ着を着たところを見たことがなかった。
理由はもちろん、明日の就任式までお楽しみはとっておきたかったからv
しかし今朝、明日になったらシンちゃんが仕事に追われて、ゆっくり話す機会なんかないんじゃないか?ということに気づき
急遽、総帥服を着て、私の部屋に来るように言ったのだ。
嫌がるかとは思ったが、意外とすんなり承知してくれた。……ちょっと期待しちゃったりして。
ああ、それにしても遅いいぃぃぃっ!!!
こーなったらこっちから出向いて……
ここでうろうろしていてもしょーがない! とっとと腹決めて入るか!!
ガチャッ ばんっ
……『ばんっ』?
「や……やぁシンちゃん。遅かったね。」
額を軽く押さえつつ、親父が言う。
「親父……なにンなトコにつったってんだ?」
「いや、お約束的バッドタイミングってやつだよ」
「よくわかる説明どうも……」
「それより…………」
「な……なんだよ」
じっと見つめられ、ちょっとひるむ。
くるか!? お約束的パターンっ!!
だが、予想に反して、いきなり勢いをつけて抱きつかれることもなく、親父は俺を部屋の中に誘導して扉を閉めた。
「いや、ちょっと嬉しくてねぇ……」
しみじみと、遠くを見つつ続ける。
「5歳の時にはおしっこをもらしてたり、怖い話を聞くとトイレに行けなくなっ たりしてたシンちゃんがまさかここまで立派になるとは……。
とーさん嬉しいやらちょっと寂しいやら複雑だぞ。」
「そ、そうか」
いつもならそれこそ「んな昔の話すなぁぁぁああっっ!!」と叫びつつ眼魔砲をぶっ放しているところだが、
ここでそんなことしたら明日に影響が出る。、
ひょっとしたら、あまりにも親父が感慨深げに言うのだから、やる気が失せたのかもしれない。
「……シンタロー」
そんなことを考えていると、ふと名前を呼ばれ、肩を抱きしめられた。
ま、まぁこんな日くらいはおとなしくしてやるか。
あごというか首を親父の肩に乗せ体重をすこし親父にかけると、親父の手が俺の髪に触れてきた。
そのまま撫でるように髪を梳かれる。
その手が気持ちよかったから、体に伝わる相手の体温が暖かかったから、つい俺は目を閉じて、その感覚を味わっていた。
左手でシンちゃんの頭を撫で、肩においといた右手を腰に移動する。
が、シンちゃんからの抗議の声は無し。
それどころか、気持ちよさそーに目を細めている。
えーと……これは、ひょっとして……
期待してもいいってコトかッ!?
「シンちゃん?」
名前を呼ぶと、不意をつかれたように顔をこちらに向ける。
…………可愛いかも
とっさに私は髪を撫でていた手をシンちゃんの後頭部に回し頭を固定。
こっちが何を考えているのか気づかれる前に、そのまま口づける。
「……んっ」
うめき声が上がり体を強張らせるが、とりあえず、暴力で訴えてくる様子はない。
とりあえず、下唇を軽くなめて顔をはなす。
「……ったく、いきなり何すんだよ……」
「いやぁシンちゃんがあまりにも可愛かったから、ついねえ……」
「だからってフツー実の息子―――じゃねぇけど、
実の息子として育てたヤツにキスなんかするか?」
「何言ってるんだシンちゃん。シンちゃんは間違いなく私の実の息子だよv」
「だったらなおさら……」
「それともシンちゃんは今までそーーんなこと思ってたのかい?」
「イヤ別にそんなこと……」
「だったら問題無しだなv」
言ってシンちゃんを抱き込む。
「あ?」
「さぁシンちゃん私と早速げふぅッ!!」
数分後
俺は、方言ばりばり色物集団の元へ行った。
「おいお前ら」
「なんどすか? ガンマ団新総帥v」
「明日の用意は全部出来とるぞ」
「まだなんかあるだべか?」
「だったら急ぐっちゃ」
「日程変更だ。1週間ほどのばす」
『ええぇえっ――――――――!!』
「現総帥が『謎の大ケガ』を負って、式典に出られそうにないんだ」
「総帥が……?」
「何があったんじゃ?」
「……みなはん、野暮なことは聞いたらあきまへん」
『?』
「シンタローはん、たぶん総帥は……」
「ああ?」
「腰が痛くて療」
ゐりっ
「とにかく、一週間ほど延ばすよーに。質問は受けつけん。」
『は~い』
壁にめり込んでる京都弁男を見ると、多少力が強すぎたかと思うが、
ま、さっき眼魔砲撃ったせいで、体中だるいし、力だってある程度セーブされただろ。
野郎どもの返事を聞いてきびすを返すと、後ろから声が聞こえた。
「馬鹿じゃなぁアラシヤマ」
「だっちゃ。」
「フツー腰が痛くなるならシンタローの方だべな」
…………
「て・め・え・らぁぁっっっ!!」
――――結局
新総帥就任式は、前総帥を含む最高幹部の数名が謎の大ケガを負ったため1週間延期された。
『謎の大ケガ』の理由は、けがを負った本人たちしか知らない。
俺は3日ほどたったら忘れたからな。
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というわけでキリリク3100小説『マジック×シンタロー甘甘』をお送りしました。
甘かねぇッ!!
……と言うつっこみは無しです。
そもそもどこまでが甘甘になるんだッ!!?
ギャグにもなりきってないし……ましてやほのぼのでもシリアスでもないし……
ひ~ん(泣)
とりあえず、最後の方でオチを付けるのは、あたしの習性ということで。
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シンちゃんとマジックパパとグンちゃんとキンちゃんとでお食事中。
「ごっそーさん。」
一番早く箸を置いたのは、シンタローだった。
「あれシンちゃんそんだけしか食べないの~?」
いつもなら二回くらいお代わりするのに、今日は一杯とおかず半分以上残っている。
「ひょっとしてお口に合わなかったかい? イイお肉のハズなんだけど……」
しょうがの入れるタイミングを間違えたのだろうかと(豚肉のしょうが焼き)ちょっと心配になるマジック。
「お前が残すのを見たのは初めてだ……」
少し驚いたような口調で言うキンタロー。
「イヤ……そう言う訳じゃねーんだけどよ……」
シンタローもちょっと戸惑ったように話す。
『?』
「なんか脂がきつくて……」
心配そうな顔をするマジックとグンマを誤魔化すように苦笑いしながら言う。
「そう?」
小首を傾げてグンマが聞き返す。確かに豚しょうがそのままだけだとキツイという人がいるかもしれないが、
グンマがやっているように備え付けのレタスでくるんで食べればシャキシャキして美味しいし、
何よりいつものシンタローならこのくらいぺろりと平らげる。
「でもそれだけじゃぁ足りないだろう?」
今夜も仕事(書類整理)で徹夜に近くなるだろうと予想していたマジックは『夜食でも差し入れるか』と考えていたが、
「果物なら入るかと思うんだが……すっぱい物がいいな……」
シンタローの言葉に沈黙する。
「…………」
「どうしたのお父さま?」
「イヤ……別に…………」更に数日後
「今日は和食にしてみたよ。お刺身ならシンちゃんも大丈夫だろう?」
「……ありがとな」
数分後
「う゛っ…………」
突然シンタローが口を押さえてイスから立ち上がった。
『シンちゃんっ!?』
グンマとマジックは慌ててどうしたのだろうと様子を見る。
が、それに気にする余裕すらないのか、シンタローは台所の方へダッシュした。
ダダッ
「けほっけほっ!」
ザー
「シンちゃん……どうしたんだろう……」
咳き込む声と、水の流れる音に心配そうにグンマが呟く。
「……………………」
マジックもそれに応えられず、黙っていると、頭を掻きながらシンタローが戻ってきた。
「あ゛ーわりぃ……吐いちまった。」
「大丈夫?」
「多分な。」
「シンちゃん……後でパパの部屋に来てくれないかな……?」
「は? まぁ……イイケドよ……」
食事終了後
マジックパパのお部屋。
「いっとくけど……今日はその気じゃねーんだ」
何を勘違いしたのか、シンタローが少し迷惑そうな顔で先に言って来る。
「ああ……別にそれはいいんだが……」
「じゃぁなんの用だ?」
怪訝そうな顔をするシンタローに、マジックは酷くまじめな顔で、
「……はっきり言うよ?」
「何だよ」
「シンちゃんひょっとして妊娠してないか?」
「………………………………」
「…………………………………………………………」
「帰る」
「あぁっ 待ってえぇえぇえっっ!!!」
くるりときびすを返したシンタローの腰にしがみついて、部屋から出ようとするシンタローを必死で引き留める。
「男が孕むかっ!」
「そうだけどっ! 最近のシンちゃんの様子はそうとしかとれないだろう!?」
「どこがだよっ!!」
「ちょっとしたことでイライラしたり、すぐトイレに行きたくなったり、しかもすっぱい物が食べたいって……」
「……そ……そりゃそうかもしれないけどな!? オレは男だぞっ!!?
その大前提を無視してどうする!?」
「ケドねぇ……」
「あんだよ」
「シンちゃんの身体ってあの時ジャンに乗り移ったんだから、秘石が創り出した身体なんだよねぇ」
「そうだな。」
「一般論じゃぁ間に合わないんじゃないかな?」
「だからっつって……!!」
「一応高松あたりに相談しに行ったらどうかな?」
「う~~~」
うなってはいるが、何となくマジックの言うことにも一理あるような気がするので大人しく従う――――
というわけでは全くなく、とりあえずややこしくしたくないから一応は従っておくか。と言う考えで、シンタローはマジックの言うとおりにすることにした。
ところが……
次の日、高松に事情を話して検査をして貰う。
さらに数日後、高松の研究室。
研究結果が出たと聞いて、シンタローは一度仕事を止めて研究室に出向いた。
研究室には、何故かサービスまでいて……
シンタローが入ったとたん、高松はシンタローの顔をじっと見つめ……
「陽性……でした……」
「つまりソレって……」
「おめでただな。おめでとうシンタロー」
「叔父さん……ソレ本気で言ってる?」
「ああ。」
「…………………………(汗)」
「ココで問題があるんですけど……」
「問題?」
「ええ……」
「一体なんだ? ドクター?」
「どこから子供が産まれるか……という話なんですけど……」
「…………どこってそりゃぁ…………」
「仕込んだところから。だろうな」
「………………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………」
「いやだあああああああああああああああっっっっ!!!!!」
「落ち着いて下さいシンタロー様ッ!!!
大丈夫ですっ! いざとなったら帝王切開です! ハラキリです!! 男らしくてイイじゃないですか!!」
「違うぅっ! 問題はソコじゃねぇっ!!」
「そうだぞ高松問題は…………」
「問題は?」
「考えんでもわかるだろうがッ!」
「シンタローが産休を取っている間、誰が総帥の代わりを勤めるかだ。」
「…………………………え?」
「そう言えば……そうですねぇ…………」
「グンマはああだし、キンタローは世間知らずだ。
アラシヤマ・コージ・トットリ・ミヤギあたりに補助を頼めればいいが、彼らは遠征中なんだろ?
ハーレムは間違ってもそんなコトしそうにないし、私は統率力に自信はない。」
「となると必然的に…………」
「兄さんだろうな。経験者だし顔もきく。」
「となると、代理の間、この事みんなに言いふらしそうですね。
シンちゃんが私の子供を産んでくれるvって。」
「いつヤッたのかとか、そう言う間柄だったのかって、今まで事情を知らなかった連中どころか、新米兵士にも広がるだろうな」
「うわあああああああああああんんっっ!!!!!!」
バンッとドアを開けてダッシュで部屋から去っていくシンタロー(28)
「ああっシンタロー様ッ!?」
「あーあ。行っちゃった。」
「って軽いノリで逃げないで下さいよっ! トドメはアナタでしょう!?」
「そうだな」
「開き直らないで下さい! そもそも最初にストレート(仕込んだところから)かましたのもアナタですよっ!?」
「兄さんが何とかしてくれるだろう。ソレに今のシンタローだってきっとマタニティブルーだ。
こういうときこそ2人で解決しあうのが一番。」
正論だがどこか違ってるような気がするのは高松の気のせいだろうか。
「…………秘石から創り出された身体だからシンタロー様に子供が出来たんですよね」
「まぁそうだろうな」
「…………ジャンは大丈夫ですかねぇ……」
「………………………………………………高松」
「はい?」
「一応検査の用意をして置いてくれ」
「わかりました」
「シンちゃ~~~んっっでかしたぁぁあっっ!!」
何となく執務室には戻りたくなくって、自室に帰ったとたん、出迎えたのは父親の広い胸だった。
ぼふっ(抱きついた音)
「うわっ」
勢い良くタックルされた所為で、数歩後ろにたたら践む。
「高松からは内線電話で連絡があったんだよ。
シンちゃん良くやった! 楽しみだねっ!!」
「……オヤジ……おじさんにも言ったんだけど……ソレ本気で言ってるのか?」
じと目で睨み付けるが、幸せ真っ直中のこの男には通じない。
「もちろん! あぁ……子供と孫の顔が一度に見られるなんて……パパ生きてて良かった……」
背中をさすりながら一人感動している父親に冷たい目線を向けてみるが、顔はすぐ横にあるので向こうからは見えない。
「…………」
「さ。こんな所で立ちつくしていても意味がないね。母胎は大事にしないと。
シンちゃん。ちょっと辛いだろうけど、しばらくお酒とたばこは我慢だよ?
たばこ吸ってる人の近くにも行っちゃダメだからね」
ようやっと体を放し、シンタローの腰と肩に手を置いて、ちょっときつめに、それでも穏やかに微笑みながら注意してくる。
「えーと…………」
一人で盛り上がる男を扱いかねてどうしようかと悩むシンタロー。
マジックはシンタローの腰に回していた手でシンタローの腹をさすりながら
「名前はどうしようか? シンちゃんそっくりの女の子だと良いなぁv
パパそっくりの男の子でも良いんだけど……何か生意気そうだしねぇ……?」
「イヤ……」
「赤ちゃんが中にいるときは、ビタミンCやカルシウムを沢山取るんだよ?
そうだベッドとかも用意しないと……どこに注文しようか……」
「人の話を聞けぇっ!!」
無理矢理マジックのセリフに食い込む
「なんだい(にっこり)?」
が、マジックの毒気を抜くような満面の笑みに威力をそがれてしまう。
「……俺は……その……あんまり…………生みたくねぇ……………………」
かろうじてそれだけ言うと、マジックは驚きに目を見開いた。
「何でだイッ!!?」
「だってその……男から生まれたなんて…………」
「まわりの目なんか気にしちゃダメだよ! そんなことより折角授かった命なんだ。大事にしないと……」
必死でシンタローを説得するマジック。
「……アンタがそういう台詞を言うか」
「それはともかく(誤魔化しっ)、本当にシンちゃん本気かい?」(じっ)
「う…………」
じっと目を見つめられてひるんでいると、マジックはその部分を暖めるように、シンタローのおなかの上で動かしていた手を止めた。
「まだ目にしたわけじゃないから、実感わかないかもしれないけど、君の体の中にもう一つの命が宿っているんだ。
おろすっていうのは殺すって言う意味なんだよ?
しかも私とシンちゃんの愛の結晶だ!
産んだ後、まともに育てられる自信がないって言うのならともかく、そう言う訳じゃないだろう?」
「自信もない……」
マジックと視線が合わせられなくなり、下をうつむいてしまう。
「どうして?」
下を向くシンタローに、膝を曲げてさらに下から見上げる。
「だって……俺男だし…………。」
正論ではある。
「そんなのどうにでもなるよ。大事なのは、愛情を持って接することが出来るかだ。
……シンちゃんは……自分の血を半分引く子供を大事にする自信はないのかい?」
「……そんなコトッ!」
「本当に産むのはイヤ?」
「………………イヤじゃない……でも……」
言葉を続けられなくなったシンタローを抱き留めて、マジックはシンタローの背をさすりながら優しい声で告げた。
「だったら二人で、がんばろう? ね?」
「……………………うん///」
小さな声で頷くシンタロー。
「じゃぁ名前はどうしようか?」
「………………あんたに任せるよ。」
「そうだね――――……」
ぱちっ
「……………………夢……」
首を曲げて時計を見る。
まだ3:00だ。
「……何考えてんだ俺は……」
よりによってアイツの子供……イヤ、それ以前に俺は男……
「う~ん……シンちゃん……」
横を見れば幸せそうな顔をして寝ている男。
寝顔はまぁまぁ。
俺に抱きついて、何故か俺の腹をさすっている。
……そうか……だからあんな夢を見たのか……………………
――――って。
何でコイツがココにいる。
俺は、確かに今日(昨晩)は一人でベッドに入ったはずだ。
「てめぇええっ! 何人の布団に潜り込んでやがるううっ!」
揺さぶってみるが、オヤジは俺に抱きついたまますぴょすぴょと、
まー気持ちよさそーに眠っている。
とりあえず殴ってみる。まずは腹に一発。
ぼすっ
「ぐぅっ……ぐ、ぐー……ぐー……」
ぐぅっ? ぐ、ぐー?
「お前今どもったろ。」
一瞬、腹をさすっていた手が止まる。
「ぐぅ……ぐぅ……ぐぅ……ぐぅ……ぐぅ……」
「しかもヤケに寝息が規則正しいし、喉の動きじっと見てると唾飲み込んでるし、
ついでに言うなら、なんで俺がいくら動いても腹の位置を正確に撫でてくるんだあぁああぁあぁッ!!!」
耳元で叫んでやると、閉じられていた目がさらにきつく閉じられた。が、いびき(ニセ)はまだ続いている。
………………そうか。あくまでも戦うきだな。
ならばこちらも容赦しねぇっ!!!
眼魔砲を使うと壁に穴があいて後々経理のおねーさんに叱れるのは目に見えているから、あくまで拳で戦ってみせる!
そう決心した矢先、ぐいっと身体が引っ張られた。
夢で見たようにマジックに抱きしめられる。
夢と違うのは、横になっていたってコトと、お互いパジャマって所か……もちろん決定的に違うところがあるんだがな。
「おいッ!! こらぁッ!!!」
足を突っ張ってみたり、手で押してみたりするが、俺を抱きしめる腕はビクともしない。
こういうときだけコイツ腕力すっげぇアップするのな。
俺は諦めて体の力を抜いた。
安心したのか、背中に回っていて今まで苦しいくらいに体を拘束していた手がゆるむ。
――――今だっ!
体全体に力をい
「ぐぇっ」
悲鳴を上げたのは俺の方だった。
どうやら、俺の考えは見通していたようで、俺が実行に移す前に、先に力を込めてきたと。
力を入れようとすれば、その前に脱力しなきゃ行けない。反動で力を込めるわけだからな。
その隙を狙われたっつー事だ。
…………負けた? ひょっとして俺負けた?
ちらりとオヤジの顔を盗み見ると、目を閉じてはいるが、何か顔がすこし笑ったように見える。
俺の幻覚かもしれないが、うっすらと勝利の笑みを浮かべているような気がする。
っていうか実際「勝った」とか思ってるだろコイツ。
……ココで
『王子様を起こすのはお姫様のキスだよな~』とか呟いて唇にキスでもしてやりゃぁ一発で起きるかもしれない。
が、それはイヤだ。
っていうかオヤジがつきまとうのがイヤで、今さんざん暴れているんだろうが。
手段のために目的をないがしろにしてどうするんだ。
地球を征服しに来たとかほざいて、その地球をさんざん傷つける三文SF小説の悪役じゃあるまいし。
そもそもソレでコイツが完全に起きるっちゅー保証はない。むしろ悪のりするか癖になりそうだ。
ならば……
①とにかく起こす。
②諦める
…………理想は①
けどゼッタイ無理だなっ(爽やかに)
なんかコイツの性欲が絶えない限り無理だなっ♪
……………………しくしくしくしくしくしくしく……
……もイイから諦めて寝よ。
何かオヤジとの無言のうちに始まった勝負に完敗したような気がするが、コレくらいで打ちひしがれていちゃコイツとはつきあってられない。
……つきあってられない?
…………「一緒に行動できない」という意味だ。うん。決して他意はない。
俺は諦めて今度こそ体の力を抜いた。
すぐにオヤジも拘束していた腕を弛める。
が、すぐに後頭部に手が回って、胸に顔が押し付けられた。
んー……
どうも……形が合わないな…………
何度か頭の位置をずらして、少しは楽な場所を探す。
まぁこのくらいか……
耳を澄ませば相手の鼓動が聞こえる位置。
ソレが………気になって眠れねぇえええ……ッ
だったらもうちょっと上かっ!?
ダメだっ!吐息が耳にかかる!
背を向けようとしても、行動に移そうとしたとたん、やっぱり体に巻き付いている腕がしめられる。
…………こりゃ今夜は眠れないな♪(←ヤケ)
……………………朝。
ひょっとして俺ぐっすり寝てましたか。
記憶ではオヤジの首に顔埋めて、こっちも背中に手を回したような気がするんですけど気のせいですか。
っていうか、すでに朝の10:00なんですけどこの時計合ってますか。
ついでに言うなら、目を開けたら、オヤジがこっちの顔をのぞき込んで俺の髪を手で梳かしながら微笑んでいたんですけど幻じゃぁないんですね!?
いやソレよりも…………
「何で起こしてくれなかったんだよおぉおぉぉぉぉっっっ」
「…………そんな獅子座流星群を見逃した子供のようなセリフを……
……『何度も起こしたけど起きなかったんじゃない』」
ご丁寧にお約束のセリフを返してくれる。オヤジは俺の額に手を当てて、前髪をくすぐりながら
「一応総帥室の見張り役とかには連絡しておいたから、もうちょっと寝てなさい。
ココでは君がルールなんだ。誰も文句言わないよ」
「……アンタが現役だった頃の仕事ッぷりがよお分かるのぉ……」
「ほほぅ……私はシンちゃんのために言ってあげたんだけどねぇええッ!!?
そんな事言うなら私が一日代理を務めてあげようかぁ!?」
「いやあああああああああああっっっそれだけはお願いしますやめてくださいぃぃッ!!!!」
布団を吹っ飛ばしオヤジにしがみつく。
「……何もそんなに全力で止めなくてもイイじゃないか。パパ拗ねちゃおっかなー。
いらだち紛れに全く関係ない国に眼魔砲2・30発打って来ちゃおっかなー」
「そーゆー拗ね方やめろよな。他人に迷惑だから。」
半分呆れながら言う。まったく……表情がころころ変わるなコイツ……
まぁ……連絡が行ってるってのならイイや。
俺は再び布団の中に入り、じっとオヤジの顔を見た。
「なんだい?」
「寝る。」
「……私は?」
「…………さっきのを本当に実行に移されちゃ迷惑だ。俺の目の届く範囲にいろ」
布団を顔までかぶる。
「……一緒に寝てもいいかい?」
「……………………………………好きにしな」
「んv」
すぐにオヤジが布団に入ってきて、俺の体を抱きしめてきた。
……冬だしな。寒いからな。
湯たんぽ代わりだ。
他意はないぞ。
うん。
だから別に俺がオヤジの背中に手を回しても、何の問題もない。
後書き
遅くなってすみませんでしたv
………………本当にごめんなさい全く持って申し訳ないです。
どの辺が「マジックぱぱほんのりむくわれぎみ」なのかと言いましたら、
さんざんシンちゃんにつきまとって、腹に一発拳を食らわされたり露骨に嫌がられたりしても、
結局最後はシンちゃんをギュッとして一緒に寝られるってあたりです。
素敵な物をありがとうございますーっv
これは立派に報われていますですよ!!
最低限のリスクしかはらわずにシンちゃんと一緒に寝られるマジック総帥ッ!!
押し掛けリクエスト聞いていただき幸せ者ですv(実はニアピン者。)
少しだけいじらせて頂きました。
この素材、若奥様工房というピンクの素材のみ扱っているサイト様から頂いてきた物で。
コンセプトが間違った新婚家庭のようにピンクの嵐。
この小説を読んだ際に使わねばっと思いました。(間違った新婚家庭て……)
タイトルのVIRTUAL INSANITYは、えーと言葉の意味あんまり良くないのですがヴァーチャルはまんま仮想とかで、インサニティが精神異常とか狂気の沙汰とか非常識。
……………夢オチ妊娠とのことで男が妊娠だしとか……ない頭絞りまして。
意訳意訳でお願いいたします~。もう少し柔らかい意味だと良かったんですが。
最初思いついたタイトルがたまごくらぶひよこくらぶ♪やこんにちは赤ちゃん♪とかだったのでそれはどうだろうかと……。(でもたまひよとどちらにするかずっと悩みました)
それではでは新奴里妃様、本当にありがとうございましたーv
「シンタロー、すまないコレを………」
「あ"」
大事な取引の最中、軽いノックと共に開けられたドアから覗いた人物が固まる。
取引最中だった総帥も固まる。
「アラ……ここまで見たいね?」
固まった空気の中、動いたのは一人の女性のみ。
寄せていた腕を放し、デスクの上から封筒を取り上げその赤い唇をにっこりと上げる。
「じゃあ今度また機会があったら」
そう言って、軽い足取りで総帥室を去っていった。
残されたのは口元に赤い跡を残した総帥と、書類を届けようとした男。
「…………………今のは、何の取引だったのかな?」
「投資金について、かな……………?」
今日はもう仕事になりそうもない。
そう思ったシンタローは大きく溜息を付いた。
紫陽花話。
「何も職務中に……色仕掛けで取り引きしなくたって商談ぐらいまとめられるだろーに、いつからシンちゃんはそんなトップになっちゃったのかなぁ」
「…………………脅しかけるよりマシだと思うけどな」
「へーぇ?」
「ああもう悪かったって言ってるだろッ!ンナ目で見るなっ!!」
怒るなら怒るでもっとはっきりしてくれればいいのに。
先程からぶつぶつと恨み言を繰り返してはいじいじと部屋の隅に小さく(それでも十分でかいんだけど)まとまっている父親を見ながらシンタローはつくづくそう思った。
正直鬱陶しいだけだ。
こちらの言い分は全く聞いてくれないのだから手に終えない。
言い寄ってきたのはあっちで、まさかあそこで断ってはまとまる物もまとまらないだろう。
確かに美人で、随分と手慣れたようであったし。
さらに言うならシンタローは決して動いてはいない。
ただ抵抗はしなかっただけだ。
それなのに延々と浮気だの何だのと繰り返すガンマ団元総帥。
この男だってそれぐらい繰り返してきたろーに。
第一取引最中にいきなり来るこの男も悪い。
そりゃ肝心な書類だったけど。
マジックも面識のある(と言うかむしろマジックが)女性だったし。
大体こちとら健全な二十台の男子。
親とそう言う風になっている方が非常識だろう。
「……………はぁ」
うんざりという風に息を吐き出したシンタローは、怒るのもバカらしいと持ち出してきたノートパソコンに電源を入れた。
自室に仕事を持ち込むことは割とある。
と言うか多い。
最低限必要なものは全て揃っているので本棚からファイルを取りだして、開きながら立ち上がった画面にパスワードを入力。
本格的に仕事の体制に入ったシンタローにマジックは、切れた。(誰が見ても逆切れという部類であろう)
「全然悪いと思ってないじゃないかッ!!」
「ソノトオリデス」
声だけは返って来たが、視線はパソコン画面を見つめたまま。
その声すら投げやりな感じがする。
「…………シンちゃんの馬鹿ッ!!!」
(…………グンマとこいつってやっぱ親子だなぁ口調そっくりじゃん)
かたかたと少しばかりぎこちない音は途切れることなく部屋に響く。
全く相手にされていない。
あんなに私の後ばかり付いてきていた天使は一体どこにっああもうでも仕事する横顔も可愛いと思ってしまう自分が切ないというか愛しいというかムリヤリ勢いに任せて押し倒してしまおうかでもそうすると後のことがえらく大変になるし最近変な知恵が付いてきてぼろ泣きするんだこの子はそれが征服欲そそるときもあるんだけどもう流石に良心が痛むというかそんな泣き方してしまうモノだから後味悪すぎるし決まってその後の皆の視線が痛い痛すぎるグンちゃんやキンちゃんにすらあんな目をされると流石の私でも辟易するって言うかだからこの際はッ!!
「私も浮気してやる―――――――ッ」
「お――頑張ってこい」
事もなさげに返された声を背に、マジックはシンタローの部屋を飛び出していった。
被害者その1
「と、言うわけで浮気をしようハーレムッ!!」
プッヒュームッ。
飲んでいたお茶が目の前にいた高松に掛かろうとハーレムに罪はない。
珍しく和やかにお茶の時間を過ごしていた二人であるが、そんな奇異な時間は闖入者によって潰された。
「きったないですねハーレムッ!!」
「あんなこと言われて普通でいるなお前はっ!!」
「私に関係ないですし」
「ほーぉ?」
ガラス張りの温室。
生長している植物もさわやかに光が注ぐうららかな午後。
一転して険悪ムードが広がっていく。
「良しじゃあ行くぞハーレム」
「うわこら離せいったい何なんだよッ!」
そんなハーレムと高松のやり取りもまったく気にしていない、ドアをぶっ壊して入ってきたマジックはハーレムの腕を取り立たせようとする。
慌てたハーレムの言葉にマジックは眉を顰めた。
「お兄ちゃんにそんな言葉遣いしない!全くいくつになってもハーレムは……」
「それいうなら弟に浮気求めるんじゃねーよッ!!冗談じゃねぇ!!!」
「息子に手を出している人にそんなこと言うのも無意味な気がしますが」
「ん?高松でもいいよ私は」
「丁重にお断り申し上げます」
にこやかに会話が交わされる。
他の人が聞いたらとんでもない内容だったりするが。
「嫌かいハーレム?」
「あんた了承すると思ってたんかい」少しばかりむっとした顔で腕を離したマジックに、ハーレムは脱力する。
どこの世界に実の兄から浮気をしようと誘われてそうですねと手を取る弟がいるというのか。
「ルーザーあたりならオーケーしてくれそうだけど」
「人の思考を読むなって言うかその名前出すな!」
「………ルーザー様とマジック元総帥ってまさか」
「ん――?いやそんなこと無いけどね。あっはっは実の兄弟でそんな非生産的な!」
「あんたが言うかそれを今!!」
これこそ舌の根も乾かぬ内にと言うのであろう。
非生産的ってそれならあんたが息子にしてることは何なんだよとか言っても軽く返されるかあの鋭い目で睨まれるかのどちらかだ。
妙に疲れたハーレムはぐったりとテーブルに伏す。
「どうしんたんだいハーレム?」
「何でもない………」
どこまでもマイペースなゴーイングマイウエイな男に勝てるのはその息子達ぐらいなものだろう。
と、そこで高松は気が付いたように声をかけた。
「……………でも何でいきなり総帥そんなこと言いだしたんです?日頃いつもウザいぐらいにシンタロー様への愛を公言してはばからなくて見てるこっちとしてもいい加減にしろよテメェと言いたくなるくらいの貴方がまさかハーレムに浮気を申し込むだなんて」
「高松もしかして辛いことでもあったのかい?ルーザーに会いたいというのなら手伝ってあげるよ?」
「物騒なことさらりといってんなよ………つーか大方シンタローと喧嘩でもしたんだろ?聞くまでもねーじゃん」
ハーレムの言葉にマジックの顔がへにゃりと歪む。
本当にコレがあの世界最強の殺し屋軍団と恐れられていたガンマ団元総帥ですか。
「…………絶対浮気するって決めたんだ」
「……………そうかよ。まぁせいぜい頑張れや」
なんだか強い決意をした目をしているが、その決意内容が何とも情けない。
右から左にマジックの話しを聞き流しつつ、ハーレムは注ぎ直したお茶に口を付けた。
「じゃあお邪魔したね、あ、ハーレムここのドア直しといて。シンちゃんにばれると怒られそうだし」
己の壊したドアを指さし、マジックは来たときと同じように足早に去っていった。
粉砕されたカップの残骸を、高松は見なかったことにした。
被害者その2
「チョコレートロマンス私と一緒に寝ないかい?」
ばさささささー。
持っていた多量のファイルを廊下にぶちまけようと彼に罪はない。
いつも通りの職務。
特に大きな支障もなくスケジュール通り進んでいたときに現れた。
本部ガンマ団の通路の真ん中。
勿論行き交う人がいないわけはなく、固まってしまったチョコレートロマンスは団員の視線に晒される。
ひゅうっとどこからか風が入り込み、書類の一枚を攫った。
「おっと……、駄目だよ書類なくしちゃあ。揃ってなくて叱咤を受けたいのかい?」
飛ばされるところをマジックが掴み、書類をチョコレートロマンスに差し出した。
元々マジック付きの秘書であり、仕事にミスがあると勿論怒鳴られたものだ。
至極もっともな台詞と差し出された書類にチョコレートロマンスはようやく我に返った。
「はっ、はい、ありがとうございますッ」
ああさっきの台詞は聞き間違いだったのだろうか。
そういえば寝不足でもあるし、疲れていたのかなぁと思いつつチョコレートロマンスはお礼を述べ、書類を受け取った。
散らばった書類を拾い集めようとして、また固まった。
「―――――――で?どう?今夜あたり暇かな、別に今からでもいいんだけど」
寝るってやっぱり一緒にお昼寝とかじゃないですよねお父さんが子どもと一緒に寝るの寝るじゃなくってやっぱりそっちの意味なのでしょうか何で私?私何か怒らせるようなことしましたかただ挨拶しただけですよねと言うか何故本部に貴方がいやいるのおかしくなんかないのですけど先程シンタロー様と自室に向かうのを見ましたってか私これから書類を届けにシンタロー様のところ行くんですけど。
くらっとしながらチョコレートロマンスは意識を飛ばすのをかろうじて堪えた。
気を失った方がどんなに楽か分からないが、目が覚めたときが怖い。
起きたらそこは自分の部屋でなくてふと隣を見て裸のマジック元総帥がおはようvなんて言ってにっこり微笑んだりでもしたら多分自分は心臓が止まるであろう。
「しょ、職務中ですのでッ」
「あ、構わないよ」
「私が総帥にお叱りを受けますッ!!」
「じゃ今夜かな?」
ざ――――――――ッ。
季節外れの大雪ブリザードがチョコレートロマンスには見えた。
「わ、私には荷が重すぎますぅ――――――――――――ッ!!」
脱兎というのはまさしくこのことだろう。
目撃者は後で語る。
あっという間に姿の見えなくなったチョコレートロマンス。
一方残されたマジックと言えば。
「……駄目じゃないかチョコレートロマンス、書類放ったまま。ここが本部と言えども散らばすのは危険だろう。ああ、しかもこれシンちゃんに届ける書類じゃないか?なってないな全く。私の教育がなってなかったと思われるじゃないか、後できつく言わないと……」
何で貴方そんなに普通なんですか。
廊下で始終を見ていた団員たちは内心でツッコミを入れる。
被害者その3
「あ、ティラミスいいところに」
「元総帥、どうしたんですか?」
「うん、チョコレートロマンスが書類を置いて何処か行っちゃったんだよ。これシンタローに届けてもらえるかな」
「ええ?あいつ一体何やってるんだ………わかりました、責任を持ってお届けいたします」
マジックが廊下に散っている書類を拾うかと思ったときに、チョコレートロマンスの去った方向と反対からもう一人の総帥付きの秘書、ティラミスがやってきた。
足下に散らばった書類を見つけるとマジックと共に屈んで拾い集める。
揃っているかチェックをしてマジックから書類を受け取った。
相方が犯した失態に疑問を抱きつつ、彼はその理由をすぐ身をもって知ることになる。
「で、ティラミス一つ頼みがあるんだが」
「なんでしょうか?」
「私と浮気をしよう」
ばっさ――――――。
拾い集めたばかりの書類は、またもや廊下に散らばった。
「シンタロー様………」
「なんだ?」
「あの」
『マジック「元総帥」をどうにかして「下さい」』だろ?」
力無く部屋をノックする音。
開いている意を教えれば、ティラミスが相方よりはしっかりした様子で入ってきた。
手にはチョコレートロマンスに頼んだファイル。
「あー、もうさっきから苦情来てるんだよね。チョコレートロマンスにも聞いたし」
その言葉に部屋を見渡せば確かにへたれたチョコレートロマンスがシンタローの仕事をしている机横にうずくまっている。
シンタローの台詞からするとティラミスがここに着くまでに手当たりしだい声をかけているようだ。
笑いが混じった声。
視線はパソコンに注がれたままである。
少し不慣れなようにキーボードを叩くシンタローにチョコレートロマンスが復活を見せた。
「………分かっているのでしたら行かれたほうが…。総帥が本気だというのは分かりましたけど」
「シンタロー様のぬいぐるみを手に抱いていては信憑性は薄いかと」
「アホだな本当に」
ククッと肩を震わせながらやはりシンタローは意に介さない。
それどころかこの事態を本気で楽しんでいるようだ。
「―――――シンタロー様、ほんとによろしいので……?」
そんなシンタローにチョコレートロマンスがおずおずと声をかける。
心配そうなその声にシンタローはまた一つ笑って、ようやく画面から目を離した。
「いいんだよ別に」
「でも………」
「『浮気してやる』って宣言してる辺りで負けなんだから」
「???」
疑問を飛ばす二人にシンタローは、出来上がったばかりのデータをロムに保存しながらまとめ終わった資料をチョコレートロマンスに手渡す。
「片づけといてくれ、今度は置いてくなよ?」
「―――――……はい」
「そんな顔するなよ~、悪いのはお前じゃないってのは分かってるから」
先程のことを少し揶揄するとめそりと泣き顔になったチョコレートロマンスにシンタローは苦笑する。
保存し終わったロムを取りだし、パソコンの電源を切ったシンタローは立ち上がりドアへと足を向けた。
そのシンタローの後を慌てて二人は追う。
「浮気ねぇ………」
ドアを後ろ手に閉めながらポツリと零すシンタロー。
呟きを耳にした二人はシンタローにと視線を注ぐ。
「結局俺のところに戻ってくるってことだろ?別に悔しくないんだよね」
ましてや嫉妬させようと思ってのことだし。
満面の笑みで言い放ったシンタローに、二人は拍手を送った。
「―――――――ま、ガンマ団内治安維持のためにもそろそろ釘を刺しに行くか」
やっぱりこの人最恐だと思いつつ、ガンマ団の行く末が安泰なのだか暗雲立ちこめているのか考えてしまった二人だった。
「浮気しても良いけどちゃんと俺んとこ戻って来いよ?」
「――――――――――シンちゃ――――んッ!!」
この台詞に驚喜乱舞し調子に乗ってしまったマジック元総帥が怒髪天を突いたシンタロー総帥にガンマ砲でぶっ飛ばされるのは数分後のことである。
--------------------------------------------------------------------------------
新奴里妃様に捧げる524リク小説でしたッ。お題に沿っているんでしょうか……微妙な線ですか?(汗) 私の書く物としては珍しくシンタローさんが余裕綽々。
自信たっぷりです。
お誕生日番なのでたまにはと思いました。(たまにかい)
タイトルの「紫陽花話」は、浮気→移ろい気?→移り気→紫陽花の花言葉と言う連想で。
適当じゃないのですよー、ない頭絞ってるんですよーコレでも。
割と文学作品では使われているそうなのでわかりやすいか…な?
没にしたもう一バージョンがあります。
普通にアップ予定。(待て)
途中まで全く一緒ですが話しの流れが苦しく、人様には捧げられないと思ったソレでも愛しい子なのですッ!
それではでは、新奴里妃様524ヒットありがとうございました♪
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「あ"」
大事な取引の最中、軽いノックと共に開けられたドアから覗いた人物が固まる。
取引最中だった総帥も固まる。
「アラ……ここまで見たいね?」
固まった空気の中、動いたのは一人の女性のみ。
寄せていた腕を放し、デスクの上から封筒を取り上げその赤い唇をにっこりと上げる。
「じゃあ今度また機会があったら」
そう言って、軽い足取りで総帥室を去っていった。
残されたのは口元に赤い跡を残した総帥と、書類を届けようとした男。
「…………………今のは、何の取引だったのかな?」
「投資金について、かな……………?」
今日はもう仕事になりそうもない。
そう思ったシンタローは大きく溜息を付いた。
紫陽花話。
「何も職務中に……色仕掛けで取り引きしなくたって商談ぐらいまとめられるだろーに、いつからシンちゃんはそんなトップになっちゃったのかなぁ」
「…………………脅しかけるよりマシだと思うけどな」
「へーぇ?」
「ああもう悪かったって言ってるだろッ!ンナ目で見るなっ!!」
怒るなら怒るでもっとはっきりしてくれればいいのに。
先程からぶつぶつと恨み言を繰り返してはいじいじと部屋の隅に小さく(それでも十分でかいんだけど)まとまっている父親を見ながらシンタローはつくづくそう思った。
正直鬱陶しいだけだ。
こちらの言い分は全く聞いてくれないのだから手に終えない。
言い寄ってきたのはあっちで、まさかあそこで断ってはまとまる物もまとまらないだろう。
確かに美人で、随分と手慣れたようであったし。
さらに言うならシンタローは決して動いてはいない。
ただ抵抗はしなかっただけだ。
それなのに延々と浮気だの何だのと繰り返すガンマ団元総帥。
この男だってそれぐらい繰り返してきたろーに。
第一取引最中にいきなり来るこの男も悪い。
そりゃ肝心な書類だったけど。
マジックも面識のある(と言うかむしろマジックが)女性だったし。
大体こちとら健全な二十台の男子。
親とそう言う風になっている方が非常識だろう。
「……………はぁ」
うんざりという風に息を吐き出したシンタローは、怒るのもバカらしいと持ち出してきたノートパソコンに電源を入れた。
自室に仕事を持ち込むことは割とある。
と言うか多い。
最低限必要なものは全て揃っているので本棚からファイルを取りだして、開きながら立ち上がった画面にパスワードを入力。
本格的に仕事の体制に入ったシンタローにマジックは、切れた。(誰が見ても逆切れという部類であろう)
「全然悪いと思ってないじゃないかッ!!」
「ソノトオリデス」
声だけは返って来たが、視線はパソコン画面を見つめたまま。
その声すら投げやりな感じがする。
「…………シンちゃんの馬鹿ッ!!!」
(…………グンマとこいつってやっぱ親子だなぁ口調そっくりじゃん)
かたかたと少しばかりぎこちない音は途切れることなく部屋に響く。
全く相手にされていない。
あんなに私の後ばかり付いてきていた天使は一体どこにっああもうでも仕事する横顔も可愛いと思ってしまう自分が切ないというか愛しいというかムリヤリ勢いに任せて押し倒してしまおうかでもそうすると後のことがえらく大変になるし最近変な知恵が付いてきてぼろ泣きするんだこの子はそれが征服欲そそるときもあるんだけどもう流石に良心が痛むというかそんな泣き方してしまうモノだから後味悪すぎるし決まってその後の皆の視線が痛い痛すぎるグンちゃんやキンちゃんにすらあんな目をされると流石の私でも辟易するって言うかだからこの際はッ!!
「私も浮気してやる―――――――ッ」
「お――頑張ってこい」
事もなさげに返された声を背に、マジックはシンタローの部屋を飛び出していった。
被害者その1
「と、言うわけで浮気をしようハーレムッ!!」
プッヒュームッ。
飲んでいたお茶が目の前にいた高松に掛かろうとハーレムに罪はない。
珍しく和やかにお茶の時間を過ごしていた二人であるが、そんな奇異な時間は闖入者によって潰された。
「きったないですねハーレムッ!!」
「あんなこと言われて普通でいるなお前はっ!!」
「私に関係ないですし」
「ほーぉ?」
ガラス張りの温室。
生長している植物もさわやかに光が注ぐうららかな午後。
一転して険悪ムードが広がっていく。
「良しじゃあ行くぞハーレム」
「うわこら離せいったい何なんだよッ!」
そんなハーレムと高松のやり取りもまったく気にしていない、ドアをぶっ壊して入ってきたマジックはハーレムの腕を取り立たせようとする。
慌てたハーレムの言葉にマジックは眉を顰めた。
「お兄ちゃんにそんな言葉遣いしない!全くいくつになってもハーレムは……」
「それいうなら弟に浮気求めるんじゃねーよッ!!冗談じゃねぇ!!!」
「息子に手を出している人にそんなこと言うのも無意味な気がしますが」
「ん?高松でもいいよ私は」
「丁重にお断り申し上げます」
にこやかに会話が交わされる。
他の人が聞いたらとんでもない内容だったりするが。
「嫌かいハーレム?」
「あんた了承すると思ってたんかい」少しばかりむっとした顔で腕を離したマジックに、ハーレムは脱力する。
どこの世界に実の兄から浮気をしようと誘われてそうですねと手を取る弟がいるというのか。
「ルーザーあたりならオーケーしてくれそうだけど」
「人の思考を読むなって言うかその名前出すな!」
「………ルーザー様とマジック元総帥ってまさか」
「ん――?いやそんなこと無いけどね。あっはっは実の兄弟でそんな非生産的な!」
「あんたが言うかそれを今!!」
これこそ舌の根も乾かぬ内にと言うのであろう。
非生産的ってそれならあんたが息子にしてることは何なんだよとか言っても軽く返されるかあの鋭い目で睨まれるかのどちらかだ。
妙に疲れたハーレムはぐったりとテーブルに伏す。
「どうしんたんだいハーレム?」
「何でもない………」
どこまでもマイペースなゴーイングマイウエイな男に勝てるのはその息子達ぐらいなものだろう。
と、そこで高松は気が付いたように声をかけた。
「……………でも何でいきなり総帥そんなこと言いだしたんです?日頃いつもウザいぐらいにシンタロー様への愛を公言してはばからなくて見てるこっちとしてもいい加減にしろよテメェと言いたくなるくらいの貴方がまさかハーレムに浮気を申し込むだなんて」
「高松もしかして辛いことでもあったのかい?ルーザーに会いたいというのなら手伝ってあげるよ?」
「物騒なことさらりといってんなよ………つーか大方シンタローと喧嘩でもしたんだろ?聞くまでもねーじゃん」
ハーレムの言葉にマジックの顔がへにゃりと歪む。
本当にコレがあの世界最強の殺し屋軍団と恐れられていたガンマ団元総帥ですか。
「…………絶対浮気するって決めたんだ」
「……………そうかよ。まぁせいぜい頑張れや」
なんだか強い決意をした目をしているが、その決意内容が何とも情けない。
右から左にマジックの話しを聞き流しつつ、ハーレムは注ぎ直したお茶に口を付けた。
「じゃあお邪魔したね、あ、ハーレムここのドア直しといて。シンちゃんにばれると怒られそうだし」
己の壊したドアを指さし、マジックは来たときと同じように足早に去っていった。
粉砕されたカップの残骸を、高松は見なかったことにした。
被害者その2
「チョコレートロマンス私と一緒に寝ないかい?」
ばさささささー。
持っていた多量のファイルを廊下にぶちまけようと彼に罪はない。
いつも通りの職務。
特に大きな支障もなくスケジュール通り進んでいたときに現れた。
本部ガンマ団の通路の真ん中。
勿論行き交う人がいないわけはなく、固まってしまったチョコレートロマンスは団員の視線に晒される。
ひゅうっとどこからか風が入り込み、書類の一枚を攫った。
「おっと……、駄目だよ書類なくしちゃあ。揃ってなくて叱咤を受けたいのかい?」
飛ばされるところをマジックが掴み、書類をチョコレートロマンスに差し出した。
元々マジック付きの秘書であり、仕事にミスがあると勿論怒鳴られたものだ。
至極もっともな台詞と差し出された書類にチョコレートロマンスはようやく我に返った。
「はっ、はい、ありがとうございますッ」
ああさっきの台詞は聞き間違いだったのだろうか。
そういえば寝不足でもあるし、疲れていたのかなぁと思いつつチョコレートロマンスはお礼を述べ、書類を受け取った。
散らばった書類を拾い集めようとして、また固まった。
「―――――――で?どう?今夜あたり暇かな、別に今からでもいいんだけど」
寝るってやっぱり一緒にお昼寝とかじゃないですよねお父さんが子どもと一緒に寝るの寝るじゃなくってやっぱりそっちの意味なのでしょうか何で私?私何か怒らせるようなことしましたかただ挨拶しただけですよねと言うか何故本部に貴方がいやいるのおかしくなんかないのですけど先程シンタロー様と自室に向かうのを見ましたってか私これから書類を届けにシンタロー様のところ行くんですけど。
くらっとしながらチョコレートロマンスは意識を飛ばすのをかろうじて堪えた。
気を失った方がどんなに楽か分からないが、目が覚めたときが怖い。
起きたらそこは自分の部屋でなくてふと隣を見て裸のマジック元総帥がおはようvなんて言ってにっこり微笑んだりでもしたら多分自分は心臓が止まるであろう。
「しょ、職務中ですのでッ」
「あ、構わないよ」
「私が総帥にお叱りを受けますッ!!」
「じゃ今夜かな?」
ざ――――――――ッ。
季節外れの大雪ブリザードがチョコレートロマンスには見えた。
「わ、私には荷が重すぎますぅ――――――――――――ッ!!」
脱兎というのはまさしくこのことだろう。
目撃者は後で語る。
あっという間に姿の見えなくなったチョコレートロマンス。
一方残されたマジックと言えば。
「……駄目じゃないかチョコレートロマンス、書類放ったまま。ここが本部と言えども散らばすのは危険だろう。ああ、しかもこれシンちゃんに届ける書類じゃないか?なってないな全く。私の教育がなってなかったと思われるじゃないか、後できつく言わないと……」
何で貴方そんなに普通なんですか。
廊下で始終を見ていた団員たちは内心でツッコミを入れる。
被害者その3
「あ、ティラミスいいところに」
「元総帥、どうしたんですか?」
「うん、チョコレートロマンスが書類を置いて何処か行っちゃったんだよ。これシンタローに届けてもらえるかな」
「ええ?あいつ一体何やってるんだ………わかりました、責任を持ってお届けいたします」
マジックが廊下に散っている書類を拾うかと思ったときに、チョコレートロマンスの去った方向と反対からもう一人の総帥付きの秘書、ティラミスがやってきた。
足下に散らばった書類を見つけるとマジックと共に屈んで拾い集める。
揃っているかチェックをしてマジックから書類を受け取った。
相方が犯した失態に疑問を抱きつつ、彼はその理由をすぐ身をもって知ることになる。
「で、ティラミス一つ頼みがあるんだが」
「なんでしょうか?」
「私と浮気をしよう」
ばっさ――――――。
拾い集めたばかりの書類は、またもや廊下に散らばった。
「シンタロー様………」
「なんだ?」
「あの」
『マジック「元総帥」をどうにかして「下さい」』だろ?」
力無く部屋をノックする音。
開いている意を教えれば、ティラミスが相方よりはしっかりした様子で入ってきた。
手にはチョコレートロマンスに頼んだファイル。
「あー、もうさっきから苦情来てるんだよね。チョコレートロマンスにも聞いたし」
その言葉に部屋を見渡せば確かにへたれたチョコレートロマンスがシンタローの仕事をしている机横にうずくまっている。
シンタローの台詞からするとティラミスがここに着くまでに手当たりしだい声をかけているようだ。
笑いが混じった声。
視線はパソコンに注がれたままである。
少し不慣れなようにキーボードを叩くシンタローにチョコレートロマンスが復活を見せた。
「………分かっているのでしたら行かれたほうが…。総帥が本気だというのは分かりましたけど」
「シンタロー様のぬいぐるみを手に抱いていては信憑性は薄いかと」
「アホだな本当に」
ククッと肩を震わせながらやはりシンタローは意に介さない。
それどころかこの事態を本気で楽しんでいるようだ。
「―――――シンタロー様、ほんとによろしいので……?」
そんなシンタローにチョコレートロマンスがおずおずと声をかける。
心配そうなその声にシンタローはまた一つ笑って、ようやく画面から目を離した。
「いいんだよ別に」
「でも………」
「『浮気してやる』って宣言してる辺りで負けなんだから」
「???」
疑問を飛ばす二人にシンタローは、出来上がったばかりのデータをロムに保存しながらまとめ終わった資料をチョコレートロマンスに手渡す。
「片づけといてくれ、今度は置いてくなよ?」
「―――――……はい」
「そんな顔するなよ~、悪いのはお前じゃないってのは分かってるから」
先程のことを少し揶揄するとめそりと泣き顔になったチョコレートロマンスにシンタローは苦笑する。
保存し終わったロムを取りだし、パソコンの電源を切ったシンタローは立ち上がりドアへと足を向けた。
そのシンタローの後を慌てて二人は追う。
「浮気ねぇ………」
ドアを後ろ手に閉めながらポツリと零すシンタロー。
呟きを耳にした二人はシンタローにと視線を注ぐ。
「結局俺のところに戻ってくるってことだろ?別に悔しくないんだよね」
ましてや嫉妬させようと思ってのことだし。
満面の笑みで言い放ったシンタローに、二人は拍手を送った。
「―――――――ま、ガンマ団内治安維持のためにもそろそろ釘を刺しに行くか」
やっぱりこの人最恐だと思いつつ、ガンマ団の行く末が安泰なのだか暗雲立ちこめているのか考えてしまった二人だった。
「浮気しても良いけどちゃんと俺んとこ戻って来いよ?」
「――――――――――シンちゃ――――んッ!!」
この台詞に驚喜乱舞し調子に乗ってしまったマジック元総帥が怒髪天を突いたシンタロー総帥にガンマ砲でぶっ飛ばされるのは数分後のことである。
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新奴里妃様に捧げる524リク小説でしたッ。お題に沿っているんでしょうか……微妙な線ですか?(汗) 私の書く物としては珍しくシンタローさんが余裕綽々。
自信たっぷりです。
お誕生日番なのでたまにはと思いました。(たまにかい)
タイトルの「紫陽花話」は、浮気→移ろい気?→移り気→紫陽花の花言葉と言う連想で。
適当じゃないのですよー、ない頭絞ってるんですよーコレでも。
割と文学作品では使われているそうなのでわかりやすいか…な?
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生まれてきてくれて、ありがとう
「生まれてきてくれて、ありがとう」
不意に真面目にそんなことを言う。
折角丁寧に煎れていた紅茶は俺の手元でダバダバと零れ。
振り返った先のあんたはそれでも穏やかに笑っている。
なんで俺の誕生日なのに俺がお茶を用意しているのだろうかとか。
折角焼きたてのパンケーキは紅茶が染みてぐっしょりだとか。
どうでも良いと思うくらい、あんたは満ち足りた顔で笑ってる。
「……なんで、いきなりそう言うこと言うかね」
「だってシンちゃんとお誕生日過ごせないって思ってたし、色々あったしねぇ……。奇跡なんて信じないけど今私がシンちゃんと一緒にいるのってすごい確率だと思ったから言っておこうかと」
なんとか言葉を口にすれば、そんな俺の心境など知らぬと言わぬばかりにさらりと更なる言葉を紡いだ。
確かに遠征先での揉め事が一気に片が付いて。
グンマと高松の恐ろしい帰れコールに急いで帰ってきて。
一族幹部入り交じっての誕生会は凄かった。
シャンパンシャワーを死ぬほど浴びせられた俺とアイツは風呂行きを余儀なくされ。
あがってくれば全員潰れている始末。
主役なのに今日の片づけをしてようやく一息ついたのがこの時刻だ。
誕生日の終わる30分前。
カモミールのミルクティーでなぜかこの男と二人きり。
アイツは高松に連れられていったが大丈夫なのだろうか。
そんな取り留めのないことをぼんやりと考えていれば、ポットから出るお茶は全て無くなっていた。
その様に、声を上げて笑う男。
「なにシンちゃん、そんなに私にドキドキした?やー嬉しいなぁ、やっぱりシンちゃんは私のことがだいす「……ちっげーよ!!」
ちゅどんと。
右手から飛ばす眼魔砲。
壁がガレキと化して男は埋まった。
ああそれでもあんたは笑っているんだろう。
次の瞬間には酷いだのなんだのいつものペースで起きあがって。
だから聞こえないうちに言ってやろう。
「生まれてきたのがあんたのところで、ほんと」
-------------------------------------------------------------
シンちゃん誕生日おめでとう!
と、いうことでハピバ作品をお題で消化してみようと思います。
全部かけるか分かりませんが。
途中で原稿にはいるかも知れませんが。
キンちゃんもちゃんと祝うぞ~。
出来ればグンちゃんも。(すまんかったグンちゃん…!)
今回はマジシンでした。
パプワ島でのことを考えると生まれてきてくれてありがとうってかなり重いよなぁとか思ったので。
06/05/24
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広告 ある事がきっかけで!私は変わりました♪ 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog
私室備え付けの小さな台所に響く軽快な包丁の音。一度切る度に込める溢れんばかりの愛情…愛しい息子の為だけに作る料理…こんな至福な一時は久しぶりな気がする。
切りたての野菜と牛肉を順に炒めてからゆっくりコトコトと煮て、数種のスパイスでじっくりと味付けをする。カレーはルーから作ると簡単だけど、たっぱり本格的にスパイスから作り始めた方が格段に味が違うからね。でもシンちゃん甘口だから林檎とハチミツも混ぜておかないとね。
そうそう、シンちゃんはカレーハンバーグとかよりもカレーライスを好むんだよね。ふふ…子供だなぁ…幼いあの子の姿を思い浮かべて至福の一時に浸っている真に出来上がったカレーを味見する。
うん、良い出来だ。
満足出来る味わいに何度も頷いて火を止めて白いレースの掛かったテーブルの中央に置いた鍋敷きに乗せる。レースのテーブルクロスも鍋敷きも当然私の手作りだ、シンちゃん喜んでくれるかなー。
「…何、好き勝手してんだよ、親父」
「シンちゃーん!お帰り、疲れただろう?まあ、座りなさい」
ナイスタイミングで聞こえた愛息子に満面の笑みで出迎える。真っ赤な総帥服に綺麗な黒髪を垂らせて、開かれた扉に肩肘をついて私を見る眼差し…ああ、我が息子ながら可愛いなぁ。胸がキュンキュンして、パパ病気になりそうだよ!
…あれ?機嫌が悪そうだけど、お仕事が大変だったのかな?シンタローは頑張りすぎるから心配だよ…
「いや、だから何で俺の留守中に勝手に俺の部屋に入って料理作ってンだって聞いてるんだよ。つか、鼻血…」
「何でって、お仕事で疲れてるシンちゃんのためにパパがカレーを作ってあげていたに決まっているじゃないか」
ポケットから出したハンカチで指摘された血を拭い、再びソレをしまいながら至極真面目に本当の事を答えたのに…その拳に集まる青白い光は何かなー?
それが眼魔砲だと認知する前に息子の空いている手を取り部屋へと引き寄せると扉を閉める。その反動で凝縮されかけた氣が散った事を確認してホッと一息。ま、あれ位は楽勝で止められるだろうケド。
「まあ、そこで座っていなさい。今、パパが用意してあげるからね」
有無を言わせずに用意をし始めると開きかけた口を渋々と閉じたようで、不機嫌な表情はそのままに椅子に腰を掛けて準備を終えるのを待つシンタロー…ふふ、私の勝ちだね。
追い出される心配が無くなった事だしと、シンタローと私の二人分のカレーを皿に盛り、作ってあったサラダとミネラルウォータを用意して…準備完了。
「さ、食べなさいシンタロー。お前の事だ、きちんと食事もしていないのだろう?」
「………」
「シンタロー…?ああ、もしかしてパパが勝手に入った事まだ怒っているのかい?それは悪かったよ」
「…上辺だけで言われてもしょうがねーんだけど。全く親父は…まあ、カレーは美味そうだから食ってやるよ」
視線をカレーに落として隠したつもりの笑み、見逃してないよ?また拗ねられても困るから見えない振りしてあげるけどね?本当に照れ屋さんなんだから、シンちゃんは。
両手を合わせていただきますと食べ始める、黙々とスプーンを口に運んで食べるシンタロー…もしかして今の気分の味じゃなかったのかな…
「味はどう?」
「まあ、そこそこじゃねぇの?」
適当に返答を返しただけで、そっけない態度のまま食べ続ける。途切れる会話…シンタロー?
流石に深刻な雰囲気だ、しっかりと聞き出さないと…持ったスプーンを皿に置き、肘をテーブルについて目の前の息子を見る。その気配を不思議そうに顔を上げて私を見つめる瞳。少しの沈黙の後、ゆっくりと言葉を吐き出して…
「ねえ、シンちゃん。パパに隠さずに話すんだよ?部屋の事は半ば強引とはいえお前は認めたろう?カレーの味も悪くはない。だったら一体何をそんなに怒ってるんだい?」
「…そ…それは…」
バツが悪そうに瞳を逸らして黙り込むシンタローを促す事なく、言葉が出るまで見つめて待った。
そうすると暫くの間の後、俯いたまま声だけが返ってきた。
「…親父、これは俺の為に作ったんだろう?グンマにゃ作ってねぇのか?」
「シンちゃんは優しいな、大丈夫。グンちゃんやキンちゃんにはパパが別口でちゃーんと作ってあげたから」
胸を張って自慢げに返答する。でもシンタロー?お前が言いたいのはそれじゃなさそうだけど…?
「ふーん…無理に俺の側に居なくったって良いんだぜ?アイツの所にでも行けば?」
「アイツって…シンちゃんは誰の事を指しているんだ。私がシンタロー以外の何かを最優先する訳が無いだろう」
「…ジャン…」
何処か拗ねたような表情はまだ俯かせたままで。短く出された名前に驚いて息子を凝視する。どうしてそこでその名前が出てくるのかな…?
「親父が俺を大事にしてんのは俺がジャンと似てるからだろう?親父はアイツが好きみてーだし?ま、俺は子供じゃないんだ。反対したりはしねーケド」
「シンタロー、ちょっと待ってくれ。何処をどうしてそんな話に発展しているんだい?」
「アンタの誕生日の出来事があれば誰だってそう思うわい」
きっぱりと反論するシンタロー…ああ、あの日は許してくれたみたいだったけどまだ怒ってたんだね?いや、拗ねてると言った方が正しいか。あの日からお前が遠征や何だと会う時間が無かったから気付かなかったよ。
ゆっくりと立ち上がり息子の背後に回るとその身体を優しく腕の中につつんでやる。少し身を捩ったのみで反抗する様子が無いのを見て取ると口元に笑みを浮かべて耳元に顔を寄せて。
「大丈夫だよ、パパはお前が一番大好きなんだからね。あの時はジャンをお前と間違わんばかりの笑顔だったからつい、ね」
耳朶に音を立てて口付けると抱きしめる腕に力を込める。シンタローの顔は一気に真っ赤になって私を殴ろうと身を捩って解放されようとするのをそしらぬ顔で抱きしめ続ける。少し経つと諦めたのか暴れる身体は腕の中で大人しくなっていく…パパに勝つのはまだまだ先だね。
「眼魔砲!」
ぐふっ!
溜め無しに容赦なく打ち込まれた眼魔砲は腹部に見事にクリーンヒットしたらしく、抱きしめた腕は解け、私の身体は後ろの壁へとめり込んだ。
シンちゃん、躊躇う事も無く撃ったね?油断した…よろつく身体を何とか支えて立ち上がると、椅子に座ったまま身体を私に向けて屈託の無い笑みを向けている。ああ…シンちゃんのその笑顔をカメラに収めたい…っ!
「うっし、ストライク!」
両手を握ってそんな嬉しそうにしなくたって…うう…酷いよシンちゃん…心で滝のような涙を流していると先程までの笑顔を引っ込めて真顔に戻ってしまったみたいで…ガックシ。
「ど阿呆、何処の世界に息子に似てるからって押し倒す奴が居るんだよ」
「居るじゃないか、此処に」
「…も一回、眼魔砲で逝っとくか?」
「いや、遠慮しとくよ」
片手を上げてきっちりと断りを入れると舌打ちが聞こえた気がした…シンちゃんったら。
「シンちゃんはシンちゃんだよ。お前が誰に似ていようがパパの心はシンタローの物だから安心しなさい」
「…ったく、アンタは。まあ、その言葉で納得しといてやるよ」
柔らかい笑みを口元に浮かべるとすぐに身体の向きを変えて再びカレーライスを食べ始めたシンタロー。その後姿が先程と違って美味しそうに食べてくれてるのが解るとそれ以上は何も言わず私も再び席に戻って座り直す。
肘をついて目の前の息子を見る…うんうん、やっぱり美味しそうに食べてくれるのは嬉しいもんだね。幸せそうに見つめる私の視線に擽ったそうに笑い、空になった皿を差し出してお代わりを催促してきた。頷いてその皿を受け取ると立ち上がってジャーへと歩みだす私の背に、不意にかけられた声。
「なあ…父さん…ジャンが好きだった…?」
「…パパが愛したのは家族とお前の母親だけだよ」
「そっか」
納得がいったのかそれ以上は問うて来なかった息子に山盛りにしたご飯にカレーをかけてあげて差し出した。
…シンタロー、私が否定では無く是定したらお前はどうする?
お前が一番だという気持ちに嘘や偽りは無いけれど…シンタローがどんな顔をするのか見てみたくなった。
切りたての野菜と牛肉を順に炒めてからゆっくりコトコトと煮て、数種のスパイスでじっくりと味付けをする。カレーはルーから作ると簡単だけど、たっぱり本格的にスパイスから作り始めた方が格段に味が違うからね。でもシンちゃん甘口だから林檎とハチミツも混ぜておかないとね。
そうそう、シンちゃんはカレーハンバーグとかよりもカレーライスを好むんだよね。ふふ…子供だなぁ…幼いあの子の姿を思い浮かべて至福の一時に浸っている真に出来上がったカレーを味見する。
うん、良い出来だ。
満足出来る味わいに何度も頷いて火を止めて白いレースの掛かったテーブルの中央に置いた鍋敷きに乗せる。レースのテーブルクロスも鍋敷きも当然私の手作りだ、シンちゃん喜んでくれるかなー。
「…何、好き勝手してんだよ、親父」
「シンちゃーん!お帰り、疲れただろう?まあ、座りなさい」
ナイスタイミングで聞こえた愛息子に満面の笑みで出迎える。真っ赤な総帥服に綺麗な黒髪を垂らせて、開かれた扉に肩肘をついて私を見る眼差し…ああ、我が息子ながら可愛いなぁ。胸がキュンキュンして、パパ病気になりそうだよ!
…あれ?機嫌が悪そうだけど、お仕事が大変だったのかな?シンタローは頑張りすぎるから心配だよ…
「いや、だから何で俺の留守中に勝手に俺の部屋に入って料理作ってンだって聞いてるんだよ。つか、鼻血…」
「何でって、お仕事で疲れてるシンちゃんのためにパパがカレーを作ってあげていたに決まっているじゃないか」
ポケットから出したハンカチで指摘された血を拭い、再びソレをしまいながら至極真面目に本当の事を答えたのに…その拳に集まる青白い光は何かなー?
それが眼魔砲だと認知する前に息子の空いている手を取り部屋へと引き寄せると扉を閉める。その反動で凝縮されかけた氣が散った事を確認してホッと一息。ま、あれ位は楽勝で止められるだろうケド。
「まあ、そこで座っていなさい。今、パパが用意してあげるからね」
有無を言わせずに用意をし始めると開きかけた口を渋々と閉じたようで、不機嫌な表情はそのままに椅子に腰を掛けて準備を終えるのを待つシンタロー…ふふ、私の勝ちだね。
追い出される心配が無くなった事だしと、シンタローと私の二人分のカレーを皿に盛り、作ってあったサラダとミネラルウォータを用意して…準備完了。
「さ、食べなさいシンタロー。お前の事だ、きちんと食事もしていないのだろう?」
「………」
「シンタロー…?ああ、もしかしてパパが勝手に入った事まだ怒っているのかい?それは悪かったよ」
「…上辺だけで言われてもしょうがねーんだけど。全く親父は…まあ、カレーは美味そうだから食ってやるよ」
視線をカレーに落として隠したつもりの笑み、見逃してないよ?また拗ねられても困るから見えない振りしてあげるけどね?本当に照れ屋さんなんだから、シンちゃんは。
両手を合わせていただきますと食べ始める、黙々とスプーンを口に運んで食べるシンタロー…もしかして今の気分の味じゃなかったのかな…
「味はどう?」
「まあ、そこそこじゃねぇの?」
適当に返答を返しただけで、そっけない態度のまま食べ続ける。途切れる会話…シンタロー?
流石に深刻な雰囲気だ、しっかりと聞き出さないと…持ったスプーンを皿に置き、肘をテーブルについて目の前の息子を見る。その気配を不思議そうに顔を上げて私を見つめる瞳。少しの沈黙の後、ゆっくりと言葉を吐き出して…
「ねえ、シンちゃん。パパに隠さずに話すんだよ?部屋の事は半ば強引とはいえお前は認めたろう?カレーの味も悪くはない。だったら一体何をそんなに怒ってるんだい?」
「…そ…それは…」
バツが悪そうに瞳を逸らして黙り込むシンタローを促す事なく、言葉が出るまで見つめて待った。
そうすると暫くの間の後、俯いたまま声だけが返ってきた。
「…親父、これは俺の為に作ったんだろう?グンマにゃ作ってねぇのか?」
「シンちゃんは優しいな、大丈夫。グンちゃんやキンちゃんにはパパが別口でちゃーんと作ってあげたから」
胸を張って自慢げに返答する。でもシンタロー?お前が言いたいのはそれじゃなさそうだけど…?
「ふーん…無理に俺の側に居なくったって良いんだぜ?アイツの所にでも行けば?」
「アイツって…シンちゃんは誰の事を指しているんだ。私がシンタロー以外の何かを最優先する訳が無いだろう」
「…ジャン…」
何処か拗ねたような表情はまだ俯かせたままで。短く出された名前に驚いて息子を凝視する。どうしてそこでその名前が出てくるのかな…?
「親父が俺を大事にしてんのは俺がジャンと似てるからだろう?親父はアイツが好きみてーだし?ま、俺は子供じゃないんだ。反対したりはしねーケド」
「シンタロー、ちょっと待ってくれ。何処をどうしてそんな話に発展しているんだい?」
「アンタの誕生日の出来事があれば誰だってそう思うわい」
きっぱりと反論するシンタロー…ああ、あの日は許してくれたみたいだったけどまだ怒ってたんだね?いや、拗ねてると言った方が正しいか。あの日からお前が遠征や何だと会う時間が無かったから気付かなかったよ。
ゆっくりと立ち上がり息子の背後に回るとその身体を優しく腕の中につつんでやる。少し身を捩ったのみで反抗する様子が無いのを見て取ると口元に笑みを浮かべて耳元に顔を寄せて。
「大丈夫だよ、パパはお前が一番大好きなんだからね。あの時はジャンをお前と間違わんばかりの笑顔だったからつい、ね」
耳朶に音を立てて口付けると抱きしめる腕に力を込める。シンタローの顔は一気に真っ赤になって私を殴ろうと身を捩って解放されようとするのをそしらぬ顔で抱きしめ続ける。少し経つと諦めたのか暴れる身体は腕の中で大人しくなっていく…パパに勝つのはまだまだ先だね。
「眼魔砲!」
ぐふっ!
溜め無しに容赦なく打ち込まれた眼魔砲は腹部に見事にクリーンヒットしたらしく、抱きしめた腕は解け、私の身体は後ろの壁へとめり込んだ。
シンちゃん、躊躇う事も無く撃ったね?油断した…よろつく身体を何とか支えて立ち上がると、椅子に座ったまま身体を私に向けて屈託の無い笑みを向けている。ああ…シンちゃんのその笑顔をカメラに収めたい…っ!
「うっし、ストライク!」
両手を握ってそんな嬉しそうにしなくたって…うう…酷いよシンちゃん…心で滝のような涙を流していると先程までの笑顔を引っ込めて真顔に戻ってしまったみたいで…ガックシ。
「ど阿呆、何処の世界に息子に似てるからって押し倒す奴が居るんだよ」
「居るじゃないか、此処に」
「…も一回、眼魔砲で逝っとくか?」
「いや、遠慮しとくよ」
片手を上げてきっちりと断りを入れると舌打ちが聞こえた気がした…シンちゃんったら。
「シンちゃんはシンちゃんだよ。お前が誰に似ていようがパパの心はシンタローの物だから安心しなさい」
「…ったく、アンタは。まあ、その言葉で納得しといてやるよ」
柔らかい笑みを口元に浮かべるとすぐに身体の向きを変えて再びカレーライスを食べ始めたシンタロー。その後姿が先程と違って美味しそうに食べてくれてるのが解るとそれ以上は何も言わず私も再び席に戻って座り直す。
肘をついて目の前の息子を見る…うんうん、やっぱり美味しそうに食べてくれるのは嬉しいもんだね。幸せそうに見つめる私の視線に擽ったそうに笑い、空になった皿を差し出してお代わりを催促してきた。頷いてその皿を受け取ると立ち上がってジャーへと歩みだす私の背に、不意にかけられた声。
「なあ…父さん…ジャンが好きだった…?」
「…パパが愛したのは家族とお前の母親だけだよ」
「そっか」
納得がいったのかそれ以上は問うて来なかった息子に山盛りにしたご飯にカレーをかけてあげて差し出した。
…シンタロー、私が否定では無く是定したらお前はどうする?
お前が一番だという気持ちに嘘や偽りは無いけれど…シンタローがどんな顔をするのか見てみたくなった。