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 うろこ雲が流れる秋空に手をかざす。いつのまにか遠くにいってしまった空は、濃さが薄れたのと同時に透明感がました。肌に触れる風が冷たさを帯びだしたのはいつからだろうか。気がつけば乾いた秋風が髪を梳いて過ぎ去っていた。
「アラシヤマ」
 その名が口から零れた瞬間、シンタローは顔を顰めた。困惑をも含むのは、彼の名を呼ぶつもりはなかったせいだ。
 朝からのデスクワーク続きに、少々嫌気もさしてきて、息抜きのつもりで外へ出てみれば、目の前に丁度彼がいた。こちらに気付いていないのか、少し先を歩くその後ろ姿を目にしたのと同時に、自分の口は開き、彼の名前を呼んでいた。とりたてて用事はなかったというのに。
 もちろん気安い――とはいわないまでも、親しげな会話をするぐらいの仲だ。姿を見かけたから、声をかけたというのもおかしな話ではない。それでも、彼の名を呼んだ刹那、後悔していた。言いようのない胸のざわつきを奥の感じたせいだ。それは今も続いている。
(なんだ…これ?)
 最近頻繁に感じるこれに、シンタローも戸惑ってしまう。けれど、戸惑うだけで、理由は分からないままだった。
 名前を呼ばれた相手がゆっくりと振り返る。激務のおかげで久しぶりに見るその顔。その瞳が、こちらを見止めた瞬間―――その眉間に皺が寄った。それは一瞬のことで、見間違いかと思ったが、それでも、勘がそうではないと告げた。
 疎まれた……。
 頭の中によぎったのはそんな言葉。
 ただ声をかけただけだ。
 確かに、声をかけたことで、何かの邪魔をしてしまったということはありえる。けれど、見た限りでは、ただ散歩しているようにしか見えなかった。それでも、そんな表情を浮かべたというのならば、原因は、ただひとつ―――自分が声をかけたせいだということ。
(なんだよ…それ)
 そんな顔をされるほど、自分がアラシヤマに疎まれているとは思っていなかった。
 とたんに胸のうちでムカムカとした気持ちが沸きあがってくる。苛立ちというものだろうか、瞳がかすかに険しさを帯びる。しかし、気持ちを全て出し切ることはできなかった。
 目の前には、振り返ったアラシヤマがいる。その彼が浮かべた、僅かな表情だけで気分を害したことなど、気付かれたくなかった。
 だから――。
「何か用どすか? シンタローはん」
 と、当然の問いかけをされると、
「悪ぃ。姿見えたから、ちょっと声をかけただけだ」
 と、当たり障りのない言葉をそっけなく返した。彼の存在など、こちらは気にしてはいないという態度を貫く。
 けれど、そのとたん、相手からふっともらされたのは笑みで、またもやこちらの想像範疇外のことだった。
(なんだよ…あれ)
 その笑みがひどく気にかかる。
 相手が何を考えているのかわからなかった。もしかしたら、それは他愛のないことで、こちらが気にする必要のないことなのかもしれないのだろう。それでも……。
(何かおかしいことでもあったか?)
 それを気にしてしまう。
 そう言えば――と、思う。いつのころからか、自分は目の前の彼に対して、その言動や様子を気にし出していた。それは、おそらく士官学校よりもずっと彼が近づいてきて、何よりも、彼の存在が、今のガンマ団にとってなくてもならない大切な団員になったせいだろう。だから、気になってしまうのだ。それが理由……たぶん…きっと…そう――。
 今も彼から目が離せない。
 もう彼には用事はない。最初に声をかけたのだって、はずみのようなもの。理由はなかった。
 もしかしたら……最近の自分は、少しおかしいのかもしれない。彼に対してだけ……ほんの少しだけ…そう思う。
 おそらく…それは何か理由があって、それはやはり大したことでもなくて、分かってしまえば、すぐに納得して、終わってしまうことなのだろうに……今はまだ、分からない。謎のまま。
「そうどすか。ほな、わては、行くところありますよって、失礼させてもらいますえ」
「ああ」
 確かに、理由がないまま呼び止めてしまったのだから、これ以上彼を拘束はできない。その言葉に、一抹の寂しさを感じた事実を、慌てて消し去って、立ち去るアラシヤマに視線を向ける。
 再び踵を返し、背中を見せるその姿すらも自分は凝視していた。ゆっくり立ち去るその姿。
 ギクッ!?
「なッ!」
 なのに、前触れもなく、アラシヤマが振り返った。
 それはわずか一秒足らずのこと。けれどそこには、まるで獲物を手にする瞬間の肉食動物のような笑みがあった。
 まるで、こちらの考えを全て読み取り、そしてその理由さえも分かっているかのような、そんな含みのある笑み。ただ、それだけを見せ、声なくままに、その姿は元へと戻り、その背はさらに小さくなった。
「なんだよ………なんだよ…あれは」
 その姿が完全に消えてから、ぼやいてみても、何も変わらない。
 胸のざわつきは収まらない。
 そうして、未だわからない…その理由。
 騒ぎ立てる胸を押さえつけ、小さく嘆息する。
「きっと………」
 いつかそれは分かるのだろう……そんな気がする。だが、おそらくそれが分かった時点で、自分の中の何かが変わるだろうことも予測ついて、秋晴れの空を眺め、そっと顔を顰めた。


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