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イヤリング

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「シ~ンちゃんっ!」
 その声に、シンタローは振り返ると、そこには、若作り親父ことマジックの姿があった。
「よかった。探してたんだよ」
 手をぶんぶん振り回し、嬉しそうな顔で近づいてくるマジックに、
「なんだよ」
 常の状況から、警戒の態勢をとるシンタローだが、相手はなぜか、その場で立ち止まった。
 距離はまだ五メートルほどあるが、珍しいことである。いつもならば、そのまま抱きついてくるはずだ。
 訝しげに思うものの警戒したまま、睨み付けるシンタローに、マジックは、くすりと笑った。
「今日は、抱きつきは、まだお預けだよ♪」
「一生預けておけっ!」
 つい、習性で突っ込みをいれてしまったシンタローだが、マジックは気にする風も見せずに、ポケットに手を入れると、そこから何かを取り出した。
「今日は、これをあげようと思ってね」
 取り出されたそれは、ポンと宙に放りだされ、綺麗な放物線を描いて、シンタローの元にたどり着く。
「えっ?」
 無事、キャッチできたそれを手の平にのせれば、それは青色のビロードで囲われた小さな箱だった。よく指輪など、装飾品を納めている時に見るそれである。
「これ、なんだよ」
「開けてごらん」
 その言葉に、促されるように蓋を開けたシンタローは、その中に納められていたものを見ると、眉をひそめた。
「イヤリング?」
 そこに綺麗に並べて収まっていたのは、青い玉がついたイヤリングだった。その玉を囲む縁は銀だろうか、けれど、いたってシンプルな装飾のみのそれは、小指の爪ほどの大きさの青い玉を強調させるものであった。
「そう。それはね、私の妻の―――お前の母親から、もらったものだよ」
「母さんから?」
 意外なことを聞いたとばかりに、目を見張ってそれに視線を向けたシンタローに、マジックは、ゆっくりと傍に近づいて、開けたままの箱から、青い石を摘んで取り出した。目の前に掲げて見せる。
「ラピスラズリだそうだ。私の瞳の色と同じで、誕生石でもあるから相応しいとか言ってね。その昔、贈ってくれたものだ。そんなに高いものじゃないが、幸運と成功のお守りだ言ってくれたからね、大切にしていたものだよ」
「へぇー」
 この男から、母親のことを聞くのは、随分と久しぶりだった。なんとなく昔を思い出して、しんみりしていると、マジックは、手にしていたそれを、再び箱の中に収め、蓋を閉じると持っていたシンタローの手ごと押し付けた。
「そう言うわけだからね。シンちゃんにあげるよ、それ」
 そうして告げられた言葉に、シンタローは、慌てて押されたその手をマジックの方へと押し返した。
「なんでっ! そんな大事なもん、親父がもっていればいいだろう」
 これは、母さんが親父を思ってあげたものだ。
 自分が手にしていいものではない。
 だが、マジックは、笑みを浮かべたまま首を横へとふった。
「いいんだよ。私は、もうその加護は十分もらったからね。総帥職も退いた今の私には、その加護は必要ない。だから、お前にあげるんだよ。今度は、お前が守ってもらいなさい。―――――あれは、あんまり物を欲しがらない女性(ヒト)だったからね。お前は、もってないだろ? 母親の品なんて」
「父さん―――」
 シンタローは視線を落とし、その箱を見つめた。
 確かに、マジックの言う通り、母親の形見の品と言うものは、シンタローはもっていなかった。
 もちろん、母親が使っていた部屋や品は、そのままにしてあるが、生前その使っている中から、自分に贈られたものはなかった。自分が男だからだろうが、それでも、時折母親を思い出す時には、それを寂しく思う時がある。
 母親が贈った品。
 自分ではないにしても、母親の思いが詰まったそれがあるのは、嬉しくないはずがなかった。
「でも、どうしてイヤリングなんだろうね。指輪とかネックレスの方が、まだつけられたんだけど」
 首を傾げて、それを見るマジックに、シンタローも、異議なしとばかりに頷いた。
 ………確かに。
 イヤリングなど男ならば、そうそうつけることはないだろう。
「まあ、あれも、どこかずれたところがあったからねえ」
「そう…だったな」
 しみじみと懐かしむように遠い目をするマジックに、シンタローも、ぼんやりと視線を外に向けて頷いた。
 さすがにマジックの妻になる人らしく、息子のシンタローの目からも、凄い人だという思い出が強い。
 自分のことをいつも普通の人だと称していた彼女だが、夫であるマジックを平然とこき使い、息子が父親に溺愛されているのを見ては、拗ねたり、怒ったりで実家によく帰っていたりもしていたのだ。
 もちろん、その時には、シンタローもつれて行かれるから、慌ててマジックも向かえに行く。とはいえ、シンタローはダシに使われているだけだっただろう。子供の目から見ても、あの夫婦は仲の良いラブラブ夫婦だったのだ。
「まあいい。加護は石だけだしな。私は、さすがに手を加えられなかったが、お前は、好きな形に加工しなおしなさい」
 箱はまだ、シンタローの手の中。
 シンタローは、それを見つめ、握り締めた。
「………父さん」
「なんだ」
「――――ありがとう」
 照れくさげに、礼をつげると、マジックの身体が、ぷるぷると震えだした。
 なんだ? と身構えようとした瞬間、
「シンちゃーん!」
 堪え切れなかったように、マジックが両手を広げて、こちらに向かって飛び掛ってくる。
「えーいっ、そこでいい雰囲気ぶちこわすな。眼魔砲!!」
 よけるのは無理だと判断したシンタローは、反射的に、タメなし眼魔砲をマジックに向かってぶっ放した。

 チュドーン!!

「あっ………やべぇ」
 思わず、げっ!と顔を顰めるシンタロー。 それは、まれに見る大当たりであった。
 眼魔砲とともに、盛大に廊下の端にぶち当たったマジックは、ぶすぶすと煙を吐いている。じっと見つめていたが、ぴくりとも動かないそれに、シンタローは、そっと瞼を閉じ、もらったばかりのイヤリングの箱を握り締めた。
(ごめんなさい、母さん。あなたが守りたかったものは、俺が殺してしまいました)

 なーむー。

 一応とばかりに拝むと、シンタローは、何事もなかったかのように、黒焦げのマジックを置いて、仕事に出かけた。





「ふっ。お前……もうすぐ私もそこに、逝くよ」
 眼魔砲を直撃したマジックは、黒焦げのまま、遠い天国を見据え、微笑みを浮かべると、がっくりと息絶えた―――ように見えただけで、
「マジック様、ここで寝ると風邪引きますよ」
 忠義者のティラミスに見つけてもらうと、無事保護されたのだった。



 めでたしめでたし……………かぁ?










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