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『彼は不老ですよ』
『不老…』
『ええ。あれ以上年を取ることはありません―――嬉しいですか?』

















 ―――なぜ、嬉しいと思う?

 愛しい人が永遠に若いままでいれば、幸か、不幸か。








「どうかしたのか?」
 その声と共にこちらを覗き込む相手に、常になく対応を遅らせ、驚いた顔を見せてしまった。
 くつろぐための柔らかなソファーの上で、溺れるように沈む身体を無様に動かすはめになる。
「あっ、いや。なんでもないよ、シンちゃん」
「……どうしたんだよ」
 その態度が、さらに相手の不信感を買ってしまい、眉間にシワを寄せられる。
 そんな顔など一時でもさせたくはないのに。
 そう思ったら、綺麗な顔に、くっきりと刻まれるシワに、手が伸びていた。
「そんなシワを作るもんじゃないよ。痕になったらどうする」
「まだ、なんねぇよ。俺は、あんたと違って、まだ若いし」
 会話ははっきりと反らされてしまって、それをむくれるように唇を尖らせることで示し、ぼふっとソファーの上に身体を埋める。
 これ以上の追求はない。
 興味がなくなったのか。
 それでよかった。




 どうして――――この子に真実という名の残酷な未来を告げられる?

 私は無敵ではない。

















『不老不死の身体なのか?』
『不老は完全に。けれど不死は当てはまりませんよ』
『そうか』
『あの身体は、人と同じ死を得られますから―――私は一度、ちゃんと死んだでしょう―――ただ、老衰だけがありえないというだけのこと。数多くある死因の中で、それ一つがなくなったとて、どうということでもないでしょうけど』
『そうか?』
『ええ。あのような地位についていて、無事平穏に人生をまっとうに送れるはずが―――顔、怖いですよ、マジック様』


















 ―――怖くもなるだろう?

 愛する者の無残な死など望まない、願わない。











「なんかあったわけ?」
 やはり動揺は顔に出てしまうらしい。いつもならば、そんなことはないのだが、この問題は、心に直接くる。取り繕うヒマをもてないほど、深く考えこむせいだ。
「いいや、何も」
 それでもやはり誤魔化してしまうのは、性分だ。
 この子には、自分の不安など背負わせたくない。親心というものだろうか。
 だが、その気持ちは、しばしばわかってはもらえない。
「ふぅ~ん」
 そういいながらも、こちらを気にしているのは、よくわかる。
 ちらりちらりと向けられる視線に確信をする。
 可愛い子だ。
 年齢をいくら重ねようとも、変わらぬ愛おしさを持ち続けられるのも、そういう幼い仕草を未だに垣間見ることができるからだろう。
 だからこそ、手放せなくなる。
 可愛くて愛しいから、傍で愛でなければ気がすまない。




 だがそれは――――いつまで出来る?

 私は永遠ではない。















『年を取らないことは、いいことなんでしょうかね』
『お前はどうだったんだ? ……ジャン』
『辛いですよ』
『笑顔で言うのだな、お前は』
『ええ。もう笑い事ですから。けど―――あいつは笑えませんよ。まだね……どうします?』
『どう…って』
『そう言う顔が出来る方が傍にいれば、あいつも大丈夫でしょう』

















 ――――馬鹿なことを。

 そうする者が私以外にどれほどいると思う。それこそこちらの嫉妬が追いつかないぐらいだ。








「こんな顔をする奴など、あれの周りにはいくらでもいるさ」
「あれ?」
 怪訝な声音は、すぐ真横から。こちらに身体を摺り寄せていた相手には、自分の小さな呟きをしっかり耳に入れていた。
「なんでもないよ。お前には関係ないことだ」
 まだ、お前の顔を曇らせることはない。
 気付かなければ、ずっとそのままで。
「なんだよ、さっきから。おかしいぜ」
「ああ、そうだな」
 おかしいのは、認めなければいけないだろう。
「……で、肯定してもなんにも言わないんだよな」
「分かっているなら、聞かないでくれ」
 これ以上は、話せない。
「ふんっ」
 疎外されたことに対する怒りも、それにむくれる顔もすべてが愛しく、大切なもので。
 怒ったのか、逃げていくそぶりを見せるそれに、離れることを恐れるように腕が伸びる。
 頬に触れる。
 するりと指先がすべる。
 手入れなどしてないのだろうが、弾力と張りは昔のままだ。
 そしてそれは一生のもの。
 何度か往復を繰り返せば、シンタローは、猫のように気持ち良さそうに目を細めた。
「父さん……」
 それから、ねだるような甘い声。
 自分だけに向けられる、羞恥を帯びた桜色に染まる頬に、誘うように僅かに開かれる唇。
 目を閉じて、首筋をそらせ、すべてを捧げられる。
 無防備な仕草。
(ああ…罪だ)
 この瞬間、その首を掻っ切ることは、いとも容易い。
 遠くない未来の情景の一片をみるような、そんな錯覚を覚えるほど。
 罪深き姿がそこにある。
 だが、揺れる視線を叱咤とともに愛しきものに留め置く。
 迷うなかれ。
 自分にすべてをゆだねるのならば、自分の意思一つでこの先の行く末は決定される。
「シンタロー」
 だが、今はまだ先のこと。
 触れた唇から漏れる息吹は、暖かい。それが途絶えるのは、まだ先。
 だから今はいつか来る時を思う。







 ねえ――――――お前をコロスのはいつがいいだろうか?

 







 私は神ではない。


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