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sps
いまもどこかで





いかにも今回も空振りです!という世界にたどり着き、ちみっ子は外へ遊びに出かけ大人たちは家の仕事を片付ける事にした。
俺は一緒に行けばいいのに、と思いもしたが後で怒られるよりは指導を受けながら仕事をしたほうがいいと考え直した。
なにせこのお姑さんの家事能力はただものではないのだから。

「今日は時間もありますし手間かけたものでもつくりますか?」
「そうだな」
「和食なんかいいかもしれませんね~」

ああ見えてパプワは和食派だ。どうやら母親に日本人を持つシンタローさんが和食をよく作っていたかららしい。
しかも美味。初めてこの人の煮物を口にしたときの衝撃はわすれねぇ・・!そう心の誓うほどだ。
そこでふと返事が返ってこないことに気がついて洗濯物を干す手を止めた。
シンタローさんはシーツを手にしたままぼんやりと空を見上げていた。
きっとまたあちら側のことを思っているんだろうな、と思う。
ここにいるときぐらい忘れたらいいのに。
あのお気遣い紳士なら必ず彼を迎えに来るだろうに。

「シンタローさん」
「ん?」
「ここ、嫌いなわけじゃないんですよね」
「あぁ?」

なにバカな事言ってんだ?という目を向けられたが俺はどうしても聞きたくて口を開いた。

「いえ、そのちゃんと分かってるんです。この島も、島の仲間も大好きだって。
本当はタンノやイトウみたいなナマモノだって嫌いなんかじゃない。
ただああかまってくるからああ返しているだけで」

つまり一種のコミュニケーション。アラシヤマに対してもそうだ、と思う。

「パプワも・・・何にも変えがたい存在だって」

それはつまり親友と呼べる関係なんだろう、と思う。
遠くにあってもパプワの心は彼の元へ在ったように思えた。
一日に一度は今の彼のように空を見上げていたのだ。

「でもシンタローさん島に残ってから早く迎えにこいってばっかで・・・・。
そりゃあ総帥として責任あるだろうし、やらなくちゃいけないことがあるのは分かっています。
でも今は迎えにくるまでいっそ向こうのことは忘れて―――――」
「それだけはできねぇな」

そうきっぱり返され俺は思わずシンタローさんを睨んだ。
この人は今までパプワがどれほど我慢してきたか知らないんだ。
どれほど「ここにいろ」ってわがままを言えなくて苦しいか。
それでも貴方の望みを最優先にしている事も知らないで!
それらを全部ぶちまけようとした。けど、シンタローさんはつらそうな表情で立っていた。

「シンタローさん・・」
「・・・ここは、聖域だ。あの世界とは違う。唯一の聖域だ」

意図がつかめなくていぶかしがるが口を挟まないほうがよさそうなので黙って続きを促した。

「けど、「外」は違うんだ。今でもどこかで争いが起きている。俺もがんばっているけどそう簡単にはいかない。
「外」を「島」と同じにしたい。でもそれは無理だ。どうあがいてもそこには違いがあるからだ。
国と国では様々な違いがあり対立がある。それはいかなる犯罪すら正当化してしまう力がある」

国境の外へいかれれば手が出せず、外交的措置のために犯罪者を逃がさなければならない。

「だから国ではないガンマ団という存在が今必要なんだ。何者にも縛られない存在が」

ゆるやかな変化を見せてきた今だからこそ。

「だから俺は帰らなくちゃいけないんだ。できうるかぎり、早く」
「・・でも!せめてパプワと一緒にいる時くらい!」
「忘れたのかリキッド」

俺をまっすぐに見据えたシンタローさんに驚いた。
一瞬前までいたそこにいたシンタローさんではなく、ガンマ団総帥の顔があった。


「いまもどこかで、パプワほどの子供達が、母親のことを呼びながら死んでいる」


その言葉に、シンタローさんの声以外聞こえなくなった。

「俺だってここにずっといたい。昔ならまだ俺はあの家族になろうとしている彼らを信じてこっちにこれた。
けど今の俺はそれはできない。ここにいたいなんて俺のわがままを通せない。
俺は、あの犠牲を捨ててここにくることはできないんだ」

その言葉に何一つ返せなかった。
俺だって見てきた。でも俺とは違う。
俺は破壊するためにそこにいた。殲滅するためにそこにいた。
彼は平和にするためにそこにいて、そのたびにその犠牲を見た。
血のにじむ大地を。引き裂かれた空を。「ママ」と叫ぶ子供達を。
そんな人に俺は、何を言ったのだろう。
気付けばうつむいていた。ここから逃げ出したいくらいだった。
そんな俺の頭にポン、と暖かい手が乗せられた。

「けど、お前の言う事ももっともだ」
「へ?」

髪をかきまわされながら顔を上げると困ったように笑うシンタローさんがいた。

「確かにパプワの前では控えるべきかもな。アイツにゃ我慢させてばっかりだし・・」
「・・知って・・?」

曖昧に笑うその笑顔にシンタローさんはきっと俺以上にパプワを知っているんだと思った。
そして俺以上に、せめて傍にいるときは笑顔でいて欲しいと願っているんだ。

「・・・・・・・・シンタローさん」
「ん?」
「きっと、皆向こうでがんばってますよ」
「そんなの分かってる」
「ええ。だから心配しないで・・・安心して待っていませんか?」
「――――――――――」

その言葉にふたたびポン、と手が置かれ――――力が込められた。

「ぬぅおおおおお!頭が割れるように痛い!」
「えらそうなことをいうからだヤンキー。ったく――――――――――サンキュな」

幻聴だと思った。
たぶん頭蓋骨にヒビがはいったんじゃないんだろうか。
けど幻聴じゃないことを示すように言葉が続いた。

「しかたねぇからお前の食いたいもんつくってやるよ」
「へ?」

見ればシンタローさんはすでに洗濯を再開している。皺一つなくシーツが干されていく。
その耳が少し赤い。照れくさいんだ、と思ったらこっちも照れくさくなった。

「で、何が食いたいんだ?」
「そうですね~じゃあ・・」
「僕はだしまき卵に炊き込みご飯。大根の味噌汁。豚のしょうが焼き。ロールキャベツや鳥のから揚げもいいな。あとは芋の煮っ転がしに・・・」
「まてちみっ子」

いつのまにかシンタローさんの背中によじ登っているパプワ。

「食べたいのか?パプワ」
「いえお義母様。そんなうれしそうに対応なさってますけど私の食べたいものじゃ・・・」
「食べたいゾ。シンタローが作るならナ。だしまきはシンタローのが一番だ!」
「ちょっと無視しないで二人とも」
「そっか。いいぜ?夕飯につくろうな」
「わーい。それはそうと昼飯はまだか家政夫」

ヤキモチですか?シンタローさんと仲良くしてそのうえご飯まで作ってもらえるということに対して。
いいですよどうせ俺は永遠に下っ端人生なんでしょうよ・・・。
俺がいそいそと洗濯籠を片付け中に入ろうとすると再び名前を呼ばれた。

「リキッド」
「なんでしょうかお義母様」
「で、何が食いたいんだ?昼食に作ってやるよ」

自分でも顔が輝いたのが分かった。

「は、はい!じゃあこの前作ってもらったオムライスが食べたいです!」
「ああ、あれ。気に入ったのか?」
「めちゃくちゃうまかったです!」
「そっか」

それは珍しく、素直にうれしそうな笑顔を見せたシンタローさんに思わず心をときめかした。
シンタローさんはパプワを優しく地面に降ろすと部屋の中に入っていく。
その後姿を思わずうっとりと見つめていると後ろからぼそり、と。

「・・・・・・・・・チャッピー。餌」




いつもの「カプ」ではなく「ガブリ」という生々しい音がしたのは気のせいだと思いたい。
頭には痛々しい包帯が巻かれたが昼と夜にシンタローさんのおいしいご飯を食べれたのでよしとしよう。
あれ以来シンタローさんはパプワといる時間が増えた。
そしてその間はシンタローさんはパプワとちゃんと接している。
誰もいないときや、家事の途中ふと空を見上げているときはあるがそれはしかないことなのだろう。
しかし、だ。

「おいしいか?」
「うむ」
「ほらご飯粒ついてる」
「うむ。すまんな」
「おかわりは?」
「いるゾ」
「そっか。デザートもあるからなv」
「それは楽しみだナ」
「・・・・・・・・・・・・・・」

最近の食事で毎回毎回いちゃつくのはやめてくださいご主人様。
俺にはハート乱舞してるのが見えるんです!
そのご飯粒はわざとじゃないんですか?俺のときはきれいにお食べになっていたでしょう?
シンタローさんも当たり前みたいに世話やくし!
新婚家庭にお邪魔した友人みたいな気分です!

「早く来てくださいお気遣い紳士・・・」
「チャッピー」
「おきゃ―――――――――――――――――!」
「あ~も~!床汚すなよヤンキー。後で掃除しろよ~」




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当初と予定が狂いまくった小説です。
パプシンは譲れない。
家政夫は不幸なのも譲れない(ここは譲ってもいいと思う)
最初はリキッドがパプワを心配して、シンタローさんに言って余計なお世話だといわれながらも礼を言われて手料理ご馳走、だったんですけど。
突然真剣にシンタローがやっていることを考えたら途中に重い話をいれることに。
どうしても「この惑星じゃ 今も子供らが 虫けらみたいに「ママ」と叫んで死んでゆく」って歌詞が頭から離れなくて。
がんばれ総帥!全て終わったらパプワの元へ帰って来てね!



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