忍者ブログ
* admin *
[789]  [788]  [787]  [786]  [785]  [784]  [783]  [782]  [781]  [780]  [779
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




 窓を開けるとそこは雪景色だった。


「どうりで静かだと思った」
 自室にしている部屋の窓の向こう側の景色は、一色に染められていた。いつもならば、窓から少し離れた場所にある木々から、小鳥たちの囀る声が聞こえてくるのだが、今日はそれがなかった。雨の日にもそんな時があるが、雨音すらも聞こえずに、もしやと思いカーテンを開いてみれば、案の定である。昨晩は、星の瞬きひとつ見えない空だと思っていたが、朝が来てみれば、思わず感嘆のため息がもれるほど、雪が降り積もっていた。
 とはいえ、積もった雪を見て興奮するほど幼い感情は持ち合わさってはいない。それでも、窓の向こうの景色に、マジックは、口元がほころびていた。
 もちろん考えているのはただひとつである。
「ふふふっ…雪と戯れるシンちゃん……イイ」
 一面の銀世界から連想していき行き着く先は、満面の笑みで雪の中を転げまわる愛息の姿の妄想――もとい想像で、父親らしい(?)笑みをこぼした。
 だが、その映像を断ち切るような無粋な音が、部屋に響いた。
 ビィービィービィー。
 枕元に備え付けられている内線より呼び出しである。
(朝っぱらから何事だ)
 素敵な妄想空間から呼び戻されたマジックは、眉間に皺を寄せつつも、通話のために、赤いボタンを押した。味気ないお知らせの電子音が止まり、代わりに聞き覚えのある部下の声が聞こえてきた。
「朝早くから失礼します」
「かまわん。用件はなんだ」
 こちらの睡眠を壊したというような謝罪はなしだ。この時間には、すでに自分が目覚めていることは、側近の部下ならば知っていることである。先を促せば、あちらも心得ているもので、即座に用件を口にした。
「はい。マジック総帥がお目覚めの時刻となりましたら伝言して欲しいとご子息より言付かった言葉があり、お知らせに参りました」
「シンタローからだと! なんだ」
 シンちゃんからパパへの伝言?
 時々、時間の都合で直接会えない息子は、寂しがって部下に言葉を伝えてもらうことがある。
(だってシンちゃんってば、パパが大好きだもんね★)
 ウキウキしつつ、部下からの言葉を待っていれば、一拍置いて、その伝言の内容が伝えられた。
「はい。では、読みます―――『パパへ 今日雪が降ったの知ってる? お仕事が空いたら僕と雪だるま作ったりして遊んでね。  パパ大好きなシンタローより』――以上です」
(シ…シンちゃん。それはパパへの愛の告白と思ってもいいんだねッ!)
 そんなはずがあるわけない。が、もちろんマジックに突っ込んでくれるような親切な人はどこにもいなかった。息子の伝言にすっかり有頂天のパパである。
(朝からデートのお誘いなんて、パパ嬉しいよ★)
 さっそく先ほどの妄想が現実身を帯びてくるというものである。すでに妄想の中の息子は、さながら可愛らしい雪の精。キラキラと白銀の輝きをまといながら、満面の笑顔で父親に向かって「パパ大好きv」と言ってくれている。
 当然ながら、鼻血は流れっぱなしだった。
(今日の仕事は……ま、どうでもいいよね)
 息子よりも大事なものはない。それならば、考えるだけ無用である。
「総帥……あの……」
 トリップしまくっているため、長い沈黙があいたのだが、それに耐え切れなかったのか、躊躇いがちに部下から声がもれる。その声に、即座にマジックはガンマ団総帥の顔へと戻った。
「今日の午前中の仕事は、全てキャンセルだ。いいな」
「は、はいッ!」
 有無を言わせぬ迫力を声だけで伝える。緊張した部下の声を聞きながら、マジックは、ふと大事なことを聞き忘れたことを思い出した。
「ところで、シンタローはどこにいるんだ」
 それを知らなければ、大切な時間が減ってしまう。できた時間は、午前中まで。そのギリギリまで、愛息との雪の中での戯れについやす心意気なのだ。
「ご子息は、中庭にいらっしゃるようです」
「ご苦労」
 それだけ言うと、とっとと通信を切り、マジックはいそいそと愛息の元へ出かけるための準備をいそいそとし始めたのだった。
 




 外へ一歩踏み出れば、即座に冷気が肌を刺す。
「うぅ~~やっぱり寒いねぇ」
 厚手のシャツにセーターを着込み、さらにコートを羽織ってみたものの、重たげな灰色の雲がかかった空の下では、ぬくもりは一切期待できず、思わずその場で足ふみをした。とたんにキュッキュッとブーツの底から踏みしめられる雪の音がする。埋まった深さはおよそ5センチほど。一晩にしては、かなり降った方だった。しかし、雪を眺めたのもそれまだった。
「パ~パぁ~! こっちこっち」
 その声が聞こえたとたん、マジックの視線はただひとつを映し出す。
「シンちゃぁ~んvvv」
 今、行くよ♪
 即座に愛息子へターゲット・オンを果たしたマジックは、一直線にそちらへ向かって全力疾走で駆けていった。
 雪のための走り辛さなど、ものともしないばく進ぶりである。
 猛スピードで駆け抜けたマジックを待ち受けていたのは、冬装備にもこもこ姿が可愛らしい息子のシンタローだった。
 ちなみに身に付けている帽子・マフラー・セーター・手袋は、マジックが夜なべして作った自信作である。コンセプトは白ウサギちゃんのため、真っ白の毛糸で織られているが、手袋だけは赤い目の変わりに真っ赤である。もちろん帽子には、可愛らしいウサギ耳つきで、帽子の後方は、三つ編された細い毛糸が伸び、その先に尻尾代わりの白いボンボンがひとつついていた。
 そんなシンタローに向かって、怒涛の勢いで近づいてくる父親に、
「パパ。みてみてぇ! ほら、白兎♪」
 そう言うと、シンタローは、雪の上で、赤い手袋を目に当て、ぴょこんとその場で飛び跳ねてみせた。尻尾代わりの白い毛玉もポンと跳ねる。その瞬間。
「はうッ!!」
 その眩暈がするほどの愛らしさにしっかりとやられてしまい、思わず足元をふらつかせ、マジックは、その場に膝をついた。
 ぽとり…。
 白い雪が赤く染められる。
(いかん……シンちゃんを抱きしめる前に、すでに血が。くぅ~~~、誰だ、あんなに罪深いものを息子に作ったのはッ! 私だよ。私――グッジョブ!!)
 いい仕事してますねぇ、と自分で自分を褒め讃え、再び気力で復活したマジックは倒れる前と変わりなく――鼻血は、雪で拭って、赤く染まった雪に白い雪をかぶせ、証拠隠滅完了★――息子のシンタローに向かって歩みを進めた。
 ようやくシンタローの元にたどり着くと、相変わらず可愛らしい魅力満点な息子に、マジックは声をかけた。
「シンちゃん。寒くないかい?」
 いつから外へ出ていたのだろうか、傍にいけば、真っ赤な頬と鼻をしているのがわかった。手を伸ばして触れてみれば、かなり冷たい。
「ううん。大丈夫だよ。でも、パパのおてて暖かいねv」
「さっきまで部屋の中にいたからね」
 まさか、息子の姿に大興奮して体温が上昇しているとはいえないパパである。
 冷たくひんやりとした息子の滑らかな頬に思わず、「雪見大福みたいだね。食べちゃいたいよ、パパ」と当然のごとくお馬鹿な発言を心中でしていれば、そんな危険妄想など欠片も気付かない無邪気な天使(パパ談)であるシンタローは、頬をさするその手にくすぐったそうにしながら、言い放った。
「そっか。あのね、パパ。僕の息ね、こんなに真っ白なんだよ」
 はぁと大きく息を吐き出せば、言葉どおり大気に白い靄が生まれる。
(シンちゃんの吐息…パパ、全部吸い込んでもいいかいッ!? むしろそのお口に吸い付きたいよ!) 
 そんなことすれば、変態性がモロバレになるので、とりあえずそこら辺はグッと我慢し、それでも気付かれないように、そそっと深呼吸だけは、しっかりとやった。何分の一かはしっかりと肺に収めてみせたパパである。
「今日は、とっても寒いからね。パパの息も真っ白だよ」
 そうして、その場を――というより自分自身を――誤魔化すように、同じように白い息を吐いて見せる。が、もちろん先ほどすった愛息子の吐息とは別の息を吐き出すほどのワザは手に入れているので心配ご無用だ。
「ねえ、パパ。今日のお仕事は大丈夫?」
「大丈夫だよ。午前中は、シンちゃんと遊んでいられるからね」
 そう答えれば、パッとシンタローの顔が輝いた。嬉しそうに、帽子につけてあったウサギの耳が魅惑的に揺れる。本当に仔ウサギのように――そんなものとは比べものにならないよッ!(パパ談)――愛らしい。そんな跳ねる元気な仔ウサギを抱きしめれば、弾むような声が耳元ではじけた。
「やったーッ! 僕、パパと雪だるま作りたい。それから雪合戦もッ!」
「いいよ。ぜーんぶパパと一緒にやろうね」
 二人っきりでね★
 もちろんそれは当然のことだった。
(邪魔する奴はぶっ潰すぞぉ!)
 にこやかな笑顔を息子に向けつつ、空恐ろしいことを考えていたマジックに、これまた当然のごとく、いいタイミングで登場してくれる者がいた。
「んな、クソ寒ぃところで、何してんだよ、てめぇら」
 声をかけてきたのは、マジックの弟である、ハーレムだった。
 とたんに、腕の中にいた息子の温もりが消え去る。
「あー! ハーレム。一緒に遊ぼう」
 父親の腕から飛び出したシンタローは、すぐさま中庭に現れたハーレムに向かって駆け寄り、その腰に抱きつくようにしてせがんだ。なんだかんだいいつつ、面倒見のいいこの叔父は、シンタローにとっては、大好きな遊び相手の一人なのである。
「ハーレム叔父様といえ、クソガキ。雪遊びだぁ? まあ、少しぐらいなら付き合って……。つーか兄貴、そのポーズは――」
 なんですか?
 と、問いたいところだが、それは愚問というものである。
 生意気なところも目立つものの可愛い甥っ子の頼みに、しぶしぶながら承諾してやろうかと思っていたハーレムは、けれどすさまじい殺気に声を失った。
 気がつけば、マジックは、腕を持ち上げ、こちらに向かって手を広げている。
「ん? 挨拶のポーズだよ、ハーレム」
(どこがだよッ!!)
 どう見ても、一族必殺技の眼魔砲の構えである。しかも照準は自分だ。殺気ムンムンで、『挨拶』だの言われても信じられる馬鹿はどこにもいないだろう。
 この原因は、もちろん自分の腰にへばりついたままのシンタローである。嫉妬の炎を燃やしまくる兄を前に、ハーレムは、現実から目をそらすように、視線を空高くへと向けた。
(……相変わらず親馬鹿かよ)
 しかし、暢気にそんなこともしていられない。自分の命は、今、まさに風前の灯なのである。
 そんなことに気づかない甥っ子は、自分を逃さぬように、必死に腰にへばりついている。それが余計父親の嫉妬を煽っていることは、もちろん気づいていなかった。
「おい、ちみっこ。俺とではなくて、マジック兄貴と遊べ。な?」
 やはりまだ自分は死にたくはない。
 甥っ子の頭を帽子ごしにポンポンと叩いて、そう言えば、不満そうな顔が上を向いた。
「パパと?」
「そうだよ、シンちゃん! パパと二人で遊ぼうよ、ね?」
 その言葉に、父親も必死に自分の元へシンタローを引き寄せようと両腕広げて呼びかける。だが、そうそう上手くいくはずもなかった。
「ん~。でも、僕、ハーレムとも遊びたい!」
 とたんにその場の空気が一気に絶対零度まで下がる。
「ば、馬鹿!」
 んな、爆弾発言するんじゃねぇ。
 薄れていた殺気が再び盛り返される。ハーレムの背中は、外気気温とは逆に、すでにじっとりとした汗でぬれていた。
「シンちゃんッ!」
 パパよりも、このろくでなしのどーしようもない愚弟を選ぶっていうのかいッ!?
 どうしようもなさは、同レベルな気がするが、もちろんお互いに気付いてないところがいいところである。
(これはもう、作戦変更だな)
 シンタロー自身がこちらに来ないのならば、元凶を消すのみである)
 マジックは、にこやかに微笑むと、その顔を愚弟へと向けた。
「ハーレム。お前には、仕事が入ってなかったか?」
 訳:とっとと消え失せろ★
 にこやかに作られたまがい物の笑顔の中にある、どんよりと濁った輝きを放つ瞳が向けられる。
「そ、そうだった。忘れてたぜ」
 訳:俺も命が惜しい…。
 先ほどから止まらない脂汗。自分自身の健康のためにも、早期撤退が好ましい。
「え~~! なんだよ。もう行くの? ハーレム」
 久しぶりに会えたというのに、あまりにもそっけない叔父の態度に意気消沈すれば、ハーレムは、少し屈み込み、その背中を優しく叩いてあげた。
「悪ぃな。また今度遊んでやるよ」
 申し訳ないと思うけれど、命あっての物種。大体、生きていなければ、次に遊ぶことも出来ないのだ。
「むぅ~。約束だからね!」
 それでもしぶしぶながら、腕を放してくれた。名残惜しげに、視線を向けられる。そんなふくれっ面の甥っ子に申し訳なさを感じつつ、さらに殺気を増した眼前に戦々恐々しつつ、ハーレムは、回れ右をして遁走したのだった。
(まったく、シンちゃんになんて可愛い顔をさせるんだッ!)
 邪魔者が消え去るのを確認したマジックは、先ほどの光景に憤慨していた。
 ふくれっ面して我侭を言うなど、自分にはめったにしてくれない仕草である。いつもいい子なのは嬉しいけれど、たまには、ああいうこともして欲しいパパだ。
 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。ようやく二人っきりになったのである。
「それじゃあ、シンちゃん。パパと遊ぼうか」
「うん♪」
 仕切りなおしとばかりにそう告げる父親に、シンタローは、先ほどのやり取りも忘れて、にっこり笑って頷いた。直後、鼻血を吹き出した父親に、それも一時お預けとなったのは、当然のことであった。

 














PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved