「ん~っ、眠らせろ、俺は疲れてんだよ」
触れるアラシヤマの手を邪険に払いのけ、柔らかなベットに身を投げ出す。
ポンッと小さく跳ねた身体はそうしてゆっくりとベットに沈む。そのたんに、どろりとした眠気が身体を覆っていく。
今日も激務だった。
朝から時計の晩まで―――それこそ日付が変わるその少し前まで仕事をしていた。
けれど、ようやく眠れるというところで、ちょうどアラシヤマと出会ってしまったのだ。
運が悪いと思ったが、どうしようもない。こちらは、疲れきっているために、ろくに抵抗もできずにいると、図々しくも相手は、一緒に部屋へと入ってきたのである。
「寝ててええどす。わてが勝手にやりますから」
優しげな声でそう言われるが、だが、気持ちよく横たわる上から、アラシヤマが覆いかぶさってくる。
「重たいっ、どけっ」と言う気力もなく、うつぶせ状態のままでいれば、乱れてあらわになったうなじに口付けを落とされた。
「んっ……だぁから」
疲れ切った身体に、とろとろとろと眠気が襲ってくる。睡魔に支配されていく身体。なのに、一方ではざわざわと妙な熱が目覚めてくる。
微妙なところの口付けは、素直に眠りに入るのを妨げる。
さらに、アラシヤマの手も、シンタローの身体に悪戯を仕掛けてくる。
脇腹をなぜ、髪を掬い、決して痛い思いはさせないが、けれど、反対にくすぐったいようなむず痒いような気持ちが強くなる。
「アラシヤマ~~」
やめろ~という言葉は、当然のように無視される。
うなじに口づけられた後は、今度は背中へと下りていた。シャツはめくられ、そこに頭を突っ込むようにして、直接触れられる。
ぴくんと背筋が反るように反応する。
「っ……やだっ、てぇ」
それは気持ちいいというよりもくすぐったくて、身を捩じらせていれば、つぅと背骨を伝うように、上から下に舐められる。
「くっ……んぁ」
先ほどとは違う、ゾクリとする甘い痺れに、思わず身体を震わせる。
それが面白いのか、何度もやられていれば、否応なしに眠気など、逃げていく。
熱は体中に回り始め、吐く息までも、甘い熱がこもる。
「シンタローはんv」
ころあいを見計らい、至近距離で名を呼ばれた。
わざとに違いない、耳元ぎりぎりからの声。
ふっと息を吹きかけられ、ぺろりと耳の形をなぞるように舌が這う。
「ふっ…くっ……ん、なんだよ」
言いようにあしらわれているのが判るから、悔しくて頬にカッと急激に血が上る。
ジロリと相手を睨みつけてみれば、くくっと喉を鳴らして笑われた。
「いいえ。すいまへんでした。お休みなはい」
(なんだとっ?)
その言葉に、驚いて振り返った額に唇を押し付けると、あっさりと離れていくアラシヤマ。
慌てたのは、シンタローの方だった。
「ちょ、ちょっとまて。てめぇ、それで終わりかよ」
慌てて起き上がり、ベットからおりかけていたアラシヤマの腕を掴む。
引き止めれば、相手は振り返り、可笑しそうに笑みを浮かべて言い放った。
「眠いんでっしゃろ?」
おやすみなさい。
何事もなかったかのようにそう告げるアラシヤマに、シンタローは悔しげに眉を寄せた。
完全に相手の思うツボにはまっているのが、わかる。
確かに眠たかった。
ついさっきまでは、瞼を閉じれば10秒後には、眠り込んでいただろう。けれど、今は違う。
「っ! 眠れるわけねえだろ」
「そうどすか?」
飄々と言い放ったアラシヤマをさらにきつく睨んでみせる。
眠気なんてとおに吹き飛んでしまっている。疲れているはずなのに、けれど身体は休みを欲してない。
欲しているのは―――。
「なんででっしゃろねぇ?」
そう言うその目は、弓なりに笑っていて、それがかなりむかついたが、負けているのはこっちだった。
このまま、眠れと言われても、眠れそうにはない。
疼くような熱が中心から渦巻くように溢れてくる。この熱は、ちょっとやそっとでは収まりそうになかった。
かくなる上、そうしてくれた相手に責任をとってもらうしかないだろう。
「てめぇのせいだろうがっ! ちゃんと俺が眠れるようにしやがれっ」
握っていた腕を力の限り引っ張ってやる。
そうすれば、容易くその身体は自身の元に戻ってくる。
当たり前だ。あいつも、口ではそういいつつも、部屋に戻る気はなかったはずである。
「ええんどすか?」
得たりと笑われるのは気に食わない。
相手の策略にまんまとはまったのは酷くムカつく。
それでも、眠りよりも欲しいものを得てしまっては、仕方がない。その後の安眠のために、ここは素直になっておくべきである。
「ああ…俺を眠らせろ」
「おおせのままに」
その言葉を恭しく告げると、アラシヤマはゆっくりと覆いかぶさっていった。
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