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ドォォォォォ……ン

 その音に嫌そうに眉を顰めてシンタローは埃と血にまみれた団服を叩くと、まわりに倒れている人間を一瞥してその場を後にした。
 これほどまでに凄まじい破壊力を持つ男は一人しかいない。その男が出てきたということは、退去と同意語だった。
 ………それだけの力を持っていた。
 まわり一面の焼け野原。
 散々な状態のそこにはもう見向きもしないで、シンタローは肩に掛かった髪を無造作に振り払い憎々しげに舌打ちすると、団員達が集まる集合場所へと急いだ。
 あの男のいる所など本当は行きたくなどなかったが、点呼を取るときにいなければ咎められるのは自分だ。そんなつまらない意地などはさらさら張るつもりはなかった。

 集まった場所へと着けばザワザワと異様に騒がしかった。
 おそらくアイツの所為だろうな、とシンタローは後ろの方の列に並んで近くの木に腕組みをして寄り掛かった。 あの男がわざわざ出向くなどあまりないことだから。そして、何故出向いてきたのかなどというのは、ここにいる者達の大半は把握しているだろう。
 それだけあの男が自分に執着していることは周知の事実だった。
 息子可愛さか、とまわりがヒソヒソとシンタローを盗み見ながらそんなことを囁き合っているのが聞こえる。シンタローが眉を顰めてそちらを無表情に見やれば、慌てて顔を背けて上司が喋っているのをしっかりと聞いている振りをした。
(チッ、知らねぇヤツは好き勝手言いやがる)
 胸くそ悪ぃ。
 シンタローは苛立たしげに、何もかも追い出すように頭を振った。


「シンタロー」
 用意された大人数用のゴツい車にまさに乗り込もうとしたとき、後ろから聞き慣れた声がしてシンタローは心底嫌そうに振り返った。
 マジックはそんなシンタローの様子を気にも止めないでいつもの笑みを見せて、グイッとシンタローの腕を掴んで引き寄せ、悪戯な笑みを浮かべた。
「たまにはパパと一緒に帰ろうか」
「断る」
 にべもなくシンタローは切り捨てた。
 しかしそれくらいでへこたれる人間ではないのをわかっていたので、さっさと逃れようと掴まれていた腕を捻る。が、自分よりも少々ガタイの良い相手に抱き込まれ身動きが出来なくなってしまって、シンタローは苛立たしげにマジックを睨み付けた。
 けれども一向にマジックの笑みが崩れる様子はない。
 シンタローを乗せて空港へ向かうはずだった車ももう行ってしまった。マジックのヘリに乗っていくしかもう帰る方法はないだろう。自力では何も出来ないような気分になって酷くムカついた。

 ―――苛々、する。

「…………………」
 無言で腰に回されたマジックの腕から逃れようと身を捩るが、身動きするたびに締め付ける力が強くなって軽く舌打ちした。後ろから抱き締める男がクスクスと小さく笑いを漏らす。
「さて。帰ろうか、シンちゃん」
「だったら、この腕を離しやがれ」
「駄目だよ」
 それじゃあ逃げてしまうだろう?
 耳元から入り込んでくる低い這うような声。
 不覚にも身体が戦慄してしまって、カッと顔を赤らめる。
 シンタローのその一瞬の隙をついて、マジックは一寸力を緩めるとシンタローを向かい合わせに抱き締め直し、突然のことに驚き見開いたままのシンタローの漆黒の瞳を覗き込んで、唇を重ねた。
 シンタローの背中に回された指はスルスルと背骨を撫でるように辿り、合わさった唇からは悪戯な舌が入り込む。その瞬間、シンタローはようやく今の己の状況を理解し、藻掻いた。
「んんッ、ん、ぅぐ……ッ!!」
 振り上げようとした腕は押さえつけられ、背中に回った腕に力が入るとシンタローは必然的に背中が弓なりになり、貪るような口吻けは一段と深くなった。

ガリッ

 嫌な音が辺りに響く。
 その途端執拗な口吻けから解放されて、シンタローは大きく肩で息をする。風が何もない荒地に吹き荒れていたため空気は埃っぽく、吸った途端に咽せた。
「流石はシンちゃん。お転婆だね……」
 シンタローに舌を噛みつかれて血を流したマジックの唇が笑みの形を象る。ぎゅうぎゅうと締め付けてくる腕は未だ背中に回ったままだ。
 シンタローの瞳が太陽の光を反射して煌めき、マジックは少しだけ目を細めた。
「そうかもな」
「!!」
 マジックの笑みに気圧されないようにシンタローは不敵に笑うと、身体中の至る所に隠し持っているナイフを抱き締められた状態のままマジックの腹に押し付けた。
 一瞬驚いたような表情をしたマジックだったがすぐに表情を戻し、気まぐれに笑うとスッとシンタローから離れてバラバラと大きな音を立ててプロペラを回しはじめたヘリへと踵を返す。クスクスと笑う声がシンタローの耳へと忍び込んでくる。
 シンタローからは見えないマジックの表情は、けれどもきっと笑ってなどいないのだろう。
 否、本気で笑っている所など見たことがなかった。
 いつだってあの青い双眸は鋭く、今シンタローの手に握られているナイフのようで。
「乗りなさい、シンタロー。早くしないと置いていってしまうよ?」
 振り返らないままマジックが至極愉しそうに言う。
「置いてく気なんかねぇくせして」
「……さぁ?」
 この手の中のナイフを目の前の男に投げつけてやろうか、とシンタローは空の下に瞬く黄金を見ながらふとそう思う。
 けれども、ナイフをその場に投げ捨てるとマジックの後を追いかけ、気怠げに歩き出した。

 まぁいい。
 自然と笑みが浮かんだ。


 ナイフはまだ沢山あるのだから。


 end...


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