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 休日の朝はベッドでまどろみながらコーヒーの香りで目が覚める。シーツに包まってうっすら目をあけると、まぶしい朝日の中でマジックが笑いかけた。
「おはよう。コーヒー飲む?」
「…ああ」
 寝乱れた前髪をかきあげながら答えるとマジックが手に持ったサイフォンから白い大きなマグカップにコーヒーを注いで差し出した。ベッドの中でそれを受け取ってシンタローは眉間にシワを寄せる。
「…いつも言ってるけどな、これコーヒーって言わねーんじゃねーの?」
 カップの中にはなみなみとコーヒーが注がれている。ただし、半分は牛乳だ。
「起きぬけにブラックなんてダメだよ。いつも言ってるけど、胃に悪いでしょ」
「テメーのカップの中はなんだよ」
「パパは朝一番に牛乳飲んでるからね」
 バチンとウィンク付きで返されてシンタローはこれ以上の反論は無駄と悟ってカップを口に運ぶ。休日の朝は不毛と思いつつ同じ会話を繰り返す。寝起きでなければ「いつまでも子ども扱いすんな!」と一通りケンカもするのだが、朝っぱらから血圧を上げるのも疲れるし、何よりいつまでたっても扱いは変わりそうにないことに最近やっと気付いて半ば諦めかけているのもある。
「それを飲んだら起きてね。朝ごはんにしよう」
 そう言いながらマジックはシンタローの頬に軽くキスをしてキッチンへ行ってしまった。シンタローはその背中を見送りながら、さして熱くもないカフェオレをことさらゆっくりと飲んだ。



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 七月七日、七夕。彦星と織姫の年に一度の逢瀬の日。だがその日は毎年どういうわけだか雨が多い。


 シンタローは私室の窓を穏やかに打つ雨をなんとなしに眺めていた。雲は深く立ち込めていて晴れそうにもない。
「こりゃ、夜になっても止みそうにねーな」
 ポツリと呟いたのをマジックは聞き逃さなかった。
「夜? 夜に何かあるのかい?」
「あるといえばあるけど、ないといえばない」
「なにそれ?」
 コーヒーのカップを手渡しながらマジックは首をかしげる。
「今日は七夕だろ? せっかく一年一度のデートが雨じゃ、ちょっとかわいそうだ」
 シンタローのセリフを聞いてマジックが軽く笑ったので、シンタローは少し膨れて睨みつけた。
「なんだよ」
「シンちゃんかわいいなぁと思って」
 揶揄されてシンタローはさらに膨れるとプイッとそっぽを向いた。
「あれ、シンちゃん怒っちゃった?」
「知らん」
 マジックはシンタローの後ろにそっと忍び寄って抱きしめる。
「放せ、鬱陶しい!」
「ねぇシンちゃん。彦星は馬鹿だと思わない?」
「はぁ?」
「だってもしパパがシンちゃんと一年一度しか会っちゃダメ!って言われたら発狂しちゃうよ! 天の川が太平洋だって泳いで横断しちゃうね!」
「なんだよそれ」
 大げさなマジックにシンタローは思わず軽く吹き出してしまった。
「俺はアンタと十年会わなくたって平気だね!」
「パパはシンちゃんと一日だって離れたくないよ。一時間だって耐えられない。一秒千秋の想いだもの」
「おおげさだな。おい、やめろよ」
 マジックが首筋にグリグリ額を押し付けてくるのをシンタローはくすぐったそうに身を捩る。
「ねぇシンちゃん」
 さっきまでの甘えたような口調が突然深く優しくなる。
「ん?」
「七夕ってね、雨乞いの儀式でもあるんだって。彦星と織姫が天の川を渡って逢うことができれば天の川は溢れて下界に雨を降らすんだ」
「へぇ。じゃあ今まさに二人はデートの真っ最中ってことか?」
「そうだよ。そして天には雨が降らない。だからきっと二人の夜空は美しい満天の星空なんだ」
「なるほどね」
 確かに二人っきりの逢瀬なら誰にも見せたくはないかもしれない。内緒にして、包み隠して、けれど万人が知るデート。

 だったらそれに隠れてこっそりと―――。

 シンタローはゆっくりとマジックに体を預け、マジックはシンタローをそっとけれども力強く抱きしめた。



/


 今日の休日はシンタローにとって降って湧いたような休みだった。秘書にスケジュールを確認したが彼らは口をそろえて「明日は休日のご予定です」と言いきる。シンタローが覚えているだけでも午前中は幹部と会議、午後は外交を伴う仕事があったはずなのだが、それらは全て都合でキャンセルになったという。
「よって総帥は明日一日お休みです。ごゆっくりなさってください」
 ティラミスに真面目腐った顔でそういわれると別の仕事を片付けたいというセリフを飲み込まざるをえなかった。結局シンタローは半ば押し切られるような形で休暇をとることになった。
 突然の休日とはいってもやることは普段の休日とさして変わらない。いつもは人にまかせっきりにしている自室の掃除をしてみたり、以前から気になっていたキッチンの汚れをぴかぴかに磨いてみたり。そんな彼の見事な主婦っぷりは新総帥を崇拝してやまない一般団員達には見せられない姿である。
 昼食は珍しくマジックとふたりきりだった。グンマとキンタローは研究が大詰めを向かえているとかで自分たちのラボで簡単に済ませてしまったらしい。
 食事が終ってからは買うだけ買って目を通してもいなかった本を居間でゆっくりと読んでいた。
 こんなふうにゆったりとした休日は久しぶりだ。
 シンタローたち一族はガンマ団本部に居住空間を構えているために総帥業はある意味、巨大な自営業のようなものだ。何か問題がおこったり、どうしても必要な場合はシンタローの休日は消えてしまう事が少なくない。だがいつものそんなアクシデントが今日はまったくない。

――珍しいこともあるもんだな。

 その日の夕食にもグンマとキンタローは姿をあらわさなかった。グンマが手がけていた研究が終了して、研究室の連中とお祝いで飲みに行くのだという。飲みに行くなら誘ってくれりゃいいのに、と思いつつ支度をして昼食と同じくマジックとふたりきりの食事。普段のにぎやかな食事風景と比べてなんと淋しいことか。だが、たまにはこんな落ち着いた食事も悪くない。
 食事の後は紅茶を飲みながら、ゆったり過ごす。
 こんなふうに平穏で余裕のある日は本当に珍しい。
 一日の終わりに濡れた髪をタオルで乾かしながら寝酒でも飲もうとキャビネットからボトルを取り出しながら、ふと目に入ってきたカレンダー。



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 シンタローは自室でベッドの上に置いた箱を見下ろし、腕組みをしていた。まるでそうすることによって中身が透視しているかのように。だが、どんなに眉間にしわを寄せてみたところで透視できるわけもなく、シンタローはため息をついた。

――ったく、なんだってあんな賭けをしちまったんだか…。

 あの日あの時、あの地下カジノでのくだらない賭け。まるでペテンにかけられたような勝負。BETは『24時間、シンタローがマジックの言うことを聞くこと』
 赤いシルクのリボンがかかった箱を見ながら後悔するが、時すでに遅し。あの時のマジックの顔を思い出しただけでもムカついてくる。
 その上、昨日は満面に笑みを浮かべて
『ハイ! 明日はこれを着てね!!』
 なんて言いながら包みを押し付けて去っていった。
 着ろ、と言ったということは中身が服であることに間違いはない。その点に関しては安心しているが、問題はその『服』だ。一体どんな『服』が入っているのか、想像するだに恐ろしい。
 大体マジックはセンスが悪い。普段着はともかく、あのピンクのスーツにフリルのシャツ、ついでに言うならレースのスカーフもシンタロー的にはありえない。あんな服がこの中に入っているのじゃないかと思うと、恐ろしくて手も触れられないでいた。
 睨み付けるように見下ろしていた視線を時計に向ける。マジックが指定した時間まであと30分。このまま勝ち目のないにらめっこをしていたところで仕方がない。それに時間になってもシンタローが現れず、なおかつ贈った服を着ていなかったときには
『パパがお着替え手伝ってあげるよ』
 とかなんとか言って無理やり着替えさせられそうだ。
 それだけは勘弁願いたいシンタローは、深いため息をつくと覚悟を決めてリボンに手をかけた。



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「ふむ。こんなもんかな?」
 ソースの味加減を確認して昼食の準備完了。彼の可愛い息子達を呼びに行くためにマジックはエプロンを脱いだ。
 日々、変貌していくガンマ団を支えるため寝る間も惜しむシンタローを気づかって、マジックは息子達と一つだけ約束を取り交わした。それは
『昼食を家族で摂ること』
 以来マジックは手ずから食事の用意をしている。
 料理は昔から得意分野なので特に気にならない。むしろこうして息子たちを迎えにいけることを楽しんでいる。
 研究室の扉をノックもせずに開ける。中にいる職員達が驚いてドアを注視するが、マジックの姿を認めて慌てて礼をとる。マジックが軽く手を振るのは「さっさと仕事に戻れ」という意味だ。いちいち挨拶など受けていられない。
 勝手知ったるなんとやらでさっさと部屋を横切って奥の特別研究室に通じるドアをノックした。
「は~い、どうぞ~?」
 間ののびた返答を聞いてドアを開ける。横切ってきた研究室とは比べ物にならないほど雑然とした部屋の奥にグンマがいた。デスクに置かれた小さな鏡越しにマジックを確認して回転椅子がくるりと回る。
「おとー様!」
「やあ、グンちゃん」
 床でうねっているコード類に足を引っ掛けないよう注意しながら歩く。うっかり引っ掛けてあろうことかコンピューターの電源を引っこ抜き、グンマを半泣きさせたのはつい昨日のことだ。
 さまざまなコンピューターや機械類が所狭しと並べられている部屋を見渡し、この部屋のもう一人の住人を探す。
「キンちゃんは?」
「資料室だよ。必要な資料が足りなくて取りに行ってもらっているの」
「そう。じゃあ、キンちゃんが戻ったらお部屋に行ってお昼にしよう」
「あ、う~ん。そうしたいんだけど…」
「忙しい?」
「ごめんね。もう少しかかりそう。できるだけ早く行くから」
「わかったよ」
 申し訳なさそうな息子に、気にするな、という想いをこめて微笑みながら肩を叩くと、来た時と同じ慎重な足取りで研究室を出て行った。入れ違いに研究室の奥にある扉が開いてキンタローが顔を出す。
「今出て行ったのはマジック伯父か?」
「うん。今日は後から行くって言っておいた」
 ふうん、と生返事を返しながらグンマに持ってきたディスクを手渡し、そのままお茶を淹れに行く。淹れると言ってもティーバッグを放り込んだマグカップに備え付けの湯沸しポットで湯を注ぐだけなのだが。
 渡されたディスクをコンピューターに挿入してデータを引き出し、グンマとキンタローの本日午前の仕事は終了。あとは馬に蹴られないよう、適当に時間を潰すだけだった。



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