今日は私、マジックの誕生日である。
総帥であった頃は各国の現場へと忙しく飛び回っていたものだが、最愛の息子に総帥の座を譲ってからと言うものの暇な時間が増えて仕方が無い。暇つぶしに書いた本も飛ぶように売れてサイン会に各地を回る身であってもやはり暇な時間と言うものは存在していて…本日も手空きの日であり、ほう…と深く溜息を吐く。別に己の誕生日にはこだわりは無いが…
嗚呼、シンタロー…今年は私の誕生日を祝ってくれるのだろうか…
嗚呼、シンちゃん…パパは寂しくて寂しくて死んでしまいそうだよ…
だから…早くパパの所に来て、昔の様に私にとびきりの笑顔を見せておくれ…?
******************************************************
折角の休日も無駄に出来ないといそいそとデジタルカメラを取り出して大型のテレビへと接続をする。同時に取り出した大量のDVD-RAMをセットして編集を開始する。
『パパァ!僕、パパの事大好きだよ!』
『父さん…その…有難う、スゲェ嬉しいよ!』
次々に画面に現れる愛しい息子の笑顔、何度見ても良い…その笑顔をパパに滅多に向けてくれなくなったのは何時からだろうか…ああ、コタローを幽閉してからか。それ以来あの子は私の前では益々反抗ばかりするようになって…それもまた愛しかったのも事実だが。
ああ、いけないいけない。編集する時は楽しい気持ちでしなくては後ほど見返した時にも影響が残るからね。
首を軽く横に振ると気を取り直して編集を始める。視聴用・保存用・布教用・その他…沢山コピーも取らないとね。
暫く編集に没頭していたが不意に聞こえたドアを叩く音。遠慮がちなそれでも特殊なそのノックの仕方をする人物は一人しか思い浮かばず、機材の電源を切って当然の嬉しさ全開の声で歓迎する。
「シンちゃんかい?遠慮せずに入っておいで?」
少しの間があって扉が開くとその隙間から顔を覗かせた人物…ああ、シンちゃん!パパはお前を待っていたんだよ?両腕を広げて出迎える。少し大人しい態度に私を伺う表情を浮かべながら私に近づく息子…嗚呼、その初々しく幼さを感じさせる表情もまた素敵だよ!でも折角シンちゃんの為に広げた腕に飛び込む事はなく視線を知らした息子は私の少し手前で止まり、大袈裟に溜息を吐いた。
ええっ!?何、何だいシンちゃん!パパ、何か可笑しい事でもしたかい!?
「マ………えーっと、父さん…鼻血…」
その言葉と共に差し出されたティッシュの袋、ああ…可愛いシンちゃんを堪能していたから何時の間にか流れていたようだ。
鼻血を拭き取り終えると赤く染まったティッシュをゴミ箱に捨てて、再び笑顔で出迎える。
「シンちゃん…今日という日をお前と過ごせるだなんて嬉しいよ…さあ、パパの隣にでも座りなさい。ああ、紅茶も淹れようね。アップルティで構わないだろう?」
「え、でも今日は父さんの誕生日だろう?俺が淹れても良いケド」
「はは、その言葉だけでパパは充分だよ。良いから座っておいで、お前が側に居るだけで幸せなんだからね?」
その一言にそれ以上言わず戸惑い気味にソファに腰を下ろした息子を確認すると、部屋の奥に備え付けのミニキッチンで紅茶の用意をする。お気に入りのメーカーの紅茶葉を二人分に妖精さんの分をプラスしてポットに入れてお湯を注ぐと良い香りが漂い始める。鼻歌交じりにポットとカップとソーサー、それに皿に乗せたクッキーをトレイに乗せて息子の元へと戻る。ローテーブルの上に運んできた物を並べる。良い感じに蒸した紅茶をカップに注いで息子の前へと置くとシンちゃんの隣に深々と腰を掛ける。その様子に目もくれずに両手を膝の上で組んで沈黙しているシンタロー…不意に私に向けられた顔、人懐っこい柔らかい笑顔を浮かべて一言。
「父さん、誕生日おめでとう!俺に出来る事は少ないけれど…今日は父さんの為に何かしたいと思うんだ。何かして欲しい事あるか?」
プシューッ!
派手な音を立てて流れる鼻血をシンタローが慌ててタオルで拭った。
シンちゃん…嗚呼、シンタロー!そんな無防備な笑顔でそんな無防備な言葉でパパを悶え殺す気かい?
「わー!ちょ…ちょっとタンマ!!」
息子の叫びに失いかけた自我を取り戻す。どうやらあまりの感動に息子をソファへと押し倒して頬擦りしていたらしい。私の下で警戒心たっぷりに私を睨み上げるシンちゃんに自我は遥か銀河の彼方へと飛ばして、シンちゃんへと手を伸ばしてゆっくりとその頬を撫でる。僅かに震える声で抗議の声を上げる息子の言葉は華麗にスルーをして額へとキスを落とす。
「…っ!?マジック…ッ!!」
「シンタロー、お前がいけないんだよ?お前がそんなに可愛い事をするから…」
「誰が可愛いっ…んっ!」
私を拒否して逃げようとした息子の唇を自分のそれで塞ぐ。尚も抵抗する彼の肩をソファへと深く押し付けると更に深く唇を奪う。自分の息子を押し倒す…常識的では有り得ないがそれ以上に愛しい存在を前に、倒錯した意識の中止める事すら諦めた。
「シンちゃん…パパから逃げられる訳がないだろう?現役を退いてもまだ、お前よりは強いんだからね?」
「そういう問題じゃないっ!大体俺は…ッ!」
再び塞ぐ唇。しっかりと顎を押さえて、空いたもう片方の手で長い黒髪を優しく梳く…何時もと何処か違う肌触りを特に気にするでもなく暫くそうしていると突然大きな音と共に扉が開いた。何事かと唇を離して上半身を起こして入り口を見る。真っ赤な軍服に綺麗な流れる黒髪を映えさせた愛しい存在がソコに立っていた。走ってきたのか大きく息を乱して私を睨む息子…ソファから降りると内心冷や汗を流しながらもそうと悟られない様に笑みを浮かべて…
「やあ、シンちゃん。お帰り…今日は帰れなかったんじゃないのかい?」
「何…やってンだよ、この馬鹿親父ッ!!」
私の問いに答える事はせず一方的に怒鳴りつける息子…嗚呼、何時もの元気が良い私のシンちゃんだ…
嬉しさに駆け寄ったパパを遠慮なく眼魔砲を炸裂させたシンタロー…パパの部屋が破壊されちゃったよ…自業自得である事を理解していても流れる涙を溢れるさせる私の横を通り過ぎてソファへと近づくシンタロー。ソファの上では先程まで私が『シンタロー』と言っていた人物が脱力したまま腰を下ろしていて、近づく息子を見上げた。
「……で、お前は何やってンだよ、チン」
「だーかーら、俺はジャンだよジャン。でも悪い…助かった。そう睨むなって、マジックさんからの依頼なんだからさー。まさか押し倒されるとは思わなかったけど…」
「…依頼?」
「嗚呼、ジャン!それは言わない約束…ッ!」
途中で口を挟んだ私ににこやかな笑顔を向けるとサクっと無視を決め込んで続きを話始めるジャン…くっ…裏切り者ッ!
「お前がさ、遠征で帰ってくるのは明日の予定だったろう?だからせめて顔の似てる俺にシンタローの代わりに誕生日を過ごしてくれってたのまれた訳」
隠す事無く話すとジャンは被っていた長髪のカツラを外し、それをソファへと置くと髪を掻き乱して立ち上がる。息子と変わらない体格、変わらない顔…いや、幾分か幼さを見せはするものの二人が並ぶとやはり似ていると実感せざるを得なかった。
「…マジックさんが一番一緒に過ごしたかったのは俺じゃなくシンタロー…お前なんだぜ?仲直りしろよ」
理由を聞いても押し黙ったままのシンタローの肩を軽く叩くと私には視線も向けずに部屋を出て行った。相変わらず押し黙ったままの息子…重い沈黙が漂う。シンちゃんと見間違うほどそっくりなジャンがいけないのだよ!等と責任転換してみてもこの状況は変わりそうに無い。床にひれ伏した重い身体を起こして息子へと近づく。
「オ・ヤ・ジ!眼魔砲ッ!」
再び撃たれた眼魔砲、二度目を受けたら流石にまずそうだ。そう思い反射的に眼魔砲で応戦する。丁度良い力加減で相殺は出来たもののやはり部屋が壊れるのには違いは無く…ティラミスやチョコレートロマンスが見れば絶叫したまま意識を手放しそうなこの部屋の状況にただ溜息を吐く。どうやらシンちゃんも同じ考えに達したらしく、にやりと笑みを浮かべると私へと身体を向けた。嗚呼、シンちゃん!ようやくパパの方を向いてくれたね!怒ってても良い、パパを見てくれるのが嬉しいんだよ!
「…この部屋の修理代とあの二人にしかられる役は親父だけで宜しく。それで許してやるよ」
しょうがない、と苦笑いを浮かべたシンちゃんが纏う空気は優しくなっていて…シンちゃん、もう怒ってないのかい?
「あ、怒ってないって言えばウソだからな。今日という日を考慮して早めに片付けて即行で帰って来た俺が馬鹿みたいじゃねーかよ。アンタの誕生日だから特別に許してやるんだからな」
そうブツブツ呟くその姿すらも愛しく、抱きしめ様とした瞬間に方向転換をしてソファへと腰を下ろしてパパを見上げる。
「取り合えず、この用意した茶菓子を片して俺の為に暖かーい紅茶と美味い茶菓子を用意してくれよな。そうそう、俺ってば帰ったばかりで疲れてるから甘いのが良いな」
長い髪を鬱陶しそうに後ろへと跳ねると背もたれに背中を預けてゆったりとソファへ身を沈めたシンタロー。
「うん、任せておいて。パパはシンちゃんの頼みなら何でもござれだよ!」
慌しくローテーブルの上を片付け始めた私にシンちゃんがとても嬉しい言葉をくれた。
「………えーっと…プレゼントは今持ってないから明日にでも持ってきてやるよ。代わりに…今日は日付が変わるまでは側に居てやる、有りがたく思えよな?それと…誕生日、おめでとう父さん…」
シンちゃん!!ありがとう…やっぱり顔が似て様が誰だろうがパパはお前に言われるのが一番嬉しいみたいだよ…
愛してるよ私の可愛いシンタロー…紅茶を用意したらパパと沢山語り合おうね。
総帥であった頃は各国の現場へと忙しく飛び回っていたものだが、最愛の息子に総帥の座を譲ってからと言うものの暇な時間が増えて仕方が無い。暇つぶしに書いた本も飛ぶように売れてサイン会に各地を回る身であってもやはり暇な時間と言うものは存在していて…本日も手空きの日であり、ほう…と深く溜息を吐く。別に己の誕生日にはこだわりは無いが…
嗚呼、シンタロー…今年は私の誕生日を祝ってくれるのだろうか…
嗚呼、シンちゃん…パパは寂しくて寂しくて死んでしまいそうだよ…
だから…早くパパの所に来て、昔の様に私にとびきりの笑顔を見せておくれ…?
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折角の休日も無駄に出来ないといそいそとデジタルカメラを取り出して大型のテレビへと接続をする。同時に取り出した大量のDVD-RAMをセットして編集を開始する。
『パパァ!僕、パパの事大好きだよ!』
『父さん…その…有難う、スゲェ嬉しいよ!』
次々に画面に現れる愛しい息子の笑顔、何度見ても良い…その笑顔をパパに滅多に向けてくれなくなったのは何時からだろうか…ああ、コタローを幽閉してからか。それ以来あの子は私の前では益々反抗ばかりするようになって…それもまた愛しかったのも事実だが。
ああ、いけないいけない。編集する時は楽しい気持ちでしなくては後ほど見返した時にも影響が残るからね。
首を軽く横に振ると気を取り直して編集を始める。視聴用・保存用・布教用・その他…沢山コピーも取らないとね。
暫く編集に没頭していたが不意に聞こえたドアを叩く音。遠慮がちなそれでも特殊なそのノックの仕方をする人物は一人しか思い浮かばず、機材の電源を切って当然の嬉しさ全開の声で歓迎する。
「シンちゃんかい?遠慮せずに入っておいで?」
少しの間があって扉が開くとその隙間から顔を覗かせた人物…ああ、シンちゃん!パパはお前を待っていたんだよ?両腕を広げて出迎える。少し大人しい態度に私を伺う表情を浮かべながら私に近づく息子…嗚呼、その初々しく幼さを感じさせる表情もまた素敵だよ!でも折角シンちゃんの為に広げた腕に飛び込む事はなく視線を知らした息子は私の少し手前で止まり、大袈裟に溜息を吐いた。
ええっ!?何、何だいシンちゃん!パパ、何か可笑しい事でもしたかい!?
「マ………えーっと、父さん…鼻血…」
その言葉と共に差し出されたティッシュの袋、ああ…可愛いシンちゃんを堪能していたから何時の間にか流れていたようだ。
鼻血を拭き取り終えると赤く染まったティッシュをゴミ箱に捨てて、再び笑顔で出迎える。
「シンちゃん…今日という日をお前と過ごせるだなんて嬉しいよ…さあ、パパの隣にでも座りなさい。ああ、紅茶も淹れようね。アップルティで構わないだろう?」
「え、でも今日は父さんの誕生日だろう?俺が淹れても良いケド」
「はは、その言葉だけでパパは充分だよ。良いから座っておいで、お前が側に居るだけで幸せなんだからね?」
その一言にそれ以上言わず戸惑い気味にソファに腰を下ろした息子を確認すると、部屋の奥に備え付けのミニキッチンで紅茶の用意をする。お気に入りのメーカーの紅茶葉を二人分に妖精さんの分をプラスしてポットに入れてお湯を注ぐと良い香りが漂い始める。鼻歌交じりにポットとカップとソーサー、それに皿に乗せたクッキーをトレイに乗せて息子の元へと戻る。ローテーブルの上に運んできた物を並べる。良い感じに蒸した紅茶をカップに注いで息子の前へと置くとシンちゃんの隣に深々と腰を掛ける。その様子に目もくれずに両手を膝の上で組んで沈黙しているシンタロー…不意に私に向けられた顔、人懐っこい柔らかい笑顔を浮かべて一言。
「父さん、誕生日おめでとう!俺に出来る事は少ないけれど…今日は父さんの為に何かしたいと思うんだ。何かして欲しい事あるか?」
プシューッ!
派手な音を立てて流れる鼻血をシンタローが慌ててタオルで拭った。
シンちゃん…嗚呼、シンタロー!そんな無防備な笑顔でそんな無防備な言葉でパパを悶え殺す気かい?
「わー!ちょ…ちょっとタンマ!!」
息子の叫びに失いかけた自我を取り戻す。どうやらあまりの感動に息子をソファへと押し倒して頬擦りしていたらしい。私の下で警戒心たっぷりに私を睨み上げるシンちゃんに自我は遥か銀河の彼方へと飛ばして、シンちゃんへと手を伸ばしてゆっくりとその頬を撫でる。僅かに震える声で抗議の声を上げる息子の言葉は華麗にスルーをして額へとキスを落とす。
「…っ!?マジック…ッ!!」
「シンタロー、お前がいけないんだよ?お前がそんなに可愛い事をするから…」
「誰が可愛いっ…んっ!」
私を拒否して逃げようとした息子の唇を自分のそれで塞ぐ。尚も抵抗する彼の肩をソファへと深く押し付けると更に深く唇を奪う。自分の息子を押し倒す…常識的では有り得ないがそれ以上に愛しい存在を前に、倒錯した意識の中止める事すら諦めた。
「シンちゃん…パパから逃げられる訳がないだろう?現役を退いてもまだ、お前よりは強いんだからね?」
「そういう問題じゃないっ!大体俺は…ッ!」
再び塞ぐ唇。しっかりと顎を押さえて、空いたもう片方の手で長い黒髪を優しく梳く…何時もと何処か違う肌触りを特に気にするでもなく暫くそうしていると突然大きな音と共に扉が開いた。何事かと唇を離して上半身を起こして入り口を見る。真っ赤な軍服に綺麗な流れる黒髪を映えさせた愛しい存在がソコに立っていた。走ってきたのか大きく息を乱して私を睨む息子…ソファから降りると内心冷や汗を流しながらもそうと悟られない様に笑みを浮かべて…
「やあ、シンちゃん。お帰り…今日は帰れなかったんじゃないのかい?」
「何…やってンだよ、この馬鹿親父ッ!!」
私の問いに答える事はせず一方的に怒鳴りつける息子…嗚呼、何時もの元気が良い私のシンちゃんだ…
嬉しさに駆け寄ったパパを遠慮なく眼魔砲を炸裂させたシンタロー…パパの部屋が破壊されちゃったよ…自業自得である事を理解していても流れる涙を溢れるさせる私の横を通り過ぎてソファへと近づくシンタロー。ソファの上では先程まで私が『シンタロー』と言っていた人物が脱力したまま腰を下ろしていて、近づく息子を見上げた。
「……で、お前は何やってンだよ、チン」
「だーかーら、俺はジャンだよジャン。でも悪い…助かった。そう睨むなって、マジックさんからの依頼なんだからさー。まさか押し倒されるとは思わなかったけど…」
「…依頼?」
「嗚呼、ジャン!それは言わない約束…ッ!」
途中で口を挟んだ私ににこやかな笑顔を向けるとサクっと無視を決め込んで続きを話始めるジャン…くっ…裏切り者ッ!
「お前がさ、遠征で帰ってくるのは明日の予定だったろう?だからせめて顔の似てる俺にシンタローの代わりに誕生日を過ごしてくれってたのまれた訳」
隠す事無く話すとジャンは被っていた長髪のカツラを外し、それをソファへと置くと髪を掻き乱して立ち上がる。息子と変わらない体格、変わらない顔…いや、幾分か幼さを見せはするものの二人が並ぶとやはり似ていると実感せざるを得なかった。
「…マジックさんが一番一緒に過ごしたかったのは俺じゃなくシンタロー…お前なんだぜ?仲直りしろよ」
理由を聞いても押し黙ったままのシンタローの肩を軽く叩くと私には視線も向けずに部屋を出て行った。相変わらず押し黙ったままの息子…重い沈黙が漂う。シンちゃんと見間違うほどそっくりなジャンがいけないのだよ!等と責任転換してみてもこの状況は変わりそうに無い。床にひれ伏した重い身体を起こして息子へと近づく。
「オ・ヤ・ジ!眼魔砲ッ!」
再び撃たれた眼魔砲、二度目を受けたら流石にまずそうだ。そう思い反射的に眼魔砲で応戦する。丁度良い力加減で相殺は出来たもののやはり部屋が壊れるのには違いは無く…ティラミスやチョコレートロマンスが見れば絶叫したまま意識を手放しそうなこの部屋の状況にただ溜息を吐く。どうやらシンちゃんも同じ考えに達したらしく、にやりと笑みを浮かべると私へと身体を向けた。嗚呼、シンちゃん!ようやくパパの方を向いてくれたね!怒ってても良い、パパを見てくれるのが嬉しいんだよ!
「…この部屋の修理代とあの二人にしかられる役は親父だけで宜しく。それで許してやるよ」
しょうがない、と苦笑いを浮かべたシンちゃんが纏う空気は優しくなっていて…シンちゃん、もう怒ってないのかい?
「あ、怒ってないって言えばウソだからな。今日という日を考慮して早めに片付けて即行で帰って来た俺が馬鹿みたいじゃねーかよ。アンタの誕生日だから特別に許してやるんだからな」
そうブツブツ呟くその姿すらも愛しく、抱きしめ様とした瞬間に方向転換をしてソファへと腰を下ろしてパパを見上げる。
「取り合えず、この用意した茶菓子を片して俺の為に暖かーい紅茶と美味い茶菓子を用意してくれよな。そうそう、俺ってば帰ったばかりで疲れてるから甘いのが良いな」
長い髪を鬱陶しそうに後ろへと跳ねると背もたれに背中を預けてゆったりとソファへ身を沈めたシンタロー。
「うん、任せておいて。パパはシンちゃんの頼みなら何でもござれだよ!」
慌しくローテーブルの上を片付け始めた私にシンちゃんがとても嬉しい言葉をくれた。
「………えーっと…プレゼントは今持ってないから明日にでも持ってきてやるよ。代わりに…今日は日付が変わるまでは側に居てやる、有りがたく思えよな?それと…誕生日、おめでとう父さん…」
シンちゃん!!ありがとう…やっぱり顔が似て様が誰だろうがパパはお前に言われるのが一番嬉しいみたいだよ…
愛してるよ私の可愛いシンタロー…紅茶を用意したらパパと沢山語り合おうね。
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(マジックside)
世界中で一番守りたくて
世界中で一番最優先で
世界中で一番愛おしくて
世界中で一番汚されたくなくて
世界中で一番汚してやりたい存在。
,
生まれてきた子は漆黒を纏って産声をあげた。
目を疑った、私たちは青の一族なのに金髪も碧眼を持っていなかったから。
一族の血を引いていないのか?と不安に包まれたのだが、同時に「普通」の子である事に安堵も感じていた。
そして段々逞しく育っていく息子を眺める。
何度も葛藤を繰り広げた原因の真っ黒な髪は長く美しく伸ばし。
瞳は魅入ってしまいそうになるくらい輝いていた。
そして息子として親子として愛していたのに………。
「シンタロー、愛しているよ」
“愛…?”
幼い頃はただ首を傾げていただけだったのに。
「そうだよ、パパはお前の全てを愛している、親子としても1人の人間としても」
“俺、アンタの息子だぞ?”
「そんなの私たちには関係ないよ、私は只シンタローという人間を愛しているだけ」
“寝言は寝て言え”
「シンちゃんは私が嫌いかい?」
“…あぁ、アンタなんか大ッ嫌いだ”
,
「そっか、大ッ嫌いか…随分と嫌われてるんだね」
“嫌い、大嫌い、最低だ、さっさと俺の前から消えろ”
大きくなったら口が達者になって反抗するようになった。
いつもの私なら負けじと息子に抱きついたりして耳元で愛を語っているだろう。
「…わかったよ、じゃぁね、おやすみ……」
“……あぁ”
今日は退散してみた、勿論シンタローの反応見たさに。
けど、何も反応してくれない。
いや、もしかしたら此が正常なものなのかもしれない。
私は世界中で一番守りたいものに溺れた。
, (シンタローside)
このまま、この男に溺れてしまえば楽だろうか?
幼い頃から溺愛され育てられた。
だから俺もその想いに答えるように好きだとか笑顔を向けていた。
しかし……
“愛している”
その言葉は子供の俺には嬉しいのものか重いものなのか分からなかった。
ただ首を傾げるしか出来なかったのだが、漸く理解出来た。
『親子では、やってはいけない。言ってはいけないものだ』
「俺は……分からないよ」
“分からないか…イイよ、いずれ分かる事だ”
「分かるのか?」
“…分からせてあげるんだよ”
「ッ???!」
その時の親父は今まで見てきた中で一番冷たい眼だった。
碧眼が俺の射抜く様に、全てを見透かすように見つめてくる。
どうすればイイのか、どう反応すればイイのか、どんな言葉をかければイイのか全く分からなくて。
ただ立ち尽くしか出来なかった。
“大丈夫、パパは優しいから…ね?”
「ぁ………ッ……」
,
そんな俺の気持ちを察したのか、優しく抱き締めてくれた。
頭では『突き飛ばせ、コイツの言葉に心を許すな、危険だ』そう言っている。
でも体に力が入らなくて、腕が上がらなくて、此以上優しくされたら溺れてしまいそうな気がして。
俺は親父から離れた
“…わかったよ、じゃぁね、おやすみ……”
「……あぁ」
黙って出て行く親父を見送る。
今までの俺なら小声で呼び止めたり服の端を掴んだりして止めるのに、動こうとしない。
2人きりの時はつい甘えてしまっていたが最近耐えるようになった。
「好きになっちゃ…駄目だ…」
そう、今の俺と親父の関係は行き過ぎている。
本来あってはならない所まできてしまったのだから。
だから、こうして俺が離れれば…親父もきっと…。
「俺の代わりを…」
捜すはず、俺より素直で良い奴を。
「そうだ、何時かは…別れてしまうんだなら…」
置いていかれるのは嫌だったから自分から離れる。
其れが今の俺に出来る唯一の離れ方。
面と向かって別れよう、なんて言えばアイツはどんな面をするのだろうか。
でも俺は言えなくて、言えばもしかすると自分が泣いてしまうんじゃないかって思えて仕方がない。
だから少しずつ離れて親父に俺が別れたい事を理解してもらえばイイのだ。
「アイツなら俺の代わりなんて…男でも女でも寄ってきそうだからな」
そうだ。
離れなくちゃダメなんだ。
, (マジックside)
今日のシンちゃん少し冷たい。
と言うより、構ってくれない。
まるで私を避けているようで胸の辺りがチクチクして痛くて悲しくなってくる。
『…おやすみ』
『あぁ』
たった一言しか返ってこなかった。
「おやすみ」と言う言葉でさえ言ってくれない。
引き留めたりして可愛い顔をまた見たかったのに見せてくれない。
「…本当に、嫌われちゃったのかな…?」
そんな事を呟いていると思い浮かんでくるのは、大嫌いの一言。
一番聞き慣れた言葉なのに今一番聞きたくない言葉になっている。
シンタローの部屋から少し進んだところに設置さるた椅子に腰掛け、離れた扉を見つめる。
「…シンちゃん」
もしかしたら今にでもあの扉を開けて私を捜してくれるかもしれない。
嫌いと言った事に後悔して焦っているかもしれない。
そんな思いが頭の中を駆けずり回って期待で胸が一杯になる。
しかし、扉は開く事なく廊下は静かなものだった。
「シンタロー…愛してる」
独り言のようにポロリと呟き、おやすみと言ってから扉へと背を向ける。
「………」
後ろから何か聞こえたような気がして振り返る。
しかし先程見た通りのままでシンタローも居ない。
なのに聞こえてきた誰かの声。
シンタローかと思った、しかし空耳だと思うことにして再び歩き始める。
「……メン」
「……シンタロー…?」
呼び掛けても返事がない。
こんな幻聴が聞こえてしまうほど私はシンタローに依存し愛していたのだろう。
「……ゴメン…」
「いいんだ、お前は悪くない」
「…ゴメン……」
「謝らないで、私はお前に謝られるのは苦手なんだから」
「…親父ッ」
「ねぇシンタロー、お前は父親の私と恋人の私…どっちが好きなの?」
「…分からない」
「私は両方好きだよ、息子に父として接していた時も…愛していると恋人で囁いたときのシンちゃんの焦り具合も」
「…バッカじゃねぇの」
「ふふ、ただ愛してるだけだよ」
, (マジックside)
今日のシンちゃん少し冷たい。
と言うより、構ってくれない。
まるで私を避けているようで胸の辺りがチクチクして痛くて悲しくなってくる。
『…おやすみ』
『あぁ』
たった一言しか返ってこなかった。
「おやすみ」と言う言葉でさえ言ってくれない。
引き留めたりして可愛い顔をまた見たかったのに見せてくれない。
「…本当に、嫌われちゃったのかな…?」
そんな事を呟いていると思い浮かんでくるのは、大嫌いの一言。
一番聞き慣れた言葉なのに今一番聞きたくない言葉になっている。
シンタローの部屋から少し進んだところに設置さるた椅子に腰掛け、離れた扉を見つめる。
「…シンちゃん」
もしかしたら今にでもあの扉を開けて私を捜してくれるかもしれない。
嫌いと言った事に後悔して焦っているかもしれない。
そんな思いが頭の中を駆けずり回って期待で胸が一杯になる。
しかし、扉は開く事なく廊下は静かなものだった。
「シンタロー…愛してる」
独り言のようにポロリと呟き、おやすみと言ってから扉へと背を向ける。
「………」
後ろから何か聞こえたような気がして振り返る。
しかし先程見た通りのままでシンタローも居ない。
なのに聞こえてきた誰かの声。
シンタローかと思った、しかし空耳だと思うことにして再び歩き始める。
「……メン」
「……シンタロー…?」
呼び掛けても返事がない。
こんな幻聴が聞こえてしまうほど私はシンタローに依存し愛していたのだろう。
「……ゴメン…」
「いいんだ、お前は悪くない」
「…ゴメン……」
「謝らないで、私はお前に謝られるのは苦手なんだから」
「…親父ッ」
「ねぇシンタロー、お前は父親の私と恋人の私…どっちが好きなの?」
「…分からない」
「私は両方好きだよ、息子に父として接していた時も…愛していると恋人で囁いたときのシンちゃんの焦り具合も」
「…バッカじゃねぇの」
「ふふ、ただ愛してるだけだよ」
, (マジックside)
今日のシンちゃん少し冷たい。
と言うより、構ってくれない。
まるで私を避けているようで胸の辺りがチクチクして痛くて悲しくなってくる。
『…おやすみ』
『あぁ』
たった一言しか返ってこなかった。
「おやすみ」と言う言葉でさえ言ってくれない。
引き留めたりして可愛い顔をまた見たかったのに見せてくれない。
「…本当に、嫌われちゃったのかな…?」
そんな事を呟いていると思い浮かんでくるのは、大嫌いの一言。
一番聞き慣れた言葉なのに今一番聞きたくない言葉になっている。
シンタローの部屋から少し進んだところに設置さるた椅子に腰掛け、離れた扉を見つめる。
「…シンちゃん」
もしかしたら今にでもあの扉を開けて私を捜してくれるかもしれない。
嫌いと言った事に後悔して焦っているかもしれない。
そんな思いが頭の中を駆けずり回って期待で胸が一杯になる。
しかし、扉は開く事なく廊下は静かなものだった。
「シンタロー…愛してる」
独り言のようにポロリと呟き、おやすみと言ってから扉へと背を向ける。
「………」
後ろから何か聞こえたような気がして振り返る。
しかし先程見た通りのままでシンタローも居ない。
なのに聞こえてきた誰かの声。
シンタローかと思った、しかし空耳だと思うことにして再び歩き始める。
「……メン」
「……シンタロー…?」
呼び掛けても返事がない。
こんな幻聴が聞こえてしまうほど私はシンタローに依存し愛していたのだろう。
「……ゴメン…」
「いいんだ、お前は悪くない」
「…ゴメン……」
「謝らないで、私はお前に謝られるのは苦手なんだから」
「…親父ッ」
「ねぇシンタロー、お前は父親の私と恋人の私…どっちが好きなの?」
「…分からない」
「私は両方好きだよ、息子に父として接していた時も…愛していると恋人で囁いたときのシンちゃんの焦り具合も」
「…バッカじゃねぇの」
「ふふ、ただ愛してるだけだよ」
, (シンタローside)
こんな勝手なことをして、まだ彼奴が好きだなんて。
「……ゴメン」
どうせ聞こえない。
「…ゴメン……」
どうせ届かない。
「…ゴメンナサイ」
扉にもたれかかり頭を抱えてうなだれるように呟く。
どうせ彼奴には聞こえていないんだ。
今の内に言いたいだけいっておこう。
好き、大好き、愛している。
「だからッ…ゴメン……」
「シンタロー……?」
「ッ!???」
扉の向こうから聞こえてきたのは居るはずのない者の声。
彼奴はとっくに部屋に戻っているはずだ!!!
今すぐにでも扉を開け確かめたかった、でも本当に居たらどうする?
「……ゴメン」
頼むから呼ばないでくれ。
「いいんだ、お前は悪くない」
そんな優しい声で話しかけるな、慰めるな、優しくしないでくれ。
「ねぇシンタロー、お前は父親の私と恋人の私…どっちが好きなの?」
こんな質問されると思わなかったから正直分からなかった。
でも、ふと両方好きだという答えが浮かんだ。
そして、まだコイツが好きなんだという思いを改めて思い知った。
「…分からない」
「私は両方好きだよ、息子に父として接してくれる時も…愛していると恋人として囁いてくれたシンちゃんの焦り具合も」
「…バッカじゃねぇの」
「ふふ、ただ愛してるだけだよ」
俺も同じだ、今まで好きで大好きで愛している。
絶対に言ってやんないがな。
「…父さん」
「ん?なんだい?」
「……愛している、だから…ゴメン…」
もう俺に愛を囁かないで、狂ってしまいそうになるんだ。
父からの異常なまでの愛情で育てられた俺は異常なんだ。
けどアンタが好きなのは本心だ。
こんな俺を愛してくれたアンタに感謝している。
だから…ゴメンナサイ。
end
大好きなあなたへ
シンタローは、必死に積み上がった書類を睨みつけていた。
その周りをウロウロする人物を、無視して。
「シンちゃぁん」
呼び止めても、顔を上げることすらしない。
「今日は私の誕生日だよ?」
書類をめくる音だけが、部屋に響く。
「シンちゃんってばぁ」
何度も呼びかけるのに、さすがに痺れを切らし始めた時。
「あ、お父様!やーっぱりここにいたんだね!」
騒々しく勢いよく扉を開けたのは。
「うるせぇぞ、グンマ」
シンタローは顔も上げずに、肘をつく。
「だって、お父様にプレゼント渡したかったのに。どこ探してもいないんだもん」
「直にねだりに来てたわけか…」
グンマの後からキンタローが現れる。
その姿を見つけ、思わずシンタローは席を立った。
「てめっ!キンタロー!!ここんとこ見かけねぇと思ったらッ何してやがったんだよ!」
「心外だな。俺は仕事はやっている…いいか、俺がやる仕事の分は必ずやってあるはずだろう」
「仕事はタマりにタマってんだよ!」
「…それはお前がやり切れずに残しているだけだろう。いつもは俺が半分は、いや半分以上はやっているからな」
「…何やってたんだよ」
どかっと座ってキンタローを睨む。
「はいッお父様!ハッピーバースデーだよッ!」
グンマは二人の会話を差し置いて、シンタローの横にいたマジックに綺麗に包装された包みを満面の笑顔で手渡した。
「わーグンちゃん、ありがとう!」
嬉しそうに笑顔をほろこばせるマジック。
「俺は、このプレゼントを作るのに全力を注いでいたんだ。これは俺とグンマの、いいか。俺とグンマが結集して作り上げた傑作だ」
キンタローは自身満々にそう言ってのけた。
「開けてみて!お父様ッ」
「うん、なんだろうなぁ」
大きくもなく小さくもない、30センチほどの包み。
出てきたのは、マジックがいつも見慣れている…。
「コレ…私のシンちゃんのぬいぐるみじゃないか」
「へへーッ。一個だけ盗んじゃったんだ!」
グンマは悪びれもせずに、舌を出して笑う。
「それじゃプレゼントにならねぇじゃねぇかよ」
シンタローが呆れてため息をつく。
「道理で一つないなぁと…。でもコレが?」
「ただのぬいぐるみじゃないんだよぉ!」
「そのぬいぐるみに向かって、何か言ってみろ」
「何か?うーん、そうだなぁ」
マジックは少し考えて、口を開いた。
「好きだよ、シンタロー」
それは甘く、低く響くようなヴォイス。
少しだけ反応して、シンタローは顔を赤く染めてしまう。
「好きだよ…父さん」
「えっ!?」
信じられない応答に、瞬時にシンタローに振り返る。
真っ赤になって否定する必死に首を振り、否定するシンタロー。
「おっ俺は言ってねぇぞ!」
「えーでも確かに…」
「父さん…好きだよ。父さん」
よくよく聞けばマジックが抱えていた、そのシンタローのぬいぐるみから発せられた言葉だったことにようやく気が付く。
「うふふ~ッ。やっと気が付いた?」
「それはマジックの声に反応し、応答するように出来ているんだ。ちなみにその声は、本物だ」
「シンちゃん、ついに私に告白を…!」
「い、言ってねぇ言ってねぇ!!キンタローが勝手に編集したんだろうが!」
「編集したのは確かだが、『父さん』というのと『好きだよ』という単語は確かに言っているぞ」
キンタローのその言葉に、ハッと何かに気が付く。
「そういや随分前にグンマに変な質問されたな…。あれがそうだったのか!」
「シンちゃんってば気づくのお・そ・い」
ツン、と鼻をつつく。
「せっかくの誕生日プレゼントだもん。うんと喜ぶもの贈りたかったし」
「てんめぇ~」
怒りに拳を握り締めていると、視線を感じた。
「シンちゃん」
ギクリとした表情になる。
「シンちゃんだけだよ?プレゼントないの」
「えーッ!?まだあげてないの?」
「今まで何をしてたんだ」
呆れ果てるキンタローの声。
「ぐ…ッ」
「ガンマ団の皆だって、みぃんな!プレゼントくれたのに!」
「…その分、給料引かれてんだろうが」
机越しにぐぐっとシンタローに迫る。
「私は、シンちゃんからのプレゼントがなくちゃ誕生日があったって嬉しくないんだよ」
真剣なマジックの表情にグッと息が詰まるシンタロー。
しばしの沈黙の後、シンタローはその雰囲気に耐え切れずに机から離れてマジックの前に立つ。
「シンタロー」
不安そうな声で呼ぶマジック。
シンタローはガッとマジックの抱えていた自分のぬいぐるみを取り上げた。
「あッ、それは…!」
手を伸ばそうとしたマジックに、シンタローはぬいぐるみに軽くキスをして。
「シンちゃ…」
そのままマジックの唇に押し当てた。
「し…」
思わず呆けるマジック。
「誕生日、おめでとう。父さん」
シンタローは微笑み、そう言い残して部屋を後にした。
「今のが、プレゼント?」
「そうみたいだな」
「えーッ!?いいの、あんなんで!凄くお手軽だよ!?」
「…あんなんで、いいみたいだな」
キンタローが見やる方をグンマも視線を向ければ。
そこには幸せの絶頂にでもいるかのように、嬉しそうにボーッと突っ立っていたマジックの姿があった。
「ま、いっか」
グンマは笑顔でマジックを見つめて言った。
その頃、部屋を出てしばらく廊下を歩き角を曲がって誰もいないのを確かめた後に、ずるずるとその場にしゃがみこんで頭を抱えた。
耳まで真っ赤に染めて。
「し、しまったー…ッ」
自分のやったことに今更後悔していた。
本当はちゃんとしたプレゼントを考えていた。
だが、実際何を贈ったらいいか分からず。
毎年あげたものは必ず喜んでくれるのだが、それは自分があげたから喜んでくれるのであって、本当にマジックが喜んでくれているかシンタローは不安だった。
今年はその不安も募り、迷いに迷ってるうちに当日になってしまったのだった。
あれをやって、相当…いや自分が思ってる以上に喜ぶことは確かだったのだが…。
「早まったかなー」
ボーッとしていたマジックは急に夢から醒めたようにガバッとシンタローぬいぐるみを見つめる。
「シ、シンちゃん…ッ」
「あ」
マジックがぬいぐるみに口付け、抱きつこうとした瞬間。
ガパッと首がもげた。
「え」
呆気に取られている間に、その中から銃口が飛び出し、カッと光を放ったかと思ったら目の前のマジックに向かって砲を撃った。
派手な音がして、もうもうと広がる煙の中からマジックが咳き込みながら現れた。
それでもしっかりぬいぐるみを抱えて。
「ぐ、グンちゃん…キンちゃん…何、これ?」
「えへへ~言うの忘れてた!」
「よりシンタローに近づけた方が喜ぶだろうかと、それに口付けて抱きしめようとするとガンマ砲に限りなく近づけた砲を撃つようになってるんだ」
「あ、大丈夫だよ!自動的にまた首は縫ってくれるから!」
言われてふと見ると、機械が自動的に現われ首を縫いつけ、すっかり元の通りに戻っていた。
「嬉しい?お父様」
首を傾げながら不安そうに尋ねるグンマ。
「…忠実で嬉しいよ。ありがとう、二人とも」
ボロボロになりながらもマジックは必死に笑みを作っていた。
その後しばらく、ガンマ団では爆発音が絶えなかったという。
ドォォォォォ……ン
その音に嫌そうに眉を顰めてシンタローは埃と血にまみれた団服を叩くと、まわりに倒れている人間を一瞥してその場を後にした。
これほどまでに凄まじい破壊力を持つ男は一人しかいない。その男が出てきたということは、退去と同意語だった。
………それだけの力を持っていた。
まわり一面の焼け野原。
散々な状態のそこにはもう見向きもしないで、シンタローは肩に掛かった髪を無造作に振り払い憎々しげに舌打ちすると、団員達が集まる集合場所へと急いだ。
あの男のいる所など本当は行きたくなどなかったが、点呼を取るときにいなければ咎められるのは自分だ。そんなつまらない意地などはさらさら張るつもりはなかった。
集まった場所へと着けばザワザワと異様に騒がしかった。
おそらくアイツの所為だろうな、とシンタローは後ろの方の列に並んで近くの木に腕組みをして寄り掛かった。 あの男がわざわざ出向くなどあまりないことだから。そして、何故出向いてきたのかなどというのは、ここにいる者達の大半は把握しているだろう。
それだけあの男が自分に執着していることは周知の事実だった。
息子可愛さか、とまわりがヒソヒソとシンタローを盗み見ながらそんなことを囁き合っているのが聞こえる。シンタローが眉を顰めてそちらを無表情に見やれば、慌てて顔を背けて上司が喋っているのをしっかりと聞いている振りをした。
(チッ、知らねぇヤツは好き勝手言いやがる)
胸くそ悪ぃ。
シンタローは苛立たしげに、何もかも追い出すように頭を振った。
「シンタロー」
用意された大人数用のゴツい車にまさに乗り込もうとしたとき、後ろから聞き慣れた声がしてシンタローは心底嫌そうに振り返った。
マジックはそんなシンタローの様子を気にも止めないでいつもの笑みを見せて、グイッとシンタローの腕を掴んで引き寄せ、悪戯な笑みを浮かべた。
「たまにはパパと一緒に帰ろうか」
「断る」
にべもなくシンタローは切り捨てた。
しかしそれくらいでへこたれる人間ではないのをわかっていたので、さっさと逃れようと掴まれていた腕を捻る。が、自分よりも少々ガタイの良い相手に抱き込まれ身動きが出来なくなってしまって、シンタローは苛立たしげにマジックを睨み付けた。
けれども一向にマジックの笑みが崩れる様子はない。
シンタローを乗せて空港へ向かうはずだった車ももう行ってしまった。マジックのヘリに乗っていくしかもう帰る方法はないだろう。自力では何も出来ないような気分になって酷くムカついた。
―――苛々、する。
「…………………」
無言で腰に回されたマジックの腕から逃れようと身を捩るが、身動きするたびに締め付ける力が強くなって軽く舌打ちした。後ろから抱き締める男がクスクスと小さく笑いを漏らす。
「さて。帰ろうか、シンちゃん」
「だったら、この腕を離しやがれ」
「駄目だよ」
それじゃあ逃げてしまうだろう?
耳元から入り込んでくる低い這うような声。
不覚にも身体が戦慄してしまって、カッと顔を赤らめる。
シンタローのその一瞬の隙をついて、マジックは一寸力を緩めるとシンタローを向かい合わせに抱き締め直し、突然のことに驚き見開いたままのシンタローの漆黒の瞳を覗き込んで、唇を重ねた。
シンタローの背中に回された指はスルスルと背骨を撫でるように辿り、合わさった唇からは悪戯な舌が入り込む。その瞬間、シンタローはようやく今の己の状況を理解し、藻掻いた。
「んんッ、ん、ぅぐ……ッ!!」
振り上げようとした腕は押さえつけられ、背中に回った腕に力が入るとシンタローは必然的に背中が弓なりになり、貪るような口吻けは一段と深くなった。
ガリッ
嫌な音が辺りに響く。
その途端執拗な口吻けから解放されて、シンタローは大きく肩で息をする。風が何もない荒地に吹き荒れていたため空気は埃っぽく、吸った途端に咽せた。
「流石はシンちゃん。お転婆だね……」
シンタローに舌を噛みつかれて血を流したマジックの唇が笑みの形を象る。ぎゅうぎゅうと締め付けてくる腕は未だ背中に回ったままだ。
シンタローの瞳が太陽の光を反射して煌めき、マジックは少しだけ目を細めた。
「そうかもな」
「!!」
マジックの笑みに気圧されないようにシンタローは不敵に笑うと、身体中の至る所に隠し持っているナイフを抱き締められた状態のままマジックの腹に押し付けた。
一瞬驚いたような表情をしたマジックだったがすぐに表情を戻し、気まぐれに笑うとスッとシンタローから離れてバラバラと大きな音を立ててプロペラを回しはじめたヘリへと踵を返す。クスクスと笑う声がシンタローの耳へと忍び込んでくる。
シンタローからは見えないマジックの表情は、けれどもきっと笑ってなどいないのだろう。
否、本気で笑っている所など見たことがなかった。
いつだってあの青い双眸は鋭く、今シンタローの手に握られているナイフのようで。
「乗りなさい、シンタロー。早くしないと置いていってしまうよ?」
振り返らないままマジックが至極愉しそうに言う。
「置いてく気なんかねぇくせして」
「……さぁ?」
この手の中のナイフを目の前の男に投げつけてやろうか、とシンタローは空の下に瞬く黄金を見ながらふとそう思う。
けれども、ナイフをその場に投げ捨てるとマジックの後を追いかけ、気怠げに歩き出した。
まぁいい。
自然と笑みが浮かんだ。
ナイフはまだ沢山あるのだから。
end...
BACK
あめあめふれふれ かあさんが
じゃのめでおむかえ うれしいな
子供の頃、大好きな誰かがカサをもって迎えに来てくれる。そんなことがとても嬉しかった。雨の中、カサをさして一緒に歩くのが楽しかった。けれども今は―――。
* * *
「ねぇ、シンちゃん」
「んだよ」
「お出かけしない?」
「ヤだね」
即答すると、え~?と困ったような情けない顔をする。
忙しい総帥業の珍しい休日。広いリビングにマジックと二人きり。シンタローは行儀悪くラグに寝そべって雑誌を読んでいた。
せっかくの休日は朝から雨で、しかも一向にやみそうにない。こんな日は一日のんびりとすごしたいのだが、マジックはそうではないらしい。朝から退屈の虫をもてあましている。
「でも今日はパパとお買い物に行くって約束してたじゃないか」
「約束? 冗談じゃない。アンタが勝手に言っていただけだろう」
「だってパパが『次のお休みはお買い物に行こうね』って行ったら『ハイハイ』って言ったじゃないか!」
「てきとーにあしらわれただけだってわかれよ…」
「ね~ぇ、シ~ンちゃ~~ん」
いいトシをしてスネて甘えた声を出すマジックに、雨の日は出かけたくない、せっかくの休日だから体を休ませたい、と何度となく言っているが、全く聞いていていないらしい。ダダッ子のようなマジックの相手にもいいかげん疲れてきた。
「あーもー、うるさい! 親父!」
「なに? お出かけする?」
「しねーよ! ここ座れ」
「?」
「いいから、す・わ・れ!」
自分の横をバシバシ叩くシンタローの意図を計りかねて思わず首を傾げるが、言われたように叩かれた場所に座る。
「よし!」
シンタローは満足げにうなずくと、ごろりと寝転がった。マジックの膝を枕に、涼しい顔で雑誌をめくる。
「えー、シンタロー?」
「なんだよ。なんか不服か?」
「いえ。なんでもないです」
「よろしい。動くなよ」
「ハイ」
妙に神妙な顔で返事をするマジック。それが堪らなくおかしく、シンタローは雑誌で顔を隠しながら肩を震わせ、クックッ、と笑いを漏らした。
あめあめふれふれ かあさんが
じゃのめでおむかえ うれしいな
でも、朝から雨が降る日はどこにも行かず、こんなふうに過ごすのだって悪くはないと思うのだけど。
どう思う?
END。。。。。
『Rainy』
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PS Honey Searchさまへ捧げさせていただきました。
月間カウントお題というのがございまして、6月のお題『雨』をテーマにしたSSです。
あんまりタイトルを捻る気がないのがマンマンで恥ずかしい……。
『雨』お題はこの他にもアラシヤマ×シンタローを捧げさせていただいています。
それにしても最近うちのマジックパパはすっかりシンタローさんの尻にしかれているご様子……。
そのうちマジックに振り回されるシンタローも書きたいです。
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