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kk



 視界が開ける。
 飛空艦の入り口の前でシンタローは、立ち止まった。
 見上げた上空は、眩しいほどの青空が広がっている。
 ゴォーと風が吹き抜け、長い髪が絡まるように背後になびいた。
「あー、ようやくついたな」
 暴れる髪を押さえつけながら、シンタローは、目にさす光に瞳を細める。
 広さと快適さを誇る総帥専用の飛空艦内に今までいたとはいえ、長時間も乗っていれば、肩も凝るし、息が詰まる感じがする。
 やはり外は気持ちがよかった。
 その開放感に浸りつつ、深呼吸をする。
 異国の匂い。
 もう数え切れないほどの国に足を踏み入れたシンタローだが、初めて嗅ぐその国独特得の匂いは、いつだって新鮮であり刺激的でもあり、気分が高揚する。
(よし、行くか!)
 そう決意を込めたのと同時に背後から声がかけられた。
「おい。そろそろ時間だぞ」
「ああ、わかってるよ」
 振り返れば、照りつける太陽に鬱陶しいほど煌く金髪が目につく。
 キンタローだ。
「今、降りるところだよ」
 キンタローが急かすのもわかる。  
 自分には、それほど悠長にできる時間はないのだ。
 このC国への滞在も、依頼主であるこの国の国防長官に会って、依頼を受ければ、それでとんぼ返りである。
 シンタローは、タラップに足を踏み出した。
 カンカンカン。
 自分のたてる足音。
 カンカンカン。
 その背後に同じような足音がする。だが、その音を耳にしたとたん、
 くるり。
 シンタローは、振り返った。
「なんだ?」
 それに驚いたように眉をあげたのは、キンタローである。
 当然のように、シンタローの背後に立っていたキンタローに、けれど、シンタローは、彼に向かってひらひらと手を振った。
「お前は、ついてこなくていい」
「どうしてだ?」
 きっぱりと言い放ったシンタローの言葉に、キンタローは怪訝に首を傾げる。
 それも当然である。
 シンタローが遠征や各国に出張する時には、常に傍らにいたのだ。
 最初の方は、嫌がっていたシンタローもここ最近では、慣れてきたようで、それを容認している感じだった。にもかかわらず、行き成りコレである。
 理由を求めるキンタローに、シンタローは、一瞬言葉を詰まらせ、けれどため息混じりに吐き出した。
「……はぁ。それはだなぁ、お前が、いらんことを言うからだろうが」
 先日のことを思い出し、シンタローは、苦い表情を浮かべた。
 あの時を思い出すと、恥ずかしいやらいたたまれないやらで、心中大騒ぎである。
「いつ、俺がいらぬことを口にした?」
 だが、本人は、まったく気づいていないようであった。
 キンタローだから、仕方ない。
 納得するが、だからと言って許すわけでもない。
 はっきりいってこの間のようなことは二度と起きて欲しくないのだ。
 ぐるりと身体ごと振り返ったシンタローは、キンタローの鼻先に指をつきつけた。
「この間のG国でだよ! お前、あの時何を言ったかわかってるのか?」
「何かまずいことでも言ったか?」
「言ったんだよ!」
 

 あれは、一昨日のことだ。
 G国に根強く残る強大なテロリストへのお仕置きを依頼されたガンマ団は、国からの要望ということで直々に総帥であるシンタローが出ることになった。
 そこまではいい。 
 あっさりと制圧し、彼らの基地を完膚なく叩き潰し、それはあっという間に終わった。
 しかし、それが起ったのは、報告と報酬を受け取るために、G国の首相と対面している時だった。  
「いやぁ。素晴しい手腕ですな。お若いのに、これだけの実力があるとは羨ましい」
「いえ、そんなことはありませんよ」
 首相の言葉に、にっこりと外向きの面で笑みを浮かべて見せるぐらいは、すでに慣れである。
「さすがは、ガンマ団総帥ですな。しかし、聞いたところではまだ独身だとか。その若さで、そのルックスですし、お嫁に来たいという女性は多いのではないですか?」
「そんなことないですよ」
 同じようににこやかに当たり障りのない言葉で、シンタローが返したまではよかった。
 だが、その後である。
「ああ。それよりも『嫁にしたい』という奴らの方が多いな」
 キンタローがもらした言葉に、場は一気に硬直してくれたのだった。
 

「………何かおかしなこと言ったか? 事実だろう」
「ああ、そうだな」
 それがどこが変なのかと怪訝なキンタローに、どことなく遠くに視線を向けたシンタローは、ふっとため息まじりの息を吐く。
 ガンマ団総帥シンタローを『嫁にしたい』。
 そんなおぞましいことは、実のところガンマ団内部で、ひそやかに、けれど確実に囁かれていることだった。
 とはいえ、それもこれもシンタロー自身のせいだと言ってもいい。
 総帥として、ガンマ団に再び戻ってきたシンタローだが、ことあることに気晴らしだと手料理を作っては、幹部連中にふるまったり、あげくのはては、いい気分転換になるからと、定期的にやってくる清掃会社のおばちゃん連中と混じって、床や窓磨きに精を出していたりするのである。 
 パプワ島でしっかりみっちり染み付いてしまった癖が全然取れてなかったのだ。
 しかし、はたから見ているものにとっては、ただの料理好きでお掃除上手の人間しか見えない。
 男が圧倒的に多い、むさ苦しい中にいれば、『嫁にしたい』などと囁かれても当然である。
(それは確かにそうかもしれない………そうかもしれないが)
 だからといって、あの場であの発言はないだろ。
 あの発言の後、自分がどれだけ青くなり、焦ったりしたことか。
 それでも、なんとかあの後誤魔化したからいいものを、うっかり国際級に、妙な……男にとってはおぞましいとしか思えない噂をたてられてはたまらない。
「お前は、場の空気が読めてねぇ! 勉強しなおして来いっ」
 キンタローは、まだこの世界へと生み出されて一年を経過したばかりだ。
 絶対的に経験値が足りないキンタローには、人の機微など察しろというのは、確かに難しいかもしれないが、それならば、それを身につけるまでは傍にはいさせられない。シンタローとて、そうそうフォローできるほどには、まだ経験値は足りてないのだ。 
 故に、今回はついてこなくていい宣言をしたのだが、当の本人は、気楽なものだった。
「それならば、しゃべらなければ、言いだけだろう?」
「んなこと、言ってもああ言うのは、ポロッと出てくるもんなの。別に今回のは、危険もないし、お前がついてこなくても大丈夫だよ」
 しっしっと追い払う仕草をするが、キンタローの表情は変わらない。
 それどころか、再びタラップを降りだしたシンタローの後ろから、しっかりとついてきていた。
「だが、お前の傍にいると決めたからな。それは無理だな」
「俺の許可なしで、決めるなっ!」
 カンカンカン。
 しっかりと二人分の靴音。
「仕方ないだろう。お前は危なっかしい」
 その言葉に、ぐるりと首だけをシンタローは後ろに向けた。
「お前に言われたくは―――っ!」
 その瞬間、シンタローの身体滑るように下降した。
 足元が不安定に宙を蹴り、視線が空を映す。
(やべっ、落ちるっ!!)
 どっと汗が噴出す。
 だが、ガクンとそれは途中で止まった。
「大丈夫か?」
「あっ……ああ」
 それを止めたのは、キンタローだった。
 シンタローの二の腕をしっかりと握りしめて、滑り落ちるのを止めてくれたのである。
「で、誰が危なっかしいって?」
 その言葉に、シンタローは、苦い表情を浮かべた。
 しっかりと覚えていたのだ、先ほどの言葉を。
 だが、思い切り足を踏み外してしまった今となっては、それほど大きなことはいえない。
「………まあ、俺かもしれないな」
「そのようだな」 
 くつくつと背後で笑われるのがむかつくが、未だに自分は、彼の手にすくわれている状況だった。
「余計なことしゃべんなよ」
 ようやく体勢を立て直し、キンタローの手が腕からはずれると、ふんと鼻をならし、むくれるように軽く唇を尖らせる。とはいえ、それは照れ隠しにもなっていなかった。
 まだ、キンタローの笑いは苛立つことに続いている。そうして、彼は、ぽんとシンタローの肩に手を置いた。
「ああ。そうだな、しゃべりそうになったら、お前が口をふさいでくれればいい」
「あぁ?」
 何を言っているのだ?
 と、つい首を回せば、段差のために、上から首を折り曲げるように、キンタローの頭が前触れもなく、ふってきた。
 そうしてぴたりと重なる唇と唇。
 言おうとした言葉は、しっかりとキンタローのそれにふさがれしまっていた。
「てっ……めぇ」
 唇が離れる。
 キンタローは、ニヤリと笑みを浮かべ、当然のように言い放った。
「こんな風にすればいい」
 ぼっ、と即座に真っ赤になったシンタローは、その上気した顔で、眉を吊り上げ、大声を上げた。

「できるかぁああっ!!!」

 至極まともなその言動だが、相手に通じたかどうかは、謎である。
 
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