その瞳が、
鎮圧したばかりの廃墟と化した街を男は歩いていた。
つい先日までこの国の華やかな文化の象徴であった第二の都市はガンマ団の容赦ない攻撃によって
今や見る影もなく、いまや瓦礫と砂埃が舞うだけである。
男は土煙に汚れた赤い服を気にするでもなく男は砲撃された建物の陰に逃げ延び潜んでいたゲリラの残党に目を向けていた。
ゲリラは満身創痍という言葉が浮かぶ姿だった。
しかしその目だけは殺気立って男を見据えていた。手にはマシンガンが握られている。
一方の男は何も持っていなかった。
しかし男はあわてることもなくただ悠然としていた。
「死ね!ガンマ団…!!」
意を決したゲリラは壁陰から飛び出しマシンガンの引き金を引いた。
しかし彼が引き金を引き終わる前に、彼は何か見えない力によって壁にたたきつけられ息絶えていたのだ。
男は骸をみやり、溜め息をついた。
何の感慨も浮かばなかった。
そのとき一人だけだと思っていた物陰で何かがうごめき、骸にすがりついた。
「…おとうさんっ!!!」
子供だった
ゲリラは父親だったらしい。ただそんなことよりも男の目を引いた
のはその子供の姿だった。
あの子と同じ黒。
薄汚れてしまった黒い髪が揺れる。
そして涙を溜めた黒い瞳が男の蒼い瞳とかち合った。その瞳は恐怖と嫌悪に塗り
つぶされていた。
「おまえは…」
「寄るなぁぁ!!化け物!!」
よ る な ば け も の
目の奥が熱くなり、押さえきれない力の濁流が冷酷な青い光となって溢れ出した
のを感じた。
残ったのは二つの肉塊。
いまだうずく目を押さえながら男は天を向いた。
ああ、いつかお前も同じような目で私を見るのか。
同じように化け物とののしる日が来るのだろうか。
いくら自分が隠し続けようとしても、いつかお前は知ってしまう。
私が人殺しの化け物だと。
そのとき私は正気でいられるだろうか。
どうか私を見捨てないで、シンタロー。
END
06/05/20
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注意
このお話はパラレルなうえに貴族に関する知識もかなり適当です。
しかもマジックが好きな方はやめたほうがいいかもしれません。
それでもかまわないとおっしゃる方のみ下にスクロールしてくださいませ。
ガンマ侯爵家当主マジック。その息子シンタロー、コタロー。
次男故ルーザーの息子のキンタロー、グンマ。後見人の高松。
下の双子、一人はフランスで犬(仏語でシャン。惜しい!)とともに退廃的で優雅な生活。もう一人は世界不思議発見。ウソ。植民地の現地総括者として部下とともに大暴れ。
そんな生活にもある日陰りが訪れたのだった。
陽が翳るとき
「しかしあの伯父貴が倒れるとはな。」
寝室に近い一室の扉を開け、中に入って来たのはガンマ侯爵家の当主子息のシンタローと近々亡き父の家督を継ごうという従兄弟のキンタローであった。
「なんだかんだいってもう年だからな…まぁ風邪こじらせただけだしもう心配ねぇよ。」
しかし言葉とは裏腹にそういうシンタローの整った顔には明らかな不安と疲労が浮かんでいた。
「だいぶ疲れているようだな。」
軽やかな動作でシンタローの傍により、顔をよくみようと自らの顔を近づける。
確かに疲れていた。それなりになんでもこなしてきたつもりだったが、急な父の代行に重ねて毎日のようにやってくる顔も知らぬ親類縁者を名乗るもの達。隙あらば侯爵家の財産をこの若造からかすめ取ろうとしているだろう。父の容態も相まってここしばらくシンタローは安らげることがなかった。
「少し休め。お前まで倒れたらどうするつもりだ。」
「ああ…お前が来てくれて助かったよ。」
キンタローは珍しく弱気なシンタローに内心驚きながらも自らが淹れた紅茶を飲んだ。
「遅くなって済まなかった。すぐに駆けつけたかったのだが家督相続の準備やらで手間取ってな。」
「いや。そっちこそ忙しい時に悪いな。」
「かまわん。非常事態なんだ。」
「…お前はすごいよな。もう父親の後継ごうってんだからよ。当主ってのがあんなに大変だとは思わなかったぜ。」
「伯父貴の場合は特別だ。多方面でしかも強引に事を進めるからな、うちの公爵家に比べれば規模も大きいし敵も多い。お前に問題があるわけではない。…それより叔父貴達はまだこれないのか。」
そういうと年若い次期公爵は手元の紅茶をもう一口飲んだ。上質の茶葉の香りが周りを包み込み消えていく。
「サービス叔父さんは明日にはこれるみたいだ。ハーレムは一応連絡は入れたけど返事がねぇ。あいつのことだから返事もほっぽりだしてもうそこまできてるかもな。」
「あの叔父貴らしいな。」
シンタローはやっと笑みを浮かべ熱い紅茶のティーカップに口をつけた。
「あ~安心したら急に眠くなってきたぜ。…しばらくろくに寝てなかったしな。」
「もう夜も遅いからな。今日はもう休め。」
「…本当にお前がいてくれて助かった……お前だって忙しいのに……ごめんな…」
ああ
俺も本当に忙しかったよ。
俺の黙阿弥だとばれないように細心の注意を払って叔父貴たちを足止めして、親類たちに伯父貴が倒れたことを触れまわさせて、伯父貴つきの医者も俺の息のかかったヤツに代えさせた。
明日の朝には決着がついているさ。
キンタローは愉悦の笑みを浮かべると紅茶に混ぜた睡眠薬で深い眠りについたシンタローの髪を掻き上げてそっと口づけた。
第2章 逆襲 に続く?
2004/
BACK
草木も眠る丑三つ時、世界最強の殺し屋集団を一代にして制裁集団に変えたカリスマ総帥の寝所に忍び寄る黒い影…
「んっふっふ~今夜は絶好の夜這い日和だねぇ。」
ときめき☆midnight
夜に日和はどうかと思うのもそっちのけでこれから始まるであろう息子とのめくるめく時間におピンク妄想を繰り広げるスーツもピンクなマジック元総帥。
音も立てずにスキップでようやく目的の寝室に入った。視線の先にはキングサイズのベッドとシーツの膨らみ。
(こういうシチュエーションもそそるねぇ…)
寝顔をじっくり見ようといそいそとベッドに近づき、シーツに埋もれた髪を手にとる。
「…フフフ。パパの大好きなこの黒い……」
あれ?
「黒…くなくて…これは…金髪?」
そんなはずは!と、頭までかかったシーツをはぎ取るとそこにいたのは
(キッ、キンタロ─────!!)
そう、そこにはシンタローではなく従兄弟のキンタローがすぴすぴと眠っていたのだった。
(…どういうことだ?シンちゃんはいったいどこに?)
落ちついてよく見るとキンタローの横、マジックのいる方とは反対側に艶やかな黒髪を散らした愛しのシンタローがキンタローに寄り添うように寝ていた。
しかもシーツからのぞく肌は何も身につけてない。
「……もしかして、私はとんでもない現場に遭遇してる?」
ワナワナと震える体を抑え、目を凝らしてよくみればキンタローもシーツからみえる上半身に何も身につけていない。
これって…
これって……!!
「おのれキンタロォォォォ!!!私の可愛いシンタローに何をしたぁぁぁぁぁぁ!!」
マジックのあまりの怒りに秘石眼が煌めき、部屋が激しく揺れた。
「……ん…なんだ?…何が起きた?」
その衝撃で目を覚ましたキンタローをマジックが恐ろしい目付きで睨みつける。
「きぃ~ん~たぁ~ろぉ~そうか…お前が私の最大の敵だったのか……」
なんだかどこかで聞いたことがあるような言ったことがあるような台詞に眉をひそめながらも、どうしてそんなに怒っているのかとか、そもそもなんでマジック伯父貴がここにいるのかとか、とにかくいろいろなことが一気に押し寄せてキンタローは困惑した。が、なんとか言葉を絞り出す。
「…何をそんなに怒っているんだ?」
「この後に及んでまだとぼける気か…いい度胸だな。」
両眼にに凶々しい青い光を秘めながらドス黒いオーラを纏ってマジックが近づいてくる。流石にマズイと思ったところで隣りで眠るシンタローがようやく起き出した。
「…なんだ…うっせぇな……………親父…?」
「シンタロー…どいていなさい。お前とは後でゆっくりと話をしようじゃないか。」
そう言うマジックの顔は笑っているが目が完全に据わっている。なんだなんだなんなんだ!マジックの尋常でない様子に一気に目が醒める。とにかく止めなければ血みどろの争いになりかねない。シンタローはベッドから飛び起きて上半身を起こしただけのキンタローとマジックの間に立ちはだかる
「……………」
「………なんだよ。一体どうしたってんだよ。」
「………シンちゃん…パンツはいてるの?」
「はぁ?!」
確かにシンタローはいつものバジャマ代わりの黒いボクサーパンツを穿いている。
ベッドから這いでてきたキンタローもよくみれば下はパジャマを着ている。
「……………ひょっとして…パパの勘違い?」
「なにがだよ!!!」
「いっやぁ~パパったらお前とキンタローが一つのベッドに枕が二つで寝てるもんだからパパの知らないうちに破廉恥な行為に及んだのかと思っちゃった☆」
「はぁぁぁぁぁ?」
「しかしどうしてキンちゃんがここにいるんだい?そんなだからパパ誤解しちゃったよ。」
そんなマジックの疑問に今まで黙って二人のやりとりを見ていたキンタローが口を開いた。
「怖ろしい夢をみたんだ。」
「俺が研究棟の仮眠室で寝ていると高松が寝顔を見にやってきて鼻血を大放出するんだ。そして余りに大量の鼻血はそのまま仮眠室を埋め尽くし、しまいには研究棟すべてが鼻血によって浸水し、沢山の死傷者を出す大惨事になる。そんな夢をみた。俺はその夢が余りにも現実に起こりそうだったので怖くなって本邸のシンタローの部屋で寝ることにした。」
「屋敷にあるキンタローの部屋はすでに3日前に鼻血まみれになって今使えねぇだろ?だからだよ。」
「なぁんだそうだったのか☆ハッハッハ。まぁこんな誤解もたまにはあるよね~」
「ね~」なんてかわいらしく首をかしげても、この乾いた雰囲気はどうにもならない。
「………今度はこっちが質問なんだけどよォ。なんであんたが俺の部屋にいるわけ?」
「それは勿論シンちゃんの可愛い寝顔を見て、ついでに襲っちゃおうかな~なんて…」
「ほぉぉ~……」
「あれ?シンちゃんもキンちゃんもどうしたんだい?そんな怖い顔して─────」
「「Wガンマ砲───────────!!」」
夜空に新たな星が生まれたのを確認するとシンタローは無惨に穴のあいた自室を見回した。
「ったく、しょうがねぇなあ~この部屋も駄目になっちまったじゃねえか。」
「グンマの処にいくか?」
「…そうすっか。」
そうして夜は更けてゆく。
しかしこの時マジックは不覚にも気がつかなかった。
いくらなんでも野郎二人が肌を寄せ合うかとか、
「この俺が、いいかこの俺ともあろうものがマジック伯父貴にバレるような場所で犯るとでも思うのか?」と呟いていたことに。
2004/
BACK
いつでも貴方のことばかり
オペラ座の怪人を鑑賞したマジック様(53歳)
「ううっ。グスっ。狂気なほどの純愛は死という結末をもって幕を閉じるんだね…」
「まるでパパとシンちゃんのような純愛っぷりだ。もちろんパパがファントムでシンちゃんがクリスティーヌだよ☆」
手元の人形をなでまわすマジック元総帥(53歳)
「シンタロー…でも安心しておくれ。パパはどんなことがあってもお前をあきらめたり
などしないから…しかしあのラウルとかいう若造さえいなければ今頃ファントムとクリスティーヌは…」
「はっ!もしかして私たちの周りにもそんな輩が潜んでいる!?」
「……伯父貴。取り込み中済まないがこの書類にサインを…」
「そうだったのか──────!!」
「は?」
「そうか…お前が……こんなところに……よぉし決闘だ!!私がかったらシンタロ
ーの前から消えてもらおう!!」
「……………。」
(伯父貴の様子がいつも以上におかしい…これは世間で有名なアレか?アレなのか?……遂にきてしまったか。まぁそろそろだとは思ったが…こんな惨めな姿をシンタローに見せるわけにはいかない。)
「……この俺がここで息の根を止めてやる。」
「………フフフ。止まるのはお前のほうだよキンタロ─。」
腕をくみ、自信げにキンタロ─を見おろすマジック氏。
二人の秘石眼がきらめく。
「「眼魔砲────!!」」
部屋のそとにはシンタローとグンマ。
「………あいつらナニやってるワケ?」
「オペラ座の怪人ごっこじゃない~?シンちゃんも見に行けばよかったのに。」
「俺は誰かさんと違って忙しいんだよ!」
荒々しくマジックの部屋のドアを開く総帥様。
「テメェらもいい加減にしやがれ!仕事しろ、仕事!!」
「シンタロー!!くるんじゃない!俺が始末する!」
「シンちゃん…!パパ負けないからね。例え地獄の業火に焼かれてもそれでも…」
「天国にでもいってきやがれ、眼魔砲────!!」
【グンマの日記】
その日から一週間お父さまは本当に天国に逝きかけました。
キンちゃんはシンちゃんにお説教をくらって1ヶ月オヤツ抜きでした。僕だった
らしんじゃうよ…
でも僕は知ってる。シンちゃんはよく「忙しい」っていうけどそれは僕らのため
に毎日必ずオヤツを用意してくれて、なんだかんだいってお父様の相手もしてる
からなんだって。無理してほしくはないけど、こういう忙しさだったら僕はいいか
なって思うんだ。
2004/
BACK
これからがはじまり
今までは殺し屋として君臨していたガンマ団。
サバイバルな男達の群れなそこには女性は殆どいない。
その為か団員には女性との縁がなく、また稀に縁あったとしても相手が『殺し屋』だと知れれば、
たちまち女性は逃げていく。
よって家庭を持つなどと言う者はガンマ団員では非常に小数であったのだが。
しかし今は殺し屋から180度変えた為、相変らず女性職員は少ないものの外で交際が順調にいっている団員が増えたらしく、結婚式の御呼ばれなんかも急激に増えた。
それはそれでとてもめでたい事なのだが、
ここで、どこの企業でも一度は頭を抱えてしまう問題が発生してしまったのだ。
結婚ともなれば次はそう、子どもである。
ベビーブームが到来し、結果、子どもを預かる所謂『託児所』なる場所が出来た。
しかも園長は、
「はいはぁ~~~いvvみずきちゃんはミルク160CCだったよね~~♪」
マジック前総帥その人であった。
総帥の座を息子のシンタロ―に継承した後、はっきり言って彼はかつてない暇を持て余していた。
最初は息子のディスクワ―クなどを手伝おう♪と張り切っていたものだが、当の新総帥本人に、
「この位自分で出来る!!テメエは老後を楽しんできやがれ!!」
と蹴りだされてしまった。シンタローとしてはもっと自分を信用して欲しいのだ。
決してマジックはシンタローの力量を疑っている訳ではなく、むしろその逆なのだが。
可愛い可愛い愛しすぎて困っちゃうvくらい大ッ事な愛息子のお手伝いをして、
少しでも負担を減らしてやりたいなーと思っているだけなのだが。
その後、仕方なしに有り余るほどの書物を読んだりレンタルビデオを借りに行ったり、何やらテレビや新聞、口コミ等で今流行のに手をつけてみたりもしたが、どうもイマイチ楽しめないのだ。
そんな時問題になっていたベビーブームによる育児問題。殺し屋廃業とは言え、
忙しさは変わらない―――いや、180度方向転換をした為以前より更に多忙なのだ。
よって設置された託児所。マジックの提案であった。自ら園長&主任になり結構生きがいを持って
世話をしているらしい。ちなみに殆ど2歳未満の乳児達がこの託児所で過ごしている。
夜も更け、ここ前総帥の寝室ではキングサイズのベッドに二人の男が寄り添って枕を共にしている。
一人はこの部屋の主、もう一人はその息子で現総帥。先程の疲れもあってか、
シンタロ―の瞼は閉じかかっている。マジックは息子の豊かな髪の毛を梳き、背中を宥めるように
摩りながら安眠へと導いていた。ちなみに二人が先程まで何をしていたのかは聞くだけ野暮です(笑)
しかしふと、マジックは思い出したように眠りかけていた息子にある提案をした。
「ねぇ、シンちゃん」
「・・・んだよ」
「シンちゃんもさぁ、数日間託児所で子供達のお世話してみないかい?」
「何でまた」
「シンちゃん今まで託児所に関してはノータッチだったでしょ?」
何事も体験だよvとマジックが畳み込む。それでもどこか渋るような息子に疑問を持つ。
子どもは嫌いじゃない筈―――いや、むしろ子ども好きなシンタロ―だ。渋る理由が見当たらない。
よいせっと身体を起こして溜息をつくシンタロー。
「今、総帥の仕事で手一杯だし・・・」
そうか。納得した。
まだ息子は総帥に就任してから日が浅い。慣れぬディスクワークに四苦八苦しており、ろくに休む時間も取れない。徹夜だって少なくはない。マジックも同じ道を歩んだからこそ十分に分かる。もはや総帥業からは引退したものの、総帥という地位について数十年経っても毎日が目まぐるしく忙しかった。
「だからさ・・・」
無理だと呟くシンタローの額にそっと口付ける。
「くすぐってぇ・・・」
文句を言いながらもクスクスと笑うシンタローにつられるような形でマジックも微笑む。
「大丈夫だよvパパが何とかしてみせるからvv」
「何とかって何だよ」
「シンちゃんは安心してパパに任せてvね?決定v託児所実習vv」
パパが手取り足取り教えてあげるからね~♪と浮かれ気味な父親を見て、シンタローは内心、
―――ただ単に俺と一緒に何かがしたいだけなんだろーけどな、実際。
呆れながらも愛されてると実感するのはこんな時だったりして、
それが妙にくすぐったくて・・・嬉しかったりする。
ばさっ毛布を顔が隠れるくらい被る。トマト顔はあまり見られたくない。
「わぁーった。やるからもう寝るぞ」
「おやすみvシンちゃんvv」
シンタローの毛布を少しはいで、再額に口付ける。
夜明けはまだ遠い・・・。
(シンちゃん一人称)
親父が俺のどっかの短大生のレポートのように溜まりに溜まりまくっている仕事にどう手を回したかは知らんが、託児所実習の日までには結構片付いていた。勿論俺も一生懸命こなしたが、最終日にはまだかなり残ってた筈なんだが・・・。まあいいか、見直してみたけど完璧な出来の書類だったし。
親父に渡されたガンマ団の託児所への地図を片手に歩を進める。総帥だが分からない施設は沢山ある。ここはやたらと広いのだし、建物も殆ど似通っている。
数十分歩いてついた先――――。
「ここが親父のいうガンマ団の施設なんだろうな・・・」
多分・・・・・・いや、絶対。やけに可愛い動物やらお花やらが描かれたその建物は、
周りの無機質さを感じさせる建物とは明らかに異色でかなり浮いているし。
何より【ウエルカムvマジック園】と言うダサ過ぎる園名が入った看板がデカデカと掲げてあるし。
まあ園名はともかく、外見は託児所らしくていいかと、戸に手を掛ける。
「あれ?」
開かないぞ?なんかロックがしているみたいだ。
今日7:45に来る事は親父や働いている職員達は知ってる筈なんだがなー。
ふと見ればインターホン。
「これを押せばいいのか」
さあ押すぞという時に、がちゃっ内側からロックが解除された。
「シンちゃんいらっしゃい♪」
嬉々として現れたのは、黄色を基調とした≪くまのプーさん≫がデカデカとプリントされたプリチ~v
エプロン姿に頭に三角巾を被った育ての父親。片手には小せえ赤ん坊を抱えている。
「ほらカズキ君、シンタローお兄ちゃんにおはようは?ん?」
親父にしっかりと紅葉の手でしがみついている“カズキ君”は暫し俺の顔を物珍しそうに見ていたが、
急に視線を逸らして親父の胸に顔を埋めた。何か泣いてるみたいなんだけど・・・。
俺、そんなに悪人面してっかなぁ・・・。
「嫌われたのかな・・・?」
「ううん、『人見知り』だよ」
「あ、そうか」
そういう時期って幼児期にあるって聴いた事がある。確か前に親父が話したか。
『一歳の頃のシンちゃんはね~、あんまり人見知りはしなかったんだけど、
ハーレムにはいつまで経っても懐かなくって、毎回見た途端に泣き出しちゃって。
あんまりシンちゃんが可哀想だから、暫くの間ハーレムに遠征に行ってもらったんだvv』
と話してたな。(獅子舞が可哀想とは思わないらしい親子)
「ごめんね、シンちゃん。昨日言い忘れてたんだけどいつもドアはロックして、
用がある人はインターホン鳴らさなきゃいけなかったんだ」
「随分と用心深いな」
「大事な預かり者だからねv」
「ふーん」
以前まで人殺しを平気でこなしていた男は、今では育てる側に回ったんだな。
それは俺も同じ事だけど。
てとてととしっかりとした足取りで、二歳近くだと思う女の子が俺の足元に引っ付いてきた。
「だ~~vv」
「この子は俺に人見知りしないんだな」
「そうだね、まだクミコちゃんはあんまり人見知りしないみたいだから」
「ふ~~~ん」
詳しいよな親父。ちょっと以外かもとか思ったが、考えて見なくても納得出来るじゃねぇか。
この男はシンタローとコタロー二人の息子の父親なのだから。
―――って言っても、俺は実子じゃねぇけど。マジックの本当の息子はグンマで・・・・・・。
「シンちゃん?」
「あ、ううん。何でもねぇよ」
「じゃあ早速あそこの部屋―――『観察室』って書いてある部屋が見えるでしょ?
そこの右隣の部屋―――がロッカーあるからそこに荷物置いて着替えてきてね」
着替え終わって(着替えって言っても、親父みたいに三角巾被ってエプロン付けるだけだけど)
うがい手洗い、それから出勤簿に印、と。
「シンちゃ~~~ん。朝会始まるから来てね」
でかい声で遠くから俺を呼ぶな親父!まだ寝てる子どもとかが起きるだろ!
ちなみに俺のエプロンかなり濃いピンクを基調とした≪ハローキティちゃん≫がでっかくプリントされたやつ。言っとくが俺の趣味じゃねえ!昨夜俺が用意したエプロンは薄水色の無印エプロンだった筈・・・・・・・・・・・親父・・・勝手に摩り替えやがったな・・・。
持ってきたリュック開けてみてから気付いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
仕方ねえか、ま、この方が子どもは喜ぶだろうし。
朝会っても、廊下でやるのか。場所的にも子どもが集まってる『歩フク室』ってところで。
そこかの会議室とかでやるんじゃないんだな。
まぁそうか、子どもとかがしっかり視界に入るところに常にいないとなに起こるか分かんねぇし。
朝会内容はかなり細かかった。夜中に預けられる子どもはここで寝泊りで、夜勤者がしっかりと管理してるらしい。寝たらそのまんま起きないで朝まで寝てるって訳じゃねえんだなー。
驚くほど細かく子どものチェックしてる。
朝会終了後からはもう目が回るほど忙しかった!
飯食わせようとすれば逃げるわ泣くわ暴れるわスプーン投げるわ吐き出すわ、
食事だけでもこの調子で、その他もろもろもかなり30人近くの子どもに振り回された。
慣れない手つきで四苦八苦している俺の側には、親父が付きっ切りで、
「離れんか!」
と言ってもニコニコしていて、何がそんなに嬉しいんだか効果なし。
やっと昼寝の時間になって俺達も弁当食い終わった頃、か弱い、
けど・・・何て言うか・・・訴えるような泣き声が聞こえた。
俺は親父の裾を引っぱり泣き声のする部屋を指差す。
「何かあの部屋から独特の泣き声が聞こえんだけど」
「ああ、ミルクの時間か」
『観察室』とプレートが掲げられている一室に眠っているのは真っ赤な顔して泣き叫んでいる、
すっげー小せえ赤ん坊。ホントに顔真っ赤にして泣くんだなー。あ、だから“赤ちゃん”か。
「この子はコウ君、まだ4ヶ月になったばかりなんだよ。まだ首座ってないから気を付けてね」
「なあ、親父。結婚して子どもが出来て、旦那はガンマ団で仕事は分かる。
じゃあ何でこいつらは“ここ”にいるんだ?」
母親がいるだろうが。こんな小さい時期の子どもなら尚更、母親が育ててやるもんじゃねぇのか?何で託児所なんかに預けるのか分からない。まさか育児放棄や捨てられたとかじゃねぇだろーな・・・。
「この子達の“お母さん”達もここで働いてるから」
「はぁ!?」
「シンちゃん・・・総帥なのに知らなかったのかい?」
「う」
「戦闘系じゃないけどね。経理とか事務とかそういう細やかな作業をしてくれてるよ?」
今までは『殺し屋』だったからだろう、女性にはあまり関心の持てないガンマ団だが、心機一転して団員が女性と付き合って、その女性もガンマ団に関心を持ってきて旦那と同じ職場に就職か。
納得したような、でも微妙に複雑な俺の耳に嫌~~な台詞が入ってきた。
「ねえシンちゃん」
「あんだよ」
「こうしてると・・・・・・・・・・・・・・・幸せ家族v育児編vvって感じだよねv」
「死ね。んで、三途の川がホントにあちいか確かめて来い」
「酷いッ!シンちゃんてば」
知るか、アホ。いちいちオーバーリアクションすんじゃねーよ。コウが驚いて哺乳瓶から手ぇ離しちまったじゃねーか。ったく・・・・・・。
「子どもって・・・こんなに世話すんの大変だったのかよぉぉぉ~~~~~~~~;」
いや、以前パプワの世話してた時も大変だったけどな。
ロッカーに手をついてそのままずるずると床に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
体力には自信がある俺だが流石に今日一日終わった後はすっげー疲れた。
「ディスクワークばっかで、あんま体動かしてなかった・・・か・・・ら・・・・・・」
・・・・・・あれ?何か引っかかる。
「あっ・・・//////」
・・・体動かしてないっても、親父が夜求めてくると結構動くっていうか体力消耗させられるけど・・・・////////
「何考えてんだよ、俺・・・///////」
やけにリアルに思い出しちまった。やべえ・・・顔が火だる。
「何考えてるのv?」
「何ってナ――――――――――うわああぁぁあああああああああああぁ!!!!!!!!!!!!」
部屋の隅まで後ろ向きですっ飛んだ!!いきなり気配消して超接近するな!親父!!!!!
「見事なほど驚いてくれたね」
「テメエがいきなり現れるからだろ!!!」
「シンちゃん、静かにねv子ども達がびっくりしちゃうし」
ぐぅぅうう・・・。何かすっげー悔しい。正論だが。
「何かシンちゃんが真っ赤になって蹲ってるから、どうしたのかなー?って思ったから、
大丈夫かなーってそっと近付いたんだけど」
「別に何ともねぇよ」
「そうかい?じゃあ帰ろっかvv」
ぱしっ
「何気に俺の肩を引き寄せるな!」
「クスン。シンちゃんってば冷たい・・・」
「うっせえ!」
親父が軽く人差し指を唇に当てる。
「だから静かにってば」
アンタが変な事しなきゃ問題ねえんだよ!!!!(怒)
とにかく今日は疲れた。子ども達は可愛いと思うけど・・・やっぱり第一の感想は『疲れた』だろう。
だってのに!どうしてこのオヤジは元気に求めてくるかな!?今日はゆっくり寝かせろ!
第一アンタだって疲れてるだろうに!!俺以上に子どもの相手やその他こなしてただろ!!
なのに食事と風呂済ませて疲れたから今日は早く寝ようとした瞬間合鍵で扉を開けて、
有無を言わさずアンタの寝室に連れ込まれて!!!はぁ・・・、何されるか分かる事が嫌・・・。
「シンちゃんv“ご飯とデザートは入るところが別腹”って言うの聞いた事ある?」
「それってただ単にもっと食いたいヤツの言い訳だろ」
特に若い?女性が使う(かもしんない)。
「でもね、某B級番組が調べたところによれば、ある女性に胃が満腹なるまで食べてもらったんだけど、デザートを見せた途端に少し胃のスペースが空いたんだよ。
パパもテレビ越しだけど実際見てビックリしちゃった☆★」
「で?それと今俺を押し倒してるっつー状況とどう関係あんだよ」
俺は疲れてるんだ!ヤったらもっと疲れるだろーが。
「つまりね、仕事の疲れとシンちゃんとの愛の行為により生じる疲れは別物vv」
おおぉぉ~~~~~~い!!!!
ふざけんな!!食欲と性欲ごっちゃにしてんじゃねぇー!!!!!!!!!!
「まあ託児所作ったのパパだし、疲れても嫌じゃないんだけどねvシンちゃんは?」
「大変だったけど」
「ケド?」
「全然懐いてくれない子が段々懐いてきてくれたり、抱っこする時乳児とは思えないくらいの力で
ギュって俺にしがみついてくると、頼られてるなって感じて温かい気持ちになるよな・・・」
「そうだね。シンちゃんもあの年の頃パパがいなくなるともう泣きだしっちゃって。で、パパが飛んで
いって抱っこするとピタリと泣き止んで、『もうどこにも行かないでー』って抱きついて」
「STOP!」
「どうしたんだい?」
あんなー、このままアンタの話聞いてたら夜が明けるわ。
俺は早く寝たい。っつー訳で早く自室に帰りたいんだが!?
ぽんっ
???親父の手が俺の両肩に置かれるのは何故だ?
「そうだね。長々と話し込んじゃったらシンちゃんとの熱い夜が明けちゃうよねv」
「だから俺は!んぐっ」
唇塞がれた・・・。
あとは・・・・・・明日起きれっかなー・・・。(現実逃避)
(マジック一人称)
「シンちゃん、起きてる?」
「起きてる・・・」
「あ、何か怒ってる」
「当たり前だ。
明日からまた総帥としての仕事が山のように待ってるってのに無理させやがって・・・」
ブツクサと文句を言う言葉に棘あるなぁ。でも声に張りが無い。
もう精も根も尽きちゃったってやつか。パパなんか、後五か
「STOP」
「え、何が?」
いきなりSTOPって・・・?パパ何も言ってないよ??
「今、物凄くSTOPかけなきゃいけないような気がしたんだよ」
感がいいねぇ・・・シンちゃん。
「そう言えば・・・コタローの事なんだけど・・・」
ぴくっ
あ、やっぱりコタローの事に関しての反応はほかの事よりも敏感に感じるようだ。
「自分でも・・・今までコタローには、随分悲しい想いをさせたと思っている」
シンちゃんは何も言わずに、でも真剣に私の話に耳を傾けてくれていた。
「これからは良い父親になろうと思っている」
「親父・・・」
あ、初めてこっち向いてくれた。――――――――――いかんいかん、今はその話じゃない。
「サービスが・・・コタローには母親が必要じゃないかって言ってね」
「・・・・・・・・・・」
「再婚・・・しようと思うんだ」
困惑した風でもなく、しっかりと私の言葉を受け止めようとする真剣な黒曜石の瞳。
「シンちゃんはどう思うかい?」
「どうって・・・」
「反対?」
「反対はしねーよ。しねーけど・・・」
少し、間が空いた。おずおずとした口調で聞いてくる。
「相手・・・いんのか?」
いるから言ってるんじゃないか。肯定する私にシンちゃんは肩の力を抜いて笑った。
「そっか、おめっとーさん。随分遅い再婚だけどな」
「遅いは余計だよ」
クスクスとベッドで笑い合う。
シンちゃんは頭に手を組んでごろりと枕に頭を預け、天井の薄明かりに目をやる。
「んじゃ、俺も親父に負けてらんねーな。気立てが良くて優しい奥さん見つけねーと」
は?何を言ってるんだ?この子は。
「ちょっと待って!シンちゃん」
「あん?」
「パパの再婚相手はシンちゃんなのに、何でシンちゃんがお嫁さんを探すんだい?」
??????あれ、シンちゃん、まるで鳩が豆鉄砲喰らったような顔してる。
何かおかしな事でも言ったかな。
「ちょ――――――――――――――っと待て!待ってくれよ!!」
「何だいv?」
何かシンちゃんが黒い影背負ってブツブツ言ってる。どうしたのか。
がしっ
まだ暗い顔でシンちゃんが私の肩を掴んできた。どうしたんだろ、さっきから。
あ、もう一回vって言う意思表示vv?(思い込み激しいパパンって若いねv)
「コタローに母親っていう存在が必要なのは分かる!アンタが再婚するのも一向に構わねえ!
で、どうして俺がアンタの嫁になんきゃねんねーんだよ!女にしろ!女!!」
「何でだい?パパはシンちゃんとしか愛せないし・・・」
勿論グンちゃんやコタロー、キンタローは家族の意味で愛してるけど。
「結婚vしようねvv」
「い・や・だ!」
あかんべーするシンちゃんも可愛いなぁ・・・vvでも・・・。
「シンちゃんは私が嫌いかい?」
ここで“パパ”ではなく、“私”というのにはちゃんと意味がある。
だって結婚したらパパじゃなく・・・・・・・・・アレ・・?
「ねえシンちゃん」
「あ?」
「結婚したらパパはシンちゃんの事はシンちゃんのままでいいよね。
でもシンちゃんはパパの事なんて呼べばいいんだろうねぇ」
「知るか!アンタと結婚なんかしねえよ!!」
「じゃあシンちゃんは誰と結婚したいんだい?」
「え・・・・・・」
急にシンちゃんの勢いがぴたりと止まり、絡め合っていた視線が下降する。
口をもごもご小さく動かしているけど、音にならないらしい。
シンちゃん自身どう言いたいのか分かっていないというところだろうか。
しかし、今までシンちゃんは文句を言いながらも私と肌を重ねる事を頑なに拒まなかった。
それは私がシンちゃんを息子として見ているのと同時に、恋人としてみているシンちゃんも私を父親、
そして恋人だと見ていてくれてるのだと、疑う事もなかった。
なのにシンちゃんは違うのかい?私のただの思い過ごしか?幻想夢なのか?シンタロー。
「ほら・・・だってよ!俺もアンタも男だし・・・」
「だから?」
「だからって・・・・・・ええと・・・、ほら!後継者とかどうすんだよ!
俺が結婚してその後を継ぐ子どもとか・・・孫の顔見てぇだろ?」
「後継者は何もシンちゃんの子じゃなくても、いいんじゃないかい?グンちゃんやキンタロー、
コタローだっている。ほら、私の大事な息子は四人もいる。
私は恋愛対象ではシンタローが側にいさえすればそれでいいんだよ」
「・・・・・・・・・・」
そんな思いつめた顔をさせちゃって・・・でも、私ばかりシンちゃんに「好き」「愛してるよ」って
言わせるのはずるくないかい?一度は聞いてみたいじゃないか。結婚願望も勿論本気だよ?
沈黙はどれだけ続いたのだろうか。ようやくシンタローが口を開く、音を紡ぐ。
「俺は・・・」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・わりい・・・もうちょい・・・タンマな・・・」
「分かった。待ってるから・・・もう少しだけ・・・・・・」
ずっと君だけを待ってるよ。
君の心を信じてるよ。
決して私だけの一方通行じゃあないよね?
ねえ・・・シンタロー・・・・・・。
タイムリミットまで・・・あと・・・僅か・・・・・・・・・・・。
END
★あとがき★
ひそか様から頂きました挿絵?四枚のお礼小説マジック×シンタローでした☆★なんか甘いですねー。
ラブラブ書くの苦手なのに・・・。実はこれ、40%くらい実話が入ってます。
妖(あや)は2003年の2月に乳児園に10日間実習に行って来て、この【ウエルカムvマジック園】はそこがモデルです。
実習内容もこんな感じで死にそうでしたよ・・・。
意外と難しかったのはパパンです。口調とか。でもこれでも妖にしたら驚異的なスピードで書き上げました。
(2003・5・2)
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今までは殺し屋として君臨していたガンマ団。
サバイバルな男達の群れなそこには女性は殆どいない。
その為か団員には女性との縁がなく、また稀に縁あったとしても相手が『殺し屋』だと知れれば、
たちまち女性は逃げていく。
よって家庭を持つなどと言う者はガンマ団員では非常に小数であったのだが。
しかし今は殺し屋から180度変えた為、相変らず女性職員は少ないものの外で交際が順調にいっている団員が増えたらしく、結婚式の御呼ばれなんかも急激に増えた。
それはそれでとてもめでたい事なのだが、
ここで、どこの企業でも一度は頭を抱えてしまう問題が発生してしまったのだ。
結婚ともなれば次はそう、子どもである。
ベビーブームが到来し、結果、子どもを預かる所謂『託児所』なる場所が出来た。
しかも園長は、
「はいはぁ~~~いvvみずきちゃんはミルク160CCだったよね~~♪」
マジック前総帥その人であった。
総帥の座を息子のシンタロ―に継承した後、はっきり言って彼はかつてない暇を持て余していた。
最初は息子のディスクワ―クなどを手伝おう♪と張り切っていたものだが、当の新総帥本人に、
「この位自分で出来る!!テメエは老後を楽しんできやがれ!!」
と蹴りだされてしまった。シンタローとしてはもっと自分を信用して欲しいのだ。
決してマジックはシンタローの力量を疑っている訳ではなく、むしろその逆なのだが。
可愛い可愛い愛しすぎて困っちゃうvくらい大ッ事な愛息子のお手伝いをして、
少しでも負担を減らしてやりたいなーと思っているだけなのだが。
その後、仕方なしに有り余るほどの書物を読んだりレンタルビデオを借りに行ったり、何やらテレビや新聞、口コミ等で今流行のに手をつけてみたりもしたが、どうもイマイチ楽しめないのだ。
そんな時問題になっていたベビーブームによる育児問題。殺し屋廃業とは言え、
忙しさは変わらない―――いや、180度方向転換をした為以前より更に多忙なのだ。
よって設置された託児所。マジックの提案であった。自ら園長&主任になり結構生きがいを持って
世話をしているらしい。ちなみに殆ど2歳未満の乳児達がこの託児所で過ごしている。
夜も更け、ここ前総帥の寝室ではキングサイズのベッドに二人の男が寄り添って枕を共にしている。
一人はこの部屋の主、もう一人はその息子で現総帥。先程の疲れもあってか、
シンタロ―の瞼は閉じかかっている。マジックは息子の豊かな髪の毛を梳き、背中を宥めるように
摩りながら安眠へと導いていた。ちなみに二人が先程まで何をしていたのかは聞くだけ野暮です(笑)
しかしふと、マジックは思い出したように眠りかけていた息子にある提案をした。
「ねぇ、シンちゃん」
「・・・んだよ」
「シンちゃんもさぁ、数日間託児所で子供達のお世話してみないかい?」
「何でまた」
「シンちゃん今まで託児所に関してはノータッチだったでしょ?」
何事も体験だよvとマジックが畳み込む。それでもどこか渋るような息子に疑問を持つ。
子どもは嫌いじゃない筈―――いや、むしろ子ども好きなシンタロ―だ。渋る理由が見当たらない。
よいせっと身体を起こして溜息をつくシンタロー。
「今、総帥の仕事で手一杯だし・・・」
そうか。納得した。
まだ息子は総帥に就任してから日が浅い。慣れぬディスクワークに四苦八苦しており、ろくに休む時間も取れない。徹夜だって少なくはない。マジックも同じ道を歩んだからこそ十分に分かる。もはや総帥業からは引退したものの、総帥という地位について数十年経っても毎日が目まぐるしく忙しかった。
「だからさ・・・」
無理だと呟くシンタローの額にそっと口付ける。
「くすぐってぇ・・・」
文句を言いながらもクスクスと笑うシンタローにつられるような形でマジックも微笑む。
「大丈夫だよvパパが何とかしてみせるからvv」
「何とかって何だよ」
「シンちゃんは安心してパパに任せてvね?決定v託児所実習vv」
パパが手取り足取り教えてあげるからね~♪と浮かれ気味な父親を見て、シンタローは内心、
―――ただ単に俺と一緒に何かがしたいだけなんだろーけどな、実際。
呆れながらも愛されてると実感するのはこんな時だったりして、
それが妙にくすぐったくて・・・嬉しかったりする。
ばさっ毛布を顔が隠れるくらい被る。トマト顔はあまり見られたくない。
「わぁーった。やるからもう寝るぞ」
「おやすみvシンちゃんvv」
シンタローの毛布を少しはいで、再額に口付ける。
夜明けはまだ遠い・・・。
(シンちゃん一人称)
親父が俺のどっかの短大生のレポートのように溜まりに溜まりまくっている仕事にどう手を回したかは知らんが、託児所実習の日までには結構片付いていた。勿論俺も一生懸命こなしたが、最終日にはまだかなり残ってた筈なんだが・・・。まあいいか、見直してみたけど完璧な出来の書類だったし。
親父に渡されたガンマ団の託児所への地図を片手に歩を進める。総帥だが分からない施設は沢山ある。ここはやたらと広いのだし、建物も殆ど似通っている。
数十分歩いてついた先――――。
「ここが親父のいうガンマ団の施設なんだろうな・・・」
多分・・・・・・いや、絶対。やけに可愛い動物やらお花やらが描かれたその建物は、
周りの無機質さを感じさせる建物とは明らかに異色でかなり浮いているし。
何より【ウエルカムvマジック園】と言うダサ過ぎる園名が入った看板がデカデカと掲げてあるし。
まあ園名はともかく、外見は託児所らしくていいかと、戸に手を掛ける。
「あれ?」
開かないぞ?なんかロックがしているみたいだ。
今日7:45に来る事は親父や働いている職員達は知ってる筈なんだがなー。
ふと見ればインターホン。
「これを押せばいいのか」
さあ押すぞという時に、がちゃっ内側からロックが解除された。
「シンちゃんいらっしゃい♪」
嬉々として現れたのは、黄色を基調とした≪くまのプーさん≫がデカデカとプリントされたプリチ~v
エプロン姿に頭に三角巾を被った育ての父親。片手には小せえ赤ん坊を抱えている。
「ほらカズキ君、シンタローお兄ちゃんにおはようは?ん?」
親父にしっかりと紅葉の手でしがみついている“カズキ君”は暫し俺の顔を物珍しそうに見ていたが、
急に視線を逸らして親父の胸に顔を埋めた。何か泣いてるみたいなんだけど・・・。
俺、そんなに悪人面してっかなぁ・・・。
「嫌われたのかな・・・?」
「ううん、『人見知り』だよ」
「あ、そうか」
そういう時期って幼児期にあるって聴いた事がある。確か前に親父が話したか。
『一歳の頃のシンちゃんはね~、あんまり人見知りはしなかったんだけど、
ハーレムにはいつまで経っても懐かなくって、毎回見た途端に泣き出しちゃって。
あんまりシンちゃんが可哀想だから、暫くの間ハーレムに遠征に行ってもらったんだvv』
と話してたな。(獅子舞が可哀想とは思わないらしい親子)
「ごめんね、シンちゃん。昨日言い忘れてたんだけどいつもドアはロックして、
用がある人はインターホン鳴らさなきゃいけなかったんだ」
「随分と用心深いな」
「大事な預かり者だからねv」
「ふーん」
以前まで人殺しを平気でこなしていた男は、今では育てる側に回ったんだな。
それは俺も同じ事だけど。
てとてととしっかりとした足取りで、二歳近くだと思う女の子が俺の足元に引っ付いてきた。
「だ~~vv」
「この子は俺に人見知りしないんだな」
「そうだね、まだクミコちゃんはあんまり人見知りしないみたいだから」
「ふ~~~ん」
詳しいよな親父。ちょっと以外かもとか思ったが、考えて見なくても納得出来るじゃねぇか。
この男はシンタローとコタロー二人の息子の父親なのだから。
―――って言っても、俺は実子じゃねぇけど。マジックの本当の息子はグンマで・・・・・・。
「シンちゃん?」
「あ、ううん。何でもねぇよ」
「じゃあ早速あそこの部屋―――『観察室』って書いてある部屋が見えるでしょ?
そこの右隣の部屋―――がロッカーあるからそこに荷物置いて着替えてきてね」
着替え終わって(着替えって言っても、親父みたいに三角巾被ってエプロン付けるだけだけど)
うがい手洗い、それから出勤簿に印、と。
「シンちゃ~~~ん。朝会始まるから来てね」
でかい声で遠くから俺を呼ぶな親父!まだ寝てる子どもとかが起きるだろ!
ちなみに俺のエプロンかなり濃いピンクを基調とした≪ハローキティちゃん≫がでっかくプリントされたやつ。言っとくが俺の趣味じゃねえ!昨夜俺が用意したエプロンは薄水色の無印エプロンだった筈・・・・・・・・・・・親父・・・勝手に摩り替えやがったな・・・。
持ってきたリュック開けてみてから気付いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
仕方ねえか、ま、この方が子どもは喜ぶだろうし。
朝会っても、廊下でやるのか。場所的にも子どもが集まってる『歩フク室』ってところで。
そこかの会議室とかでやるんじゃないんだな。
まぁそうか、子どもとかがしっかり視界に入るところに常にいないとなに起こるか分かんねぇし。
朝会内容はかなり細かかった。夜中に預けられる子どもはここで寝泊りで、夜勤者がしっかりと管理してるらしい。寝たらそのまんま起きないで朝まで寝てるって訳じゃねえんだなー。
驚くほど細かく子どものチェックしてる。
朝会終了後からはもう目が回るほど忙しかった!
飯食わせようとすれば逃げるわ泣くわ暴れるわスプーン投げるわ吐き出すわ、
食事だけでもこの調子で、その他もろもろもかなり30人近くの子どもに振り回された。
慣れない手つきで四苦八苦している俺の側には、親父が付きっ切りで、
「離れんか!」
と言ってもニコニコしていて、何がそんなに嬉しいんだか効果なし。
やっと昼寝の時間になって俺達も弁当食い終わった頃、か弱い、
けど・・・何て言うか・・・訴えるような泣き声が聞こえた。
俺は親父の裾を引っぱり泣き声のする部屋を指差す。
「何かあの部屋から独特の泣き声が聞こえんだけど」
「ああ、ミルクの時間か」
『観察室』とプレートが掲げられている一室に眠っているのは真っ赤な顔して泣き叫んでいる、
すっげー小せえ赤ん坊。ホントに顔真っ赤にして泣くんだなー。あ、だから“赤ちゃん”か。
「この子はコウ君、まだ4ヶ月になったばかりなんだよ。まだ首座ってないから気を付けてね」
「なあ、親父。結婚して子どもが出来て、旦那はガンマ団で仕事は分かる。
じゃあ何でこいつらは“ここ”にいるんだ?」
母親がいるだろうが。こんな小さい時期の子どもなら尚更、母親が育ててやるもんじゃねぇのか?何で託児所なんかに預けるのか分からない。まさか育児放棄や捨てられたとかじゃねぇだろーな・・・。
「この子達の“お母さん”達もここで働いてるから」
「はぁ!?」
「シンちゃん・・・総帥なのに知らなかったのかい?」
「う」
「戦闘系じゃないけどね。経理とか事務とかそういう細やかな作業をしてくれてるよ?」
今までは『殺し屋』だったからだろう、女性にはあまり関心の持てないガンマ団だが、心機一転して団員が女性と付き合って、その女性もガンマ団に関心を持ってきて旦那と同じ職場に就職か。
納得したような、でも微妙に複雑な俺の耳に嫌~~な台詞が入ってきた。
「ねえシンちゃん」
「あんだよ」
「こうしてると・・・・・・・・・・・・・・・幸せ家族v育児編vvって感じだよねv」
「死ね。んで、三途の川がホントにあちいか確かめて来い」
「酷いッ!シンちゃんてば」
知るか、アホ。いちいちオーバーリアクションすんじゃねーよ。コウが驚いて哺乳瓶から手ぇ離しちまったじゃねーか。ったく・・・・・・。
「子どもって・・・こんなに世話すんの大変だったのかよぉぉぉ~~~~~~~~;」
いや、以前パプワの世話してた時も大変だったけどな。
ロッカーに手をついてそのままずるずると床に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
体力には自信がある俺だが流石に今日一日終わった後はすっげー疲れた。
「ディスクワークばっかで、あんま体動かしてなかった・・・か・・・ら・・・・・・」
・・・・・・あれ?何か引っかかる。
「あっ・・・//////」
・・・体動かしてないっても、親父が夜求めてくると結構動くっていうか体力消耗させられるけど・・・・////////
「何考えてんだよ、俺・・・///////」
やけにリアルに思い出しちまった。やべえ・・・顔が火だる。
「何考えてるのv?」
「何ってナ――――――――――うわああぁぁあああああああああああぁ!!!!!!!!!!!!」
部屋の隅まで後ろ向きですっ飛んだ!!いきなり気配消して超接近するな!親父!!!!!
「見事なほど驚いてくれたね」
「テメエがいきなり現れるからだろ!!!」
「シンちゃん、静かにねv子ども達がびっくりしちゃうし」
ぐぅぅうう・・・。何かすっげー悔しい。正論だが。
「何かシンちゃんが真っ赤になって蹲ってるから、どうしたのかなー?って思ったから、
大丈夫かなーってそっと近付いたんだけど」
「別に何ともねぇよ」
「そうかい?じゃあ帰ろっかvv」
ぱしっ
「何気に俺の肩を引き寄せるな!」
「クスン。シンちゃんってば冷たい・・・」
「うっせえ!」
親父が軽く人差し指を唇に当てる。
「だから静かにってば」
アンタが変な事しなきゃ問題ねえんだよ!!!!(怒)
とにかく今日は疲れた。子ども達は可愛いと思うけど・・・やっぱり第一の感想は『疲れた』だろう。
だってのに!どうしてこのオヤジは元気に求めてくるかな!?今日はゆっくり寝かせろ!
第一アンタだって疲れてるだろうに!!俺以上に子どもの相手やその他こなしてただろ!!
なのに食事と風呂済ませて疲れたから今日は早く寝ようとした瞬間合鍵で扉を開けて、
有無を言わさずアンタの寝室に連れ込まれて!!!はぁ・・・、何されるか分かる事が嫌・・・。
「シンちゃんv“ご飯とデザートは入るところが別腹”って言うの聞いた事ある?」
「それってただ単にもっと食いたいヤツの言い訳だろ」
特に若い?女性が使う(かもしんない)。
「でもね、某B級番組が調べたところによれば、ある女性に胃が満腹なるまで食べてもらったんだけど、デザートを見せた途端に少し胃のスペースが空いたんだよ。
パパもテレビ越しだけど実際見てビックリしちゃった☆★」
「で?それと今俺を押し倒してるっつー状況とどう関係あんだよ」
俺は疲れてるんだ!ヤったらもっと疲れるだろーが。
「つまりね、仕事の疲れとシンちゃんとの愛の行為により生じる疲れは別物vv」
おおぉぉ~~~~~~い!!!!
ふざけんな!!食欲と性欲ごっちゃにしてんじゃねぇー!!!!!!!!!!
「まあ託児所作ったのパパだし、疲れても嫌じゃないんだけどねvシンちゃんは?」
「大変だったけど」
「ケド?」
「全然懐いてくれない子が段々懐いてきてくれたり、抱っこする時乳児とは思えないくらいの力で
ギュって俺にしがみついてくると、頼られてるなって感じて温かい気持ちになるよな・・・」
「そうだね。シンちゃんもあの年の頃パパがいなくなるともう泣きだしっちゃって。で、パパが飛んで
いって抱っこするとピタリと泣き止んで、『もうどこにも行かないでー』って抱きついて」
「STOP!」
「どうしたんだい?」
あんなー、このままアンタの話聞いてたら夜が明けるわ。
俺は早く寝たい。っつー訳で早く自室に帰りたいんだが!?
ぽんっ
???親父の手が俺の両肩に置かれるのは何故だ?
「そうだね。長々と話し込んじゃったらシンちゃんとの熱い夜が明けちゃうよねv」
「だから俺は!んぐっ」
唇塞がれた・・・。
あとは・・・・・・明日起きれっかなー・・・。(現実逃避)
(マジック一人称)
「シンちゃん、起きてる?」
「起きてる・・・」
「あ、何か怒ってる」
「当たり前だ。
明日からまた総帥としての仕事が山のように待ってるってのに無理させやがって・・・」
ブツクサと文句を言う言葉に棘あるなぁ。でも声に張りが無い。
もう精も根も尽きちゃったってやつか。パパなんか、後五か
「STOP」
「え、何が?」
いきなりSTOPって・・・?パパ何も言ってないよ??
「今、物凄くSTOPかけなきゃいけないような気がしたんだよ」
感がいいねぇ・・・シンちゃん。
「そう言えば・・・コタローの事なんだけど・・・」
ぴくっ
あ、やっぱりコタローの事に関しての反応はほかの事よりも敏感に感じるようだ。
「自分でも・・・今までコタローには、随分悲しい想いをさせたと思っている」
シンちゃんは何も言わずに、でも真剣に私の話に耳を傾けてくれていた。
「これからは良い父親になろうと思っている」
「親父・・・」
あ、初めてこっち向いてくれた。――――――――――いかんいかん、今はその話じゃない。
「サービスが・・・コタローには母親が必要じゃないかって言ってね」
「・・・・・・・・・・」
「再婚・・・しようと思うんだ」
困惑した風でもなく、しっかりと私の言葉を受け止めようとする真剣な黒曜石の瞳。
「シンちゃんはどう思うかい?」
「どうって・・・」
「反対?」
「反対はしねーよ。しねーけど・・・」
少し、間が空いた。おずおずとした口調で聞いてくる。
「相手・・・いんのか?」
いるから言ってるんじゃないか。肯定する私にシンちゃんは肩の力を抜いて笑った。
「そっか、おめっとーさん。随分遅い再婚だけどな」
「遅いは余計だよ」
クスクスとベッドで笑い合う。
シンちゃんは頭に手を組んでごろりと枕に頭を預け、天井の薄明かりに目をやる。
「んじゃ、俺も親父に負けてらんねーな。気立てが良くて優しい奥さん見つけねーと」
は?何を言ってるんだ?この子は。
「ちょっと待って!シンちゃん」
「あん?」
「パパの再婚相手はシンちゃんなのに、何でシンちゃんがお嫁さんを探すんだい?」
??????あれ、シンちゃん、まるで鳩が豆鉄砲喰らったような顔してる。
何かおかしな事でも言ったかな。
「ちょ――――――――――――――っと待て!待ってくれよ!!」
「何だいv?」
何かシンちゃんが黒い影背負ってブツブツ言ってる。どうしたのか。
がしっ
まだ暗い顔でシンちゃんが私の肩を掴んできた。どうしたんだろ、さっきから。
あ、もう一回vって言う意思表示vv?(思い込み激しいパパンって若いねv)
「コタローに母親っていう存在が必要なのは分かる!アンタが再婚するのも一向に構わねえ!
で、どうして俺がアンタの嫁になんきゃねんねーんだよ!女にしろ!女!!」
「何でだい?パパはシンちゃんとしか愛せないし・・・」
勿論グンちゃんやコタロー、キンタローは家族の意味で愛してるけど。
「結婚vしようねvv」
「い・や・だ!」
あかんべーするシンちゃんも可愛いなぁ・・・vvでも・・・。
「シンちゃんは私が嫌いかい?」
ここで“パパ”ではなく、“私”というのにはちゃんと意味がある。
だって結婚したらパパじゃなく・・・・・・・・・アレ・・?
「ねえシンちゃん」
「あ?」
「結婚したらパパはシンちゃんの事はシンちゃんのままでいいよね。
でもシンちゃんはパパの事なんて呼べばいいんだろうねぇ」
「知るか!アンタと結婚なんかしねえよ!!」
「じゃあシンちゃんは誰と結婚したいんだい?」
「え・・・・・・」
急にシンちゃんの勢いがぴたりと止まり、絡め合っていた視線が下降する。
口をもごもご小さく動かしているけど、音にならないらしい。
シンちゃん自身どう言いたいのか分かっていないというところだろうか。
しかし、今までシンちゃんは文句を言いながらも私と肌を重ねる事を頑なに拒まなかった。
それは私がシンちゃんを息子として見ているのと同時に、恋人としてみているシンちゃんも私を父親、
そして恋人だと見ていてくれてるのだと、疑う事もなかった。
なのにシンちゃんは違うのかい?私のただの思い過ごしか?幻想夢なのか?シンタロー。
「ほら・・・だってよ!俺もアンタも男だし・・・」
「だから?」
「だからって・・・・・・ええと・・・、ほら!後継者とかどうすんだよ!
俺が結婚してその後を継ぐ子どもとか・・・孫の顔見てぇだろ?」
「後継者は何もシンちゃんの子じゃなくても、いいんじゃないかい?グンちゃんやキンタロー、
コタローだっている。ほら、私の大事な息子は四人もいる。
私は恋愛対象ではシンタローが側にいさえすればそれでいいんだよ」
「・・・・・・・・・・」
そんな思いつめた顔をさせちゃって・・・でも、私ばかりシンちゃんに「好き」「愛してるよ」って
言わせるのはずるくないかい?一度は聞いてみたいじゃないか。結婚願望も勿論本気だよ?
沈黙はどれだけ続いたのだろうか。ようやくシンタローが口を開く、音を紡ぐ。
「俺は・・・」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・わりい・・・もうちょい・・・タンマな・・・」
「分かった。待ってるから・・・もう少しだけ・・・・・・」
ずっと君だけを待ってるよ。
君の心を信じてるよ。
決して私だけの一方通行じゃあないよね?
ねえ・・・シンタロー・・・・・・。
タイムリミットまで・・・あと・・・僅か・・・・・・・・・・・。
END
★あとがき★
ひそか様から頂きました挿絵?四枚のお礼小説マジック×シンタローでした☆★なんか甘いですねー。
ラブラブ書くの苦手なのに・・・。実はこれ、40%くらい実話が入ってます。
妖(あや)は2003年の2月に乳児園に10日間実習に行って来て、この【ウエルカムvマジック園】はそこがモデルです。
実習内容もこんな感じで死にそうでしたよ・・・。
意外と難しかったのはパパンです。口調とか。でもこれでも妖にしたら驚異的なスピードで書き上げました。
(2003・5・2)
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