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幸せだよ


真っ赤なスーツは未だ重く感じるが、それでも何とか総帥業をこなしているシンタローは少し手を休め時間を確認した。
予定では5分後にアラシヤマが報告書を持って訪れる事になっている。
残された時間でこの書類の束を片付ける事は不可能だと判断したシンタローは、アラシヤマが来るまで休憩を取る事にした。
ゆっくりと伸びをすれば軽い眩暈が襲ってくる。
やはりデスクワークは苦手だと再認識して息を吐き出せば、控えめなノック音が聞こえてきた。

「シンタローはん、いてはります?」
「おぉ、入ってこい」

今では心地良いと思ってしまう声を聞きながら、シンタローは深く椅子に座りなおした。
アラシヤマと会う時間を結構楽しみにしているだなんて事は、絶対に言ってやらないし、態度にも出したりはしない。

「ようけたまってますなぁ」

呆れた様に、それでいてどこか愉悦も含んだ声に、シンタローはほんの少し顔を引き攣らせた。

「うっせーよ。早く出せ」

だから、口調もついつい乱暴になってしまう。
もっともいつもの事だと思っているアラシヤマは気にした素振りも見せなかった。

「なぁ、シンタローはん」
「あん?」

渡した書類に目を通しているシンタローはどこまでも真剣な表情をしている。
どれだけ見つめていても変わる事のない視線。
それでも、アラシヤマにはそれが心地良かった。

「わて、この瞬間が一番幸せどすわ」

視線は変わらないくせに、頬をほんの少し真っ赤に染める総帥にアラシヤマは笑みを浮かべた。

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