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Lullaby

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 とろりとした眠気が身体を包み込む。
 南向きの窓。
 レースのカーテンに触れ差し込む日差しは、夏の光にしては柔らかくふりそそいでいた。
 不思議に思いつつ眠気ばかりを誘う書類から目を離し、空を見上げれば、薄墨のような雲が珍しく太陽にかかっていた。
「昼寝日和だよな」
 こんな日は、木漏れ日の差し込む樹木の下で、寝転がるのが気持ちいい。
 まぶしさも薄れ、暑さも和らいでいて、日陰では、丁度心地よい状態となっているのだ。
 南国のあの場所でも、こんな日は、早々にやるべきことを片付けて、惰眠を貪っていのを思い出す。
「ふわぁ…」
 あくびが一つ、口から零れ落ちた。
 とろとろと眠気がどこからともなくあふれ出すような感じがする。うっかり、それに包まれそうになるのをどうにか気力で振り払った。
「まずいな」
 それでも重みを増した瞼を無理やりこじ開けるように指先で瞼を押す。
 そうしなければ、目を閉じたら最後、眠りについてしまいそうなのである。
 昨日、一昨日と仕事がつまっていたせいで、極端に睡眠時間が少なかったのが悪かったのだろう。
 だが、ここで眠るわけにはいかなかった。
 まだ、仕事はたっぷりと残っているのである。目の前の書類の山がいい証拠。少なくてもこれを片付けないことには、安眠はありえなかった。
 あの頃の自分とは違うのだ。
 多くの柵(しがらみ)と重荷を背負った自分には、あんな風に眠りを貪れる時間はない。
「けど、やるって決めたことだしな」
 総帥になることを選んだのは自分だ。
 この道を歩み、そして新たな道を作ることを望んだのは自分だ。
 だから、途中で挫折したり投げ出すわけにはいかなかった。
 こんなところで、優雅に昼寝をしている場合じゃない。
 無理やり自分を叱咤しつつ書類に眼を向ける。
(やんねぇとな)
「無理をするな」
 ビクリ。
 身体が震えた。
「えっ? ………あっ」
 唐突に聞こえてきた声に慌てて振り返れば、そこには見慣れた人物が立っていた。
「キンタロー……いつのまに」
 そう呟けば、相手は眉間に大きなシワをいくつか作って見せた。
「気づかなかったのか?」  
 そう言われれば、シンタローはばつが悪げに顔をゆがめさせた。
「うっ………ちょっとうとうとしてたからだよ」
 油断すれば引きずり込まれそうな眠気に逆らおうと葛藤していたら、キンタローの気配に気づかなかったのである。
 だが、キンタローの登場に驚いたおかげで、少しは眠気が吹き飛んでくれた。
 これでまた仕事が再開できると、いつのまにか落としていたペンを手に持ち、書類に視線を向けたが、その視界が行き成り真っ暗になった。
「なっ!」
 驚いて暴れると、何かに後頭部が触れ、そうして耳元で、低くささやかれた。
「一時休憩してろ」
「何言って………その手をどけろよ」
 視界を暗くふさいでいるのは、シンタローの背中に回ったキンタローの手だった。
 それが、後ろから抱き込むようにして手を伸ばし、シンタローの両目をふさいでいた。
「眠れ」
 命令口調なのにそこに柔らさも含まれているから、反発するよりも先に、押し黙ってしまう。
 他の者ならば、すぐに否定し拒絶してしまう言葉でも、なのにキンタローに言われれば、自分は奇妙なほどに素直にきいてしまうのだ。
「……仕事が残ってるんだ」
 それでも、抵抗を少しはしてみる。
 本当に素直に聞けるほど、自分は無垢な人間ではないから、目をふさがれている状態のまま、かすかに動く頭で首を横へと揺らす。
「やらないといけないから、寝てられない」
 キンタローの言葉どおりに従うのが正しいとは思う。
 眠い頭で能率の悪い仕事をするよりも、少しばかり休憩をとってから、仕事に取り掛かったほうが、自分のためにもいいとは思うけれど、それを怠惰だと思ってしまう自分がいるから、だから無駄に足掻いてみせる。
「代わってやる」
「無理だって」
 すぐに返って来た返事に、シンタローは少し苦笑を浮かべた。
 ここに来ている書類の大半は、自分の指示が必要なものなのだ。
 総帥ではないキンタローが出来る仕事ではない。
「平気だ。お前の考えることは、俺にはわかっているからな」
 ぱさりと紙の音が聞こえる。
 どうやら、机の上に積まれた書類をいくつか覗いてみているらしい。
「それでも心配なら、後で俺がやった仕事を見返せばいい。それでいいだろう?」 いいのだろうか?
 自分のやるべきことをキンタローに任せてもいいのだろうか。
 確かに、キンタローは自分のことを誰よりもわかってくれる。
 それは当然だろう。彼は24年間ずっと自分の中にいて、自分の全てを見続けてきたのだから。
 シンタローの思考回路を読み取ることなど動作もないことのはずだった。
 それでも、この仕事は自分がやるべきことなのである。
 他人に任せていい仕事ではない。
 決心がつかず躊躇っていれば、キンタローの手が、さらりとシンタローの髪を梳く。まるで、昔、母に眠る間際にしてもらった優しい愛撫のように。懐かしさと気持ちよさに、くらりと身体が揺れる。
「眠れ」
 もう一度告げられる声。
 暖かで安心できる声。
 抱き込まれるような状態で、温もりが身体をめぐる。
 ふわりと再び眠気が舞い戻ってきた。
 とろとろとろとろと沁み込む眠気に身体が重くなる。
 暗い視界は、目を閉じているのか閉じていないのか分かりにくくて、どちらでも同じならばと目を完全に閉じた。
 それで完全に完敗だった。
 もう眠気には勝てない。
「ん………頼む」
 それでも眠りに落ちる最後に、自分を眠らせてくれたキンタローに全てを託す。
「ああ」
 力強く告げられるその声を耳に、シンタローは今度こそ眠りの淵に飛び込んだ。




「ようやく寝たか」
 頑固な従兄弟に、口の端を持ち上げ苦笑いを浮かべたキンタローは、ようやくシンタローの視界をふさいでいた手をどけた。
 良く眠っている。
 それを確認したキンタローは、先ほど触れていた髪を一房手にとった。
「おやすみ、シンタロー」
 その髪に口付けを落としたキンタローは、眠りについたシンタローの傍らで、書類を一枚手に仕事に取り掛かった。
 














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