思ひ出アルバム2
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「パパーv」
とてとてとてと駆け寄ってきた愛息に、厳しい顔つきで仕事をこなしてマジックは、けれど即座に相好をくずして、その場にしゃがみこんだ。
近づいてきた息子と同じ目線になるようにだ。
「なんだい、シンちゃん?」
悩殺必須の満面の笑顔で駆け寄ってきた可愛い息子に、鼻血を噴出す一歩手前のマジックは、それでも気力体力時の運を駆使して、父親面を息子に見せた。
「どうかしたのかなぁ?」
「あのね、はいっ」
父親の前で立ち止まったシンタローは、ここまで転ばずに、両手でもっていた物を差し出した。
「これ、パパにあげるねv」
「おや、美味しそうなリンゴだね。どうしたんだい?」
シンタローが手にしていたのは、熟れ頃の真っ赤なりんごであった。
おやつにしては、まだ少し早い時刻。なぜ、息子がそんなものを自分の元に持ってきたのかわからずにそう尋ねれば、シンタローは、照れくさそうに笑みを浮かべながら、父親の手に、それを落とした。
「ん~とね、お仕事頑張ってるパパのためにね、僕もらってきたの。食べてくれる?」
重たい荷物を父親に手渡したシンタローは、自由になった両手を前に組み、くいっと小首を傾げてみせてくれる。
その愛らしい動作は、くらくらと貧血を起こさせるぐらいの威力をもっていたもので、
(グッ! シンちゃんナイス表情だよ。パパは、ノックアウトだね★ 青いリンゴはすっぱいけれど、シンちゃんなら、いつでも食べごろOKだよ!!)
なにがOKなのか、常識人にはさっぱり分からないが(腐女子は除く)、そんな願望とも本望ともつかぬ思いが脳裏にひしめきあう中、マジックは、そのリンゴを口元に運んだ。
「ありがとう、シンちゃんvvv いただきまーす!」
シャクッ。
小気味良い音が響き、マジックの口の中に、甘酸っぱい果肉の味が広がる。
だが、しかし。
「………………ぐっ………こ、これは」
二口目を口に運ぼうとしたその瞬間、ころん、とマジックの手から食べかけのリンゴが転げ落ちた。
異変を感じた時にはすでにとき遅し、マジックは、そのまま両膝をついて、地面に両手をつけた。
(このリンゴは……)
「どうしたの、パパ?」
「シ、シンちゃん、これ誰からもらったの?」
崩れ落ちそうになる体をひっしにこらえ、シンタローに顔を向けると、状況をまったく把握してないシンタローは、きょとんとした顔で、けれど正直に答えた。
「高松からだよ。今度グンマと幼稚園で『白雪姫』やるっていったら、高松がリンゴをいっぱい作ってくれたから、それをもらったの♪」
(犯人はあいつか…)
真相は解明された。だからといって、状況は好転するどころか悪化するばかりである。
「高松………マジに毒リンゴ作ったな……………がくっ」
最後の気力を振り絞り、そう告げると、マジックは昏倒したのだった。
それから一時間後。
「……………何をしている?」
「貴方の検死ですが?」
仮死状態から目覚めたマジックの前に、検死解剖をいそいそと行う高松とばっちりと目があったのだった。
その後一ヶ月集中治療室入りを果たした高松がいたとかいなかったか…………。
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