シンタローは、どうしようもなく強がりで。
意地っ張りで、その上わがままで。
そのくせ、誰よりも泣き虫な弱い奴。
それでも人一倍、無駄に我慢強い。
そして、誰よりも強い心を持っている、そんな奴。
きっと誰もがシンタローを愛して。
誰もが泣いて欲しくないと願ってしまう。
だから、シンタローはいつも泣かない。
いつも、泣けない。
一人で全てを抱え込む。
一人で我慢して、我慢して我慢して。
表情を殺して、辛さや悲しみが過ぎるのを待つ。
俺は、泣いているシンタローを見るよりも、そっちの方が辛いと感じる。
団員が死んだのだと知らせを聞いた。
いつもは聞き流すそんな情報。
ただ、死んだ団員の名前に、俺は覚えがあった。
『その人、俺を特別扱いしなくてさ。その人はいつも普通に接してくれる人なんだ』
数年前、まだ団員だったシンタローがそう笑って話した奴だった。
そいつが死んだと、知らせが入った。
誰が死のうと俺には関係ねぇし。
そいつとだって会って話をした事があるわけでもない。
けれど、シンタローが今、悲しみの中にいるのだと思うといてもたってもいられなくなった。
おそらくアイツは涙一つこぼさず、いつもと同じように仕事をしてるだろう。
多くの者がシンタローの異変に気づかないかもしれない。
近しい人間は気がつくかもしれない。
けど、気づいたとしても何も言わないかもしれない。
言ったとしてもシンタローは大丈夫だと笑うだろう。
周りの人間を安心させるためだけに。
ただその辛さを隠して笑う。
「…大馬鹿だな」
廊下を早足で歩きながら呟いた。
辛いなら、辛いと泣けば良いのに。
悲しいなら、悲しいと叫べば良いのに。
無理をして、一人で立つ必要など無いのに。
「ハーレム様…」
総帥室へ向かう廊下を歩いていた。
ティラミスが秘書室から声をかけてきた。
足を止めて奴を見る。
「シンタロー様は総帥室にいらっしゃいますので」
「どうにかしていただけますか?」
ティラミスの横からチョコレートロマンスが顔を出す。
こいつらは、シンタローの異変に気がついているらしい。
「俺たちには、無理するので」
「今日は仕事をしていなくても大丈夫ですから」
おまけに手回しも早い。
優秀な奴らだ。
手をひらひら振って総帥室へ向かって歩き出した。
「邪魔するぜ」
机に向かって黙々と仕事をするシンタローが眼に入った。
思わずため息をつく。
「シンタロー」
名前を呼ぶと顔を上げるシンタロー。
いつもと変わらない顔。
なんら様子の変わらないシンタロー。
隠しているつもりだろうな。
一目見ただけなら何の変化も普通はわからないだろう。
残念ながらシンタローの嘘は俺にはきかない。
「…隠してるつもりなら無駄だぜ」
分かってんだろ?
お前の事なら何でもお見通しなんだよ。
シンタローは視線を下に向ける。
ゆっくりとシンタローへ近づく。
シンタローの横に移動して、ひざを着く。
下から覗き込んだシンタローの顔は今にも泣き出しそうで。
それでも、必死に泣かないように耐えている。
その耐えている顔を見るのが辛くて立ち上がった。
黒い髪に手を伸ばして、ゆっくりと梳く。
「泣けよ。…泣いて良いんだ、シンタロー」
シンタローが俺を見上げる。
今にも泣き出しそうな顔。
シンタローを抱き上げて歩き出す。
しがみつく様に腕が首に回る。
俺の肩に顔を押し付けて、小さく肩を揺らす。
仮眠室のベッドの上にシンタローを抱いたまま座る。
小さな泣き声を聞きながらシンタローの頭を撫でる。
「…我慢、してたのに」
小さくシンタローが呟く。
肩に目を押し付けて、それでもいつもと変わらないように振舞って。
俺は、その対応の仕方に傷つく。
「俺は、そんなの頼りないか?」
シンタローの肩がぴくりと反応する。
シンタローの髪を撫でながら、俺は苦笑する。
困らせるかもしれない。
でも、言ってしまったのだから仕方ない。
「お前が泣きたいと思った時に、俺は頼れないのか?」
シンタローが顔を上げる。
眼を赤くしたシンタロー。
目元に唇を落として。
「泣きたい時には泣けよ。俺の傍では、我慢するな」
両の目元に唇を落として。
まだ流れる涙をなめて。
再びしがみ付いてくるシンタローの背を撫でて。
「一人で立つのが辛いなら、俺が支えてやるから」
お前が望むなら、誰もがそうするのだから。
俺だけじゃなくて、多くの人間がお前に支えられて生きている。
だから。
お前が辛いときくらい、お前を支えてやりたいと思う。
お前のためなら、なんでもする。
死んでも良いとも思うが、なるべくは死にたくない。
お前が俺の為に泣くのは、耐えられない。
泣くお前を支える事もできやしない。
「…ありがとう」
腕が離れていって、顔が見える。
泣き腫らした眼。
それでも笑う。
無理をした笑みではなく普通の笑み。
その笑顔が好きだけど。
「俺、お前の泣き顔も好きだぜ?」
誰もが嫌うお前の泣き顔。
誰もがお前が泣かない事を望む。
泣かないにこした事は無いが、俺はその顔が嫌いだと思った事は無い。
不思議そうなシンタローに、口付けて
「泣くのは、生きてる証拠だからな」
生きているから、泣いたり笑ったりするんだ。
だから、俺はお前の泣き顔も好きだぜ。
「俺の前では、我慢するなよ」
もう一度口付けて。
強く強く抱きしめる。
俺は、お前が泣く事よりも。
一人で耐えている時の顔の方が嫌いだ。
「…ハーレムの前で我慢しても、無駄だもんな」
そう、無駄だからな。
お前が無理してるのは、俺にはすぐ分かる。
お前の事なら、分かる自信がある。
辛いなら辛いと言えば良い。
悲しいなら悲しいと言えば良い。
お前が望むなら、いつでも泣く場所を与えてやるよ。
お前が泣くのなら、いつでも傍にいてやるよ。
無理して1人で立つな。
俺はいつでもお前を支えてやるから。
だから、俺の前で他の奴らと同じように我慢なんかしやがったら許さねぇ。
俺にだけは、お前の全てを見せろ。
俺には、隠すな。
俺の前では我慢をするな。
「愛してるぜ、シンタロー」
きつくきつく抱きしめて。
シンタローの耳元で低く呟く。
ぎゅっとしがみついて、
「…俺も、愛してるよ」
耳を赤くさせて、シンタローが呟いた。
愛しくて愛しくて、俺の顔には笑みが浮かぶ。
お前の泣き顔よりも何よりも。
お前が俺の前で我慢する事が、嫌いだ。
END
突然思い浮かびました。
『シンタロー泣かせてぇ』
『ハーレムはいい男だよなぁ』
この思いからできた作品です。
それでもこんな風にしか書けません。
Don’t take chances.
無理するなよ。
06.1/21
意地っ張りで、その上わがままで。
そのくせ、誰よりも泣き虫な弱い奴。
それでも人一倍、無駄に我慢強い。
そして、誰よりも強い心を持っている、そんな奴。
きっと誰もがシンタローを愛して。
誰もが泣いて欲しくないと願ってしまう。
だから、シンタローはいつも泣かない。
いつも、泣けない。
一人で全てを抱え込む。
一人で我慢して、我慢して我慢して。
表情を殺して、辛さや悲しみが過ぎるのを待つ。
俺は、泣いているシンタローを見るよりも、そっちの方が辛いと感じる。
団員が死んだのだと知らせを聞いた。
いつもは聞き流すそんな情報。
ただ、死んだ団員の名前に、俺は覚えがあった。
『その人、俺を特別扱いしなくてさ。その人はいつも普通に接してくれる人なんだ』
数年前、まだ団員だったシンタローがそう笑って話した奴だった。
そいつが死んだと、知らせが入った。
誰が死のうと俺には関係ねぇし。
そいつとだって会って話をした事があるわけでもない。
けれど、シンタローが今、悲しみの中にいるのだと思うといてもたってもいられなくなった。
おそらくアイツは涙一つこぼさず、いつもと同じように仕事をしてるだろう。
多くの者がシンタローの異変に気づかないかもしれない。
近しい人間は気がつくかもしれない。
けど、気づいたとしても何も言わないかもしれない。
言ったとしてもシンタローは大丈夫だと笑うだろう。
周りの人間を安心させるためだけに。
ただその辛さを隠して笑う。
「…大馬鹿だな」
廊下を早足で歩きながら呟いた。
辛いなら、辛いと泣けば良いのに。
悲しいなら、悲しいと叫べば良いのに。
無理をして、一人で立つ必要など無いのに。
「ハーレム様…」
総帥室へ向かう廊下を歩いていた。
ティラミスが秘書室から声をかけてきた。
足を止めて奴を見る。
「シンタロー様は総帥室にいらっしゃいますので」
「どうにかしていただけますか?」
ティラミスの横からチョコレートロマンスが顔を出す。
こいつらは、シンタローの異変に気がついているらしい。
「俺たちには、無理するので」
「今日は仕事をしていなくても大丈夫ですから」
おまけに手回しも早い。
優秀な奴らだ。
手をひらひら振って総帥室へ向かって歩き出した。
「邪魔するぜ」
机に向かって黙々と仕事をするシンタローが眼に入った。
思わずため息をつく。
「シンタロー」
名前を呼ぶと顔を上げるシンタロー。
いつもと変わらない顔。
なんら様子の変わらないシンタロー。
隠しているつもりだろうな。
一目見ただけなら何の変化も普通はわからないだろう。
残念ながらシンタローの嘘は俺にはきかない。
「…隠してるつもりなら無駄だぜ」
分かってんだろ?
お前の事なら何でもお見通しなんだよ。
シンタローは視線を下に向ける。
ゆっくりとシンタローへ近づく。
シンタローの横に移動して、ひざを着く。
下から覗き込んだシンタローの顔は今にも泣き出しそうで。
それでも、必死に泣かないように耐えている。
その耐えている顔を見るのが辛くて立ち上がった。
黒い髪に手を伸ばして、ゆっくりと梳く。
「泣けよ。…泣いて良いんだ、シンタロー」
シンタローが俺を見上げる。
今にも泣き出しそうな顔。
シンタローを抱き上げて歩き出す。
しがみつく様に腕が首に回る。
俺の肩に顔を押し付けて、小さく肩を揺らす。
仮眠室のベッドの上にシンタローを抱いたまま座る。
小さな泣き声を聞きながらシンタローの頭を撫でる。
「…我慢、してたのに」
小さくシンタローが呟く。
肩に目を押し付けて、それでもいつもと変わらないように振舞って。
俺は、その対応の仕方に傷つく。
「俺は、そんなの頼りないか?」
シンタローの肩がぴくりと反応する。
シンタローの髪を撫でながら、俺は苦笑する。
困らせるかもしれない。
でも、言ってしまったのだから仕方ない。
「お前が泣きたいと思った時に、俺は頼れないのか?」
シンタローが顔を上げる。
眼を赤くしたシンタロー。
目元に唇を落として。
「泣きたい時には泣けよ。俺の傍では、我慢するな」
両の目元に唇を落として。
まだ流れる涙をなめて。
再びしがみ付いてくるシンタローの背を撫でて。
「一人で立つのが辛いなら、俺が支えてやるから」
お前が望むなら、誰もがそうするのだから。
俺だけじゃなくて、多くの人間がお前に支えられて生きている。
だから。
お前が辛いときくらい、お前を支えてやりたいと思う。
お前のためなら、なんでもする。
死んでも良いとも思うが、なるべくは死にたくない。
お前が俺の為に泣くのは、耐えられない。
泣くお前を支える事もできやしない。
「…ありがとう」
腕が離れていって、顔が見える。
泣き腫らした眼。
それでも笑う。
無理をした笑みではなく普通の笑み。
その笑顔が好きだけど。
「俺、お前の泣き顔も好きだぜ?」
誰もが嫌うお前の泣き顔。
誰もがお前が泣かない事を望む。
泣かないにこした事は無いが、俺はその顔が嫌いだと思った事は無い。
不思議そうなシンタローに、口付けて
「泣くのは、生きてる証拠だからな」
生きているから、泣いたり笑ったりするんだ。
だから、俺はお前の泣き顔も好きだぜ。
「俺の前では、我慢するなよ」
もう一度口付けて。
強く強く抱きしめる。
俺は、お前が泣く事よりも。
一人で耐えている時の顔の方が嫌いだ。
「…ハーレムの前で我慢しても、無駄だもんな」
そう、無駄だからな。
お前が無理してるのは、俺にはすぐ分かる。
お前の事なら、分かる自信がある。
辛いなら辛いと言えば良い。
悲しいなら悲しいと言えば良い。
お前が望むなら、いつでも泣く場所を与えてやるよ。
お前が泣くのなら、いつでも傍にいてやるよ。
無理して1人で立つな。
俺はいつでもお前を支えてやるから。
だから、俺の前で他の奴らと同じように我慢なんかしやがったら許さねぇ。
俺にだけは、お前の全てを見せろ。
俺には、隠すな。
俺の前では我慢をするな。
「愛してるぜ、シンタロー」
きつくきつく抱きしめて。
シンタローの耳元で低く呟く。
ぎゅっとしがみついて、
「…俺も、愛してるよ」
耳を赤くさせて、シンタローが呟いた。
愛しくて愛しくて、俺の顔には笑みが浮かぶ。
お前の泣き顔よりも何よりも。
お前が俺の前で我慢する事が、嫌いだ。
END
突然思い浮かびました。
『シンタロー泣かせてぇ』
『ハーレムはいい男だよなぁ』
この思いからできた作品です。
それでもこんな風にしか書けません。
Don’t take chances.
無理するなよ。
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