七月七日、七夕。彦星と織姫の年に一度の逢瀬の日。だがその日は毎年どういうわけだか雨が多い。
シンタローは私室の窓を穏やかに打つ雨をなんとなしに眺めていた。雲は深く立ち込めていて晴れそうにもない。
「こりゃ、夜になっても止みそうにねーな」
ポツリと呟いたのをマジックは聞き逃さなかった。
「夜? 夜に何かあるのかい?」
「あるといえばあるけど、ないといえばない」
「なにそれ?」
コーヒーのカップを手渡しながらマジックは首をかしげる。
「今日は七夕だろ? せっかく一年一度のデートが雨じゃ、ちょっとかわいそうだ」
シンタローのセリフを聞いてマジックが軽く笑ったので、シンタローは少し膨れて睨みつけた。
「なんだよ」
「シンちゃんかわいいなぁと思って」
揶揄されてシンタローはさらに膨れるとプイッとそっぽを向いた。
「あれ、シンちゃん怒っちゃった?」
「知らん」
マジックはシンタローの後ろにそっと忍び寄って抱きしめる。
「放せ、鬱陶しい!」
「ねぇシンちゃん。彦星は馬鹿だと思わない?」
「はぁ?」
「だってもしパパがシンちゃんと一年一度しか会っちゃダメ!って言われたら発狂しちゃうよ! 天の川が太平洋だって泳いで横断しちゃうね!」
「なんだよそれ」
大げさなマジックにシンタローは思わず軽く吹き出してしまった。
「俺はアンタと十年会わなくたって平気だね!」
「パパはシンちゃんと一日だって離れたくないよ。一時間だって耐えられない。一秒千秋の想いだもの」
「おおげさだな。おい、やめろよ」
マジックが首筋にグリグリ額を押し付けてくるのをシンタローはくすぐったそうに身を捩る。
「ねぇシンちゃん」
さっきまでの甘えたような口調が突然深く優しくなる。
「ん?」
「七夕ってね、雨乞いの儀式でもあるんだって。彦星と織姫が天の川を渡って逢うことができれば天の川は溢れて下界に雨を降らすんだ」
「へぇ。じゃあ今まさに二人はデートの真っ最中ってことか?」
「そうだよ。そして天には雨が降らない。だからきっと二人の夜空は美しい満天の星空なんだ」
「なるほどね」
確かに二人っきりの逢瀬なら誰にも見せたくはないかもしれない。内緒にして、包み隠して、けれど万人が知るデート。
だったらそれに隠れてこっそりと―――。
シンタローはゆっくりとマジックに体を預け、マジックはシンタローをそっとけれども力強く抱きしめた。
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