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 カタリ。
 小さな音を立て、引き出しを開けたシンタローは、そこに無造作に置かれていた装身具を取り出した。
 コロリと手の平の中で転がるのは、小さなサファイアのピアス。
 直径二ミリほどのその丸い宝石がついたそれは、誕生日に叔父のサービスから贈られたものだった。似合うだろうという理由だけで、放り投げるように渡されたそれは、大好きな叔父からの物だというだけで、嬉しく思っていたのだけれど、なかなかそれをつけるための穴を開けるチャンスが見つからずに、そのままにしていた。
 それをしばらく眺めていたシンタローは、決意を込めるように握り締めた。
 手の中で主張する二つの玉。
 二つで一つの装身具。
 シンタローは、思いつめたように、その一つを手にすると、何の用意もなく、それを耳に突き刺した。
  


 じくじくと右耳が痛む。
 その耳には無理やり刺したピアスがはまっていた。
 簡単に消毒はしたけれど、それだけだった。
 それは、衝動的な行為ではない。
 いや、そう言うものもあったのかもしれない。けれど、自分の中に確固たる想いがあって、その想いを形にするために、ピアスをはめた。
 しかし、それは片方だけだ。もう片方は自分の手の中にある。
 片割れのピアスを眺めていると、ドアが開いた。
「シンタローはん。ちょっとええどすか?」
 部屋に入ってきたのはアラシヤマだった。
 事前に彼が来ることをしっていたシンタローは、「入れ」という一言で促した。
 アラシヤマの服装は、ガンマ団本部で着る制服ではない。機能性を重視した戦闘服であった。
 数刻後、アラシヤマは特別に選抜された部隊とともに遠征へと出かけるのである。部隊長に任命されたアラシヤマは、それを報告するために、総帥であるシンタローの部屋まで来たのだ。
 部屋には、シンタローとアラシヤマしかいなかった
 他のものは、シンタローが用事をいいつけ追い出したのだ。
 シンタローは、ピアスを手の内で押し隠すように握りしめ、アラシヤマを呼んだ。
「ちょっとこっちに来い」
「なんですのん?」
 なんのためらいもなく、呼ばれて来たアラシヤマに、シンタローは、その首に手を伸ばし引き寄せた。突然の行為のせいか、あっさりとよろめきながらも傍へとよったアラシヤマの髪をかき上げると、右耳を露にさせる。
「シンタローはん?」
 怪訝な声。
 けれど、それには答えずに、シンタローは、手の中にもっていたピアスをその右耳へ突き刺した。
「痛っ!」
 アラシヤマの身体が跳ねる。
 けれど、それでもかまわず、突き刺したそれを、後方から金具で止めた。
「なっ…」
 アラシヤマの手が動き、痛むだろう耳に添えられた。
 血が流れている。
 その異変を感じたのだろう。何か言おうと口を開ける。
「シン…っ」
 だが、それよりも先にシンタローは、その口を手で押さえつけた。 
「悪ぃ」 
 突然のこの行動に、相手が驚かないはずがない。怒らないはずはない。
 それでも、シンタローは、それを言って欲しくはなかった。
 まだ――――。
 シンタローは、見開かれたままのアラシヤマのその目を覗き込んだ。そして、言葉を吐きだした。
「後でだ………抗議の言葉は、後でゆっくり聞いてやる。怒りの言葉も、責めの言葉も聞いてやる。……だから、帰って来い。ちゃんと、ここに戻って来い。そして、こいつを俺の元に返しに来い。いいなっ」
 願いを込めて、口にする。
(帰って来い)
 その想いを。
 アラシヤマが、今回の遠征内容の他に任務をおっていることを知ったのは偶然だった。
 仮眠をとるために、横になっていると隣の部屋から声が漏れ聞こえてきたのだ。ドアは無用心にも開いたままで、アラシヤマの姿だけはそこから覗けた
 自分がいることを気づかずに、交わされた契約。
 自分が与えた任務よりもさらに過酷なそれ。
 下手をすれば、命さえも落とす―――否、それを遂行するならば、命を落としても当然のような任務だった。
 任務を下したのは、現役を退いたはずのマジックである。
 断ればいいものを引き受けてアラシヤマに内心怒りすら覚えたが、それでも黙認したのは、自分が口出しする部分ではないと思ったからだった。
 マジックも「断ってもかまわない」と告げていた。それでも、選んだのはアラシヤマだった。その任務を受けることを。
 誇らしげに笑みすら浮かべて、それを承諾した。
 ならば、それを取り消すことは、自分にはできなかった。
 それでも、失う気はなかった。
 死すら覚悟した彼をここへと戻ってこさせるために、シンタローは、ピアスを彼の耳に押し付けた。 
 二つで一つの装身具だから。
 欠けてしまえば使えぬものだから。
 返しに来いと無茶なことを告げる。
 戻って来いと暗に告げる。
 それを選ぶかどうかは、アラシヤマしだいだけれど、それでも願いは一つだった。



 
 
(っ~~~~~!!)
 アラシヤマは、突然の痛みに、仰け反った。
 耳たぶが、痛い。いや、痛いというか、じんじんと燃えるような熱さを感じた。
(何してくれはったんや?)
 暴挙とも言うべき行動の後のその痛み。
「なっ…」
 そこに思わず手を添えると、そこにはついさきほどまでは存在していなかった異物が収められていた。
 ありえないそれに、
「シン…っ」
 抗議の声を出そうとしたアラシヤマだが、それよりも早くその口を相手の手のひらでふさがれた。
 もごもごと口を動かすが、声にはならない。
 睨み付けるように相手を見れば、シンタローもまた、苦しげに自分を見上げていた。
「後でだ………抗議の言葉は、後でゆっくり聞いてやる。怒りの言葉も、責めの言葉も聞いてやる。……だから、帰って来い。ちゃんと、ここに戻って来い。そして、こいつを俺の元に返しに来い。いいなっ」
 その言葉に、アラシヤマは息を呑んだ。
 知っていたのだ、シンタローは。自分が課せられた任務は、シンタローから命じられたものだけではなく、元総帥であるマジックから受けた、命すら危ぶむ危険な命が含まれていることを。
 もしかしたら、自分が死ぬ気でいることも見抜いているのかもしれない。
 それでもその任務を引き受けたのは、のちのちの彼のためになるからと判断したためだ。
 彼が進むべき道の過酷なそれの負担を少しでも減らせるのならばと承諾した。
 アラシヤマはシンタローを見た。
 その耳に、血がこびりついているのが見えた。そして、そこに押し込まれたものも。
(わての耳にもあれが?)
 もう一方の耳には、何もつけられていないのだから、そう見るのが正しいだろう。
 二つで一つの装身具。
 それを二人の人間が一つずつつけられた。
(シンタローはん………?)
 それは誤解をしてもいいというものだろうか。
 彼の自分に対する気持ち。
 耳の痛みはまだ、ひいてはいない。
 自分はまだ、何もシンタローには言っていない。
 だが………全ては後からなのだ。
 再び彼と出会えた時に、その思いを告げればいい。
 怒りや責めよりもなによりも、彼に対する自分の想いも。




「覚悟しておきなはれ。わては恨みがましい人でっせ」
「ああ、覚悟しとくよ」
 ニヤリと互いに笑みを交わし会うと、自然と近かった顔が、さらに距離を縮めた。
 ふっと吐息を吐き、吸い込むそれに合わせるように、互いの唇が重なった。














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