忍者ブログ
* admin *
[776]  [775]  [774]  [773]  [772]  [771]  [770]  [769]  [768]  [767]  [766
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

s








夏の一日

--------------------------------------------------------------------------------






「シンちゃ~ん! 花火しよう」
 そういいながら、ひょっこりと総帥部屋に顔を出したのは、元従兄弟で今は兄弟になったグンマだった。
「花火だぁ?」
 時刻は夕刻。西向きの窓からは、朱色の光が透けている。
 シンタローが、開いていたノートパソコンの画面越しに、にこにこ笑いながら近づいてきたグンマに視線を向けると、
「うん。花火だよ。ほら、これ」
 そう言いつつ、グンマが掲げて見せたのは、お子様用の手持ち花火セットだった。
 色鮮やかで綺麗だが、大の大人がやるような花火ではない。
「んな、ちゃちいもんをやるのか?」
「だってこれしかないんだもん。これも、もらいもんだし。でも、いいでしょ? ねえ、シンちゃん一緒にやってよ」
 すでに机越しに目の前に来ていたグンマは、ねだる様子で、両手を組んで小首を傾げて見せる。
 だが、高松あたりには通用するだろうそのポーズも、生憎こちらでは通用しない。
「俺は忙しいんだよ。んなもんは、高松とやればいいだろう。あいつなら喜んで付き合うぞ」
 『グンマ様命』の変態科学者、ドクター高松ならば、グンマが、「一緒に花火しよっv」と言えば二つ返事で応えてくれるはずである。
 シンタローは、はずしていた視線を再びパソコンの画面に向けると、途中だった書類作成に取り掛かる。
 しかし、グンマはとたんに組んでいた両手をほどくと、バンと机の上を叩いて見せた。
「ダメっ! 僕は、シンちゃんとやりたいんだもん。やろっ? これくらいの量なら三十分もかからないし」
 その言動に、シンタローは、キーボードを叩く手をしばし止めた。 強情でしつこいのは、いつものことだが、それでも、ここまで自分に我侭を言うのも、珍しい。
「だから、お願い。シンちゃ~ん」
「はぁ、わかったよ」
 そんなグンマに、シンタローは観念したように、腰をあげた。
 息抜きだと思えば、それぐらいの時間はかまわないだろ。
「三十分だな。それぐらいなら、付き合ってやる」
 そう口にすれば、とたんに、万歳するように両手をあげた。
「うわーい、やったっ!! じゃあ、一時間後ね」
「今からじゃないのか?」
「だって、まだ暗くないもん。だから、一時間後。本部の裏庭でまってるからね!」
 大喜びでその場に跳ね回ったグンマは、そのままシンタローに抱きつくと、にっこりと微笑んだ。
「約束だよv」
 その二十歳をとおに過ぎたとは思えぬ無邪気な様子に苦笑しつつ、シンタローは頷いて見せた。
「ああ、ちゃんと行ってやるよ」
 
 



「なんだ、お前も呼ばれていたのか」
 約束の場所に行けば、すでに先客がいた。
「ああ」
 短く答えたのは、グンマと同じシンタローにとっては従兄弟にあたるキンタローである。
 とはいえ、ただたんに従兄弟とだけは、言い切れない間柄だが、そこら辺の確執は、すでにほとんど消え去っているといってもよかった。
「お前も結構ヒマ人なんだなぁ」
「ヒマなわけない。忙しいが、グンマの頼みだ。聞かぬわけにはいかないだろう」
 その言葉に、シンタローは口元に小さな笑みを刻んだ。 
 この従兄弟は、なぜかグンマには弱いのだ。初対面では、あれほど反発しあっていたのが、嘘のようである。
「まあ、いいさ。こんなもんとっとと終わらせて、お互い仕事に戻ろうぜ」
「そうだな」
 ちょうどグンマもこちらにやってきた。
「遅いぞ」
「ごめーん。高松に花火のことがバレて、ついてこないでって説得するのに時間かかっちゃった」 
 てへっと可愛らしく舌を出してみせるグンマに、シンタローは肩をすくめた。
「一緒にくればよかったじゃねぇかよ」
 高松一人増えたぐらいで、別に支障はないはずである。
 しかし、シンタローの言葉に、グンマはらしくなく目じりを持ち上げ、抗議した。
「ダメだよぉ! 今日は、三人だけの花火なの。だから、高松はいらないのっ」
 高松がその場でいたら、この世を儚み自殺してしまいそうなことを言い放ったグンマに、別に気にするわけでもなく、当然の疑問をシンタローは口にした。
「なんで三人なんだよ」
「だって、僕達――――ああっ、キンちゃん、まだ、ダメ。一人でやらないでよ」
 理由を言おうとしたグンマだが、その横で、興味本位からか、グンマが持ってきた手持ち花火セットの袋を破きだした従兄弟に、慌てて取り上げた。
「まってまって!」
「キンタロー、まて。まだ、花火する準備がととのってねぇから」
 シンタローも、それをとめる。
 理由は、聞きそびれたが、とりあえず花火を先にしても、支障はない。
「水汲んでくるからな」
 そう言って、シンタローは、グンマがもってきたバケツを手に、近場の蛇口へと向かった。花火をする前の基本である。
「駄目だよ、キンちゃん。花火は、火を使うから、最初に水とか用意しなきゃ駄目なの」
「そうなのか?」
「そうなの!」
 その背後で、二人の会話が聞こえてくる。
 花火と言うものを知っていっても、実際に体験するのは始めてのキンタローに、グンマは、大人ぶった様子で、説明している。
 マジックの息子だと知り、コタローの兄となったグンマは、めっきり兄貴面するようになった。時には、自分よりも経験値の低いキンタローにも、兄のように接する時がある。
 苦笑をするほどの幼い兄っぷりだが、キンタローは別に迷惑がっている様子見せてないので、シンタローもそれは、微笑ましい光景としてみているだけだった。
「ほら、水の準備はできたぞ」 
 バケツに8分目ほど水を入れたそれを二人の前に置いた。
「うわぁい。じゃあ、ろうそくに火をつけるね」
 セット花火の中に一緒に入っていた小さなろうそくをグンマは手にとった。
「マッチは?」
 それに火をつけてやろうとシンタローは、そう申し出たが、そのとたんグンマは、何かに気づいたように、ろうそくをもった手で、ポンと手を打った。
「あっ、忘れた」
「オイオイ」
 肝心なことをすっかり忘れる癖は、いまだに直ってないようである。
「どうするんだよ」
 火がなくては花火はできない。
「えーっとね、眼魔砲で何とかならない?」 
「なるかっ、ボケ!」
「ふえぇーん。ちょっといってみただけじゃないか。シンちゃんの怒りんぼぉ」
 お決まりのようにボケるグンマに、律儀に突っ込みをいれれば、相手は、すぐにキンタローに泣きついた。
「シンタロー。グンマを苛めるな」
「こんなん、苛めのうちにはいんねぇよ。チッ、仕方ねえな。火、とってくるわ」
 面倒だが仕方ない。こんなところで時間をとっているわけにもいかないのだ。
 息抜きかわりにここに来たが、仕事はまだ残っているのである。
「あんさん方、そこで何しとるんどす?」
 その声が聞こえてきたのは、本部の二階からだった。
 上を見上げれば、窓からアラシヤマが顔を覗かせていた。
「ちょうどいい。アラシヤマ。火をくれ、火」
 ナイスタイミングというものである。
「はあ?」
 突然そう言われたところで、アラシヤマには、何をすべきか判断できるはずもなく、間抜けな顔をさらすしかない。
「花火するのに、火がいるんだよ。いいから、とっととライターでもいいから放りなげろ」
「ああ、花火どすか。それやったら、これでええどすか?」
 そう言うと、アラシヤマが、外に向かって手を開いた。
「あん?」
 何をする気かと思えば、アラシヤマのの手から、炎の形をした蝶が飛び出してきた。
 ひらりひらりと闇夜を舞いつつシンタローの元へとやってくる。
「すっご~い。綺麗だね」
「器用なもんだ」
 関心する二人の前で、炎の蝶は迷うことなく手元にやってきた。
 どうやら、アラシヤマの特異体質から生み出されたもののようである。
「それでよろしいでっか?」
 近くによってきたそれにろうそくの芯を近づけると、ポッと勢いよく燃えだす。
 用事が済んだ蝶は、バケツの水を掬って消してやった。
「おう。サンキュ。じゃあな」
「えっ? それでおしまいですのん?」
 どうやら、この輪の中に入れてもらおうと密かに望んでいたよだが、それは却下だった。
「わりいな。グンマは俺達三人しか参加を認めてねえんだよ。お前はとっとと仕事に励め」
「………殺生どすなぁ」
 はっきりきっぱり言い放てば、恨みがましい視線を向け、涙を流しつつも、アラシヤマは素直にさっていった。
 これで用意は万全である。
「それじゃあ、花火を始めようね!」
 グンマの掛け声とともに、花火は煌びやかな光を放ち出した。




「で、なんで三人なんだよ」
 パチパチパチとシンタローの手元で跳ねるのは、線香花火だ。
 もう色鮮やかな手持ち花火は尽きて、残っているのはそれだけだった。
「ん~とね、思い出づくりをするためだよ。――凄いねぇ、シンちゃんの玉って大きい」
 グンマの手にも線香花火がついている。
 ただ、こちらは常に揺ら揺らと揺らしているために、先頭にある玉の寿命が短い。
「あっ……あ~あ」
 そうこう言っているうちに、グンマの手から、まだ小さな玉がぽとりと落ちた。地面にポッと熱が灯るが、すぐに冷やされ闇に消える。
 それを名残惜しげに見つめていたグンマに、シンタローは、新しいのを手渡した。
「ばーか。じっともってろよ。――――んで、思い出作りだと?」
「そう、思い出作りだよ。って、キンちゃん、いつまで持ってるの? それ、玉が落ちたら終わりだよ」
 キンタローの方は、線香花火はすでに終わっていた。終わっていたのにもかかわらず、まだ、持っている。
「そうなのか? じっと持っておけといわれたから、またこうしていれば、火花が散ると思っていたが」
「それはないよ。はいっ」
 シンタローから回された、新しい線香花火をキンタローにも手渡し、再び三人で、パチパチと小さな音と明かりを囲む。
「思い出づくりで、花火なのか?」
 シンタローの線香花火も先ほど落ちた。
 新しいの手に、再び先ほど途絶えた話題をふった。
「うん。夏だもん。夏といったら花火でしょ? 僕とシンちゃんと二人っきりで花火した時があったじゃない」
「ああ、そう言えば」
 いつも過保護な大人達がついて回る中で、二人っきりで花火をしたのは小学校6年生の頃である。
 こっそりと二人で、花火を持ち寄って、大人のいない場所で、花火をしたのだ。
「あの時さ、すっごくドキドキしてさ、楽しかったよね」
「そうだな」
 大人たちには内緒でやった花火。
 バレた時には、やはりこっぴどく怒られたのだが、それでも楽しい思い出の一つだった。
「だからね。キンちゃんともやりたかったの」
「俺とか?」
「三人だけの花火の思い出を作りたかったの。内緒というわけには、いかなかったけどね。でも、三人だけの。三人のみの思い出が欲しかったの」
 一言で言い表せられないほど運命の中で、その人生を大きく変えられた三人だからこそ、繋がれた絆。
 けれど、三人に共通してあるのは辛い過去や苦しい思い出しかこめられてない。
 だから、楽しい思い出も欲しかったのだとグンマは言うのだ。
「しっかしなぁ、グンマ」
「なあに? シンちゃん」
「大の大人が集まって、こうやって線香花火をするのが楽しいことか?」
「えぇえええ!! 楽しくなかったの? シンちゃん」
「いやっ…楽しい…つーか、さあ」
 いい気晴らしにはなったが、子供の頃のような無邪気な楽しさは、当然ながらない。
「俺は楽しかったぞ」
 しかし、至極真面目にそう告げたキンタローに、グンマも手を叩いて喜んだ。
「だよねぇv キンちゃん♪」
 ……………確かに、この二人ならば、無邪気に楽しめただろう。
「シンちゃんも、楽しかったよねぇ?」
 再度尋ねるグンマに、こうなれば否とは言えなかった。
「まあ……楽しかったかな」
 嘘ではない。
 昔のようなドキドキするような楽しさはないが、なんとなく和むというか、気分転換ぐらいには楽しめた。
「うわぁ~い。じゃあ、今度は海水浴いってスイカ割りしようね♪ 三人でっ!」
「まだ、やんのかよ」
 次の予定を口にしたグンマに、呆れるしかないシンタローだが、それはすでに決定事項のようだった。
「次の日曜日に皆で行こうねぇv」
「楽しみだな」
「そうだよね、キンちゃん♪ シンちゃんも楽しみにしててね」
 にっこり楽しげに言われてしまえば、断れるわけがない。
「はーい、はいはい。楽しみにしておきますよ」
(まっ、いいか)
 たまには、三人で出かけるのも、いいかもしれない。
 いい気分転換、気晴らしになってくれるだろう。

 まだまだ夏は、始まったばかり、今年はどんな夏になるのやら。 




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 2003.9.2

 この話は、まだ初夏の時期に書いた話なのです。
 完成してなかったから、ずっとお蔵入りになってただけです。
 なので、もう夏は終わってるなじゃねぇか! というツッコミはなしにしてください(笑)













BACK


PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved