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sgs
ヌーシャーファリン





後ろから聞こえてくるのは鼻歌。それと同時に頭を軽く引っ張られる感触。
それを無視しながら目の前に座る男と話を続ける。

「すいませんね。せっかくの休日に」

高松の前には私服姿のシンタローが資料を持って座っていた。

「かまわねぇよ。で、これを使えば砂漠でも植物が生えると?」
「そうです。水分を吸収する物質を砂に混ぜるんです。
簡単にいえばオムツに使われているようなものですよ・・ってそのままを想像しないでくださいね?」
「一瞬しかけたけどな。で、それで何で木が育つんだ?」
「簡単なことですよ。砂よりは水を吸収する力が強いけれど木が水を吸い上げる力よりは弱いんです」
「なるほど。で、その後どうなる?」
「時間がたてば自然に分解されて土へ戻ります。2,3年といったとこですかね。環境に悪影響は一切ありません。むしろ栄養になるくらいです」
「さすがだな高松」
「光栄の極み・・ところで」

チラリ、とシンタローの後ろへと目をやる。

「よろしいのですか?」
「気にするな高松。好きにしていいって言ったのは俺だ」
「いえ何かとてもかわいらしいことに・・・いえ、なんでもありません」

ちょっとジト目になったシンタローから目をそらす。
そっと鼻血を抑えつつ話を続ける。

「実用化は?」
「経費さえいただければ」
「わかった。で、これはどっちの研究結果?」

ため息をついて肩に零れる花びらをつまむ。
シンタローの黒髪は高く結い上げられポニーテールになっていた。
そこに鼻歌交じりに花で飾り付けているのはほかならぬグンマだ。

「これは僕~vキレイでしょ?」
「キレイだけどこういうのは似合う人にあげろよ。美貌のおじ様とかさ」
「シンちゃん以上に似合う人はいないよ!ね~高松~」
「もちろんグンマ様もお似合いですがシンタロー様もお似合いです!」
「・・・高松。それはグンマの意見だからだよな?」
「いえ!それは私自身の・・いけ・・ん・・・・いえ・・なんでも・・・・」

だんだん語尾が弱まり顔色を真っ青にした高松を不思議そうに見ながらシンタローはグンマに問う。

「で、これはどんな力が?」
「別に。新種って言うだけ」

ハイ、と差し出された花を受け取る。
透けるような白い花びらが幾重にも重なった、美しい花。

「研究じゃないのか?」
「大丈夫。ちゃぁんと研究は進んでます。その途中で偶然できちゃったんだ」
「・・キレイだな」
「でしょう?いろいろ交配しているうちにできてね」

本当は水をやらなくてもしばらく持つような植物を作りたかったんだけど。
そう苦笑する気配が伝わって後ろを振り向こうとする。
けれどもグンマに制される。しぶしぶ前を向いて黙っている。

「もういいだろ?」
「好きにしていいって約束でしょ?もう少し!」
「何で俺に飾るんだよ・・ったく」
「それは――――」

・・・・だから

「あ?なんか言ったか?」
「なぁんにも」





好きなだけ飾り付け満足したグンマはお茶淹れてくるねvとその場を立ち去った。

「どうかしたのですか?」
「あ?何がだ?」

高松は鼻血を堪えながら真っ白な花のみで飾られたシンタローを見つめる。

「いつもならこんなことを許す貴方ではないでしょう?」
「ああ。ご褒美」
「ご褒美、ですか?」
「この前の研究。あれ特許取れてな。団の財源が大助かり」
「貴方達がばかみたいに眼魔砲撃たなきゃもっといいんでしょうけど」
「襲われなきゃ撃たない」
「マジック様ですか。困った人ですね」
「獅子舞もな。ところで高松」
「なんでしょう」
「何でアイツあんなに喜んでんだ?」
「え?」
「だってさっきから楽しそう・・・いや、嬉しそうかな。だから」
「そうですね。そんな感じでした」
「なんでだろうな」
「それは・・きっと」


「貴方に似合ったから」


それで充分、というように高松は微笑んだ。
その高松の目の前でシンタローは花に目を落とす。
それはあまりにも美しい花。
透き通るような、白い花。
僅かに青みがかった―――――――


「・・・・青い花にすりゃあいいじゃねぇか」
「それで似合わなかったらどうするんです?怖いでしょう?」
「・・ばかみてぇ」
「よくお似合いですよ」
「そうかぁ?よっぽどグンマの方が似合うんじゃねぇの?」
「そんなことをおっしゃらないでくださいよ」
「だってそうだろ?真っ白で・・」

表情を曇らせうつむいたシンタローに高松は優しく微笑んだ。
この前の戦闘で一般人へ被害を出した。死者は、いなかった。償うだけの償いをした。
この研究もその花が生まれた研究もその償いの一環だ。
これが完成すればあの砂漠の国はいつの日か緑に溢れた国へと変われるだろう。
それでも、彼は顔を曇らせる。
そんな事は問題ではない。
問題ではないからだ――――――――

「・・・そうですね」

お似合いですよ、などと口にしても仕方がない。
私が口にすべき事ではない。
高松は静かに目を閉じ、開け、いつもの笑みを浮かべた。

「・・・確かに似合うでしょうね。グンマ様の美しい金糸の髪に生えて」

高松はあえていつもの声でいつものような言葉をつむぐ。
シンタローはそれに感謝しながらそれにあわせるようにいつもの自分を思い出す。

「あの愛らしい笑顔に白い花・・・まるで天使のようです!」
「またはじまった」

いつもの呆れたような、苦笑交じりの自分の声が耳に届く。
いつもの自分がいることに安心しながら少し顔をあげ高松と顔を見合わせる。
高松は優しい笑みを浮かべていた。

「・・・けれど、あなたがそんな顔をなさっていてはグンマ様の顔が曇ってしまいますよ」

そっと指の背で頬を撫でる。いつもの自分を作れたと安心したシンタローの。
本当は今にも泣きそうな表情をしている・・・シンタローの。

「・・・・高松」
「どうか笑顔でいてください」
「・・・ごめん」
「ほらほら、グンマ様が戻ってきてしまいますよ?いつもの俺様な笑顔はどこへいったのですか?」

シンタローはその言葉に苦笑し少し顔を伏せ、目を閉じる。
それから顔を上げ目を開けると、はにかむように笑った。





「お茶淹れてきたよ~・・って何事!?」

床で鼻血を大量に流す高松をよけながらグンマはシンタローの元へたどり着く。

「わかんねぇんだけど突然鼻血を噴いて・・・グンマは何もしてねぇのに・・」
「・・・・・シンちゃん」
「うん?」
「高松に笑った?」
「・・・笑った・・けど?」

話しているうちに床を鼻血の海にする高松の被害にあわないように二人でイスの上に上がる。
それでもやばそうなので行儀悪いかな、といいつつグンマと共にテーブルの上へ腰掛ける。

「ダメだよ~シンちゃんの笑みは凶器なんだからね☆」
「・・・・・意味わかんねぇ」
「そのうち理解してね。僕も安心できるから」
「・・努力する」
「うん!」

うれしそうに笑ったグンマにシンタローは小さく笑む。
はらり、と花びらが肩から滑り落ちた。それをみてふとシンタローはグンマに尋ねる。


「なぁグンマ」
「なに?シンちゃんv」
「この花名前あるのか?」
「うん」
「なんて名前だ?」

その時グンマはシンタローが初めて見る表情を浮かべていた。
それはそれは愛しそうにシンタローを彩る花を見つめ微笑んだ。

「ヌーシャーファリン」

初めて聞く言葉だった。そしてそれを告げたグンマの声も。
その柔らかな響きと、その表情にシンタローは僅かに息を呑む。
まるで、自分の名を呼ばれているような気がして。
まるで、自分に微笑みかけられているような気がして。

「・・・どこの言葉だソレ」
「ペルシア語だよ☆」

いつものグンマだ、とほっとする自分を不思議に思いながらさらに尋ねる。

「意味は?」
「喜びを作る人、っていうんだ」
「喜びを・・作る?」
「つまりね」


「お前みたいだな」


「・・・え?」

シンタローは驚いた表情のグンマから照れくさそうに顔をそらす。
それでもどこか覚悟を決めたように話し出す。

「いつも笑っててくれて・・・すげぇ助かっているんだ」
「・・シン、ちゃん?」
「お前がいつも変わらないでいてくれるから・・俺も、いつもの俺を取り戻せてる」
「・・シンちゃん」
「お前が笑顔で出迎えてくれるとほっとする。帰って来たって・・思う」
「・・・それ」
「ウソじゃないぞ?」
「でも」
「ご褒美でもないからな?ただ、いつもは照れくさくて言えないから・・」

そらしていた顔をグンマへと戻す。
それはいつものシンタローの笑顔。
でもグンマが大好きな、とびっきりの、やさしいやさしい笑顔。
少し、頬が赤い。

「いつもサンキュ。グンマ」
「っ!」

グンマは最早耐え切れずシンタローに抱きついた。
花がきちんと飾り付けられていなかったのかその衝撃でパラパラと零れ落ちる。
それが金色の髪の上に散らばりなんて美しいのだろうとシンタローは思った。

「シンちゃん大好き!」
「ああそうかい」
「本当だよ!一番大好き!でもシンちゃん間違ってる!!」

がば!とグンマは体を離しシンタローを見据える。
その瞳は美しい青に輝いていた。

「僕の「喜びを作る人」はシンちゃんなんだからね!だからこの花はシンちゃんに捧げる花なんだからね!!!」
「・・・・ごめん」
「シンちゃん」

グンマはあの笑みを浮かべていた。
愛しそうに、今度はシンタローを見つめて。

「愛しているよ・・シンちゃん」

そう呟いて再びシンタローに抱きついた。今度は、そっとやさしく。
シンタローは呆気にとられたがすぐに苦笑してグンマを抱き返す。
その言葉になんと返していいか分からなかった。ただ小さく。

「・・うん」

とだけ、返して肩の上に頭を乗せる。
その返事も可笑しいかな?と思ったがまぁいいや、とそのまま目を閉じる。
そのまま二人でキンタローとティラミスとチョコレートロマンスが救出にくるまでよりそっていた。




床で瀕死の高松をすっかり忘れて。


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