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 浮かれたざわめき。
 遠く聞こえるお囃子の音。
 威勢と調子のいい香具師の声。

「おい、次はあれ食べるぞっ!」 
 はしゃいだ声でそう言ったのは、世界に名だたる暗殺集団―――改め、お仕置き軍団をまとめあげるガンマ団総帥のシンタローである。
 だが、今は、彼が、そんな存在であることなど誰もわからないだろう。
 藍色の無地の浴衣を着て、袖をまくりあげて手を振り上げる姿は、どこから見ても無邪気な子供のようなものだった。
 一応名目は護衛として彼の傍にいるアラシヤマは、そんな姿を微笑ましげに眺めていると、早速お目当てのものを買ってきた彼が、嬉しそうな顔で、こちらに戻ってきた。
「見ろ! 上手そうなイカ焼だろ」
 自慢げに見せてくれたのは、ここからでも食欲をくすぐらせるいい匂いをさせていたイカ焼きである。タレの香ばしい香りが、アラシヤマの鼻にも刺激する。
「シンタローはん。食べすぎですわ。お腹壊しまっせ?」
 それでも、アラシヤマに口から出たのは、忠告だった。
 すでに彼は、いくつもの食べ物をその腹の中に収めてるのだ。
 確かに美味しそうなのだが、それで体調を崩されてしまったら、なんのための護衛なのか分からない。
 だが、そう告げるととたんにシンタローは、唇を尖らせ、顔を顰めてた。
「心配すんなよ。これぐらいで、腹壊すかよ。っと……あっ!」
 それでも、すでに手にはたこ焼きにカキ氷をもっているシンタローである。にもかかわらず、さらに買い元めてきたイカ焼きを食べようとしたとたん、バランスを崩して、全てを地面にばら撒きそうになった。
「危ないどすっ」
 だが、その前に、アラシヤマがそれを救出した。
 斜めにずり落ちそうになった、たこ焼きとカキ氷を危ういところでキャッチすると、自分が変わりに持った。
「悪ぃ」
 さすがにばつが悪いのか、申し訳なさそうな顔をこちらの向けたシンタローに、アラシヤマは、ふっと苦笑をし、そうして、危ういバランスの中にいた、たこ焼きとカキ氷を自分の手でしっかりと持った。
「それはかましまへんが、よかったらわてがこのまま持ってまひょうか?」
 アラシヤマの手には、先ほどシンタローが掬ってきたヨーヨーがかかっているだけで、ほとんど手ぶら状態である。そのくらいをもったところで、シンタローのようにこぼしそうな羽目には陥らない。
「そうだな。持っててくれるか? つーか、それ食べていいから」
 すでに、こちらは飽きてしまったのだろうか。こんがり焼けたイカ焼きに嬉しそうにかぶりつき始めたシンタローの顔を苦笑まじりで眺めつつ、アラシヤマは頷いた。
「そうどすな。そんならわても頂きますわ」
「うっし! じゃあ、次は何をすっかな」
 アラシヤマにお荷物を押し付けると、くるりと楽しげに視線をめぐらせる。
 そんな、生き生きとしているシンタローに、アラシヤマは、そっと嬉しげな笑みを浮かべた。
(誘ってみて正解どしたな)
 この祭りに連れてきたのは、アラシヤマだった。
 しかし、それは半ば無理やりのようなものだったのである。
  仕事仕事で詰まっていたシンタローに息抜きだと言い張って、ティラミス達に浴衣を用意させると、強引に祭りにつれてきたのだ。
 最初はどうなることかと心配もしていたのだが、祭り会場にきたとたんこれである。
 計画した本人も驚くほどのはしゃぎっぷりだ。
 聞けば、幼い頃は、このくらいの小さな祭りには、よく両親につれてきてもらっていたらしい。それならば、納得である。
(ああ、祭り万歳どすな)
 シンタローの浴衣姿をみつつ、アラシヤマは、しまりのない笑みを浮かべた。
 露になった二の腕は、崩れかけて除ける鎖骨辺りも普段ならば見られない光景なのだ。
 ここぞとばかりの目の保養である。
「何やってんだ、アラシヤマ。行くぞ」
「あ、まっておくれやす」
 それに、こうやって二人っきりで歩いていれば、デートである。
(シンタローはんとデート!)
 夢のようどす………ほんまに―――夢どすけど。
 アラシヤマは、自分の言葉に、そっと涙をぬぐった。

「あっ、そこにいただべか、シンタロー」
「あー、シンタロー。いいもん食べちょるだっちゃわいや」
(あいつらさえ、いなければ~~~~!!)
 あっという間にシンタローにまとわり付いてきたのは、ミヤギとトットリである。
 この祭りには、彼らも一緒に来たのだ。
 もちろん当初の予定では、二人っきりで祭りにいくつもりだったのである。
 なのに、気づけば邪魔者三人がついてきた。
(んっ? そう言えば、コージはんは)
 もう一人の邪魔者はどうしたのかと思っていると、「うわぁ」とシンタローの悲鳴が聞こえてきた。
「どうしはったんどす!」
 慌てて振り替えれば、そこには半分以下になったイカ焼きを振り回すシンタローの姿があった。
「コージてめぇ、俺のイカ焼き食ったな」
「油断大敵じゃけんのォ、シンタロー」
 もごもごと口を動かしつつ笑みを浮かべるコージに、シンタローは、悔しそうな顔をして、べしっとその額を叩いている。
 どうやら、あのイカ焼きをコージに食べられたようだった。
「ちくしょ。やられたぁ~!」
「いいだべぇな、コージ。シンタロー、オラにも一口くれねぇべか?」
「僕も食べたいっちゃ」
「てめぇら、欲しけりゃ買ってこい!」
 まとわり付く二人に一蹴するシンタロー。
 それは普通の光景であった。
 周りの人達も、年の近い友人達がじゃれあっているようにしか見えないだろう。しかし、それを見ていたアラシヤマのその瞳に奥にぼっと炎が燃えあがった。
(なんやのんあれはっ!!)
 ごく何気ない光景。だが、それはアラシヤマにとっては許されないことであった。
(シンタローはんのイカ焼きを………コージはんが食べるなんて…………シンタローはんと間接キスどすかっ!!! コージの分際で、わてのシンタローはんに、間接キスどすかぁ~~~!!!!!!)
 そう。アラシヤマ視点から見れば、それは紛れもなく、愛しい人が邪魔者に間接キスを奪われた光景であった。
「あんさん、何しとりますのん!」
(わてのシンタローはんにぃ~~~~~~!!)
「どうしたっちゃ? アラシヤマは」
「何怒っとるんだべ?」
 アラシヤマの怒りをまったく理解できてない二人が不思議そうにこちらを見るが、そんなものは無視である。
 怒りの炎は、コージだけに向けられている。
「なんじゃ、アラシヤマ。わしが何かしたんか?」
「何かしたじゃあらしまへんっ!」
(シンタローはんと間接キスやて、そんな………そんな羨ましいことぉ~~~~~~!!!)
 なんのことはない、自分がそれをしたかっただけのことである。
 ちなみに、アラシヤマの手には、まだシンタローの食べかけのたこ焼きだのかき氷だのあるが―――もっともカキ氷は怒りの炎をあげた時点で溶けてしまっていたが―――それが間接キスにつながることは気づいていなかった。
「あんさんは、シンタローはんのイカ焼きを食べはったじゃありまへんかっ!!!」
「それが、どうかしたんか?」
 コージにしてみれば、ただ単に食い意地が張っての行動である。本人に怒られるならまだしも、無関係なはずのアラシヤマに怒られるとは思っても見なかっただろう。理由がわからず、怪訝な表情になるのは当たり前だった。
 だが、そんなことはアラシヤマには関係ない。
「許しまへんっ! ――――平等院…」
「まてまて、アラシヤマ。ほらっ」
 嫉妬の燃え、さらに必殺技まで引っ張り出してきたアラシヤマに、けれど、行き成り口元にイカ焼きが突きつけられた。
「へっ?」
(シンタローはん?)
 何のつもりだろうか。
 つきつけられたそれをじっと眺めていると、シンタローは、はぁとため息を一つつき、仕方なさそうな表情でアラシヤマの口元に、それを押し付けた。
「お前も食べたかったんだろう? これが。んなら、そう言えよ。ここに連れてきてくれたのはお前だからな。それぐらいおごってやる」
「いや、わてはあんさんのイカ焼きが」
(コージはんに食べられたのに怒っていたんやけど……)
「だから、食べかけでよかったらやるって。それとも新しいのがいるのか?」
 引っ込めようとしたそれを慌ててアラシヤマは、止めた。
「それがええどすっ!!」
 シンタローの食べかけだからこそ価値があるのだ。
 すでに、コージに対しての怒りはすっかりと忘れている。
(これで、わてもシンタローはんと間接キスどすっvvv)
 天にも昇る心地とはこのことやろうか…。
 うっとり夢見がちで、それを口にくわえると、シンタローが、それから手を放し、言った。
「んじゃ、やるよ。―――――――コージの奴が、思いっきり食べやがったから、かなり減ったけどな」
 ひくり。
 その瞬間。イカ焼きを口にいれたまま、思いっきり頬が引き攣らせた。
 幸せの絶頂からしゅるしゅると音を立てて降りてくる。
(間接キス……間接キス……コージはんと?)
 確かにその通りである。
 口にくわえたイカ焼きをその前に食いちぎったのは、シンタローではなく、コージだ。
 間接キスの相手が誰だと問われれば、皆、コージだと答えてくれるだろう。
(そんな……………)

「なんでやぁ~~~~~~~!!」   

 その空しい叫びを理解できた者は、残念だから皆無だった。 












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