こんな日常でいいのかな?
「シ~ンちゃんv」
甘えるような声。
寝そべるようにしていた転がっていたソファーの端が少し凹む。
誰が来たのかは、見なくてもわかる。
そんな声で、自分を呼ぶのは、ただ一人。
「あん?」
だから、雑誌を眺めていた視線をそのままおざなりに返事をすれば、相手は、それが不満であるように、ソファーにかけていた体重をじりじりと移動させてきた。
鬱陶しいという感想は即座に抱くが、それもいつものことだ。慣れとは少し違うが、そのまま放置していれば、当然の権利とばかりに自分の隣にちゃっかりと腰を落ち着かせている。
ここで初めてちらりと視線をあげれば、ナイスミドル大会優勝経験をもつマジックが堅苦しいスーツを崩しながら、こちらを見ていた。
視線がぶつかる。
「あのねv パパ仕事が終わったんだよ」
「そりゃ、お疲れさん」
労わりの言葉は一応与えてやる。
目の前の相手から、総帥の地位を譲られてきた後は、隠居生活―――などさせてはおらず、元総帥という肩書きも有効活用させてもらっているのだ。
それくらいの労いはしてあげられる。
もっともこちらもお疲れ様であることは変わらない、今日一日分の業務を終えたのは、つい一時間ほど前の出来事だ。
再び雑誌に視線を向ければ、すかさずマジックの抗議の声が聞こえてきた。
「冷たいよ、シンちゃん!」
「いつものことだろが」
くすん、を鼻をすすりあげ、涙まで浮べ、器用に泣き真似してくるいい年のオヤジに、冷淡にいい放てば、相手は、出したばかりの涙をひっこめ、
「まあ、そうなんだけどねぇ~。たまには気を変えて、別のことを言ってくれないかなv とか期待するんだけど」
肩をすくめつつ、あっさりと笑顔を作る。
変わり身の早さは追随を許さぬ、といったところか。あれだけは、自分にはまねできない芸当だ。
「無駄なことを」
「だよねぇ。ま、いいけど」
マジックの手が伸びる。横に座っているシンタローの頭に触れると、それを引き寄せるに動かした。
抵抗もせずにぽすっと倒れてきてくれた息子の頭を膝に乗せ、マジックは、黒髪を一束手にとった。そこに口付けを一つ。
いつもの儀式を終え、目を開けるマジックに、シンタローは、真上を見上げる状態で、口を開いた。
「忘れていた。おかえり」
「ただいまv で、これからヤっていい?」
期待に満ちた顔で、尋ねるマジックに、ひくっと頬がひきつるのは、条件反射。
こういうのは、初めてじゃないけれど、それでもいつでも顔は引き攣ってくれる。
だからといって、それが嫌だという態度ではないことは、あちらもお見通しなのだから性質が悪い。
「いいよねv」
すでに確定とばかりに顔を寄せてくる相手の額に手のひらを押し当て、思い切り突っぱねてあげた。
「明日、朝早い」
明日のスケジュール頭に入れて、きっぱりと言い切れば、顔をあげたマジックは、離したばかりの黒髪を、再び手をとり、弄ぶように軽く引っ張った。つまんなそうに、くるくるとその髪を指に巻きつける。
「それじゃあ、一回だけだね」
「ヤるのかよ」
心底うんざりした表情を見せるが、それで相手が諦めてくれるわけがない。
それどころか、キッと表情を引き締め、握りこぶしまで作ってくれる。
「当然! 当たり前だよ。パパはシンちゃんとなら毎晩徹夜でヤっても構わないよ!!」
「俺はかまうわっ! ったく。ほら…」
ぺしっと額を叩き、それから、伸ばした手を相手の首に巻きつけ、引き寄せた。
「本当に、一回だけだからな」
「んv」
吐息のかかる距離で、そう宣言すると、誓うように口付けを交わす。
それでもそれは、神聖なる誓いのキスとは程遠い濃厚なもので、
「ふっ……ぁ」
銀の糸を引きながら離れるころには、すっかり息があがっていたりする。
「気持ちいい?」
「ん………けど、ヤるならベッドだからな」
「了解v」
高まる熱を落ち着かせるように深呼吸して、寝そべっていた半身を起こし、立ち上がれば、相手が、すかさずその隣をキープして、エスコートするように手を回す。
準備万全、いざ出発。
「じゃあ、行こうか♪」
今日も親父で恋人な相手とともに、いつもの所へ。
だって好きなんだからいいじゃないかっ!
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