オモイノママ
シンタローが私室でくつろいでいると来客を知らせるインターホン。
昔は家族であれば出入り自由だったが今では本人の指紋と網膜による承認がなければ入れないようになっている。
セキュリティ強化の最たる理由がシンタローのためのマジック対策というのが情けない話だが。
「誰だ?」
『俺様だ。酒わけろ』
「・・・・肝臓やられておっちね獅子舞」
「それでも開けてくれるたぁやさしい甥っ子だな」
ハーレムはうきうきしながら酒の棚を眺めている。
開けなきゃ眼魔砲の一発でも放つだろが!そう叫びたいのをぐっとこらえる。
「そのスコッチは飲むなよ?」
「なら飲む」
「殺すぞおっさん」
「何だよいいじゃねぇか」
「ソレはダメだ。今度それで飲むってあいつらと約束してんだからよ」
「伊達衆?」
「ああ」
「なら見逃してやろう」
そういってやはり年代物のモルト・ウィスキーを手に取る。
かわんねぇって!それもできれば見逃せ!と思ったがここは黙って譲ることにする。
今日は特別だ。本人は気にも留めていないだろうが。
「ん?」
「なんだ?」
「それなんだ?」
「それって・・ああ」
テーブルの上に置かれた花瓶に生けられた梅の花。
だが同じ枝から紅梅と白梅が咲いている。
「そういう品種なんだよ。「オモイノママ」っていう名前の梅」
「オモイノママ?すごい誘い文句だな」
シンタローはがっくりとうなだれテーブルに突っ伏す。
わかっていた。分かっていたのに何を期待していた俺!
「・・・アンタに情緒を期待しても無駄だったんだよな」
昔母が珍しい花なのだと言っていたのを思い出し高松に聞いてみたのだ。
遅咲きだから、と言われ来週には再び遠征に行く予定なので諦めていた。
だが昨日わざわざ枝を切って温室で芽吹かせて高松が持ってきてくれた。
「がんばっている貴方にご褒美ですよ」
相変わらずの子ども扱いだと思ったがそれでもうれしかった。
きれいな花だと心地よい気分で眺めていたのに!台無しだ!
ハーレムはうなだれるシンタローを気にせず梅を見てつぶやく。
「――想いのまま咲き乱れってとこか?」
「は!?」
まさかハーレムの口からそんな言葉を聞こうとは思わなかった。
「それとも「想い入り乱れるまま」?」
「ゆ、由来までは知らねぇけど・・紅と白が両方咲くからじゃネェの?」
「ふぅん」
ハーレムはしばし梅を見つめていたがふいに手を伸ばしその枝をあっさりと手折った。
そうしてそのまま抗議の声をあげようとしたシンタローの耳にそっとその枝を飾る。
「白も似合うが・・」
硬直したままのシンタローの顎を指ですくい上げる。
ハーレムはシンタローが思わず見とれるほどの極上の笑みを浮かべる。
「お前にゃ紅だな」
「っ!」
「よく似合う」
指の背でゆっくりと頬を撫でられシンタローは我に返る。
顔を真っ赤にしながらあわててハーレムの手から逃れる。
「アッ!アンタ頭おかしくなったのか!?」
「あ?お前が情緒とか言うから雰囲気出してやったのに」
「それは情緒じゃないだろ!」
「うっせぇなぁ珍しく褒めてやったのに」
「褒めてって・・」
「正しくは正直に言ってやった、だけどな」
ますます顔が赤くなるのを自覚しながらシンタローは立ち上がる。
だがハーレムに腕を引かれ背中から抱きこまれる。
「離せ!これ以上付き合っていられない!人がせっかく・・」
「せっかく、誕生日なんだ。祝えよ」
「――オメデトウ」
「部屋に入れておいて貰った酒をプレゼント。それであとははいさようなら?そりゃないだろ?」
「・・・うっせぇ」
「いいだろ?」
「いやだ」
「イヤでもする」
「アンタはなんでそうなんだ!」
「思いのまま生きてるもん」
「もんとかいうな!!つかアンタは本能のままだろ!!」
「はいはい」
よいしょ、とハーレムはあっさりとシンタローを抱き上げ寝室へ向かう。
それも俵担ぎではなくお姫様抱っこで。
「おろせー!」
「暴れるなって。梅が落ちるぜ」
「ハーレム!」
暴れられても意に介さずそのままベッドにシンタローを放り投げる。
起き上がるシンタローを押さえつけ身を寄せると耳元で低い声でささやく。
「シンタロー」
名前を呼ばれることが弱いことを知っているからこそのタイミング。
再び固まったシンタローと額をあわせ唇の上でささやく
「俺の、想いのままに咲き乱れろよ」
「―――――っ!」
ハーレムは勝利を確信しシンタローは顔を赤くしながら負けを認めた。
「ったくそうやって女口説いてんだろ」
「女にこんな手間かけるかよ。お前限定」
「分かったからもうその類の発言やめろ!」
「じゃあはいどうぞ」
シンタローは仕方ねぇな、と赤い顔のままハーレムに自分からキスをした。
「誕生日おめでとう」
「サンキュ」
FIN
シンタローが私室でくつろいでいると来客を知らせるインターホン。
昔は家族であれば出入り自由だったが今では本人の指紋と網膜による承認がなければ入れないようになっている。
セキュリティ強化の最たる理由がシンタローのためのマジック対策というのが情けない話だが。
「誰だ?」
『俺様だ。酒わけろ』
「・・・・肝臓やられておっちね獅子舞」
「それでも開けてくれるたぁやさしい甥っ子だな」
ハーレムはうきうきしながら酒の棚を眺めている。
開けなきゃ眼魔砲の一発でも放つだろが!そう叫びたいのをぐっとこらえる。
「そのスコッチは飲むなよ?」
「なら飲む」
「殺すぞおっさん」
「何だよいいじゃねぇか」
「ソレはダメだ。今度それで飲むってあいつらと約束してんだからよ」
「伊達衆?」
「ああ」
「なら見逃してやろう」
そういってやはり年代物のモルト・ウィスキーを手に取る。
かわんねぇって!それもできれば見逃せ!と思ったがここは黙って譲ることにする。
今日は特別だ。本人は気にも留めていないだろうが。
「ん?」
「なんだ?」
「それなんだ?」
「それって・・ああ」
テーブルの上に置かれた花瓶に生けられた梅の花。
だが同じ枝から紅梅と白梅が咲いている。
「そういう品種なんだよ。「オモイノママ」っていう名前の梅」
「オモイノママ?すごい誘い文句だな」
シンタローはがっくりとうなだれテーブルに突っ伏す。
わかっていた。分かっていたのに何を期待していた俺!
「・・・アンタに情緒を期待しても無駄だったんだよな」
昔母が珍しい花なのだと言っていたのを思い出し高松に聞いてみたのだ。
遅咲きだから、と言われ来週には再び遠征に行く予定なので諦めていた。
だが昨日わざわざ枝を切って温室で芽吹かせて高松が持ってきてくれた。
「がんばっている貴方にご褒美ですよ」
相変わらずの子ども扱いだと思ったがそれでもうれしかった。
きれいな花だと心地よい気分で眺めていたのに!台無しだ!
ハーレムはうなだれるシンタローを気にせず梅を見てつぶやく。
「――想いのまま咲き乱れってとこか?」
「は!?」
まさかハーレムの口からそんな言葉を聞こうとは思わなかった。
「それとも「想い入り乱れるまま」?」
「ゆ、由来までは知らねぇけど・・紅と白が両方咲くからじゃネェの?」
「ふぅん」
ハーレムはしばし梅を見つめていたがふいに手を伸ばしその枝をあっさりと手折った。
そうしてそのまま抗議の声をあげようとしたシンタローの耳にそっとその枝を飾る。
「白も似合うが・・」
硬直したままのシンタローの顎を指ですくい上げる。
ハーレムはシンタローが思わず見とれるほどの極上の笑みを浮かべる。
「お前にゃ紅だな」
「っ!」
「よく似合う」
指の背でゆっくりと頬を撫でられシンタローは我に返る。
顔を真っ赤にしながらあわててハーレムの手から逃れる。
「アッ!アンタ頭おかしくなったのか!?」
「あ?お前が情緒とか言うから雰囲気出してやったのに」
「それは情緒じゃないだろ!」
「うっせぇなぁ珍しく褒めてやったのに」
「褒めてって・・」
「正しくは正直に言ってやった、だけどな」
ますます顔が赤くなるのを自覚しながらシンタローは立ち上がる。
だがハーレムに腕を引かれ背中から抱きこまれる。
「離せ!これ以上付き合っていられない!人がせっかく・・」
「せっかく、誕生日なんだ。祝えよ」
「――オメデトウ」
「部屋に入れておいて貰った酒をプレゼント。それであとははいさようなら?そりゃないだろ?」
「・・・うっせぇ」
「いいだろ?」
「いやだ」
「イヤでもする」
「アンタはなんでそうなんだ!」
「思いのまま生きてるもん」
「もんとかいうな!!つかアンタは本能のままだろ!!」
「はいはい」
よいしょ、とハーレムはあっさりとシンタローを抱き上げ寝室へ向かう。
それも俵担ぎではなくお姫様抱っこで。
「おろせー!」
「暴れるなって。梅が落ちるぜ」
「ハーレム!」
暴れられても意に介さずそのままベッドにシンタローを放り投げる。
起き上がるシンタローを押さえつけ身を寄せると耳元で低い声でささやく。
「シンタロー」
名前を呼ばれることが弱いことを知っているからこそのタイミング。
再び固まったシンタローと額をあわせ唇の上でささやく
「俺の、想いのままに咲き乱れろよ」
「―――――っ!」
ハーレムは勝利を確信しシンタローは顔を赤くしながら負けを認めた。
「ったくそうやって女口説いてんだろ」
「女にこんな手間かけるかよ。お前限定」
「分かったからもうその類の発言やめろ!」
「じゃあはいどうぞ」
シンタローは仕方ねぇな、と赤い顔のままハーレムに自分からキスをした。
「誕生日おめでとう」
「サンキュ」
FIN
PR