「なぁなぁ、シンちゃん」
人の膝を枕にしている男が話し掛けてくる。
動こうにも動けず、落とそうにも落とせず。
少し不機嫌になる。
「んだよ、おっさん」
見下ろして答える。
苦笑したハーレムが
「…返答に愛がねぇなぁ」
当たり前だ。
今の時間仕事しているはずの俺がココにいるのは、なぜだ?
答えは、拉致られたからだ。
「うるせぇ、拉致られた人間が拉致った相手に愛込めて話してたら変だろ」
その体勢もどうかと思います。
遠くから小声で聞こえる。
聞こえないふりをした。
「俺じゃないだろ。つーか、愛しの叔父様にちょっとは愛情見せんかい」
確かに、俺を拉致ったのはハーレムじゃない。
ハーレムの部下だ。
部屋の隅でこっちを見ている三人だ。
でも、命令したのはあんただろ?
「愛情欲しければ拉致るな。キンタローは最近ハーレム見るだけで警戒するようになったぞ」
甥に警戒される叔父なんてあんたくらいだ。
あぁ、帰ったらまたキンタローに怒られる。
「警戒してもさらわれるようじゃまだまだだな」
楽しそうに笑って。
はぁ、とわざとらしくため息を吐く。
もちろん、ハーレムはそんなの気にしない。
「俺の今日の仕事、どうしてくれんの?」
今日もたくさんの書類を処理するはずだったのに。
予定は未定って奴だろうか。
「良いんじゃねぇ?一日くらいさぼっても。お前は急ぎすぎ、頑張り過ぎなんだよ。焦らずゆっくりで良いんだ」
喋り方の割に、優しい言葉。
結局あんた、俺を心配してくれてたわけ?
嬉しくて、ちょと笑う。
「…何、笑ってんだよ」
少し眉を寄せたハーレムが聞いてくる。
下から伸びてきた手が俺の頬に触れる。
「別に~?」
笑いながら答える。
その後しばらく、くだらない言い合いを続けた。
なぁ、ハーレム。
心配掛けてごめん。
そんで、ありがとう。
おまけで、…愛してる。
調子に乗るから、全部絶対言葉にはしないけど。
「何で、あぁもキレイに俺たちの存在消せるわけ?」
「仕方あるまい。俺たちが移動するしかないだろ」
「…仲が良くて、良い事だ」
「…俺たち、本当にお人好し」
三つのため息が響いた。
END
まわりを見ないカップル。
ハレ様は本当はすごい優しい人なんだけど、その優しさが不器用で。
シンちゃんはもう、性格が不器用。
いや、もうよくわからん。
06.4/9
PR