抱っこ
かかってきた携帯のメロディーでグンマからだとわかり素早く携帯を手にした。
「どうなさいました?グンマ様」
『高松?シンちゃんしらない?』
「いらっしゃらないんですか?」
『いないんだよ!せっかく久しぶりのお休みだからかまってもらおうと思ったのに・・・』
「なるほど。そうですね・・・お疲れだから一人でゆっくりなさりたくて隠れていらっしゃるのかもしれませんよ?
今日は見逃して差し上げたらいかがですか?休みは明日もあるでしょう?」
『む~・・それもそうかぁ。しょうがないね。でも明日は捕まえていいよね?』
「すぐに見つかればいいってことでしょう」
『そうだね・・しょうがないか。今日はシンちゃんに充電させてあげよう。
じゃあしっかり甘やかしておいてね高松。よろしく」
プツ。ツーツーツー・・・。
その言いっぷりに苦笑して携帯を閉じた。
そして人の背中にべったりとひっついている存在にもまた苦笑した。
肩に頭を乗せているので艶やかな黒髪がこぼれてくる。
それを指でつまんでかるくひっぱった。
「痛い」
「私は重いですよ」
「我慢しろ」
「さっきからずっとしているでしょう?それに私は仕事中ですよ?」
「誰もこないだろ?マッドサイエンティストの保険医のところなんざ」
「それもそうですねぇ」
まぁ誰が来てもいいようにしっかり入り口に鍵をかけているが。
「お茶を淹れてあげますからどいてください」
「ん~」
ぽて、とこちらに背を向けてベッドに倒れたシンタローに苦笑する。
突然あらわれたと思ったらベッドに乗り上げ手招きするので行ってみればいきなり座らされ寄りかかられた。
甘えたいのは分かるし甘やかしたい気持ちもあるのだがこちらも事務処理が残っている。
「・・シンタローさん」
「おれこうちゃ」
全部ひらがなですか。
とりあえず紅茶を淹れて一旦テーブルに置く。
そして一応尋ねる。
「もし私が仕事したらどうします?」
「いじける」
「いじけますか」
それじゃあ仕事が出来ない。
「じゃあ、甘やかしますか」
「・・・・」
ころん、とシンタローがころがりこちらを向くとにか、と笑う。
その笑顔に心中で白旗を掲げ降伏宣言をした。
「・・しょうがないですねぇ」
「いいじゃん。たまにだろ?」
「いつも、でもいいんですよ?」
その言葉にむくり、とシンタローが起き上がる。
そしてはい、と手を広げられたので傍にいくと抱きつかれる。
「いつも、はダメだな」
「そうですか」
「だってどうせ普段甘えらんねぇじゃん?俺はあっちこっち行ってるしお前はここかパプワ島だし」
「そうですねぇ。今回も貴方にあわせて帰ってきたようなものですし。
そろそろここも引退してパプワ島の研究に専念しましょうかねぇ」
一瞬、腕の中のシンタローの体がこわばった。
「シンタローさん?」
「・・・・本気で?」
抱きつかれて顔が分からなかったがその声には堅さがあった。
「・・ええ、本気ですよ?」
「じゃあ、もう帰ってこねぇの?」
「そう思いますか?」
「オモイマス」
「信用ないですねぇ・・・ちゃんと帰ってきますよ」
「うそつけ。お前にとっちゃパプワ島は夢の国だろ?研究に没頭して俺は放っとかれるんだ」
「夢の国、については否定しません。でも帰ってきますよ。貴方を放っておくはずないでしょう?」
「嘘だ」
「嘘じゃありませんよ?本当です。だいたいそんなの当たり前でしょう?」
体を離せばいぶかしげに顔をしかめたシンタロー。それを安心させるように笑う。
「ここは私の家で、そして貴方がいる」
「・・たか、」
「だから、大丈夫ですよ」
触れるだけのキスをすれば頬を染めるシンタローがかわいくて仕方がない。
「ね?シンタローさん」
「・・・おう」
「貴方も来てくださいね」
「・・・ん」
「辛いですか?パプワ島は」
「だいじょうぶ、だ」
「私もいますものね」
「じしんかじょー」
「ふふ。本当でしょ?」
「ちぇ」
いいから甘やかせ!と抱きついてくるシンタローをやさしく抱きしめた。
甘やかした後の役得は今夜かな。
そんな呟きが声に出ていたのかシンタローから照れ隠しのパンチをくらった。
それでも頬を染めたシンタローはただひたすらかわいいのでにやけていたらもう一度殴られた。
「可愛い人ですねぇ」
「うるせぇ!!」
「ほら、甘やかして欲しいんでしょう?」
手を広げれば「くそ!」と憎まれ口を叩きながら腕の中に飛び込んでくる。
ああ、本当に可愛い人ですね。
「愛していますよ。シンタローさん」
FIN
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