ぬくもり
ぼんやりとしたまま手を握ったり開いたりする息子の姿を目にして私はどこかで目にしたと首をひねる。
どこかで、そう・・・ずっと前に一度だけ。あれはどこだった?
「・・親父?どうした?」
「え?」
気がつけば目の前に愛しい息子が立っていた。
「どうかしたのか?考え込んでるけど」
「それは私の台詞だよシンちゃん。さっきからずっとぼんやりしてて」
そう問いかければ愛息子は手のひらに目を落とした。
やはり、その姿に見覚えがある。
「なんかさ・・」
「うん」
「物足りなくて・・さ」
その言葉に、やっと思い出した。
返して、小さく呟いた声が大きく聞こえた。
部屋に入ればじっと手を見つめる彼女がいた。
細く白い手を開いたり閉じたりする。
「どうしたんだ?」
「・・・物足りないの。ぬくもりがない。重さが・・ない」
「シンちゃんのことかい?」
「・・返して」
その声は小さかった。それでもあまりにもはっきりと耳に届いた。
「どうしてこんなことを?」
涙目で美しい妻は私を見上げた。
「君のためだ。君は体が弱いんだ。あの子は高松やベビーシッターに任せるから・・・」
「違うわマジック。子供がいるからこそ母親は強くあれるのよ。それを奪うなんて酷いわ」
「しかし・・」
「お願い。シンタローを返して。お乳が出るうちに。私がぬくもりを忘れてしまう前に」
お願い・・返して。
「親父?」
突然黙り込んだマジックをシンタローは覗き込む。
マジックは声をかけられてやっと苦笑した。
「シンちゃんお母さんしてたんだね」
「は?」
「シンちゃんママと同じこというんだもん」
「は?」
「昔シンちゃんとママほんの少しの間離れて暮らしてた事があるって知ってた?」
「ああ。高松に聞いたけど俺一度母さんから引き離されたって」
「人聞きの悪い!母さんの療養のためにしばらく高松に預けたんだよ」
そこでふっとマジックは真面目な顔になった。
「でも足りない、そう言っていた。シンちゃんと同じようにね」
「・・・うん。わかるよ」
手に目を落とす。毎日のように抱き上げ、共に眠りぬくもりと重さを感じていた。
それが突然なくなった。当たり前だと思っていたものがなくなった。
「あんなに邪魔だと思ったのに」
昇ってくる子供。抱き上げてとせがむ犬。肩や背中にくっついてくる動物達。
あたたかなぬくもり。心地よい重さ。
「夜中に目が覚める」
シンタローが泣いている声が聞こえるの。
「無意識にあのぬくもりを探している」
あのぬくもりを探してしまうの。
「・・・・俺は「友達」だけど、母さんは・・もっと辛かったのかな」
幼い頃の記憶で彼女はいつも自分を抱きしめ「愛している」を繰り返していた気がする。
もう二度と離れたりしないと微笑んでいた。
いつもいつも元気な姿を見せてくれていた。
「・・・そうだね。私も随分反省したよ。だから実質離れていたのは二週間ほどだったんだけどね」
「・・・母さん・・元気になった?」
「コタローを産んでからは少し寝込む事が多くなったけれどそれまでずっと元気だったろう?」
「うん」
「そういうものなのだそうだよ。母親というのはね」
「そっか」
「それよりシンちゃん」
「うん?」
「シンちゃんがとても辛い事は知っているよ」
そっと、いつものように飛びついてくるのではなく。そっとそっと抱きしめてくる手。
「友達だったんだろう?」
「・・・父さん」
「シンタローをシンタローとしてしか見ない、初めての存在だったんだろう?」
「・・・うん」
「それがもういないことを何度も何度も認識してしまうのは、辛い事だ」
「親父も経験あるのか?」
「ママだよ。今も辛いさ」
「うそだ・・はなれてたのに」
「生きていてくれる――――それだけでよかった・・・それが全てだったよ」
ポンポン、と優しく背を叩かれる。
「シンちゃんは生きているから大丈夫。また会えるね」
そういえばこんなことは久しぶりだった。
この存在に「父親」として慰められるなんて。
「今は・・足りないかもしれないけど」
この人はこんなにもあたたかい人だった?
「かわりに私が毎日添い寝を――――――――――」
眼魔砲!
「どうしたのシンちゃん」
「ん。途中まではとってもいい話だったんだけどな」
「ふぅん。そういえばシンちゃん夜眠れないんだって?」
「ちょっとな」
「抱き枕はどう?」
いそいそと差し出した抱き枕を二つ渡す。
「嫌味か?グンマ」
「僕が添い寝する?」
「聞いてたのか」
「で、どうする?これを使う?」
グンマが持っているのは抱き枕というよりぬいぐるみ。
それもあの子供と犬にそっくりな。
「・・・使わないよ」
「じゃ僕と一緒に寝る?」
「キンタローも一緒に雑魚寝なら」
「え~ダメだよキンちゃんむっつりだもん」
「なんじゃそりゃ」
「でも、じゃあどうするの?」
「慣れるよ。慣れてみせるさ」
「・・・・・無理しなくてもいいじゃない。さみしいならさみしいで」
「だからだよ」
シンタローは微笑んだ。
「慣れるまで何度もさみしいと思うよ。哀しいと思うよ。泣くときだってあるだろう。それでいい」
代用品はいらない。
我慢したりしない。
なんどもなんども。
くりかえしくりかえし。
さみしいよ、と彼を思い出し。
かなしいよ、と彼を思い出し。
涙を流して、彼の言葉を思いだそう。
「それでいいんだ」
「でも」
「いつか慣れるさ。それまではそれでいい」
「慣れなかったら?」
「一生そのままかもナ」
あの日、あの人の背中を見た。喪服に身を包んだ父の背中を。
母を愛した父はまっすぐ立っていた。それでもどこか支えを失っているように見えた。
きっとあの日から今日まで彼は哀しみをもったままなのだろう。
「一度俺ばかり飾らないで母さんを飾ったらどうなのか、と苛立ち紛れに言ったことがあった」
「へ?マジックおじ・・お父様の事?」
「そうだ。アイツは笑って「愛してるのはシンタローなの!」とかいっていたけど」
「で、眼魔砲?」
「撃とうかと思ったけど・・・アイツそのあと」
それに飾らなくったって奥さんの事は何一つ忘れたりしないんだよ!
なんたって私にとってこの世で唯一の愛した女性(ひと)なんだからね!
「ふざけた口調だったけど、きっと本心だ」
「・・・シンちゃん」
「無理して風化しなくていいのさ。大事な思い出だ」
辛くとも哀しくともそこには喜びも愛しさもつまっている。
自然と薄れゆくまでは全て心が感じるままに。
「・・・シンちゃん!」
「うわ!なんだよ!急に大声出すなよ」
「僕とも思い出つくろうね!?」
「あぁ?」
「僕と、キンちゃんと、シンちゃんで!思い出いっぱいいっぱい作ろうね!」
「・・・グンマ」
「ね!?」
「・・・・・・・・・・そうだな」
くしゃり、とグンマの髪をかき回しシンタローは微笑んだ。
「で、このぬいぐるみどうするよ」
「ん~・・もう少し小さいサイズなら飾ってくれる?」
「・・・・おう」
「じゃリサイクルするから!待っててね!」
「・・・おう!」
「キンちゃんとこいく?」
「そうだな」
「いこう!」
「いこう」
「で、マジック叔父貴は?」
「ティラミスあたりがひろってるさ」
「そうだな」
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またしてもパプシンは譲れない(笑)
気がつけばパプワとグンマがお株を取ってました。
グンマがシンタローと寝たがっているのは下心です(待て)
パパがシンタロー愛なのはもちろんですけどママをものごっつい愛してたらいいな、と。
すっごい仲のいいバカップル夫婦だったらいいな、と。
でもママンの性格はきっとハーレムと仲良かったり高松と仲良かったりマジックを手玉に取れるくらいだといい。
この後シンタローの部屋にはパプワとチャッピーのぬいぐるみが置かれるのです。
のちにコタローを筆頭に家族のぬいぐるみがいつのまにか置かれているのです(パパお手製)
ぼんやりとしたまま手を握ったり開いたりする息子の姿を目にして私はどこかで目にしたと首をひねる。
どこかで、そう・・・ずっと前に一度だけ。あれはどこだった?
「・・親父?どうした?」
「え?」
気がつけば目の前に愛しい息子が立っていた。
「どうかしたのか?考え込んでるけど」
「それは私の台詞だよシンちゃん。さっきからずっとぼんやりしてて」
そう問いかければ愛息子は手のひらに目を落とした。
やはり、その姿に見覚えがある。
「なんかさ・・」
「うん」
「物足りなくて・・さ」
その言葉に、やっと思い出した。
返して、小さく呟いた声が大きく聞こえた。
部屋に入ればじっと手を見つめる彼女がいた。
細く白い手を開いたり閉じたりする。
「どうしたんだ?」
「・・・物足りないの。ぬくもりがない。重さが・・ない」
「シンちゃんのことかい?」
「・・返して」
その声は小さかった。それでもあまりにもはっきりと耳に届いた。
「どうしてこんなことを?」
涙目で美しい妻は私を見上げた。
「君のためだ。君は体が弱いんだ。あの子は高松やベビーシッターに任せるから・・・」
「違うわマジック。子供がいるからこそ母親は強くあれるのよ。それを奪うなんて酷いわ」
「しかし・・」
「お願い。シンタローを返して。お乳が出るうちに。私がぬくもりを忘れてしまう前に」
お願い・・返して。
「親父?」
突然黙り込んだマジックをシンタローは覗き込む。
マジックは声をかけられてやっと苦笑した。
「シンちゃんお母さんしてたんだね」
「は?」
「シンちゃんママと同じこというんだもん」
「は?」
「昔シンちゃんとママほんの少しの間離れて暮らしてた事があるって知ってた?」
「ああ。高松に聞いたけど俺一度母さんから引き離されたって」
「人聞きの悪い!母さんの療養のためにしばらく高松に預けたんだよ」
そこでふっとマジックは真面目な顔になった。
「でも足りない、そう言っていた。シンちゃんと同じようにね」
「・・・うん。わかるよ」
手に目を落とす。毎日のように抱き上げ、共に眠りぬくもりと重さを感じていた。
それが突然なくなった。当たり前だと思っていたものがなくなった。
「あんなに邪魔だと思ったのに」
昇ってくる子供。抱き上げてとせがむ犬。肩や背中にくっついてくる動物達。
あたたかなぬくもり。心地よい重さ。
「夜中に目が覚める」
シンタローが泣いている声が聞こえるの。
「無意識にあのぬくもりを探している」
あのぬくもりを探してしまうの。
「・・・・俺は「友達」だけど、母さんは・・もっと辛かったのかな」
幼い頃の記憶で彼女はいつも自分を抱きしめ「愛している」を繰り返していた気がする。
もう二度と離れたりしないと微笑んでいた。
いつもいつも元気な姿を見せてくれていた。
「・・・そうだね。私も随分反省したよ。だから実質離れていたのは二週間ほどだったんだけどね」
「・・・母さん・・元気になった?」
「コタローを産んでからは少し寝込む事が多くなったけれどそれまでずっと元気だったろう?」
「うん」
「そういうものなのだそうだよ。母親というのはね」
「そっか」
「それよりシンちゃん」
「うん?」
「シンちゃんがとても辛い事は知っているよ」
そっと、いつものように飛びついてくるのではなく。そっとそっと抱きしめてくる手。
「友達だったんだろう?」
「・・・父さん」
「シンタローをシンタローとしてしか見ない、初めての存在だったんだろう?」
「・・・うん」
「それがもういないことを何度も何度も認識してしまうのは、辛い事だ」
「親父も経験あるのか?」
「ママだよ。今も辛いさ」
「うそだ・・はなれてたのに」
「生きていてくれる――――それだけでよかった・・・それが全てだったよ」
ポンポン、と優しく背を叩かれる。
「シンちゃんは生きているから大丈夫。また会えるね」
そういえばこんなことは久しぶりだった。
この存在に「父親」として慰められるなんて。
「今は・・足りないかもしれないけど」
この人はこんなにもあたたかい人だった?
「かわりに私が毎日添い寝を――――――――――」
眼魔砲!
「どうしたのシンちゃん」
「ん。途中まではとってもいい話だったんだけどな」
「ふぅん。そういえばシンちゃん夜眠れないんだって?」
「ちょっとな」
「抱き枕はどう?」
いそいそと差し出した抱き枕を二つ渡す。
「嫌味か?グンマ」
「僕が添い寝する?」
「聞いてたのか」
「で、どうする?これを使う?」
グンマが持っているのは抱き枕というよりぬいぐるみ。
それもあの子供と犬にそっくりな。
「・・・使わないよ」
「じゃ僕と一緒に寝る?」
「キンタローも一緒に雑魚寝なら」
「え~ダメだよキンちゃんむっつりだもん」
「なんじゃそりゃ」
「でも、じゃあどうするの?」
「慣れるよ。慣れてみせるさ」
「・・・・・無理しなくてもいいじゃない。さみしいならさみしいで」
「だからだよ」
シンタローは微笑んだ。
「慣れるまで何度もさみしいと思うよ。哀しいと思うよ。泣くときだってあるだろう。それでいい」
代用品はいらない。
我慢したりしない。
なんどもなんども。
くりかえしくりかえし。
さみしいよ、と彼を思い出し。
かなしいよ、と彼を思い出し。
涙を流して、彼の言葉を思いだそう。
「それでいいんだ」
「でも」
「いつか慣れるさ。それまではそれでいい」
「慣れなかったら?」
「一生そのままかもナ」
あの日、あの人の背中を見た。喪服に身を包んだ父の背中を。
母を愛した父はまっすぐ立っていた。それでもどこか支えを失っているように見えた。
きっとあの日から今日まで彼は哀しみをもったままなのだろう。
「一度俺ばかり飾らないで母さんを飾ったらどうなのか、と苛立ち紛れに言ったことがあった」
「へ?マジックおじ・・お父様の事?」
「そうだ。アイツは笑って「愛してるのはシンタローなの!」とかいっていたけど」
「で、眼魔砲?」
「撃とうかと思ったけど・・・アイツそのあと」
それに飾らなくったって奥さんの事は何一つ忘れたりしないんだよ!
なんたって私にとってこの世で唯一の愛した女性(ひと)なんだからね!
「ふざけた口調だったけど、きっと本心だ」
「・・・シンちゃん」
「無理して風化しなくていいのさ。大事な思い出だ」
辛くとも哀しくともそこには喜びも愛しさもつまっている。
自然と薄れゆくまでは全て心が感じるままに。
「・・・シンちゃん!」
「うわ!なんだよ!急に大声出すなよ」
「僕とも思い出つくろうね!?」
「あぁ?」
「僕と、キンちゃんと、シンちゃんで!思い出いっぱいいっぱい作ろうね!」
「・・・グンマ」
「ね!?」
「・・・・・・・・・・そうだな」
くしゃり、とグンマの髪をかき回しシンタローは微笑んだ。
「で、このぬいぐるみどうするよ」
「ん~・・もう少し小さいサイズなら飾ってくれる?」
「・・・・おう」
「じゃリサイクルするから!待っててね!」
「・・・おう!」
「キンちゃんとこいく?」
「そうだな」
「いこう!」
「いこう」
「で、マジック叔父貴は?」
「ティラミスあたりがひろってるさ」
「そうだな」
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またしてもパプシンは譲れない(笑)
気がつけばパプワとグンマがお株を取ってました。
グンマがシンタローと寝たがっているのは下心です(待て)
パパがシンタロー愛なのはもちろんですけどママをものごっつい愛してたらいいな、と。
すっごい仲のいいバカップル夫婦だったらいいな、と。
でもママンの性格はきっとハーレムと仲良かったり高松と仲良かったりマジックを手玉に取れるくらいだといい。
この後シンタローの部屋にはパプワとチャッピーのぬいぐるみが置かれるのです。
のちにコタローを筆頭に家族のぬいぐるみがいつのまにか置かれているのです(パパお手製)
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