「っ…………」
唐突な突風。
避け損なったアラシヤマは、口と目に入った砂埃に顔を顰めた。
「ペッ……まったく、難儀な場所どすな」
唾を吐き、目を瞬かせる。
細かな粒子だったのか、痛みを我慢していれば、滲む涙とともに流れていった。
ぐいっと服の袖で涙をぬぐい、今度は慎重にうっすらと目を開けると、目の前の光景を睨みつけた。
広がる大地。
先まで見通せるそこは、地平線が円を描いているのがわかる。
最初、それを見た時には、地球はほんまに丸いんどすなぁ、と暢気に呟いていた自分に苦笑する。それだけ見通しがいいということは、こちらの身を隠せる場所も極端に少ないということである。
「サバイバル演習言うのも名ばかりの実戦やて。……何人生き残れるでっしゃろ」
ぽそりと吐き出された言葉は、ずしっと心に重くのしかかるものだった。
別に、誰が死のうと生きようと自分には関係ない。
死んだものは、それだけの実力と運がなかっただけである。
必要なだけの知識は、これまで十分与えてもらっていたのだ。それを生かすも殺すも自分しだい。
けれど、それが自分に降りかかるとなれば別である。
自分はまだ死にたくはない。
他人を犠牲にしてでも、生きるつもりだった。
それくらいの貪欲さは、すでに自分の中で息づいていた。
サバイバル演習―――――そう言われて自分達は、ここに送り込まれた。すでに、激戦区とされているこの国の国境間際。もちろん、前線というわけでもない。実践の乏しい学生に、前線へやっても無駄死にを増やすだけである。
ここは、激戦区といっても一番後方の部分にあたり、よっぽどのことがないかぎり、攻撃はされない。
そう言われて、ここにガンマ団士官学校の学生40名が配置されたのである。
大半はガチガチに緊張していて、使いものにはならなりそうになかったのだが、今回の目的は、たぶんこのような場に慣らすためのものだったのだろう。そこで使える使えないかは、とりあえずは査定に響くことはあっても、命にかかわるものではなかった。
各4名ずつ、10班という小さなグループで、それぞれの地点に配置され、戦況を見据えさせられる。あるいは必要とあれば自分達より少し前で戦っている部隊まで武器・食料の補給に行くのが、ここの役目だった。
だが―――――戦地で安全という場所はない。
その言葉どおり、攻撃されないはずのこの辺りいったいで、激しい攻撃にあったのである。
当然のごとく、大概のものは、パニクって、面白いほどあっさりと敵の手に殺されていった。
いったい何を学んできたのか、と怒鳴りたかったが、こっちもそれどころではない。
事前に塹壕を掘っていたために、即座にその中に身を攻撃を交わし、だからといって、それで敵の攻撃が止むわけではない。敵が、こちらに来てしまえば、塹壕など無意味になるのだ。
ほとんど無我夢中で、武器を手に、応戦しまくったという記憶はある。
気づいた時は、周りにおいてあった銃の弾丸は尽きており、そして、敵からの攻撃も止んでいたのだった。
そして、生き残っていたのは、半数も満たない17名と、未だに味方側からの応援も迎えもこないという現実だった。
迎えについては、今日の昼頃くるはずだった。
敵にやられたのか、それともここが戦地になったためい様子を見ているのか、とにかく日が暮れかけているというのに、迎えが来る様子もない。
「ほんまに、勘弁してくだはれ…」
食料はともかく、武器は無我夢中で使っていたために、心もとないのである。他の者達も大差はない。このまま再び敵側から攻撃がはじまったらと思うと胃が痛くなる思いである。
夜になれば、さらにこちらが不利だ。
夜戦など、まったくといっていいほど経験はないのである。机上だけの経験では、十分の一も生かされないのは、すでに痛いほど悟っている。
「わては、こんなところで死ぬ気なんて、ちっともあらしまへんのやで」
不機嫌そうにそう呟いていると、
「何、ぶつぶつ言っているんだ?」
ぽこん、と唐突に拳らしきものに頭を殴られた。
「何しますのん!」
戦闘後の気の高ぶりが未だに抜け切らずに、激しく反応すれば、相手は、きょとんとした顔を一瞬し、それから、苦笑を浮かべた。
「すまん。痛かったか? 飯だと呼びに来たんだよ。ほら、代われ」
こんな状況下で信じられないほど自然に笑顔を向けてきたのは、同じようにここに演習として連れてこられていたシンタローだった。
彼の名前は有名である。士官学校では、知らないものはいない、ガンマ団総帥の息子。
もちろんアラシヤマも、彼のことは良く知っていた。他のものたちよりも知っているといってもいいかもしれない。優秀だと自負していた自分を全てにおいて打ち負かしている男である。目の上のたんこぶとは良く言ったもので、彼はまさにそれだった。自然、目につく彼を注意深く観察するくせが、悔しいがついている。
「しっかし、確かにこんなところで死にたくはないよなぁ。とんだ災難だぜ」
どうやら、先ほどの自分の独り言を聞いていたようである。
けれど、遠くを見据えるその顔には、平素と変わらぬ笑みを浮かべている。
こんな時にへらへら笑っている気がしれない。そう思うものの、今の状況では、少しばかり頼もしく思えるのが、悔しかった。
自分はまだ彼のようには笑えない。もともと常に笑うような人間ではないことはわかっているが、それでも自然の顔というのが覚えだせずにいた。初の実践的戦闘に、顔はまだ妙な強張りをもったままなのだ。
それには答えずに、アラシヤマは、すっと立ち上がった。
「おおきに。ほな、少しの間ここを頼みますわ」
「ああ、任せとけ」
歴然と見せ付けられる差に嫌悪するように、アラシヤマはそっけなくそう言い放つと彼と場所を交代した。
彼との会話は自分を苛立たせるだけだ。
アラシヤマは、彼を置いたまま後方にさがると、中央にある小さな明かりを目指した。そこには、すでに数人が焚き火を囲んでいた。
生き残ったものは、ほとんどここに全て集まっている。ここにはいない人物は、3時間交代で、それぞれ周りを警戒しているのである。
パチリ。
火がはぜる。
小さな火の粉が迫り来る夕闇に溶けるように消えていく。
「おお、アラシヤマか。ほれ、これがお前の飯じゃけんのぉ。しっかり食っちょけや」
一際大柄な体格を揺らし、焚き火の向こう側から、コージがアルミの皿を渡してくれた。
左肩の方に包帯を巻いてある。最初の攻撃で、弾が貫通したらしい。だが、たいしたことがないのか、平然とした様子で、こちらに声をかけていた。
いつもの彼の明るさに比べれば、その笑顔も空笑に見えるが、それでもある程度落ち着いている様子だった。
焚き火を囲んでいながらも、寒そうにガチガチと震えている人達とは大違いである。
本当は、火を焚くという行為は、相手に自分の場所を知らせるために、不用意にやってはいけないことだと言われているが、どうせあちらは、ここの場所をしっかりと察知しているので、今更という半ばヤケクソも入っての焚き火だった。
「そうどすなぁ。しっかり食べてはりまへんと、見張りの数が少ないよって、食べる時間もあらしまへんし」
視線をちらりと辺りに向けると、ビクリと肩を動かすものが数名。
この襲撃に怯えて、見張りすらもできないものが、苛立つことに半数はいた。
見張りの数は多くはない。半径50メートルほどを敵地に向けて半円を描くように、置いてある。それから、後方に一つ。
何かあれば、大声で知らせられる距離だ。
それでも、見張りの数が少ないというのは、頭の痛いことだった。
小さな円で囲まれたその砦は、あまりにも脆い。自分達が作る陣営は砂上の城のように不安定なものなのである。
敵が本気でかかれば、あっさりと崩壊していしまうものだ。
それなのに、役にも立たない人間を守るために、危険に身をさらされながら、見張りに立つというも腹が立つことだった。
「まあ、そんなに嫌味をいうなぁーや、アラシヤマ。行き成りこんなことになって、皆疲れきっとるんじゃ」
「わてかて、疲れとりますわ………まあ、ええどす。つまらぬ議論をしる暇はあらしまへんし」
こんな人間ばかりかと思えば、こちらも楽だ。
必死になって、味方を守ろうという気も起きなくていい。
誰が炊いたのか、歯ごたえ抜群の固めのご飯と、缶詰に入っていたクソ不味いコンビーフをスプーンでかき混ぜて、そそくさと胃に収めた。
「ご馳走様どす」
「もう行くんか?」
手早く自分の食べた食器を片付けたアラシヤマに、コージの声がかかる。アラシヤマは、振り返るとその頬をゆがめるようにして、焚き火を囲む者達を見下した。
「ここよりも見張りしていた方が万が一、敵が来た場合でも、即座に対処できまっからな。焚き火の傍で、的にしてくれなんてこと、わてには出来まへんで」
その言葉に、びくっと焚き火を囲むものたちは、反応するものの、怒りを込めてこちらを睨むほどの気概があるものは、やはりいなかった。そんな者は、ここにはいないのだ。
「アラシヤマっ! ぬしはっ」
ただ一人、咎める声が背中から聞こえてきたが、当然それは、無視だった。
来た時と同じ道を辿る。
すでに足元は闇に覆われていたが、それでも間違うこともなく、先ほどと同じ見張り場にたどり着いた。
「ん? なんだ、もうメシを食い終わったのか」
代わりに見張りに立っていたシンタローは、アラシヤマの気配に気づくと振り返った。その手には、乾パンをもっていた。
「シンタローはんは、飯は食べてはりまへんの?」
「ああ……いいんだよ、俺はこれで」
どうやら、自分より先に飯を食べた後、小腹がすいて、乾パンをかじっているわけではないようだった。
味気のない乾パンよりは、先ほどの暖かいご飯の方がマシなはずである、にもかかわらず、それを食べるということは…。
(なるほど。食料保持でっか)
確かに、助けがいつ来るかわからない状況ならば、なるべく食料は長引かせないといけない。たぶん彼は、乾パン数枚で、終わらせるつもりなのだろう。
バツが悪そうに、残っていたそれを口に放り込み、前を向く。
アラシヤマは、その隣に座った。
「交代しますわ」
そう告げると相手は、前を向いたまま、首を横へと振った。
「いや、お前は休んでおけよ。もう交代の時間だったろ?」
「かまいまへん。あそこよりもここに一人でいる方が落ち着きますわ」
それは本音だった。
軟弱者とともに焚き火を囲んでいるよりも、この闇の中、一人でいる方が、気持ち的に楽だった。一人には、慣れているのだ。
だが、アラシヤマのその答えに、シンタローは、意外そうな顔をした。
「怖くないのか?」
「この程度ならまだマシどす」
修行の時には、人食い熊が出るという場所で、三日間一人で野宿を強制させられたこともある。
まだ、上手く火も操れなかった頃だ。不安と恐怖で、ほとんど徹夜だった。
それと比べるのは、少し場違いな気がするが、それでも、あの恐ろしさを考えると、少しだけだが、ここには安堵感がある。
もちろん命の危機にさらされているのは、代わりはないのだが、それでも、今まで積んできた知識や経験が、それを少しはぬぐってくれているのだ。自分も成長したということだろう。
「凄いな、お前は」
それに、感心したように呟かれ、アラシヤマは、苦く笑みを作った。
「シンタローはんの方が、怖がっていませんやろ?」
自分よりも彼の方が、ずっと余裕あるように思える。
こうして、皆をまとめて見張りを置いたりと対応したのは、彼である。彼という存在がいなければ、皆バラバラのまま、敵に皆殺しにされていたはずだった。
「俺は、怖がってなんていられないからな」
なんでもないようにサラリと言われた言葉だが、アラシヤマは眉を顰めた。
それは、どこか苦しげに呟かれたためだった。
横を振り向けば、その顔に、笑みはない。それどころか、一瞬だけだが、泣きそうな表情を見せた。
「ここで、立ち止まるわけにもいかないし……」
自嘲気味な笑みを零し、その視線が空へと向けられる。遠くを見据えるその視線の先に、彼の表情を歪ませる高い壁が見えるような気がして、アラシヤマは、息を呑んだ。
自分が思っているほど、彼に余裕はないのだと、気づいてしまったからだ。
(総帥の息子というせいどすか?)
面と向かって、それを尋ねることはできない。けれど、それはあながちはずれてはいないはずだった。
偉大な父をもった息子の苦悩。
そんなことは、アラシヤマは知らない。分かることもできない。ただ、想像するだけだ。
期待が、重圧としてその肩に圧し掛かり、時に身動きすらも奪うだろう、その苦難。
それでも彼は、ひたすら前を向き、どんな険しい道にも立ち向かっているのだ。こんな状況化で、怯えていられるほど、彼の道は、容易いものではないのである。
ふっと無意識にもれた溜息に、なぜかアラシヤマは、自分の胸が締め付けられる想いを感じた。
気づけば、自分は、彼を気遣う言葉を吐いていた。
「なんでもええんとちゃいまっか? こんな状況どす。なんであれ行動できたもんの勝ちどすわ。あんさんは、立派どす」
アラシヤマの言葉に、シンタローは、驚いたように軽く目を見張らせた。
もっともそれをしゃべったアラシヤマ自身も驚いていた。
つい、先ほどまで、彼を慰める気などまったくなかったのである。けれど、出てきたのは、自分でも信じられないほどの相手を気遣った言葉だった。
「ありがとう」
目元を緩ませ、相手が微笑む。
だが、その瞬間、その目は険しく辺りに向けられ、それと同時に、アラシヤマに向かって飛び掛ってきた。
シンタローの身体が、アラシヤマを抱きしめるようにして重なりあう。
「なっ!」
それに、驚きの声をあげるアラシヤマは、けれどそれと共に、パンッと空気が弾けるような音を耳にした。
「うっ…」
即座に耳元から聞こえてきた痛みをこらえるような声に、アラシヤマは、とたんに状況を悟った。
撃たれたのだ。
自分には、傷はない。
当然だ。自分が受けるはずだった弾を彼が庇ってくれたのである。
倒れる彼を素早く横にし、アラシヤマは、闇を見据え、声を張り上げた。
「敵襲やっ!」
その怒鳴り声とともに、残っていた武器を手に塹壕から、身を乗り出す。
ドォン!
バリバリバリバリバリ………。
耳に痛い爆発音や銃撃音。
すぐに戦闘は始まった。
味方の方がどうなっているのか、それを確かめる余裕すらない。ただただ応戦のみである。
ピッと頬に痛みが走る。
すれすれで銃弾が頬をかすったのだ。
だが、それに怯むヒマなどなかった。
足元には、横たわったシンタローがいる。手当てをしてやりたいが、そんなヒマがないのが、歯噛みするほど悔しい。
ただ、自分ができることは、彼に言葉をかけるだけだった。
「シンタローはん……わてなんかを庇って死ぬなんてことは許しまへんからな」
死んだらあきまへん。
同じような言葉を何度も叫びながら、アラシヤマは、この悪夢のような惨劇が一刻でも早く終わること祈っていた。
「…………おわったんどすか」
闇を突き破る一瞬の閃光。
それで、全ては終わっていた。
ドォーンと地を揺らした爆音。それと同時に、大量の砂煙が立ち視界を奪っていた。
闇の中で、何が起こったのかはわからなかった。
ただ、呆然としているなかで、バリバリとヘリの音が聞こえ、そうしてそれはゆっくりと地上へと降りてきた。
ヘリのマークはガンマ団のもの。
安堵すると同時に、先ほどの光と爆音の正体がわかった。
普通の武器ではありえない破壊力。
「あれが、ガンマ団総帥の力でっか…」
感心するよりも呆然としてしまうのが先だ。
眼魔砲と呼ばれる総帥の一族が使える技。中でも、総帥であるマジックの放つそれは、桁違いの威力をもつという。
噂では聞いていたが、どれほどかを想像する時には、バズーカ砲ほどの威力ぐらいなのだと思っていた。
だが――――。
「人間じゃあらしまへんで…あんなもん」
目の前の光景を見せ付けられても、まだ信じられない。あれが、人間の手から出たものだとは到底思えないものだった。
敵は、あの凄まじい威力を持つエネルギーに、一瞬にして飲み込まれたのだ。
あれほどの苦戦していた戦いがその刹那でかたがついてしまったのである。
いくつかのヘリがアラシヤマが張っていた陣営の中に着地してきた。
ヘリのライトが眩しいほど点灯されており、その一つが、自分の方にも向けられたいた。
その方向から、人がやってくる。
アラシヤマは、息を呑んで、その人物を迎えた。
「シンタローは、怪我をしているのか」
光を背にしたその人物の顔の表情は分からない。それでも、それが誰だか見間違えるほど、アラシヤマは耄碌していない。
彼は―――彼こそが、ガンマ団総帥のマジックだった。
彼は、その場にしゃがみ込むと息子であるシンタローに触れた。
傷は、眼魔砲が放たれ、敵襲の心配がなくなった後に、アラシヤマが応急手当てをしていた。医療の知識は乏しいまでも、それでも致命傷にまでは至ってないことはわかり、安堵していた。
「はっ……あ…はい。わてを庇って」
正直に、そう告げれば、相手の表情が、変化した。
愛息子を慎重に抱き上げるとマジックは、険しい表情をアラシヤマに向けた。
「お前をか?」
「はい…そうどす」
頷くアラシヤマに、マジックの顔がまた変わる。険しい顔が、今度は蔑むものへと変化した。そうして、吐き捨てるように言葉がぶつけられた。
「無能がっ。庇われなければ生き延びられぬ程度の力しか持たないで、この子に近づくな」
「……………」
それに、何も言い返せなかった。
別に近づいたわけでもなう、彼がここにいたのだ、と言えばいいのかもしれないが、けれど、そうは言いたくなかった。
それに、過程はどうあれ、総帥の言うとおり、自分の無能さが、彼に傷を負わせたは間違いないのである。
「総帥。準備が整いました」
「ああ、今行く」
部下の言葉に返事をすると、マジックは、軽々と息子の身体を抱き上げ、立ち上がった。
すでにアラシヤマの存在など視界に入ってはいない。これ以上かける言葉もなく、彼は、傷を負ったシンタローをアラシヤマの前から連れ去った。
アラシヤマができたことは、ただ、専用ヘリへと向かう総帥の姿を、じっと眺めるだけだった。それ以外に、自分のすべきことはない。
「……畜生ッ」
唇から零れるのは、負け犬の遠吠えとあまり変わらぬ情けないものだった。血が滲みでるほど拳を握り締める。
(ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう………)
悔しくて悔しくて仕方がなかった。
なぜなのか、分からない。
けれど、何一つ、彼のためにできなかった自分が、憤りを感じるほど悔しかった。
自分の弱さが憎い。
何もできぬままに、彼を目の前から連れさらわれたことに、驚くほど自分は腹をたてているのである。
ギッと視線を彼を乗せたヘリに向けた。
そのヘリは、一足先に飛び立とうとしている。自分の手には、届かない場所に行ってしまう。
今はまだ、それを見守るしかなかった。
けれど、いつまでもそうする気はない。
「絶対に、強くなってみせますわ。あんさんを守れるほどの力を得て、今度はわてがあんさんの盾となって、全てのものから守り通して見せますわ!」
その想いが、どういう形をとるか知らない。
けれど、自分の中に芽生えた気持ちをアラシヤマは、しっかりと忘れぬように刻み付けた。
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