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手土産の話

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「ついて来るんじゃねぇ」
 告げられた拒絶の言葉の鋭さに、キンタローは、伸ばしかけた手を止めた。相手の肩を掴むはずだったそれは中途半端のままで存在意義を失っていれば、顎を持ち上げるようにしてこちらを睨みおろした相手に、きっぱりといわれた。
「お前は、ついて来るな。これは、俺の問題だ。お前に関係ねぇ」
 そうして即座に向けられてしまった背中に、キンタローは、ただそこに佇み、口を噤むしかなかった。




「どうしたんですか?」
「……高松」
 いつまでそうしていたのだろうか。
 前に進むこともできず、けれど後ろに下がることもできずにその場に立っていれば、背後から声をかけられた。振り返れば、自分をはじめて認めてくれた人でもある高松の姿があった。
 どう言おうかと、シンタローを見送ったまま硬直していた思考回路を回すヒマもなく、こちらの顔を見て、何かを察した高松は、いつもの白衣姿で笑顔を向け、近寄ってきた。
「随分と落ち込んでいらっしゃるみたいですが、何かありましたか?」
 あっさりと見破られたことに、別にそれを誤魔化すつもりもなく、キンタローは正直に白状した。
「先ほど、シンタローに『ついてくるな』といわれた」
「シンタロー総帥に? いったいどのような理由で」
 事情を全て知っているわけではないはずなのに、目の前に立った男は、驚いた様子も怪訝なそぶりも見せずに、柔らかな視線をこちらに向ける。
 そう言えば、自分は彼の優しい面しか見たことがないのを、今思った。この男でも、今の自分のように動揺することはあるのだろうか、とも考えたが、そらに先に進む前に、先制を打たれた。
「貴方にそんな顔をさせるなんて、シンタロー総帥も酷い方ですね」
 その言葉に、顔を顰めてしまう。
 自分の悪口は、平気なのだが、たとえ高松でも、あいつのことを悪く言われれば、気分が悪くなる。
 24年間の癖というのだろうか。
 ずっとシンタローの中で彼を見続けていたために、傷つくだろう言葉を口にして欲しくなかった。彼が、その傷をどれほそ痛みを覚え、なのに膿むほど内に溜め込んでいたのかを、他でもない自分だけが知っているのだ。
「あいつは、悪くはない。………理由もちゃんとある」
 そう非難を否定すれば、高松は、心得ているように頷いた。
「そうですか。で、理由は、どんな?」
「この間仕置きを依頼した国が、偽って敵でないものをガンマ団に仕置きさせたことがさっき発覚したと言っていた。シンタローは、そのために先ほど出かけた」
「ほぉ。それはそれは、度胸のある国で。しかし、事前調査はしっかりとしたはずでしょう」
 以前のガンマ団でもそうだったが、事前調査には、金と時間をかけて、かなり入念にされているはずである。特に、シンタローがそれを継いでからは、万が一にもこちらの過ちで相手を傷つけることがないように、それは、緻密に行われていたはずだった。
「ああ。けれど、完璧ということはない。あちらが一枚上手だったということだ」
「そうでしょうね。で、その事実を知ったシンタロー総帥が、キレてその国に殴りこみを?」
「それはないと思うが………確かに怒って、出かけていった」
「それで、貴方はここにいる、と」
「ついて来るなと言われた。俺が、研究所で仕事が残っているのをあいつは知っていたし、それに、これは自分の責任だからと――――」
 けじめをつけるのは、自分ひとりで十分だと言い切った。
 自分など必要ないというような、それに、キンタローはそれ以上追いかけることができなかった。
「それで、貴方の気持ちはどうなんですか? キンタロー様」
(俺の気持ち?)
 ああ、そうか。それは考えて見なかったな。
 そう尋ねられた、初めて自分にも思う心があることにきづいた。
 どうせ自分の気持ちなど反映されないのだと、24年間ずっとシンタローの気持ちだけを考えていたから、そうすることをつい失念していたのだ。
「キンタロー様は、それで納得してるんですか?」
 納得などしているわけがなかった。
 そうではなくて―――。
「いや。俺は………ついて行きたかったのだと思う。仕事といっても、後に回してもかまわないものだし。なによりも―――あいつの傍にいてやりたいと思った。あいつは、暴走しやすい奴だしな」
「そうですね。突っ走りすぎて、その後で後悔をたんまりするタイプですからねぇ、あの人は」
「止める人間が必要だろう」
「必要ですね。でも、貴方は行かないのですよね?」
「ついて来るなと言われたからな……」
 無意識に、シンタローの言葉に従っていたのだ。自分の意思が貫けるとは、思ってもみなかったためである。
 だが―――――今は違うのだ。自分の意思は、自分で貫ける。
 それでも………。
「あいつの邪魔はしたくない」
 自分を拒絶したシンタローの傍にいくことは躊躇われた。追い駆けていって、再び邪険に扱われるのもイヤだった。
 嫌われたくないのだ。彼だけには。
 惑うように視線を揺らせば、高松は、慈しむような眼差しでキンタローを見つめた後、その唇に笑みを浮かべてみせた。
「それならば、貴方にいいものを差し上げましょう」
「なんだこれは?」
「温泉饅頭です。ここのは美味しいですよ」
 先ほどからずっともっていた紙袋から、四角箱を取り出し、こちらに押し付けられた。
 そう言えば、高松はここ数日日本の東京で開催されていた学会に出席していたはずである。学会は一昨日で終わったはずだったが、どうやらどこかの温泉に浸かって今日、戻ってきたようだった。
「高松?」
 だが、これをどうしろというのだろうか? 
 饅頭をあげるから、今の気持ちを消化させろ、と言われてもできるものではない。
 困惑した表情を見せれば、食べたらいけませんよ、と忠告を発した
「これは、手土産です。キンタロー様は、まだご存じないかもしれませんが、他所様のお宅に行く時には、手土産が常識なんです。総帥は、どうやら忘れていったようなので、代わりに貴方が届けに行ってくださいね」

 それは初めて知ったことだった。自分が世間一般常識に疎いことはわかっている。だから、高松の言葉が、嘘か本当かを判断することはできなかった。
 それでも、その言葉は、ありがたかった。
「手土産――――これが、あいつには必要なのか?」
「必要ですよ。これと―――――そして、貴方もね」
 紙袋を手渡されて、それに手土産である温泉饅頭をいれれば、準備完了とばかりにその身体をくるりと回され、背中を押さえた。進むべき方向は、シンタローが消えていったところ。
「さあ、早く行かないと間に合いませんよ。いってらっしゃい、キンタロー様」
 文字通り背中を押され、行くことになったキンタローは、足は前に進ませながらも、振り返った。
「すまない、高松」
「いいえ。当然のことをしたまでですよ」
 ひらひらと手を振られ、それに見送られながら、キンタローは、手土産を片手に前へ進む。
(まってろよ、シンタロー。お前が忘れたものは、俺が届けてやる)
 大義名分をかかげ、シンタローの元へ向かうのだった。
  





「はあ、まったく私のキンタロー様も大人になられてしまったのですね」
 その背中を見送った高松は、その場でしみじみと言葉をつむいだ。
 キンタローがここに存在しはじめたのは、まだ一年も満たないほどである。にもかかわらず、やはり血筋なのだろうか、天才的なまでの頭脳で、あっというまに世間に馴染んでしまっていた。
 もちろん未だに、一般常識に疎いところも残っているが、それもまもなくすれば、消えてなくなるだろう。
「シンタロー総帥のサポート役というポジションにつきそうなのが面白くないですが」
 キンタローならば、総帥の一歩後ろにつかなくても、別の分野でそのトップに立てるはずである。現に、今進めている研究も、今、学会で大いに注目されている分野である。彼ならば、そちら方面で、多くの人を導く存在になれるだろう。
 が――――。
「まあ、キンタロー様がそう望んでいるならば、私には何もいえませんがね」
 彼が、それを望まぬならば、自分が無理やりそちらへ誘うことはしないし、彼が望んでいるならば、それを邪魔する気はない。
 ただ、少しだけ………。
「寂しいですね」
 僅かな期間とはいえ、頭脳を使う方面を、一からレクチャーしていった高松としては、あっさりとその手からはなれてしまった存在に、少し切なさを感じてしまう。
 ふぅと溜息を零していれば、キンタローが消えた方向とは別の場所から、同じ金色の髪を輝かせる存在が、こちらに向かって駆けてきた。
「高松ーーーっ! 何してるの?」
「グンマ様~~!」
 ぱあと、高松の顔から笑みがともる。
(そうですよ、私には、まだ愛しいグンマ様がいらっしゃる。この可愛いお方は、ずっと私の傍にいてくださるはずです)
「そうですよね、グンマ様! 貴方は、私の傍から離れないですよね? ねっ」
「えーっ、無理だよ★」
「ごふっ!」
 だが、あっさりとそう返された高松は、失意のあまり、口から吐血し、目から血の涙を流しながら、地面に倒れこんだのだった。
(あんまりですよ、グンマ様………)
「だって、お風呂とかおトイレの時とか、一緒に入れ……って高松? ねえ、高松? なんで、息してないの?」
 グンマに身体をゆすられつつも、一気に大量の血を流してしまった高松の意識は遠のいていったのだった。
(グンマ様………お風呂もおトイレもグンマ様となら、私は一緒に入りま…す――――がくっ)
 











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