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「……ひ、久しぶりやから、緊張しはりますなあ」
 アラシヤマは、目の前に立ちふさがる扉を見上げつつ、ドキドキと高鳴る胸を押さえた。 
 この扉の向こうには、愛しい人がいるのである。
 だが、その愛しい人と会うのは、実に一ヶ月ぶりだった。
 アラシヤマは、胸に押し当てていた手を目の前で絡めるように組み合わせ、ぎゅっと祈りを捧げるポーズをとる。そして、感慨ぶかげに目を閉じた。
「長かったどす……ほんまに、シンタローはんのためだとわかりはってても、こんなに長く離れ離れになるなんて……ああ、思いだしただけでまた涙が」
 閉じた目から、ほろほろと涙がこぼれる。それを指先でそっとぬぐった。
 アラシヤマにとって、これまでの一ヶ月間は、辛い辛いものでしかなかった。
「次の任務は、まだ決まってないようですし、今回は、長くここにおれたらよろしいどすが…」
 もうここ一年以上、ゆっくりと愛しい人と過ごした記憶が、アラシヤマにはない。
 なぜだか知らないが、常に、辺境のしかもお仕置きなどと甘ったるいことが通用しなさそうな激戦区ばかりに送られるアラシヤマにとって、愛しい人と会う時間は極端に短かったのである。
 一応長期任務を終えると、同時に長期休暇も与えてもらえてはいるのだが、その半分以上が、過酷な任務で負ってしまった怪我の治療に使われるのである。そうして、ようやく治ったと思ったら、また、飛ばさるという繰り返し。
 だが、今回の任務は、調査ミスだったのか、事前に与えられていた資料よりもずっと簡単に事が運び、さらに、ほとんど無傷で帰還できた。
 そのため、任務結果の報告と称して、真っ先に愛しい人に会うために、ここにきたのである。
「ふふふっ。でも、シンタローはんに頼られるというのも辛うおますなあ」
 毎回遠くに飛ばされるたびに、泣きながら別れを惜しむアラシヤマだが、それでも、こうして任務を遂行してくるのは、愛しい人に、「お前しか出来ない任務なんだ。頼む」と直接頼まれるからだ。
 そこまで言われれば、男アラシヤマ。「まかせなはれっ」といわないわけにはいかないだろう。
 実際、毎回毎回そう言って旅立っているのだ。
「今回も、ちょっとばかり死にそうな目にあわはったけど、無事に、あんさんのために、わて帰ってきましたえ」
 そう言うと、ようやくアラシヤマは、決意を決めたように、扉の横に設置されているインターホンを押した。
 総帥室へ入るドアは、常に厳重にロックされており、中に入るにはシンタローに開けてもらわなければいけないのだ。
(ああ、ドキドキどす)
 久しぶりのせいか舞い上がってしまっている自分を抑えられずにいるアラシヤマに、その声は聞こえてきた。
『誰だ?』
(シンタローはんの声!!)
 それは紛れもなく、アラシヤマにとって誰よりも何よりも大切で愛しい人の声だった。
 感激で喉が詰まる。
『あん? 悪戯か』
 沈黙が10秒も続けば向こう側から不機嫌そうな声が聞こえてくる。
(はっ! わてときたら)
 感激に浸りすぎである。
 久しぶりの愛しいお方の声の余韻に浸ってしまったアラシヤマだが、ようやく口を動かした。 
 だが、あまりの感激のあまりに、そこから零れた言葉は、まことに正直な言葉だった。 
「わ、わてどすっ。アラシヤマどす。シンタローはん愛してますぅぅぅ!」

 プツゥ―。

「はうっ…ちょ、ちょっとまってくれなはれ。シンタローはん。シンタローはん!」
 行き成り、勢いに乗って愛の告白をしてしまったアラシヤマに、無情にも通話が切れる。
 慌てて、何度もボタンを押せば、たっぷり数分後。不機嫌そうな声が返ってきた。
『あのなあ。お前、誰がいるかもわからないところで、そんな馬鹿なこと言うなよ』
「すんまへん。すんまへん。もういいまへんから、ここを開けてくれはりませんか」
 まだ、姿も見てないのに、ここで帰ることなど、出来るはずがない。
 涙声で必至に懇願すると、大きな溜息が一つ聞こえてきた。
「入れよ」
 シュンと、軽い機械音がして、扉が左右に開く。その奥には、重厚感漂う執務机があり、そこには一人の青年が座っていた。
「シンタローはん!」
 その姿を見たとたん、アラシヤマは飛びつくように中へ入っていった。
「眼魔砲」
 ドゴォン!
 だが、同時に凄まじい熱球がこちらに向けられ、アラシヤマはとっさに床に伏せた。
 部屋がビリビリと震える。
 床に伏せたままのアラシヤマは、そっと背後を振り返り、頬を引き攣らせた。
 壁の一部が、一メートルほどの半径をもって赤くなっている。
 確か、総帥室は、眼魔砲でも耐えられるほどの強度をもっている、ということをきいたことがある。その言葉どおり壁には穴はあいてはいない。しかし、高熱を帯、赤くなっているのである。
 これが、人に当たったことを想像すれば、ぞっとする。
「な、何しますの、シンタローはん」
「黙れ。あやしい奴が飛びかかろうとすれば、攻撃するのは当たり前だろうが」
 冷徹な表情で、そういい切られたアラシヤマは、がばりと起き上がり、抗議の声を出した。
「あやしい奴やて……そ、そんな。わてはあんさんの恋……ひっ!」
 ドゴォン!
 タメなしで放たれた眼魔砲をもう一度間一髪で再び床に倒れ、避ける。
「避けるな。俺が疲れるだろうが」
「そんなん言うても、避けな、わてが死にますやろ?」
 立ち上がるのもまずいと見たのか、匍匐前進で前に進みだすアラシヤマに、シンタローは椅子に座りなおした。
「で、用件は?」
 ギシッと椅子をきしませ、背もたれに身体を預けたシンタローは、両腕をからませ、匍匐前進中のアラシヤマに視線を向けた。
「えっ……えーっと、報告書をもってきたんどす」
 その冷ややかな視線に、アラシヤマは、慌てて立ち上がり、取り繕うように服をはたくと、シンタローの目の前に、ようやくもっていた報告書を置いた。
「ああ、ご苦労さん。今回は、お前がもってきてくれたんだな」
 片眉をもちあげ、意外そうな顔を見せたシンタローに、アラシヤマは、嬉しそうに顔をほころばした。
(やっぱり生のシンタローさんはええどすなあ。相変わらず可愛ええどすっ!)
 口にすれば、速攻でぶん殴られそうな言葉は、もちろん懸命に心の中で叫ぶだけで留めた。
「そうどす。今回の任務は、結構楽に終わったんどすよ。久しぶりにほとんど無傷でしたし」
「ふーん」
 アラシヤマの言葉をききながら、シンタローは報告書をめくる。
 そこにびっしりと書き込まれている情報に目を走らせる。
「本当に、運がよかったどす。あそこで、ジュディちゃんがおらへんかったら、また、大怪我負うところどしたわ」 
 ぴくん。
 アラシヤマの会話から固有名詞が出たとたん、シンタローは、ぴたりと視線を止めた。
「ジュディちゃん? 誰だ、それ。俺は聞いてないぞ。そんな奴がいたなんて」
 それでも、視線は紙面に向けられたままである。
「はあ。そりゃあ、ガンマ団のお方では、ないどすからな」
「………ほおう」
 ちらりと視線を向ければ、アラシヤマは、どこか遠くを見るような視線で、両手を組み合わせた。
「ジュディちゃんがいてくだはったから、わては命を救われたんどすえ。まさに、命の恩人。ええ方どすわ」
 うるうると遠い彼方にいるジュディちゃんを思い、感謝の涙で瞳を濡らすアラシヤマに、シンタローは頬を引き攣らせつつも、さりげなく書類に視線を向ける。が、すぐに耐え切れないように、顔をあげ、言い放った。
「へぇ~…………………………で、誰だよ」
「はっ? なんどすか?」
 とぼけた顔で問い返され、ぴきぴきと額の血管が引き攣るような音がする。
「……………………だから、そのジュディって奴だよ!」
「ああ。アゴヒゲトカゲのジュディちゃんのことでっか?」
「あっアゴヒゲトカゲだぁ…?」
 思っても見なかった言葉に、がくんとシンタローの顎が下がる。
 だが、それには気づかずに、アラシヤマは嬉しそうな顔で答えてくれた。
「そうどす。名前の通り喉あたりにあるアゴヒゲおような襞が特徴的な可愛いトカゲですわ。それが、丁度わての足元を通りすぎようとしはって、慌てて避けたところに敵の砲弾が飛んできたんどす。間一髪でしたわ」
「……………アホらしい」
「何言うとりまんの! ジュディちゃんがいなかったら、わては死んでたかもしれへんどすんやで。これを見なはれ。間一髪で、避けた時についた傷どす。ジュディちゃんのおかげどうすわ。ふふっ。やっぱりもつべきものは友どすなぁ」
 身体を傾け右腕を見せ付けるアラシヤマに、視線を向けたシンタローは、ケッと言い放った。
「それはよかったな。一生ジュディちゃんとやらと友達ごっこしてればいいだろう。つーか、そいつと恋人にでもなってこい」
「そんなことできるはずないでっしゃろ!」
 とんでもないことである。
 友達はたくさん欲しいが、恋人は一人で十分だ。ただ、一人。
「わての恋人は、あんさん一人どす」
 目の前に存在する彼がいればいい。
 アラシヤマは、机の横を通りぬけシンタローの傍に立つと、相手の顔に手で触れた。
「………何してる?」
 そのまま触れた手をすべられ、顎を掴んだ相手にシンタローは問いかける。ふっと目元を和らげたアラシヤマは、シンタローへと引き寄せられるように顔を寄せた。
「久々でっしゃろ? キスしまひょ♪」
 15センチの距離での会話。
 楽しげに顔を綻ばせ、そう告げるアラシヤマに、シンタローは、眼光鋭く相手をにらみつけたあと、手にもっていた書類を自分とアラシヤマの前にあった空間に割り込ませた。
「俺は仕事中だ。忘れたわけじゃないだろうが。仕事中は、こういうことは一切やらないという約束事を」
 もちろん忘れたわけではない。
 アラシヤマだってその約束は覚えている。
 だが、久々なのだ。
 一ヶ月間、彼と触れてないのである。
 書類でふさがれた視界を、手でやんわりとどける。
「せやけど、キスぐらいええでっしゃろ。あんさんは、わてのこと嫌いでっか?」
 そう告げて、相手を覗き込めば、
「約束を守らねぇ奴は嫌いだ」
 顎をつかまれたままのために、顔をそらせないが、それでも唇を尖らせ、視線を撥ね退ける。
 相手の頑固さは知っているが、こういう時に融通がきかせてくれないのは、寂しいものである。
 だが、そこで引き下がるほど、アラシヤマも物分りのいい人間ではなかった。むしろ、このままでは終わらせない勢いである。
「それなら、たった今から、休憩時間としまひょ。それならええでっしゃろ? シンタローはん」
「できないっ」
 きっぱりと拒絶する相手に、にーっこり笑みを浮かべるとアラシヤマは相手の頬をかすめるように顔を掠めると近づいた耳元に囁いた。
「愛してますえ、シンタローはん」
「っ! ……何をいって」
 一気に耳元が真っ赤に染め上げられる。
 アラシヤマは、相手がこちらを見る余裕がないのを知っていて、にまぁとしまりのない笑顔を浮かべた。
 何度も告げているにもかかわらず、こうして変わらずに初心な反応をしてくれる恋人が愛しくてたまらない。
「キスしまひょv」
 耳元ギリギリで吐息とともに囁きいれる。
 ふるりと相手の身体が震えるのがわかる。
「だから……んなこと」
 声に躊躇いが生まれてきた。もう一押しである。
「キスだけどすえ。それ以外はしまへんから。ええやろ?」
「……………」
「シンタローはん」
 相手が弱い、低く響く声音で名を呟けば、観念したように、溜息を一つついた。
「…………キスだけだからな。しかも一度だけだっ!」
「もちろん。きちんと約束は守りますわ」
 ようやく許可をもらったアラシヤマは、もう一度「愛してます」と呟くと相手に口付けを落とした。


(結局いつも流されてるよなぁ)
 なんだかんだいいつつ、最後にはアラシヤマに口付けの許可を与えてしまっていた。
 それでも、それを嫌って抵抗していたわけではない。
 自分とて、久々にアラシヤマに会えたことに喜んでいるのでる。
 恋人なのだ。
 自分だっていつでも彼に会いたいと思っている。もっと傍にいて欲しいし、こうして彼を感じていたいのだ。
 それでも、決めた自分の道を貫くためには、それもままならい。その上、なまじ実力があるために、常にアラシヤマを危険区域に送り出さなければいけないのだ。
 怪我をして帰ってくるたびに、胸を痛ませているのだけは、相手には悟られないようにしているが、どうせ、妙に気のつく男である。そんな自分の思いなど、たぶんわかっているのだろう。
 一度たりとも、仕事を断ったことはない。
「んっ」
 唇が交わる。それだけで終わるかと期待してみたが、それはあっさりと裏切られた。
 唇を舌で撫でられる。それは、口を開けという合図だ。一瞬拒絶しようかと思ったが、それでも久々のそれである。受け入れるように口を開けば、水を得た魚のごとく、素早く侵入し、口内を犯すように動き回りはじめた。
「ふっ……んく」
 くちゅりと卑猥な音が耳に入り込む。
 そのとたん、じんと背中に走る甘い痺れに、シンタローは、くらくらと眩暈がしそうになった。久しぶりのそれに、あっさりと流されていく自分がわかる。
(まずい……)
 抵抗できないまま、身体の熱が徐々に高まっていく。早く口付けが終われと祈るのに、一度だけ、と言ったのが悪かったのか、それは長すぎる。時折息継ぎに唇がずらされることはあるが、決して離れはしなかった。離れてしまえば、キス1回が終わるからだ。
「ぅん…ぁ……んん」
 どこで学んだのだか、アラシヤマはキスが上手い。いつだってこちらが翻弄されるのである。
 柔らかな舌が、凶暴さを露にし口内を侵す。キスだけでこんなに敏感に反応する自分は、どこかおかしいのだろうか、と焦ってしまうほど、どくどくと体中の熱が内側から溢れだすのがわかる。
「やぁ……ちょっ……」
 息継ぎの合間に、静止の声をあげるがもちろん相手に聞く姿勢はみられない。
(やばっ…)
 このまま行けば、キスだけでは満足できなくなる。
 そうなると仕事に支障が……。
 内心焦りまくりつつも、どうしようもなくなってきた時、転機が訪れた。
 
 シュン。

 行き成り総帥室の扉が開いたのである。
 そうして、当然のように、そこから人が入ってきた。
「総帥、書類を―――――」
「○★△■×!!!!」
 シンタローは、先ほどまで支配されていた甘い感覚を一気に消して、目を見開いた。
 そこから入ってきたのは、自分の秘書を担当してくれるティラミスである。
 もちろん、自分が相手を認識したということは、相手も同じようにこちらを見ているということで―――――当然ながら、総帥とその部下の情事をばっちりと彼は目撃したのだった。
 すぐにアラシヤマと身体を離していたが、すでに時遅しである。
 誤魔化しようがない。
 いつのまにか衣服すらも乱されていれば、決定打だ。
「あっ……のぉ…その…お邪魔で……」
 じりじりとティラミスの足が後ろへと下がる。
 シンタローは、瞼を閉じ、そして深呼吸を一つした。
「がっ…」
 深い呼吸の後、シンタローの唇から声が吐き出される。
「が?」
 それに反応したアラシヤマが、こちらを向いた。
 だが、振り返った時には、もう遅かった。
「眼魔砲~~~~~~~~~~~~~~!」
 それは閃光を放ち、目の前にいたアラシヤマに直撃した。

 



「よろしかったんですか?」
「ああ? なんだ」
 もってきた書類を処理しているシンタローに躊躇いがちにティラミスが声をかける。
「アラシヤマさんのことです」
「ああ。かまわないだろ」
 手加減はちゃんとしてやった。
 至近距離であったが、命は取り留めているはずである。
 現在集中治療室行きとなっているが、まだ、死亡したと連絡が入ってないのだから、生きているのだろう。
「すいません…間が悪い時にきてしまったようで」
 恐縮そうにするティラミスに、シンタローは、きっぱりと言い放った。
「お前は悪くない」
「はあ」
「いいから、気にすんな。あいつがあそこにいるのはいつものことだ」
 確かにいつものことかもしれない。
 だが、ガンマ団本部内で、そんな場所に入るほどの傷を負ったのは初めてのはずだった。
(すいませんでした、アラシヤマさん)
 ティラミスは、そっと心の中で謝罪する。
 直接の原因となってしまった自分としては、謝らなければ気がすまない。
(もう少し、私が遅れて入ってきていたら………もっとまずいことになっただろうか)
 もしかしたら、自分がみた場面というのが、まだキスまでだったというのは、幸いだったのかもしれない。
(けれど、仕事中ということもあるし、鍵もかけずにまさか……そこまではやらないだろう………いや、でも………)
 なんだか心中複雑になってきてしまったが、ティラミスは、とりあえず自身と相手の不幸に涙したのだった。
 
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