あの南国の島から戻って半年近くが過ぎたある冬の日。シンタローはひとり車を走らせていた。
助手席には大きな白い花束。久しぶりに『彼女』に会いに行く。ほんのわずかな間で大きく変わった自分を見せに行くのだ。
あの島から帰ってから、シンタローのすべてが激変した。
総帥の令息からシンタロー個人へ。奔放で自由な島での暮らしから、次期ガンマ団総帥へ。
だから最初にその違和感に気づいた時は、ただの気のせいだと思っていた。だがそれは日に日に大きくなり、胸の中でモヤモヤとわだかまってシンタローをたまらなくイヤな気分にさせた。そしてそれはやがて、しこりのようにシンタローの奥深いところで根付いてしまった。
その正体不明の気持ちに合理的な答えを求めるためにも落ち着いて考えたかったが、何しろ暇がない。
新生ガンマ団の発足準備や総帥引継ぎのための諸々の手続き、その他、日々発生する雑務に追われ、ガンマ団本部でカンヅメの日々が続いていた。それというのも親父には忠実だが息子には厳しい総帥秘書・ティラミスが一歩も外に出してくれなかったからだ。
特別な日だから、どうしても! と、ティラミスを拝み倒して何とか今日一日の休日を手に入れた。もちろん、有能な総帥秘書殿はこの日がどういう日なのか知ったうえで、恩着せがましく休暇を許可したのだった。
一人で出かけようとしたシンタローにティラミスが、せめて護衛を、といったが黙殺した上で誰もついてこないよう厳命し、車に乗り込んだ。
とにかく一人の時間が欲しかった。
ガンマ団本部では常に誰かが側にいるし、種々雑多な揉め事や仕事に忙殺されて、とてもじゃないがそれ以外のことを落ち着いて考えさせてはくれない。
車は海岸沿いをスムーズに流れていた。
窓は全開。当然髪は風でめちゃくちゃに乱れているが気にならない。むしろ開放感でスッとする。このまま車を飛ばし続ければ、この言い知れない気持ちも吹き飛んでいくような気がしてアクセルをさらに吹かした。
目的地の丘は、もうすぐそこに見えていた。