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A








傍らの温もり

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 パチリ。
 目が覚める。
 時計を見ると深夜2時。まだ眠っていい時間だ。
 明日も早いとはいえ、まだ4時間は眠れる。
 そう思いつつ、ベットの中でごろごろと動いた。
 一人用にしては大きすぎるベットの中で、何かを探るように手を動かす。だが、そこには何もなかった。
 ただ、冷たいシーツの感触だけが伝わってくる。
 それでようやく気づいたように、その手を止めた。
「何やってんだ、俺は…」
 無意識の行動に溜息をついてシンタローは、身を起こした。
 眠気が飛んでしまっていた。
 そのままじっとしていても眠れそうになくて、服を着込むと外に出た。
 ガンマ団本部とは別に作られた棟は、ガンマ団に勤務している人達の宿舎の一つである。その中でも幹部以上の団員のみに与えられる場所にシンタローは寝起きしている。
 一応自宅もあるのだが、そちらの方にはあまり帰っていない。理由は簡単だ。帰れば、あの親父が引っ付いてくるからである。仕事で疲れているのに、それをされては休まる暇がないのだ。
 シンタローは下にではなく、屋上にあがった。
 別に理由はない。あるとすれば、下へ行くよりも上の方が近かったからだ。
 最上階丸ごと与えられた総帥用の部屋から屋上は直ぐである。
 屋上に出ると建物の端に移動する。そこには、転落防止のためにシンタローの胸のあたりまでの高さの柵が巡らされている。
 シンタローはそこに腕を置くと、体重をかけるよにもたれかかった。
 季節は初夏。
 屋上にあがると生温さと湿気を帯びた風が、シンタローの長い髪に絡まりつつ通り過ぎる。
 梅雨に入っており、最近ぐずついた天気ばかりで、昨日も一日中雨が降っていた。だが、上を見上げたシンタローは、思わず溜息をついた。
「へぇ、凄い」
 深夜の上、雨上がりのせいだろうか、珍しく澄んだ星空が頭上に展開されていた。
 それは、久しぶりにみる星空だった。
「でも、あそこで見た星空の方が凄かったよな」
 シンタローは、懐かしむように視線を細めた。
 あそこ――――それは、シンタローにとって大切な場所――――パプワ島のことだ。
 人工的な光が一切ない島は夜がくれば完全な闇が覆う。そこから見上げた星空は、本当に降ってくるような、という表現が似合うほどの無数の星々が見えた。
 シンタローは、幾度となくその星空を見上げ、そして眠りについた。
 パプワやチャッピーと一緒に暖かなぬくもりにつつまれて…。
 仰向いていた視線を今度は下に向けた。自分の手を見つめる。
「探して…しまってた」
 寝ぼけた自分がベットでさぐっていたのは、その手に触れる暖かなぬくもりだった。
 あの島では当たり前に触れられた体温。
 だが、今は当然あるはずがなかった。
 ここはパプワ島ではない。
 あの温もりがあるはずなかった。
「眠れねえ」
 無意識のうちに、あの温もりで自分は眠りについていたのだ。
 気づいてしまったら、もう駄目だった。
 自分は眠れない。 
 温もりが傍にないと眠りにつけない…。

「シンタローはん?」
 突然背後から聞こえてきた声に、シンタローは慌てて振り返った。 
「アラシヤマ…なんでここに?」
「はあ。ちょっと寝付けられへんので風にあたろうかと思うて。シンタローはんこそ、どうしてここにいるんどすか?」
 入り口近くにいたアラシヤマは、そういいながらこちらに近づいてくる。
「俺も……眠れなかったんだよ」
「そうどすか」
 シンタローの直ぐ隣に立ったアラシヤマは、同じように柵にもたれかかった。それから、少し前のシンタローと同じように頭上を見上げた。
「綺麗な星空どすなあ」
「ああ」
「せやけど、ここの星空より、パプワ島で見た星空の方がずっと綺麗だった気がしますわ」
「ああ」
 天上を仰ぐアラシヤマの隣で、シンタローは前を向いたまま、生返事をする。
 ちらりと視線を走らせるとぼんやりした表情で、前を見つめるシンタローの横顔が見える。
(眠たいんやろうか?)
 それならば、こんなところにいないでさっさと部屋に戻った方がいいと思うのだが。
 それでも、そう言う気配も見せず、さりとて綺麗な星空を見上げもしないシンタローに訝しげに思いつつ、アラシヤマはまた、声をかけた。
「シンタローはん?」
「ああ」
「いい天気どすなあ」
「ああ」
「わてのこと好きでっしゃろ?」
「いーや」
「………なんで、そこだけ否定しますのん」
 聞いてないと思ったのだが、一応耳には入れていたようである。
 ちょっとだけ、嘘だと思っても聞いて頷いて欲しかった質問をあっさりと否定され、落ち込みが入る。
 しかし、相手の方も様子がおかしかった。人が眠りにつく深夜だからというのもあるとは思うが、どことなく空ろな様子を見せる。
 時折身体が船をこぐように揺れるのを見て、アラシヤマは眉をひそめた。
「シンタローはん? どうしたんどすか。眠いなら、部屋に戻った方がよろしゅうおますが」
「眠れない……」
 シンタローは、億劫げに口を開きながらそう告げる。
 眠れるはずがない。帰っても温もりが傍にないのだから。
 けれど、なぜか眠気は訪れていた。
 もたれかけていた腕にさらに体重がかかる。
「はあ。でも…」
 困ったような声が耳元で聞こえてくる。
 けれど、目を開けてられなくなって、シンタローは目を閉じる。
「部屋に戻ったら眠れない」
 一人ぼっちのあの部屋にいたら、また自分の目はさえてくるだろう。
 しかし、確かに今は、眠たかった。
 ここには、温もりがあるからだ。
 直ぐ傍に、暖かな体温が触れている。それはわずかなものだったが、それでも自分には心地良くて、眠りを誘う。
 小さくあくびをすれば、アラシヤマに見咎められた。
「ここなら寝むれますのん?」
「んんっ」
 違うと返事をしようとしたが、くぐもった声にしかならなかった。
 すでに思考能力は働いてはいない。あくびがまたこぼれた。
 眠くならないはずはないのだ。激務をこなしている自分だ。眠気がおとずれさえすれば、すぐに身体は深い眠りに入ろうとしていく。
「シンタローはん。もう部屋に戻った方がいいですわ。こんなところで眠りはったら風邪引きますえ」
 どう見ても眠る態勢のシンタローに声をかける。
「………………」
 だが、今度は返事がなかった。
「シンタローはん?」
 首を傾げつつ、アラシヤマは、そっとシンタローの肩に置いた。
 そのとたん、その身体が驚くほど簡単に傾いだ。
 慌ててそれを抱きとめ、自分の身体にもたれさせる。
「なんやの、このお人は。もう寝てはりますやん」
 覗いて見れば完全に熟睡状態のシンタローがいた。
 軽く強請ってみるが、起きる気配はまったくない。
 ガンマ団総帥にしては、あまりにも豪快な眠りっぷりであった。
「こんなに無防備でどないするんやろ」
 呆れたように呟きながらも、そのまま放置することなどできるはずはなく、アラシヤマはその身体を抱え上げると、屋上を後にした。
 



「やれやれですわ」
 アラシヤマは抱えてたシンタローをベットの上に寝かせた。
 ここは自分に与えられた部屋の寝室である。
 最初は当然総帥の部屋に行ったのだが、当然ながらしっかりとロックされており、開けるためのパスワードも知らないために、仕方なく自分の部屋に運んだのだ。
「わてはソファーにでも寝るしかありまへんな」
 シングルサイズのそれには大人一人が寝てしまえば、後はあまりスペースはない。
 仕方なく、ソファーの置いてあるリビングの方へ移動しようとしたアラシヤマは、けれど、その足を止めた。
「んっ」
 その前に、シンタローが小さなうめき声をあげながら、無意識のように手を動かし、触れたアラシヤマの腕を掴んだのである。それだけならばまだしも、アラシヤマに触れたとたん、行き成り強い力でひっぱった。
「シンタローはんっ!?」
 突然のことでバランスを崩したアラシヤマは、当然のようにベットの上に転がった。
 もっとも、とっさに空いている腕を突き出したために、どうにか寝ているシンタローの上に落ちることだけは免れる。
 それでも事態はそれほどよくなったわけではなかった。
「なんですのん?」
 真上からシンタローを見下ろすはめになったアラシヤマは、困惑げに自分の腕を見た。
 まだ、手は掴まれたままだ。
 しかも、かなりしっかりと握られていて、離すのには苦労しそうだった。
 自分の今の姿を省みて、アラシヤマは苦笑する。
「ふう。こんなんあのマジック様にでも見られたら、良くて減給へたすれば、抹殺されますわ」
 どう見ても、今の状況は、自分がシンタローの寝込みを襲っている姿にしか見えないのである。息子を異常なまでに溺愛しているあのマジックが見れば、間違いなく自分の運命は最後にしか思えなかった。
 それでも無理やり起こしてまでその手を振り払えないのは、目の前の寝顔が無防備すぎるからだ。
 安心しきった子供のように眠られてしまえば、起こすのも忍びなく感じる。
「せやけど、この態勢はキツイしどうにかせなあかんやろうな」
 とりあえず掴まれた手はそのままに、そろそろと動かし、ベットの上から降りようとしたアラシヤマだが、その気配に気づいたのか、今度は、もう一方の手がアラシヤマを掴んだ。
「うわっ」
 またもや不意をつかれる。
 その手は、アラシヤマの首に回り、そのままぐぃっと引き寄せられた。眠っているためか手加減のない凄い力だ。
 今度は、なし崩しのままシンタローの胸の中に抱きこまれてしまっていた。
「シンタローはん。ちょっと、起きてくれなはれっ!!」
 さすがにこれはまずいと抗議の声を上げたアラシヤマに、けれど返ってきたのは、完全に寝ぼけた声だった。
「こらパプワ。暴れないで、大人しく寝てろっ」
 そう言うと、さらに、アラシヤマの背中をぽんぽんと宥めるように叩く。
「なんですって?」
 その寝言に思わず声を上げるが、相手は再び眠りについていた。
 アラシヤマはしっかりと抱きしめたままに。
 そのままたっぷり一分ほどその状況にいて、アラシヤマはようやく口を開いた。
「………もしかして、わてをパプワはんと思うとりますの?」
 もちろん返事はない。
 しっかりと抱き込まれたまま、アラシヤマが出来ることと言えばじっとしているだけだ。
 離してくれる気配が全然ないのだからしかたない。 
「あんさん、実は思いっきり寂しがり屋でしたんやなあ」
 こうして傍にいるとよくわかる。
 シンタローは、今までに見たこともないほど、安心した表情で眠っていた。
 士官学校の時代でも、総帥である今も、一度としてそんな表情は、見たこともない。
 自分が覚えているのは、どこか寂しげな彼の顔。
 それでも、彼の周りに人が絶えたことはない。
「一人ぼっちにはあんまりなれてないんどすな」
 眠れないと言っていたくせに、自分が傍にいたとたんに眠むってしまったのは、たぶん、そんな理由だろう。
 推測でしかないが、それでもあの寝言とその後の行動で確信がついた。
 自分のことをパプワだと思っているのだろう彼は、しっかりとその温もりを腕に抱きしめていた。
 眠れないのだと、一人屋上にいたくせに、この眠りっぷりを見ればわかる。
 人の温もりが恋しくて、欲しくて、眠れなかったのだ、彼は。
「それじゃあ、しょうがありまへんなあ。今日は、このままでいましょうか。………朝が恐ろしいことになりそうやけど」
 たぶん、彼は今晩のことを覚えてないだろう。
 そうなれば、目覚めた時、この状況では彼がパニクるのも想像がつく。なにせ、自分は、彼に愛の告白をこの間したばかりなのだから。
 もっとも、即効断られてしまったが。
「そやけど……ちょっとは脈ありと見てもええかもしれへんなあ」
 人肌が恋しいとはいえ、そうそう人前で簡単に眠りにつく人ではない。
 それでも、こうも簡単に無防備に眠りについてくれたのは、少なくても信用はされていると見てもいいのではないだろうか。
「まあ、いいどす。答えはまた後からでも出しましょう」
 そろそろ自分も眠くなってきた。
 思考能力も危ぶまれてきたし、ここは眠りに身を任せた方がよさそうだった。
「おやすみどす。シンタローはん」
 少々窮屈ではあるが、アラシヤマも気持ちのいい温もりに包まれながら、眠りについた。






 明朝。

 ズドォーン!

 突如として、幹部の宿舎である建物の一角が吹っ飛んでいた。


















 ― 蛇 足 ―


(これは一体どういうことだ?)
 シンタローは朝からつきつけられた信じられない現実に対応しきれずに、何度もそれを見つめていた。
 自分の腕の中にいるアラシヤマの存在を。
(ちょっとまて…なんでアラシヤマがいるんだ? つーか、この部屋アラシヤマの部屋じゃねえかよ)
 目が覚めた時には違和感があった部屋もよく見れば、見たことのある人物の部屋だった。
(昨日、何があった?)
 とりあえず、状況はそのままでシンタローは記憶を探る。
(えーっと、確か俺は眠れなくて屋上にいたんだよな………で、そこにアラシヤマがきて………隣にあいつがあって……それから……………………………記憶がねぇ!?)
 そこからぷつりと記憶が途切れていた。
(まさか、そこからアラシヤマに無理やり部屋に連れ込まれたとか………)
 腕の中にいるこの人物に愛の告白を受けたのは、まだ記憶に新しいことだ。
 だが、シンタローは今の状況を見ると首をひねらせた。
(けど、抵抗した覚えないし……第一、なんでこんな態勢になってるんだ? 逆なら理由もつくが)
 どう見ても、自分の方がアラシヤマを抱きかかえているのである。
 これを見れば、自分がアラシヤマに襲われたとは思えない。
(えーっと……もしかして、俺、眠ったのか?)
 記憶を堀り起こしてみれば、なんとなくそんな記憶がかすかだが残っている。
(じゃあ、アラシヤマはここにわざわざ運んでくれたわけか)
 そうなるど合点がいく。自分の部屋はパスワードがなければ開かないのだから、当然だろう。
(で、この格好は………ぬくもりか)
 伝わってくる暖かさを感じつつシンタローは、苦笑を浮かべた。
 自分が眠れなかった理由を思い出したのだ。
 この格好は、あのパプワ島の時の自分とパプワによく似ている。たぶん、寝ぼけた自分が、やってしまったことなのだろう。
「けど、お前、本当に俺のこと好きなのか?」
 好きな人とこんなにも密着した状態で、よくもまあぐっすり眠るれるものだと呆れてしまう。
 けれど、反対にこの温もりなら眠ってしまっても仕方ない気がする。
 本当に心地いいのだ。
 また眠気も出てくるが、そろそろ起きる時間である。
(久しぶりぐっすり眠れたし、まあ、いいか)
 ようやくシンタローが大きく身動きし、アラシヤマを抱いていた腕を離すと、アラシヤマもそれに気づいたのが身動ぎし、目を開いた。
 ぼんやりした寝起きの視線がシンタローに向けられる。
「おはよう、アラシヤマ。昨日は、悪かったな」 
 とりあえず、そう謝ったシンタローに、だが、アラシヤマは行き成り抱きついてきた。
 完全に寝ぼけている状況だ。
「おいっ」
 だが、引き離そうとするよりも先に、アラシヤマの行動の方が早かった。
「シンタローはん。好きどす」
 
 チュッ!

 抵抗しそこねたシンタローの唇に、アラシヤマのそれが重なった。
「何しやがるっ!」
 だが、それは、即座にシンタローによって引き離された。
 そのままアラシヤマの身体を力いっぱい押し、その勢いでベットの上から転がったアラシヤマは、床にしたたかに頭を打った音が聞こえるが、もちろんシンタローは同情する気はなかった。
「くそぉ。不覚だ…」
 ぶつぶつと文句を吐き出しつつ、先ほど触れられた口元をごしごしと袖でぬぐっていると、ようやく覚醒したのか、アラシヤマが打ちつけた後頭部をさすりながら身を起こしてきた。
「…………アラシヤマ。てめぇ~、よくも」
「へっ? 何ですの」
 怒り収まらず、ベットの上から睨みつけるシンタローに、アラシヤマは、自分の今の状況も理解できぬまま、とりあえず無難な挨拶をした。
「えーっと。あ、シンタローはん、おはようどす。今、朝になったんどすな。………………それじゃあ、さっきのは夢やったんか。シンタローはんとキスする夢」
 最後のは、独り言のようだったが、それは思いっきり蛇足だった。
 その言葉に、シンタローの頬が大きく引き攣った。
「夢…ね。てめえは、一生夢を見てろ。―――眼魔砲っ!!」


 ズドォーン!!

 明朝、幹部の宿舎である建物の一角が吹っ飛ぶこととなった。












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