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kk



 目を覚ます。
 だが、瞼を開いたそこに広がるのは一片の光もない闇だった。
 漆黒に覆われた視界に、キンタローは、ぎくりと身体を震わした。けれど、すぐに原因に気づく。
「……………お前の髪か」
 自分の視界を覆っていたのは、隣に眠る人物の黒髪であった。
 眉宇をしかめると、べっとりと瞼の上に覆いかぶさるようにして掛かっていたそれを丁重に横へと流す。
 そうすることで、やっと光が灯らぬ部屋の中とはいえ、視界が広がった。
「驚かせるな」
 声に出せば、相手が目覚める可能性もあるから、出てきた文句は口内でごちる。
 もっとも昨晩――――というよりもまだ数時間前でしかないのだが、久しぶりということもあり、相手に相当無理をさせてしまったので、ちょっとやそっとのことでは、目を覚ますこともないとは思うが、それでも、もしものことを考えて、動作は慎重になった。
 ゆっくりと身を起こすと、無意識に詰めていた息をふっと吐き出した。
 薄暗い視界に、緊張していたようだった。
 暗闇は、実のところ好きではない。
 こうして、少しながらでも周りが見えるぐらいならば、それでも我慢はできるが、何も見えない真の暗闇は、今も苦手だった。
 押入れの中が怖くて泣く子供ではないが、それでもそれに近い恐怖心がある。
 キンタローにとっては、24年間、押入れの中に押し込められているような状態であったためだ。
 光の差さぬ暗闇の中、存在していたのである。
 それが、しっかりと今でもトラウマになっているらしい。
 くしゃりと髪をかき上げ、キンタローは、しっかりと目を見開く。
 見慣れた部屋がモノトーンの世界のように映し出されている。
 夜の闇がひっそりと部屋に沈滞しているが、ここは、何もなかったあの世界ではない。
 自分は、ここにいる。確かに在る。
 そして――――。
「お前に触れることもできる…」
 ゆっくりと身体を横へと傾けると、ぐっすりと眠り込む従兄弟の髪に触れた。
 その髪は、嫌いな漆黒の色に染め上げられている。
 けれど、これだけは………この髪と今は閉じて覗くことのできぬ瞳は別だった。
 否、別格といった方がいい。
 それは、自分にとって、光と同等の位置を占めているといってもよかった。
 24年間、自分は彼の中にいた。
 今は、自分の身体となっていたが、以前は彼がこの身体を支配していたのだ。
 自分は、その中に閉じ込められていた。
 深い深い暗闇の奥。
 彼が学び見ることは、自分もまた同じように吸収することはできるけれど、けれど、自分の自由は、深い闇に捕らわれたままだった。
 それはまるで、柔らかい膜に包まれているようで、なのにどれほど破ろうと試みてみても、強固な殻のように敗れることは不可能だった。
 外に触れることはできなかった。
 どれほど望んでも、自分は彼には触れられなかったのだ。
 内側にいるものは、どれほど願っても決して外側に触れることはできない。
 そんなジレンマの中に自分はいた。
 もちろん憎しみもあった。
 途方もないほどの怒りもあった。
 理不尽をしいられるこの状況に、常に苛立ちと憤りを感じていた。
 それでも、自分は見ていたのだ。
 彼の生き様を。
 歯を食いしばり、前を見て、傷つきながらも歩んでいく彼の姿を。
 そして優しさから零れる涙さえも。
「殺さなくてよかった」
 そう思える自分が、おかしかった。
 自分の体を取り戻すことで、一度は、シンタローをこの肉体から追い出し、殺したのだ。
 けれど、それでもシンタローは生きていた。
 そして、あの島で、再びシンタローは体を手に入れ、自分の前に姿を現した。
 そして再び、自分は彼を殺そうとしたのだ。
 あの時は、本気だった。
 今までつもりに積もっていた負の感情が一気に爆発したためだ。
 ―――――けれど、殺せなかった。
 本気で挑んだはずなのに、彼を殺すことは叶わなかった。
 なぜだか、今もわからない。
 彼が強かったからかもしれない。それもあるだろう。
 けれど――――自分の中の何かが、彼を殺すことを躊躇ったのかもしれないと、今は思う。
 もっとも、そんなことはもうどうでもいいことだ。
 自分には、彼を殺す気は、もうない。殺意など、もう二度と生まれることはない。
 誰よりも何よりも大事な存在だと、気づいてしまったのだから。
 彼は殺さない。
 そして、誰にも彼を殺させは――――傷つけさせはしない。
 それが、自分の中で決めた誓約。
 誰にも―――――シンタロー自身でさえも、その誓約を消すことはできない。
 それが、彼を殺さないと決めた時に、誓った約束。
「ん……キンタロー?」
 薄い暗闇の中で、宙を睨みつつ、少しばかり自身の中に入り込んでいれば、かすれた声が、耳朶を打った。
 どうやら、相手が目覚めてしまったらしい。
 下を向くと、うっすらと瞼を持ち上げ、こちらを見ているシンタローと視線が合う。自分が起きているのに少しばかり驚いているようだった。キンタローは、彼になんでもないというように笑いかえると、その額に手を伸ばした。梳くように額を撫でる。
「まだ寝てろ。時間じゃない」
 キンタローに触れられ、気持ちよさそうに目を閉じるシンタローは、けれど唇を開く。
「ああ…うん。でも、お前は?」
「ちょっと目が覚めただけだ。俺も寝る」
「んっ、わかった」
 その言葉に安心したか、眠たげに欠伸を一つすると、再び目を閉じてくれた。
 安心しきった顔をして傍らで眠りにつく愛しい存在に、キンタローの口元に笑みが灯る。
 彼が、こういうふうに眠りにつくのは、自分の隣だけである。
 今は、という言葉がつくが、一生誰にも、この場所は譲る気はなかった。
 どれほどの犠牲が払われようとも、誰にも渡せられない場所である。
 そして自分は、ここで彼を守るのだ。
 柔らかい膜で彼を包み込み、強固な殻で全てのものからも守りぬく。
 それが、自分の中の誓約である。
 揺ぎ無い想い。
 ふっと視線を細め、自分の中の恐怖と立ち向かうように、部屋の隅に凝っていた闇を睨みつけると、ベッドを軽く揺らし、その横に滑りこんだ。
「おやすみ、シンタロー」
 そうして、その身体を闇から守るように抱きこむとキンタローは、再び眠りについた。
 
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