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ss
すき





笑顔を作るようになったのはいつのことだったか。
おそらく子供のときからだと思う。
それは、自然に覚えたことだ。
そうしなければならなかった。
優秀だけど秘石眼の使えない、総帥としては使えないお坊ちゃんでいなければならなかった。
いなければならないなどと、誰が決めたことではなく自分が決めたことだ。
大好きな大好きなシンちゃんのために。

そうしていて本当に良かったと思った。
まさかマジック叔父様の実子だったなんて。
危うくシンちゃんの場所を奪うところだった。
大好きなシンちゃん。
大好きなシンちゃん。
日記だって恨み言なんて本の一部。
これは彼に送る恋文のようなものだ。

いつか、君がここを去るときに渡そうと思う。
幸せになって欲しいけど忘れないで欲しいなんてわがままかな。
ねぇ、シンちゃん。




「・・ん」

鏡の中の笑顔に満足してグンマは洗面台を離れる。
時々、こうして笑顔を確認する。
シンちゃんがいるときにもするけどいないときによくやる。
シンちゃんがいないとすぐに僕の笑顔は張り付いたものになるから。

「おはようシンちゃん」
「・・おう」

ちゃんとした笑顔で挨拶をしたのにシンちゃんは首をかしげながら挨拶を返した。

「どうしたの?」
「・・いや、気のせいだ、と思う」
「ふぅん」
「おはようグンマ」

今度はちゃんと笑顔で挨拶を返してくれた。やっぱりこの笑顔を見ないとね。

「うん!おはようシンちゃん」

うれしくて笑顔でもう一度挨拶するとシンちゃんは「やっぱり気のせいか」とつぶやいて朝食作りに戻ってしまった。
僕も不思議に思ったけどすぐにシンちゃんの髪に寝癖を見つけたのでそれ以上深く考えなかった。





その夜シンちゃんが僕の部屋を訪ねてきた。それは不思議なことじゃない。
だって僕らはそういう関係だから。さびしがりのシンちゃんを甘えさせたくて始まった関係。
それでも大好きだと何度も言った事はあるが愛してると言った事は一度もない。
愛と呼ぶにはあまりにも僕は彼に全てを許している気がする。
たとえ裏切られても、殺されても、一人置いていかれてもかまわないんだ。
たとえ何があっても、全てがシンちゃんの敵になっても。
自分の持つ全てで守りたいと思う。
この心を、なんと名づけるべきなのだろう。
名づけられないものなのかもしれない。

「突然来て、悪いな」
「ううん。うれしいよ」
「そか」
「・・どうしたの?シンちゃん」
「・・・いや、大丈夫か?」
「は?」

言っている意味が分からない。
目の前にいるシンちゃんは心配そうに僕を見ている。

「・・特に、何事もないけど。うん。大丈夫」
「そっか。ならいいんだ」
「じゃあ帰るの?」
「あー・・」
「かえるの?」
「・・・かえらない」


その言葉に口の両端をきゅう、と上げグンマは笑う。
その本当のグンマの笑顔に俺はやっとほっとする。
昔からそうだったがグンマの笑みは時折さみしい。
さみしいと言うのが正しくないなら、かなしい。
かなしいけれどいとしい、と思う。
そういう日はどうにも触れたいと思うし触れて欲しいと思う。

「シンちゃん」

髪が引っ張られたので抵抗せず引き寄せられる。
重なるぬくもりにまだ心の中に残っていた不安がほどける。
それを知っているのだろうか。それとも最初からそのつもりなのだろうか。
グンマの抱き方はひどく優しくて、俺を甘えさせてると思う。
ただ人のぬくもりが欲しいときはその意図を汲み取るようにただ寄り添って寝るだけのときもあった。
それでも怒らないし、むしろ両手を広げられている気がする。
それでもその両手は閉じきらない。
まるでいつでもここから出て行ってもいいのだというように。

「シンちゃん?」

快楽にうるむ目で必死にグンマの顔を見た。ここいれる間は、ここにいたいと思う。
いつかはここから出て行かなければならないのかもしれない。
俺は人ではないのかもしれないし、赤の番人の体は成長しないかもしれない。
グンマはマジックの実子で長男だ。総帥を継がなかったとはいえその意味合いは大きい。
いつかは伴侶を得て子を得て家族を作るのかもしれない。
それでも、きっと。

「もしも・・」
「うん」
「ここにいたいと俺が願えばお前はうなづくんだろうな」
「うん」
「即答かよ」
「うん。シンちゃんが望む限りは」
「望まなくなったら?」
「さぁ。今はわかんないや」

そう言ったグンマの笑顔があの笑顔で。
かなしくていとしくて、俺はうそつけ、と必死の泣き笑いを浮かべて言った。
きっと俺が戻ってくるかもしれない、とずっと待っているんだろう?
グンマはそれに何を返すでもなく困ったように微笑んだ。
そうして、お互いそんな笑顔のまま唇を重ねた。





シンタローが目を開けると先に目覚めたグンマが頬杖をついてこちらを見つめていた。
その優しいまなざしに居心地の悪さと照れくささを覚えながらシンタローは頬を染め体を起こす。
グンマもそれを追うように体を起こす。二人とも何も身に着けておらず外気にさらされた素肌が僅かに寒気を覚えた。
グンマはそれに気づいたのか昨夜自分がシンタローから脱がしたシャツを拾って微笑みながら手渡した。

「おはよう。シンちゃん」

シンタローは挨拶を返しながらそれを受け取り羽織った。
幾度も経験したことではあるがどうにもこの気遣いややさしさが照れくさくてしかたない。

「・・はよ。つか人の寝顔見てにやにやしてんなよ」
「うん。でもシンちゃんが安心して寝てる寝顔が好きなんだ」

あっさりしたグンマの答えにシンタローはますます顔を赤くする。
だがグンマの笑顔を見て突然手を伸ばして頬をつまむとのばした。

「・・・・・・・・ふぁに?(なに?)」
「・・・いや、気に喰わないなと」
「ふぁにが(なにが)」
「・・・・その笑顔」

そうつぶやいてシンタローはグンマの頬をひっぱった手を離した。

「それ、嫌いだ」
「・・・嫌い?」
「昔から、嫌いだ。ちゃんと、笑え」

それを聞いたグンマはくしゃり、と顔をくずしてそれはうれしそうに、でもちょっと困ったように笑った。
貴方に気兼ねなく自由に生きて欲しいと願って笑顔を作るというのにばれてうれしいなんて。

「シンちゃん、好きだよ」

「もうどうしようもないくらい、君が大好きだよ」

いつか貴方はいなくなってしまうかもしれないのに。
今にもあふれ出そうな涙をこらえて困ったような笑顔で繰り返す。

「すきだよ、だいすきだよ」

「すべてからさらいたいくらい」

「すき」

「だったら」

シンタローの言葉にグンマは泣きそうなのをこらえる。

「だったら、さらえ」
「――――――――――――」

強烈な許しの言葉にグンマは涙を流して笑った。
シンちゃんらしい、そう笑うグンマにシンタローは真っ赤な顔で枕を投げつけた。

「痛いよシンちゃん」
「うるせーばーか」

ああ、もう。

「心から、君がすきだよ」


FIN


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