温室の中で
一枚の葉を確かめるようになでる。見た目も、触った感触も異常はない。
高松はほっとしたように息を吐いて次の木へ視線を移す。
「・・おや」
「また医者に怒られるんじゃねぇの?」
そこにはシンタローが立っていた。あの黒髪は結われ服装もラフなものだ。
久方ぶりに見る姿だ。最近の彼は髪をおろしたスーツ姿のほうが多い。
「・・私が医者です。決して無理はしていません」
「そういってこの前病室に連れ戻されたんだろ?」
グンマと、キンタローに。
その言葉に高松は静かに笑うだけだった。
シンタローもそれに対してどうするでもなく話題を変える。
「で、何してんの?」
「温室の手入れ、というより確認ですね」
「ああ、しばらく放ったらかしだったから?一ヶ月くらいそのままだったろ?でも」
シンタローは周囲を見回す。周囲の、南国の植物が生い茂る温室を見回す。
それはどれも生気に満ちうつくしい緑の葉を揺らす。
「・・・元気そうだけど」
「でしょうね。長期間放っておいても大丈夫なようにしてはおきましたから」
「・・・なんで?」
高松は静かに笑った。その笑みにシンタローは見覚えがある。
「・・・高松」
「全部ばれたら殺されるんだろうな、と思って」
でも、生き延びちゃいましたねぇ、と高松は苦笑して、小さく息を吐いた。
「・・体、辛いのか?」
「いえ、大丈夫です」
そう言いながらも高松は後ろにあるおおきなシダの木によりかかる。
「殺して、くれないんですね」
「当たり前だ」
「責めてもくれないんですねぇ。誰も」
「・・・嘘か本当かくらい分かるさ。アンタはグンマを本当に愛して育ててくれたろう?」
「ええ、心から」
高松は即答だった。シンタローは呆れたように、そしてどこか納得したように笑う。
きっとあの島で言っていた「グンマを青の呪縛から解き放ちたい」というのも本当に本心だったのだろう。
「ほらな。なら、許すよ。グンマは・・・グンマだから」
「貴方は?」
「俺?俺結局なんも変わってないじゃん。実子じゃないけどちゃんと今でもマジックの息子だぜ?」
「それでも騙していたでしょう?それに、親友とも別れることになった」
「あ~まぁ、でもほら。俺もアンタのこと騙してたわけだろ?ならお互い様ってことで。
それにパプワは大丈夫だ。また会える。だって「さよなら」を言ってないからな」
「・・・そうですか」
「ああ」
でも、とシンタローは表情を真剣なものへと変えた。
「俺のこと大事にしてくれたの、結局ルーザーの息子だったから?」
「それは違います」
強い声だった。
「それだけは違います」
「・・・でも、俺のことルーザーの息子だと思ってたんだろ?」
「それはもちろんです。ですが、だから、というのは違います。
私は貴方が死んでキンタロー様が初めて外に出られたとき、その姿を見たときにすぐに彼がルーザー様の本当のご子息だと分かりました」
それでも、貴方のために戦ったでしょう?
「それは、グンマのためじゃないのか?謎を解きたいって・・」
「それもありましたけどね。でもあなたのためでもあるんですよ」
信じなさい、と高松は笑った。シンタローはそれに少し眉間にしわを寄せる。
高松は苦笑するとシンタローに向かってゆっくり手を広げる。
「私はね、貴方がルーザー様の息子であろうとマジック様の息子であろうと赤の番人だろうと青の番人の影だろうとなんだっていいんですよ。
貴方が貴方であればそれだけで十分・・というよりも、貴方が貴方でなければ意味がない、否、貴方でなければ嫌なんですよシンタローさん」
「・・・う」
にっこりと笑う高松に対しシンタローは顔を真っ赤にしてうめく。
「だからね?いらっしゃい」
「・・・・う~」
うなりながらもシンタローは前に進む。
最初から二人の距離はそれほど離れていない。
すぐにシンタローは高松の腕の中に納まった。
「すいません心配かけて」
「心配なんかしてねーもん」
「ああ、不安にさせてすみません、かな?」
「・・・・許す」
「ありがとうございます」
「病室帰るぞ」
「まだこうしていたいのですが」
「体、熱いぞ」
「必ず戻ります。だから」
もう少しだけ。
その喜びを含んだ声にシンタローは顔を上げる。そこには高松の幸せそうな顔があった。
シンタローはそれに苦笑しそっと顔を近づけ触れるだけのキスをするとまた肩に頭を乗せる。
久しぶりのキスの感触に二人は顔がにやけるのをこらえる。
誰も見ていないのに変なの、と思ってふと顔を見合わせると同じような顔をしている。
たまらず、二人同時に笑い出した。
「わざわざ送ってくださらなくてもちゃんと病室戻りますよ」
「うるせぇ」
スタスタ歩いていくシンタローに手をつかまれ引きずられるように高松は歩いていく。
「ねぇシンタローさん」
「なんだよ」
「お見舞いきてくださいよ」
「俺は忙しいの」
「総帥になるんですか?」
「そう。で、お前は怪我が治り次第コタローの治療スタッフ率いてもらうからな」
「決定ですか?」
「決定です」
「そうですか」
「だから早く怪我治せよ?」
「ええ。ついでにパプワ君からもらった花、加工して差し上げましょうか?」
「・・・・・頼む」
「ええ」
「ほら早く歩けよ」
「嫌ですよ、もう少しゆっくりいきましょうよ」
「ゆっくりしててもグンマとキンタローが迎えに来るぜ?」
「ええ。ですからそれまで」
「・・・わかった」
シンタローは歩くスピードを緩め高松はそれにうれしそうに笑う。
そして角を曲がった瞬間グンマとキンタローに出あってしまうまであと5秒。
FIN
一枚の葉を確かめるようになでる。見た目も、触った感触も異常はない。
高松はほっとしたように息を吐いて次の木へ視線を移す。
「・・おや」
「また医者に怒られるんじゃねぇの?」
そこにはシンタローが立っていた。あの黒髪は結われ服装もラフなものだ。
久方ぶりに見る姿だ。最近の彼は髪をおろしたスーツ姿のほうが多い。
「・・私が医者です。決して無理はしていません」
「そういってこの前病室に連れ戻されたんだろ?」
グンマと、キンタローに。
その言葉に高松は静かに笑うだけだった。
シンタローもそれに対してどうするでもなく話題を変える。
「で、何してんの?」
「温室の手入れ、というより確認ですね」
「ああ、しばらく放ったらかしだったから?一ヶ月くらいそのままだったろ?でも」
シンタローは周囲を見回す。周囲の、南国の植物が生い茂る温室を見回す。
それはどれも生気に満ちうつくしい緑の葉を揺らす。
「・・・元気そうだけど」
「でしょうね。長期間放っておいても大丈夫なようにしてはおきましたから」
「・・・なんで?」
高松は静かに笑った。その笑みにシンタローは見覚えがある。
「・・・高松」
「全部ばれたら殺されるんだろうな、と思って」
でも、生き延びちゃいましたねぇ、と高松は苦笑して、小さく息を吐いた。
「・・体、辛いのか?」
「いえ、大丈夫です」
そう言いながらも高松は後ろにあるおおきなシダの木によりかかる。
「殺して、くれないんですね」
「当たり前だ」
「責めてもくれないんですねぇ。誰も」
「・・・嘘か本当かくらい分かるさ。アンタはグンマを本当に愛して育ててくれたろう?」
「ええ、心から」
高松は即答だった。シンタローは呆れたように、そしてどこか納得したように笑う。
きっとあの島で言っていた「グンマを青の呪縛から解き放ちたい」というのも本当に本心だったのだろう。
「ほらな。なら、許すよ。グンマは・・・グンマだから」
「貴方は?」
「俺?俺結局なんも変わってないじゃん。実子じゃないけどちゃんと今でもマジックの息子だぜ?」
「それでも騙していたでしょう?それに、親友とも別れることになった」
「あ~まぁ、でもほら。俺もアンタのこと騙してたわけだろ?ならお互い様ってことで。
それにパプワは大丈夫だ。また会える。だって「さよなら」を言ってないからな」
「・・・そうですか」
「ああ」
でも、とシンタローは表情を真剣なものへと変えた。
「俺のこと大事にしてくれたの、結局ルーザーの息子だったから?」
「それは違います」
強い声だった。
「それだけは違います」
「・・・でも、俺のことルーザーの息子だと思ってたんだろ?」
「それはもちろんです。ですが、だから、というのは違います。
私は貴方が死んでキンタロー様が初めて外に出られたとき、その姿を見たときにすぐに彼がルーザー様の本当のご子息だと分かりました」
それでも、貴方のために戦ったでしょう?
「それは、グンマのためじゃないのか?謎を解きたいって・・」
「それもありましたけどね。でもあなたのためでもあるんですよ」
信じなさい、と高松は笑った。シンタローはそれに少し眉間にしわを寄せる。
高松は苦笑するとシンタローに向かってゆっくり手を広げる。
「私はね、貴方がルーザー様の息子であろうとマジック様の息子であろうと赤の番人だろうと青の番人の影だろうとなんだっていいんですよ。
貴方が貴方であればそれだけで十分・・というよりも、貴方が貴方でなければ意味がない、否、貴方でなければ嫌なんですよシンタローさん」
「・・・う」
にっこりと笑う高松に対しシンタローは顔を真っ赤にしてうめく。
「だからね?いらっしゃい」
「・・・・う~」
うなりながらもシンタローは前に進む。
最初から二人の距離はそれほど離れていない。
すぐにシンタローは高松の腕の中に納まった。
「すいません心配かけて」
「心配なんかしてねーもん」
「ああ、不安にさせてすみません、かな?」
「・・・・許す」
「ありがとうございます」
「病室帰るぞ」
「まだこうしていたいのですが」
「体、熱いぞ」
「必ず戻ります。だから」
もう少しだけ。
その喜びを含んだ声にシンタローは顔を上げる。そこには高松の幸せそうな顔があった。
シンタローはそれに苦笑しそっと顔を近づけ触れるだけのキスをするとまた肩に頭を乗せる。
久しぶりのキスの感触に二人は顔がにやけるのをこらえる。
誰も見ていないのに変なの、と思ってふと顔を見合わせると同じような顔をしている。
たまらず、二人同時に笑い出した。
「わざわざ送ってくださらなくてもちゃんと病室戻りますよ」
「うるせぇ」
スタスタ歩いていくシンタローに手をつかまれ引きずられるように高松は歩いていく。
「ねぇシンタローさん」
「なんだよ」
「お見舞いきてくださいよ」
「俺は忙しいの」
「総帥になるんですか?」
「そう。で、お前は怪我が治り次第コタローの治療スタッフ率いてもらうからな」
「決定ですか?」
「決定です」
「そうですか」
「だから早く怪我治せよ?」
「ええ。ついでにパプワ君からもらった花、加工して差し上げましょうか?」
「・・・・・頼む」
「ええ」
「ほら早く歩けよ」
「嫌ですよ、もう少しゆっくりいきましょうよ」
「ゆっくりしててもグンマとキンタローが迎えに来るぜ?」
「ええ。ですからそれまで」
「・・・わかった」
シンタローは歩くスピードを緩め高松はそれにうれしそうに笑う。
そして角を曲がった瞬間グンマとキンタローに出あってしまうまであと5秒。
FIN
PR