世界を与えてくれたのは、この力の制御を教えてくれた人。
世界に色をくれたのは、いつでも前を見据えている力強い瞳を持った人だった。
闇裂く君
シーツに広がる艶やかな長い黒髪。
自分も同じ黒髪だというのに、どことなく違うと、そう思ったアラシヤマは惹かれるがままに手に取った。
「何やってんだよ」
少し掠れた声がアラシヤマの動きを暫し止める。
「起きてはったんどすか?」
「今起きた」
体を起こそうとするシンタローの上半身は何も身につけておらず、鍛え抜かれた筋肉が惜しげもなく晒されていた。
気だるげなその姿でも他を圧倒する空気を身にまとう人物。
「…アラシヤマ?」
「へぇ」
「それ、貸せ」
「知ってはったんどすなぁ」
惚けるには少々立場が弱かった。
シンタローが問答無用で奪った書類に目を通している間、アラシヤマは目を細めてシンタローを見つめる。
「やっぱ、好きどすわぁ」
「…何がだよ」
「あんさんが、どす」
この言葉に、シンタローは目線をあげてアラシヤマを一瞥する。
穏やかに微笑んでいる男がどんな意味でこの言葉を放ったのか知りたいような、それでいて知りたくないような気分に襲われた。
アラシヤマもそれが分かっているらしく、ただ微笑み続けるだけだ。
「…なんで」
「愛されたいから、でっしゃろうなぁ」
愛されたいから、愛したい。
「他をあたれ」
「そんな殺生な…もうちょっと考えてくれはってもええんとちゃいますのん」
また戻ってしまった視線をおいかけて、アラシヤマは溜息を吐く。
視線が逸らされても意識がこちらに向いている事を知っていての行為だった。
「わて、シンタローはんを愛してますんに」
あなたを愛したいがために、自分を愛して。
自分を愛するために、あなたを愛する。
「だから、他をあたれ」
「シンタローはん以上に輝いてる人なんかおりまへんわ」
深い闇の中ですら輝きを放つモノなど、稀有すぎてアラシヤマは他をあたる気にもなれなかった。
「迷惑なヤツ」
「そりゃ、わてやさかいに。せやけど、受け入れるシンタローはんも悪いんでっせ?」
「勝手に言ってろ」
未だ微笑み続けるアラシヤマに負けたような気がして、シンタローはわざと突き放すように悪態吐いた。
アラシヤマが見つめてくるその瞳が深すぎて、時折どう対処したらいいのか分からなくなる。
そんな時は決まって、眼魔砲などでは逃れられないのだ。
「シンタローはんが、わての人生変えはったんやから」
「勝手に人のせいにするな。朝っぱらから鬱陶しい姿見せられるのも嫌だけどな、やけに勝気なお前を見るのも嫌だ」
ベッドから立ち上がったシンタローは、これで終わりだというようにアラシヤマに背を向けて洗面所へと向かった。
こうなったらもう、アラシヤマが引くしかない。
背に流れる黒髪を掴み取るかのように腕を伸ばし、触れる直前で動きを止める。
「あんさんが好きなだけなんどすけどなぁ」
色をくれた人に。
否定するだけではない事を教えてくれた人に。
少しでもこの気持ちが届けばいい。
「おら、アラシヤマ。さっさと来い」
「へぇへぇ」
向けられる笑顔を追って、アラシヤマはゆっくり歩き出した。
世界に色をくれたのは、いつでも前を見据えている力強い瞳を持った人だった。
闇裂く君
シーツに広がる艶やかな長い黒髪。
自分も同じ黒髪だというのに、どことなく違うと、そう思ったアラシヤマは惹かれるがままに手に取った。
「何やってんだよ」
少し掠れた声がアラシヤマの動きを暫し止める。
「起きてはったんどすか?」
「今起きた」
体を起こそうとするシンタローの上半身は何も身につけておらず、鍛え抜かれた筋肉が惜しげもなく晒されていた。
気だるげなその姿でも他を圧倒する空気を身にまとう人物。
「…アラシヤマ?」
「へぇ」
「それ、貸せ」
「知ってはったんどすなぁ」
惚けるには少々立場が弱かった。
シンタローが問答無用で奪った書類に目を通している間、アラシヤマは目を細めてシンタローを見つめる。
「やっぱ、好きどすわぁ」
「…何がだよ」
「あんさんが、どす」
この言葉に、シンタローは目線をあげてアラシヤマを一瞥する。
穏やかに微笑んでいる男がどんな意味でこの言葉を放ったのか知りたいような、それでいて知りたくないような気分に襲われた。
アラシヤマもそれが分かっているらしく、ただ微笑み続けるだけだ。
「…なんで」
「愛されたいから、でっしゃろうなぁ」
愛されたいから、愛したい。
「他をあたれ」
「そんな殺生な…もうちょっと考えてくれはってもええんとちゃいますのん」
また戻ってしまった視線をおいかけて、アラシヤマは溜息を吐く。
視線が逸らされても意識がこちらに向いている事を知っていての行為だった。
「わて、シンタローはんを愛してますんに」
あなたを愛したいがために、自分を愛して。
自分を愛するために、あなたを愛する。
「だから、他をあたれ」
「シンタローはん以上に輝いてる人なんかおりまへんわ」
深い闇の中ですら輝きを放つモノなど、稀有すぎてアラシヤマは他をあたる気にもなれなかった。
「迷惑なヤツ」
「そりゃ、わてやさかいに。せやけど、受け入れるシンタローはんも悪いんでっせ?」
「勝手に言ってろ」
未だ微笑み続けるアラシヤマに負けたような気がして、シンタローはわざと突き放すように悪態吐いた。
アラシヤマが見つめてくるその瞳が深すぎて、時折どう対処したらいいのか分からなくなる。
そんな時は決まって、眼魔砲などでは逃れられないのだ。
「シンタローはんが、わての人生変えはったんやから」
「勝手に人のせいにするな。朝っぱらから鬱陶しい姿見せられるのも嫌だけどな、やけに勝気なお前を見るのも嫌だ」
ベッドから立ち上がったシンタローは、これで終わりだというようにアラシヤマに背を向けて洗面所へと向かった。
こうなったらもう、アラシヤマが引くしかない。
背に流れる黒髪を掴み取るかのように腕を伸ばし、触れる直前で動きを止める。
「あんさんが好きなだけなんどすけどなぁ」
色をくれた人に。
否定するだけではない事を教えてくれた人に。
少しでもこの気持ちが届けばいい。
「おら、アラシヤマ。さっさと来い」
「へぇへぇ」
向けられる笑顔を追って、アラシヤマはゆっくり歩き出した。
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