夜も更け、闇ばかりが視界を支配する時間。
静かな部屋は耳を突くほど静かで、濡れた音を余計に際だたせる。
それが嫌で裸の身体をよじれば、胸の辺りを彷徨っていた唇が咎めるように乳首を噛んで、思わず声を上げてしまう。
上にのしかかっている男が、少し笑んだ。
「ぅッ……ん…」
口に含んだ突起を押しつぶすように舌で嬲られて、声が出そうになったのを唇を噛んで耐える。そうすると、呻き声にも似た音が洩れた。
その声に満足したのか、片方だけだった愛撫が手を加えることで二つに変わる。
舌で潰され、指で摘まれて、背中の骨の辺りを這い昇ってくる快感に、身体のふるえが止まらない。……止められない。
「アッ……! おじ、さ…ん……」
「なんだ、シンタロー。これだけで感じているのか?」
軽く吸い上げられて悲鳴を上げると、おじさんが笑いながらそう言った。口に含んだまま喋られると、振動が伝わってきて快感が増した。
「しゃべん、ないで……っ」
「……ここを、もうこんなにしてるのに?」
「ああッ……! ん……ぁ」
「気持ちいいんだろう」
おじさんのあいてる手が下半身に伸びて、不意打ちに声が抑えられなかった。
ゆっくりとそこを揉まれて、その上乳首も弄られたままで、頭が混濁してくる。
「ぅ、ん……ッ、は……」
押し殺すように息をついて、唇を噛みしめる。
始めのうちは声は出さない。
おじさんがそれを求めているのを知っているから。
いつからだろう。おじさんが俺を通して他の誰かを見ていることに気付いたのは。
隻眼の蒼い瞳は、いつだって遠くを見ている。
「んん……」
降りてきた唇が、ヘソの辺りを舐めてくる。次に来る快楽を期待する身体は正直で、おじさんの手に握られたそれが小さく震える。
枕に結んだままの髪を押し付けて、快感の波に耐える。
髪を解かないのも、おじさんが望んだことだった。
言葉に出して言われたことはないけど、髪を解いたときも、耐えるということを知らなくて始めから大きな声を上げてしまったときも、おじさんは少し嫌そうに目を眇めた。
普通の人間ならば、わからないようなその変化。けど、俺にはわかった。
誰よりも好きな人だったからこそ。
だからこそ、おじさんが自分を通した誰かを見ていることを知っていても、抱かれる。
たとえおじさんが俺を見ていなくても、明確な繋がりが欲しかった。
「感じているのか?」
だから、演じ続ける。
おじさんが見ている”誰か”を。
「あ…! お…じさ……」
”誰か”は呼んでいるだろう、おじさんの名前は呼ばない。
それだけは、自分の自尊心を満たすために残した。残さないと、自分の心が崩れてしまうような気がした。
「……もっと感じるんだ、シンタロー……」
「あああッ……!!」
おじさんの合図のような囁きに、神経が焼き切れる。抑えていた声が溢れ出す。
口に含まれ、形を辿るように舐め上げられる。それまでの愛撫で勃ち上がりかけていたものに、その刺激は強すぎた。ビクビクとおじさんの口の中のものが震えて、恥ずかしさに腕で顔を覆った。
見えなくなった視界で、おじさんの笑った気配を感じ取る。そしてその瞬間、先端を舌で強く刺激されて、身体が激しく痙攣した。
「あ、ぅああ……ッ!」
射精した後の力の抜けた身体を、おじさんに抱き寄せられる。
抵抗も享受もない。
おじさんは俺の出したものを指に絡めると、もっと奥へと指を進ませる。次の行為を感じて身体が少しこわばる。
自分のためにもおじさんのためにも、力を抜いた方がいいことはわかっているけど、こういうのはリクツじゃない。反射ってヤツだ。
予想通りナカに入ってきたおじさんの細く長い濡れた指に痛みを感じる。この異物感はそうそう慣れるものでもなくて、無理矢理二本に増やされた指に、息が詰まった。
「辛いか、シンタロー」
汗で額に張り付いた俺の髪を掻き上げながらおじさんが訊いてくる。
返事もままならなくて首を縦に振るだけで答えると、ナカに入った指はそのままに、あいているおじさんのもう片方の手が、勃ち上がりきった俺のものに指を絡めた。
激しく扱かれると、身体の強ばりが抜ける。その隙をついて、おじさんの指がもう一本中に入り込んでくる。
俺よりも俺の身体を知っている指が、一番感じる場所を掠って、身体が悲鳴を上げる。それを聞くと、おじさんの指はいっそうそこを強くさすってきて、凄まじい快楽に頭が殴られたようにクラクラした。
そうしているうちに、いつの間にかおじさんの指は抜けていて、代わりに熱い塊が押し付けられた。
自分を狂わせる熱。
灼熱のそれを求めるために、おじさんの首に腕を回してしがみつくと、一気に中に入り込んできたそれに貫かれた。
揺すぶられ、快楽の光がフラッシュのように点滅する中、意識が沈没していく。
白い光に呑み込まれる寸前、髪に隠されたおじさんのくぼんだ目から血の涙が見えたような気がした。
あの見えない目で”誰か”を見ているのだろうか。
そんなことを思いながら、今日も”誰か”を演じ続ける。
end...
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