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じっとこちらを見上げる目にシンタローはちらり、と隣に目をやる。
隣ではなんとも言えない顔をした――多分自分も同じ表情を浮かべているのだろう――グンマもシンタローを見上げている。
「・・・・触るのはいいけど、触った後絶対に手を洗えよ?」
「わかった!!」
キラキラした目でキンタローは返事をするとうれしそうにガマガエルをつかんだ。
「・・・・・触るくらいは平気だよな?」
「う~ん。攻撃しなきゃ毒ださないし、手を洗えば平気だと思うよ?」
「・・・ふぅ」
「シンタロー」
「なんだ?」
「なんか出てきたぞ?」
「わかった。速攻手を洗いに行け」



赤とんぼ



「・・・・昨日はナメクジに塩かけて遊んでたな」
「蛇もね。青大将だっけ」
「・・・・日本くんじゃなかったなぁ」
「ゆっくりできていいかな、って思ったんだけどね」
シンちゃんが総帥になる前にね。
グンマが少しさびしそうに笑ってそう言うのでシンタローは少し困ったような顔で笑った。
シンタローの、正しくはグンマの母親が田舎に建てた別荘・・というには少々小ぢんまりとした平屋の日本家屋。
本当に普通の田舎にあるような家。母が家族とだけ過ごすために建てた家。
そこに三人だけでやってきた。

「シンちゃんが総帥になる前に三人だけで過ごしたい」

そうグンマが言った。そのどこか祈るような声にシンタローはうなづいた。
キンタローも都会で過ごすことはあったが日本の田舎はもちろん初めて。
すぐにうれしそうにうなづいた。
「・・・・まぁ、いいか」
「・・・キンちゃんが楽しそうだから?」
「ん、まぁな」
「・・・気にすることないのに」
「気にしてねぇよ。ただ、本当にそう思ってるだけだ」
「ふぅん。うそつきぃ」
グンマは笑ってそういった。シンタローも笑った。
足音が近づいてきたのでシンタローは廊下を見た。
「洗ったか?」
「洗った」
「きれいに洗ったか?」
「洗った」
「よし」
二人で座っていた縁側からシンタローは立ち上がる。
グンマも続けて立ち上がりキンタローは縁側から庭へ降りる。
「さて。庭は散策しつくしたし近くを散歩するか」
「そうだね」
「うむ」
「蛇がいても、もうかまうなよ」
「どうしてだ?」
「日本で蛇って言うのは神様の使いなの。だからイタズラしたりするのはダメなの」
「殺生なんてもってのほか、だな」
「ふぅん」
「さて、いくか」




「あれは?」
「あれは赤とんぼ。ちょっと、気の早い、な」
「指に止まらないかな」
「難しいんじゃね?」
グンマが人差し指を空へ向ける。キンタローも真似をする。
赤とんぼはそれを無視して飛び回っている。
「こないね~」
「・・・むぅ」
それを見ながらシンタローは言いかけた言葉を飲み込んだ。
母さんは上手だった、そう言おうとした。
だがそう呼んでいいのかな、と思ってしまった。
思ってしまったこと、そして母と呼ぶことをためらった事。
それが妙に、あの優しい母に申し訳なく思った。
「シンタロー・・とまったぞ」
「へ?」
グンマとキンタローを見るがどこにも赤とんぼの姿はない。
「どこだ?」
「お前の頭の上だ」
「へ?」
グンマとキンタローが笑った。




「あ、ナワシロイチゴだ」
「あ。ほんとだ」
「ちょうど頃合・・か熟れすぎか・・どれ」
シンタローが壁に這うように生えているツタに生った実をつまむ。
見るからにそれは赤く熟していた。
「ん、あまい」
「キンちゃんも食べてごらんよ。木苺の一種だよ」
「ああ」
「少し摘んでくか」
キョロキョロ辺りを見回しフキの葉を一枚。それと近くに生えている頑丈な草を数本。
「どうするんだ?」
「こうして重ねて・・・草で縫い合わせるんだよ」
「あ~おば、お母様におしえてもらったやつだよね」
あっさりと言ったグンマにシンタローは少し驚き、うなづいた。
「ああ、母さんから教えてもらったやつだ」
「上手い具合に器ができるんだな」
「よし。摘んでいこうぜ」
「そうだね。歩きながら食べようか」
摘んだナワシロイチゴをいれたフキの葉の器をグンマが持ち、三人でつまみながらあぜ道を歩く。
「あ、神社だ」
「あんなに小さかったんだな」
「・・・俺もあれには見覚えあるな」
「へぇ」
「かくれんぼしてグンマが泣いたときのことを」
「そんなの覚えてないでよ・・」
グンマが情けない顔をしたのでシンタローはこっそり笑った。
それでもそれにちゃんと気づいたグンマはあんぱーんち、と言いながら力のいれられてないパンチをシンタローに繰り出した。
「シンちゃん!」
「はは!わるいわるい」
「も~」
「確か俺が見つからないって、泣いてたんだよなぁ」
「だって~僕が泣くとシンちゃんすぐにどこからか出てきてくれるんだもん」
膨れ面でそういった後、グンマはふふ、とうれしそうに笑った。
「そういえばあの頃は僕魔法がつかえるのかと思っていたよ。泣くと使える魔法。シンちゃんにだけ効く魔法!」
「今だって使えんだろうが」
「もう使えないよ。というより使わない。僕は泣かないって決めたもの」
シンタローの足が止まった。キンタローもグンマを見つめている。
グンマは少し歩くとくるり、と振り返りおだやかに微笑んだ。
「もう泣かないよ。シンちゃんがそばにいないのなら、意味のない魔法だって知ったもの」
「グンマ・・」
「その代わり頼りになるお兄ちゃんになるって決めたんだ!コタローちゃんが起きたとき頼れるようなね。
それでお父様と一緒にシンちゃんの留守を守るんだ!」
「・・そっか」
「キンちゃんは?」
「今は・・科学者もいいな、と思ってる。だが・・」
「おやぁ、菖蒲さんとこの坊ちゃんじゃないか」
一台のトラックがとまり初老の夫婦が顔を出した。
「あ、こんにちは」
「お久しぶりです」
シンタローは微笑み軽く会釈すると夫婦のほうへ歩いていった。
キンタローは首をかしげグンマに尋ねる。
「誰だ?見たことあるような・・」
「あの家を時々手入れしてくれてる人だよ」
「ああ・・そういえば」
「なかなか来れないから腐っちゃうもん。たまに風をいれないとね」
「叔父貴はよく来ているようだったが」
「うん・・・お母様の思い出がたくさん詰まっているからね」
「そうか」
「で、さっきの続きは?」
シンタローが夫婦と楽しげにしゃべっているのを確認してからグンマは続きを促す。
「・・・だが、シンタローを手伝うのも面白そうだと思っている」
「面白そうって・・」
「こういうものを、守るのだろう?」
キンタローは周囲を見回す。ただただのどかな田園が続く。
あたりでは蛙が煩いくらいに鳴いている。
そろそろ日が傾き始めた証拠だ。
「こういう、当たり前の日々を送る人たちを守るのだろう?」
「そうだけど・・」
「なら面白そう、というか・・・やってみたい、と思う」
「僕の研究だってその一環なんだけど?」
「だがグンマは家を守るといった。なら俺はそこに帰るシンタローを守りたいと思う」
ダメか?と犬のような目で見られグンマは考え込む。
「いきなりその道だと多分シンちゃんが引退するまでその道だよ?」
「研究も続けるさ。片手間になるだろうが関係ない」
「・・・・・本気?」
「もちろん」
「高松が怒りそうだなぁ」
「そうか?」
「うん。高松はキンちゃんがキンちゃんなりの道を歩むのを望んでたから」
「俺なりの道だろう」
「う~ん。やっぱりシンちゃんに引き寄せられてるって思うんじゃないかなぁ」
「・・・それはグンマもじゃないのか?」
「あ、僕の場合は諦められているから」
グンマはにっこり笑ってイチゴを口の中へいれた。
「・・・僕のは24年間の歴史があるし、それを徹底してきたことを知ってるから」
「俺にもある。俺なりの、24年間が」
「うん。でもずっとシンちゃんの心を見てきてしまっているからその心を助けてあげたいって思っちゃうんじゃないかって・・・そういう心配」
「・・・・・そうか」
「うん」
「なら俺も諦めてもらおう」
「は?」
キンタローもイチゴをいくつか手に取り口に入れる。
「理由はどうあれ世界のためになるのだから諦めてもらう」
「キンちゃん・・」
「俺はまたここにこうやって遊びに来たい。コタローや叔父貴たちとも一緒に」
「・・・うん」
「もちろん、高松も」
「うん」
「だから、そのためにはこの世界が平和になる必要がある」
「うん。そうだね」
「だから、そのために世界をあいつの望む形に変えたい」
話が終わったのかシンタローと夫婦は頭を下げあっていた。
夫婦の笑顔は、キンタローがシンタローの内から見ていた笑顔と変わっていなかった。
とてもあたたかな笑顔だった。つられるようにシンタローも同じ笑顔をうかべていた。
それを見て少しうれしくなってキンタローも笑う。グンマはそれを見て笑う。
「不純な動機だね。シンちゃんのために世界を平和にするなんて」
「結果がよければいいだろ」
「そうだね」
「お前だって不純だろ?」
「純粋だよ~?僕は平和も何も関係ないもの」
「え?」
「シンちゃんの幸せが平和だと言うならそれを作り上げる。シンちゃんの幸せがあの島ならどんな手をつかってもあの島へ行かせる」
「グンマ・・」
「純粋でしょう?一途ともいうし・・」
グンマはそこで少しうつむいて髪で顔を隠した。
「執着、とか偏愛とかとも、言うけどね」
「・・・・かもな」
でも、とグンマはまっすぐ顔をあげる。真剣な目で、まっすぐ前を見据える。
「でも知ってるし、分かってるから。それでも望むままに」
「・・グンマ」
キンタローが顔をしかめるとグンマはいつもの笑顔で笑った。
そしてびし!とこぶしを空に向けてグンマは叫んだ。
「ただただシンちゃんのためにぃ!!あ、痛」
「何を叫んどる」
グンマはシンタローにこづかれた頭を抱え後ろを振り返る。
シンタローは呆れ顔で立っていた。トラックはもう遠くへ走り去っている。
「ん~・・・愛の告白?」
「あのなぁ」
「だから、がんばろうねって話」
「がんばろう、ね?」
シンタローはキンタローをみる。キンタローはそれにあわせるように視線をそらす。
「・・・・お前まさか俺を手伝うとかいうんじゃねぇよな」
「・・・その、まさかだったらどうする?」
「・・・高松の説得は自分でやれよ?」
シンタローはそう言うと驚く二人を置いて歩き出した。
「・・・・怒らないの?」
「呆れてる」
「止めないのか?」
「止めてきくのか?」
「いや・・しかし、止められると思っていたから・・」
「俺は、そう言うだろうと思ってたよ」
「・・・そうか」
グンマはそこで少し足を止めた。
二人の背中が少しずつ遠ざかる。
そうか。ここからは二人で歩き出すのか。
正直、うらやましくないとは、とてもじゃないけど思えない。
けれど、もしかするとこの結果は当然のことなのかもしれないとも、思う。
キンタローがシンタローの内にいたことも必然のように思える。
なら、僕は今までどおり見守ればいいだけのことだ。
キンタローを。そしてなによりシンタローを。
ただただ彼の望むままに。
グンマはそう決心して二人に追いつこうと歩き出した。
そこへ、シンタローの声が届いた。


「じゃあ、二人でグンマのとこへ帰ろうな」


ぴたり、と足が止まった。手に持っていたイチゴを地面に落とした。
シンタローは足を止め振り向くと、笑った。
「頼むぞ」
「――――――うん!」
グンマが笑顔になったのを見てキンタローもほっとしたように微笑んだ。
シンタローの危惧はどうやら当たりだったようだ。
今まで何より共にいた存在でありながらその隣にキンタローが立つということ。
それでもグンマはそれを当たり前のように見守り、自分の留守を守ろうとする。
だからこそ、自分で決めさせるのではなくシンタロー自身の口からそれを頼む。
それがグンマの救いになればいい。そう、小さな小さな声でつぶやいた。
「・・・気にしすぎだ」
「あ?何か言ったか?」
「いや」
シンタローは何も悪くはない。ただ周囲がシンタローのためにありたいと思うだけだ。
「よし!帰るぞ!」
「うん」
グンマは落としたハスの器を拾い慌てて二人に並ぶ。
少しイチゴが外へ出てしまったが器は壊れておらず中のイチゴをまたつまむ。
「日が暮れてきたね」
「そうだな」
「今日のご飯何?」
「柳川鍋」
「え?ドジョウあったっけ?」
「さっき話の流れで。持ってきてくれるって」
「やったー!」
「ドジョウを食べるのは初めてだ」
「よしよし。腕をふるうから喜べ」
「うむ」
「わーい!早く行こう!」
「はいはい・・あ」
ふとシンタローは足を止め人差し指を空へ向けた。
そこにすぅ、と赤とんぼが当たり前のようにとまった。
「わぁ・・すごい」
「何でだ?」
「何でってそりゃあ・・」
シンタローは誇らしげに胸を張って、言った。


「俺も母さんの息子だからな!」



FIN




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