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「……何してんだ、おっさん」
ようやく仕事を終わらせ、シンタローが自室に戻ったのは午前一時を過ぎた頃だった。
グンマ&キンタローが製作した必要以上に厳重なセキュリティ・チェックをクリアして
その重厚な扉が開いた途端、広いリビングに備え付けられたソファに座り、
なんの許可もなく勝手に酒盛りをしている人物が目に入った。
その獅子の鬣のような髪を見るまでも無くこんな深夜にこの部屋にいるような
非常識な人間は二人しかおらず(二人もいれば充分だが)、
その内一人は自分が現れれば即座に跳びついてくるはずである。
さすがに自室で眼魔砲をぶっ放すわけにもいかないので、そっちの方でなくて僥倖だった、
と思うべきだろうか。こっちはこっちで相手にするのは、肉体的にも精神的にも疲れるのだが。
(……っつーかどっちも来ないのが一番だよな……)
重い溜息を吐きながら、電灯を付けないまま月明かりで移動し、
総帥服を脱いで皺にならないようハンガーに掛け形を整えつつ、
酒を飲むばかりで一切返事をしない叔父にちらりと視線をやった。
どうやらもう相当に飲んでいるらしい。空いた酒瓶が乱立していた。
再び溜息を吐きながら部屋着兼就寝服に着替え、叔父に歩み寄ると
転がっているカラの酒瓶を一つ手に取る。それはシンタロー秘蔵の日本酒だった。
(……こりゃ酒蔵の酒全滅か?)
もともとこのうわばみどころかザルな叔父と飲む予定だったが、勝手に飲まれ、
しかも自分の飲む分が無いのは腹が立つ。それが疲れてる時であれば尚更だ。
「オイ!おっさん、きーてんのかよ!」
座っている叔父の正面にまわりこみ肩へと手を伸ばす。
と、逆に腕を掴まれ、いきなり引っ張られて抱き込まれた。肩に叔父の息を感じる。
「おっさん。……どうか、したのか」
「……………」
シンタローはもう一度溜息を吐くと、叔父の好きにさせてやるべく全身の力を抜いた。
全く、呆れるほど自分はこの叔父に甘い。自分がこの叔父にされることを
どの程度まで許容してしまっているか理解した上でやっているのだろうか?
天然なら救いようが無い程タチが悪い。
そして後者である可能性のほうが高いのだ、この叔父は。
ぎゅぅぅ、と抱き締めるというよりはまるでしがみ付いてくる様に力を込め、
肩に顔を埋めてじっとしたままでいる叔父の頭を撫でる。
月の光を反射しきらきらと光る髪は見た目に反して柔らかく、撫で心地が良い。


……叔父は時折、こういう風に唐突に甘えてくる。
何があったのかは聞いても答えてくれないので知らない。
ただ、やたらとスキンシップをとりたがるのだ。

ずるい、と、シンタローは思う。

何も教えては呉れない癖に、何も答えては呉れない癖に、慰めだけは要求する。

ずるい。本当に……ずるい。

慰めることだけしかさせてくれない。共用することを許してくれない。
何がそんなに叔父を追い詰めているのか、想像どころか妄想すらも出来ないが、
そんなに自分には知られたくない事なのだろうか。だったら何故、自分の所へ来るのだろう。
(……卑怯だ、アンタ)
叔父はシンタローが問い詰めることも拒否することも無いと知っているだろう。
だからいつまでも何も知らないままだ。

(それでも。アンタの事を知りたいと思う俺の、気持ちは――いらない、のか……?)

決して言葉にはしない問いを心の内に封じ込め、遣る瀬無い想いを抱えたまま、
シンタローは切なげに細めた眸を叔父の肩越しに見える月へと向けた。



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切ない感じを出したくて玉砕…。
(2006.05.12)

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