恋告草
パプワたちが新たに降り立った世界に当然のごとく赤玉はなかった。
「ほら。あそこに紅梅が咲き誇っているだろう?ちょっと群生してまるいかんじ」
「もういい。つまり今回も空振りなんだな?」
「見てのとおりだ。花見でも楽しめ」
そういい残して青玉はチャッピーの体から離れた。
シンタローは大きくため息をついてチャッピーを抱きかかえたまま向こうの島を見た。
梅、桜、つつじ・・・杜若か菖蒲か遠目ではよくわからない。両方かもしれない。
椿や牡丹、ひまわり百合チューリップ薔薇エトセトラエトセトラ・・・。
なるほど。季節感は無視しているが見事だ。
「花島、か?」
「そんな感じだな」
「・・・いってきたらどうだ?」
「お前はいかないのか?シンタロー」
「家事がたまっているんですのご主人様」
「しかたないな」
「リキッド。お前も一緒にいってこい」
「へ?俺も一緒に家事しますよ?」
「食料の調達にいけ」
「らじゃー!」
シンタローがあらかた家事を片付け一息ついていると花まみれの二人が帰ってきた。
正しくは花を抱えた一人と一匹。シンタローは読んでいた本を閉じ出迎えた。
「ただいま」
「おかえりパプワ。チャッピー。その花は?」
「つんできた。たまには家に花があるのもいいと思ってな」
「ふむ」
「花瓶の代わりになるもの取ってくる」
そういってパプワはチャッピーとともに外へ出て行った。
それと入れ替わりにリキッドも手に花を抱えながら家の中に入ってきた。
「今帰りました!」
「おう。どうだった?」
「食料は魚とイノシシとキジと・・あと菜の花とたけのこ」
「どこの田舎の食材だ」
「管理人の母親の実家っす。キジは味濃いんすよ。混ぜご飯にしましょう」
「まぁいいけどよ」
「あと、はい。お土産です」
リキッドが差し出したのは美しい青色のあじさいだった。
「なんか、すっげぇきれいだったから・・シンタローさんに」
「・・・・・おう」
花をもらって怒る相手はいない。シンタローも驚いたが素直に受け取った。
リキッドはそれを見てうれしそうに笑った。
花をプレゼントするなんてはじめてだ。
そのうえ好きな人に、なんて。
「・・・・・・分かってないんだろうなぁ。意味」
「なんか言ったか?」
「いいえ~何も~」
シンタローはふぅん、と興味なさそうにあじさいに視線を戻す。
深い、清んだ青色をしたあじさいにシンタローはうれしそうに微笑む。
「あじさいなんて久しぶりに見たなぁ・・最近日本にも行ってねぇし」
「そうですね。そういえば途中ウマ子に会ったんですけど俺思わず抱えてる花投げつけちまったんすよ。
そしたら突然ひどい!とかいって泣きながら走っていっちまったんですよ。なんだったんでしょうね」
「・・・・・ああ」
「ああ、ってシンタローさん心当たりあるんですか?」
シンタローは持っていた本をリキッドに手渡した。
「外に落ちてた」
「外?」
それには「花言葉」と乙女チックな字で書かれた本だった。
「投げつけたのは?」
「黄色の・・チューリップ?ナカムラくんとエグチくんの摘むのを手伝ってて・・」
「花言葉みてみろよ」
リキッドは言われるまま本のページをめくった。
「・・・・・望みのない恋」
「それじゃあ泣くわな」
「ええ!だって俺知らなかったんですよ?」
半泣きで顔を上げたリキッドにシンタローは頭をかく。
とりあえずアジサイをあいていたバケツにとりあえず置いて向き直る。
「でも泣かせたんだろ?女性を泣かすのは男として最低だぞ?」
「ええ!?」
「それにこれ置いていったの本人だからな。
多分奥手なお前にプレゼントだったんだろうに・・彼女の親切を無駄にしたなぁ」
本の裏表紙を見ればウマ子、と達筆な字で書かれていた。
「んなこと言われても俺にはちゃんと想い人が!」
「いるの?」
「いるのって・・・わかんないんすか?」
「わからん」
「・・・俺普段のアピール足りないのかな・・」
「しらん」
リキッドの問いかけにシンタローはバキッと一言で答えた。
「誰なんだ?」
「え?まぁ、それはそのうち・・」
「ふぅん」
ふんどし侍だったら家追い出そう・・。
リキッドが知ったらそれこそ家出しそうなことをシンタローは思っていた。
それにしても、とリキッドは花言葉の本を見つめる。
「どうしよう・・やっぱ謝るべきなんでしょうか」
「泣かせたんだしな。あとで無難な花でも贈っとけば?」
「無難・・・同じチューリップとか・・」
「赤・愛の告白。紫・永遠の愛。絞り・美しい姿・・だ、そうだが?」
「やめます」
「ちなみにあじさい。貴方は冷たい人・冷淡・移り気・・」
「そんなつもりはありません!!」
リキッドは力いっぱい叫んだ。それに返ったのはシンタローの笑顔だった。
そのめったに見れない自分へ向けられる、シンタローの笑顔。
「分ぁってるよ」
「・・は、はい」
「花言葉は勝手に人がつけたもんだからな。きれいならきれいでいいんだよ」
「・・・・ええ、ですね」
「そう言ってくれば?」
「へ?」
「ウマ子だっけ。あれに」
「・・・そうっすね。理由はともかく泣かせちまったんだし」
「そうそう」
「ウマ子にやさしいっすね」
「一応コージの妹だからな」
「・・・そうっすか」
「そうそう」
「・・・あじさい、きれいですね」
「そうだな。水切りして生けなおそうかな」
「できるんですか?」
「体が弱い母親の部屋によく飾ってたからな。必然的に覚えた」
「・・ああ」
シンタローはパプワが持ってきた花もバケツに入れるとハサミをもってこようとしたときパプワが竹を抱えて帰ってきた。
「なるほど、竹か」
「ああ。大きさも色々とってきたぞ」
「わん」
「おし。じゃあ飾るか」
「あ、俺先にウマ子んとこいってきていいすか?」
「おう。行ってこい」
「なんだ告白か?これを持ってくといいぞ」
「怖いこというなよパプワ・・って白梅?」
リキッドは花言葉の本をめくる。
「花言葉は気品?・・なんで告白に持ってくといいんだ?」
「何だ。梅の別名をしらんのか?これだから家政夫は・・」
「家政夫は関係ないだろ」
「梅の別名は匂桜、春告草・・・それから」
パプワはそこでシンタローを見た。
「それから、恋告草・・だ」
「分かったか?シンタロー」
「・・わかりました」
「分かったか?リキッド」
勝ち誇った笑みを浮かべるパプワにリキッドは固まった。
その固まったリキッドの目の前でパプワは手を伸ばし白梅をシンタローの髪に飾った。
「な、なんだよ」
「さっさと受け取らんからだ。似合うぞ」
「っ!」
パプワの言葉にシンタローは顔を赤くする。
それにパプワは楽しそうに笑った。
「・・顔が赤いぞ?シンタロー」
「・・誰のせいだ阿呆」
「―――――――――――――」
「リキッド!どうした!何を泣いてる!」
「トシさーん!!失恋しましたー!」
「何!お前を振るなんざなんてひどい奴だ!誰だ!」
「シンタローさんっす!!」
「・・・・・・・え」
「パプワに奪われたんですー!!」
「・・・・・・リキッド、ちょっと落ち着いて話しをしよう。な?」
「うわぁぁああん!」
「りっちゃーん!どうして泣いとるんじゃー!むぅうう!?土方さん!?もしや御法度ォ――――――!!!」
『ギャ――――――――――――――――!』
FIN
パプワたちが新たに降り立った世界に当然のごとく赤玉はなかった。
「ほら。あそこに紅梅が咲き誇っているだろう?ちょっと群生してまるいかんじ」
「もういい。つまり今回も空振りなんだな?」
「見てのとおりだ。花見でも楽しめ」
そういい残して青玉はチャッピーの体から離れた。
シンタローは大きくため息をついてチャッピーを抱きかかえたまま向こうの島を見た。
梅、桜、つつじ・・・杜若か菖蒲か遠目ではよくわからない。両方かもしれない。
椿や牡丹、ひまわり百合チューリップ薔薇エトセトラエトセトラ・・・。
なるほど。季節感は無視しているが見事だ。
「花島、か?」
「そんな感じだな」
「・・・いってきたらどうだ?」
「お前はいかないのか?シンタロー」
「家事がたまっているんですのご主人様」
「しかたないな」
「リキッド。お前も一緒にいってこい」
「へ?俺も一緒に家事しますよ?」
「食料の調達にいけ」
「らじゃー!」
シンタローがあらかた家事を片付け一息ついていると花まみれの二人が帰ってきた。
正しくは花を抱えた一人と一匹。シンタローは読んでいた本を閉じ出迎えた。
「ただいま」
「おかえりパプワ。チャッピー。その花は?」
「つんできた。たまには家に花があるのもいいと思ってな」
「ふむ」
「花瓶の代わりになるもの取ってくる」
そういってパプワはチャッピーとともに外へ出て行った。
それと入れ替わりにリキッドも手に花を抱えながら家の中に入ってきた。
「今帰りました!」
「おう。どうだった?」
「食料は魚とイノシシとキジと・・あと菜の花とたけのこ」
「どこの田舎の食材だ」
「管理人の母親の実家っす。キジは味濃いんすよ。混ぜご飯にしましょう」
「まぁいいけどよ」
「あと、はい。お土産です」
リキッドが差し出したのは美しい青色のあじさいだった。
「なんか、すっげぇきれいだったから・・シンタローさんに」
「・・・・・おう」
花をもらって怒る相手はいない。シンタローも驚いたが素直に受け取った。
リキッドはそれを見てうれしそうに笑った。
花をプレゼントするなんてはじめてだ。
そのうえ好きな人に、なんて。
「・・・・・・分かってないんだろうなぁ。意味」
「なんか言ったか?」
「いいえ~何も~」
シンタローはふぅん、と興味なさそうにあじさいに視線を戻す。
深い、清んだ青色をしたあじさいにシンタローはうれしそうに微笑む。
「あじさいなんて久しぶりに見たなぁ・・最近日本にも行ってねぇし」
「そうですね。そういえば途中ウマ子に会ったんですけど俺思わず抱えてる花投げつけちまったんすよ。
そしたら突然ひどい!とかいって泣きながら走っていっちまったんですよ。なんだったんでしょうね」
「・・・・・ああ」
「ああ、ってシンタローさん心当たりあるんですか?」
シンタローは持っていた本をリキッドに手渡した。
「外に落ちてた」
「外?」
それには「花言葉」と乙女チックな字で書かれた本だった。
「投げつけたのは?」
「黄色の・・チューリップ?ナカムラくんとエグチくんの摘むのを手伝ってて・・」
「花言葉みてみろよ」
リキッドは言われるまま本のページをめくった。
「・・・・・望みのない恋」
「それじゃあ泣くわな」
「ええ!だって俺知らなかったんですよ?」
半泣きで顔を上げたリキッドにシンタローは頭をかく。
とりあえずアジサイをあいていたバケツにとりあえず置いて向き直る。
「でも泣かせたんだろ?女性を泣かすのは男として最低だぞ?」
「ええ!?」
「それにこれ置いていったの本人だからな。
多分奥手なお前にプレゼントだったんだろうに・・彼女の親切を無駄にしたなぁ」
本の裏表紙を見ればウマ子、と達筆な字で書かれていた。
「んなこと言われても俺にはちゃんと想い人が!」
「いるの?」
「いるのって・・・わかんないんすか?」
「わからん」
「・・・俺普段のアピール足りないのかな・・」
「しらん」
リキッドの問いかけにシンタローはバキッと一言で答えた。
「誰なんだ?」
「え?まぁ、それはそのうち・・」
「ふぅん」
ふんどし侍だったら家追い出そう・・。
リキッドが知ったらそれこそ家出しそうなことをシンタローは思っていた。
それにしても、とリキッドは花言葉の本を見つめる。
「どうしよう・・やっぱ謝るべきなんでしょうか」
「泣かせたんだしな。あとで無難な花でも贈っとけば?」
「無難・・・同じチューリップとか・・」
「赤・愛の告白。紫・永遠の愛。絞り・美しい姿・・だ、そうだが?」
「やめます」
「ちなみにあじさい。貴方は冷たい人・冷淡・移り気・・」
「そんなつもりはありません!!」
リキッドは力いっぱい叫んだ。それに返ったのはシンタローの笑顔だった。
そのめったに見れない自分へ向けられる、シンタローの笑顔。
「分ぁってるよ」
「・・は、はい」
「花言葉は勝手に人がつけたもんだからな。きれいならきれいでいいんだよ」
「・・・・ええ、ですね」
「そう言ってくれば?」
「へ?」
「ウマ子だっけ。あれに」
「・・・そうっすね。理由はともかく泣かせちまったんだし」
「そうそう」
「ウマ子にやさしいっすね」
「一応コージの妹だからな」
「・・・そうっすか」
「そうそう」
「・・・あじさい、きれいですね」
「そうだな。水切りして生けなおそうかな」
「できるんですか?」
「体が弱い母親の部屋によく飾ってたからな。必然的に覚えた」
「・・ああ」
シンタローはパプワが持ってきた花もバケツに入れるとハサミをもってこようとしたときパプワが竹を抱えて帰ってきた。
「なるほど、竹か」
「ああ。大きさも色々とってきたぞ」
「わん」
「おし。じゃあ飾るか」
「あ、俺先にウマ子んとこいってきていいすか?」
「おう。行ってこい」
「なんだ告白か?これを持ってくといいぞ」
「怖いこというなよパプワ・・って白梅?」
リキッドは花言葉の本をめくる。
「花言葉は気品?・・なんで告白に持ってくといいんだ?」
「何だ。梅の別名をしらんのか?これだから家政夫は・・」
「家政夫は関係ないだろ」
「梅の別名は匂桜、春告草・・・それから」
パプワはそこでシンタローを見た。
「それから、恋告草・・だ」
「分かったか?シンタロー」
「・・わかりました」
「分かったか?リキッド」
勝ち誇った笑みを浮かべるパプワにリキッドは固まった。
その固まったリキッドの目の前でパプワは手を伸ばし白梅をシンタローの髪に飾った。
「な、なんだよ」
「さっさと受け取らんからだ。似合うぞ」
「っ!」
パプワの言葉にシンタローは顔を赤くする。
それにパプワは楽しそうに笑った。
「・・顔が赤いぞ?シンタロー」
「・・誰のせいだ阿呆」
「―――――――――――――」
「リキッド!どうした!何を泣いてる!」
「トシさーん!!失恋しましたー!」
「何!お前を振るなんざなんてひどい奴だ!誰だ!」
「シンタローさんっす!!」
「・・・・・・・え」
「パプワに奪われたんですー!!」
「・・・・・・リキッド、ちょっと落ち着いて話しをしよう。な?」
「うわぁぁああん!」
「りっちゃーん!どうして泣いとるんじゃー!むぅうう!?土方さん!?もしや御法度ォ――――――!!!」
『ギャ――――――――――――――――!』
FIN
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