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 日付が変わってすぐに、携帯電話が鳴ってメールの着信を知らせた。受信されたそれは父親のマジックからで、本文にはシンタローの誕生日を祝う言葉と仕事が終わるのが少し遅くなるといった内容が書かれている。
 昼に会ったとき、仕事を終えたら酒とケーキを用意して部屋まで行くと言われた。断ろうとしたがこういうときこちらの意思は気にしてくれない。多分仕事が終わるのがどれだけ遅くなっても部屋まで来るつもりなのだろう。起きて待っていなければならないことに多少の不満はあったが、無視して寝てしまおうという気にはならなかった。
 暫くして不意に来客を告げるチャイムが鳴る。遅くなると言っていた割には早かったなと思いながらも、シンタローは尋ねてきたのがマジックであると疑いもせずにドアを開けた。
 ところが、そこに立っていたのは。
「よう、シンタロー。年食ってめでてえな」
 滅多に自分の前に姿を現すことのない、叔父のハーレムだった。
 困惑したこととあまり歓迎できない相手であることから、シンタローは無言のままドアを閉めようとする。しかしハーレムは足を挟んでそれを阻止した。
「オイオイ、親戚に対してちょっと冷たいんじゃねーの?」
「……何の用だよ、アル中」
 黙っていても引いてくれそうにないことを察して、シンタローは溜息混じりに口を開く。ハーレムは片手に持っていた袋をわざとらしくドアの隙間から覗かせた。
「折角祝いに酒持って来てやったんだけどな。しょうがねえ、帰って一人で飲むか」
 そう言って足を引いた途端、シンタローは顔色を変えて先刻とは反対に今度は勢い良くドアを開ける。思惑通りだったらしく、目の前でハーレムが面白そうに笑った。
「待てよ。上がってけ」
 早口で引き止める言葉に、今度は声を立てて笑う。
「オメー現金だなァ」
 全くその通りだと自分でも思ったから、シンタローは返す言葉も無く黙り込んだ。


 シンタローがキッチンにグラスを取りに行っている間に、テーブルに置きっ放しにしていた携帯電話が一度だけ鳴った。
「おっ、メールか?」
 すぐに切れたことから電話ではないのだろうと推測しながら、ハーレムはソファから身体を起こして携帯電話を手に取る。折り畳み式のそれを勝手に開けたところで、戻ってきたシンタローが引っ手繰るようにして取り返した。
「勝手に見てんじゃねーよ」
 文句を言ってから画面に視線を移すと、自動的に受信されたメールの送信元が表示されている。またマジックからのメールだった。
「お祝いメールかァ?あの親ばかめ」
「それはもうさっき来た」
 覗き込んできたハーレムがからかうように言うのに対し、シンタローは溜息混じりに答える。マジックからのメールならば別に見られても気にならないから、視線を気にすることもなくメールを開いて本文を表示した。
 まだ暫く仕事が終わりそうにない、という内容だった。
「仕事終わったらここに来んのか?」
「そう言ってたぜ。酒とケーキ持って来るって」
「ほんとに親ばかだなァ」
 声を立てて笑いながら、ハーレムは持ってきた酒の栓を開ける。二つのグラスに勢い良く中身を注いで、片方をシンタローに差し出した。
「仕事中の兄貴にゃ悪ぃが、先に飲んでよーぜ」
「ああ」
 寝ずに待っているのだからそれぐらいは許されるだろう。シンタローは躊躇わず頷いてグラスを受け取った。


 結局ハーレムが持って来た酒だけでは足りず、シンタローの部屋にあった物も何本か開けることになった。二人してペースが速いものだから、飲んでいる時間の割には数の多い空瓶が足元に何本も転がっている。
「次開けるかァ」
 幾らか酔ったハーレムが、机の上にある未だ開いていない瓶を一本持ち上げる。その栓を開けようとしたのと同時に、またシンタローの携帯電話が鳴った。
 送られてきたのはまたしてもマジックからのメールで、もう少しで仕事が終わりそうだということが書かれている。こんなに頻繁に送ってこなくても、仕事が終わってこちらに向かう前に一度連絡を入れてくくれば充分なのにとシンタローは文句を言った。
「何か子供扱いされてるみてえだなァ」
 携帯電話の画面を覗き込んでハーレムが笑う。シンタローは不機嫌そうな顔をして、グラスに注いだ酒を一気に飲み干した。
「俺はガキじゃねーぞ」
「わーってるよ。兄貴だって分かってるさ。だからこそ寂しくて余計に構っちまうんだろうよ」
 ハーレムの言葉にシンタローは俯いて黙り込む。何か考えているのだろうと、ハーレムは何も言わないことにしてグラスに注いだ酒を飲んだ。
 暫くの間、沈黙が続いた。
 幾ら何でも考え過ぎだろうと思う。自分が良くないことを言っただろうかと、ハーレムは困惑しながら先刻の言葉を反芻した。しかしシンタローをここまで黙らせてしまうような内容は思い当たらない。
「なァ、シンタロー」
 とりあえず話し掛けてみようと名前を呼ぶが、シンタローは反応しなかった。
「……シンタロー?」
 繰り返し呼んで、今度はその顔を覗き込む。
 そしてそこでハーレムは、漸く一つの事実に気付いたのだった。
「……寝てやがる……」
 何か考え込んでいるものだとばかり思っていたのに、実際にはシンタローは座って下を向いたまま眠っていたのだ。道理でいつまでも黙ったままだし、呼んでも返事をしなかったわけだ。
「前言撤回。やっぱまだまだガキだな」
 苦笑を浮かべてそう言って、ハーレムはシンタローの頭を撫でる。
「兄貴がほっとけねーのも納得だぜ」
 普段もこんなに子供のようなところを表に出したりするのだろうか。親戚同士の割には滅多に顔を合わせないため、自分は彼のことをよく知らないのだけれど。
 当のシンタローは眠ってしまったが、マジックがここに来たら何か話を聞かせてもらおうと思う。そのためにここで待つことにして、ハーレムは開いた瓶に残っていた酒を一気に自分のグラスに注いだ。

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