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 今日は五月五日。端午の節句。こどもの日である。
「ふふふっ。今日という日を一年待ちかねたよ、パパは!」
 なにやら怪しげな含み笑いを零し、(きっといらぬ)野望に激しく燃えているマジックだが、それはいつものことのため、午前中に終えた仕事を片付けるためにいた秘書の面々は、遠くからそっと見守ってあげていた。触らぬ神にたたりなし、という言葉はここでは健在なのである。
 そんな秘書官らの健気な行動を他所に、すでにテンションは上向きっぱなしのマジックは、いそいそと帰宅の用意をはじめていた。
「ふん。ふふふ~ん♪」
 今日は、くどいようだがこどもの日である。だから、当然仕事も半日で終えた。本当は、一日中お休みにしておきたかったのだが、仕事の都合上そうもできずに、泣く泣く半日出勤である。
 普通の会社社員なら、この仕打ちに社長を呪って呪い殺してしまえばいいのだが、生憎トップは自分である。当然殺すわけにはいかないし、文句も言えるはずがなく。「マジちゃんったら、頑張りやさんね」と、自分で自分を褒めてあげつつ、誤魔化しつつ、仕事を終えた。
 それでも、そんな欺瞞に満ちた、苦痛の時間はもう終わりである。
 午後からは愛する息子と楽しく過ごす時間だ。

「シンちゃ~んv パパと一緒に菖蒲湯にはいろっか★」
 さっそく愛息子のいる部屋にすっ飛んで行ったマジックは、ドアを全開にあけると同時にそう誘い文句を告げた。
 午前中はずっとその台詞が渦巻いていたのだ。
 とうとう言えたそのことに感激しつつ、マジックは両手を広げた。
(さあ、カモン!シンちゃん。パパと一緒にバスルームへGO!だよ)
 そうして親子で仲良しバスタイム★
 最近ちょっと大きくなってきた息子とは、仕事の忙しさもあいまって、一緒に入る機会が減ってきたが、今日は別である。
 これもこどもの日だからこその醍醐味だ(違うけど)
 しかし、部屋でプラモデルを作っていた息子の言葉は、そっけなかった。
「グンマと入ったから。僕、入んない」
 ……………え?
「い、いいい今なんて言ったシンちゃん?」
 この年で難聴になったのだろうか。今、妙な言葉になって耳に入ってきた気がする。
 マジックは、ぐりぐりと小指を耳の穴につっこみ、簡単耳掃除を行ってから、もう一度尋ねた。
「パパ、聞こえなかったからもう一度言ってくれるかな?」 
 その言葉に愛息は、素直にさきほどよりも大きな声で言ってあげた。
「だからね。さっきグンマが来て『高松が菖蒲湯を入れたから、一緒に入ろうよ』、っていったから入ってきたの」
「高松と?」
「高松もいたよ」
 なんの躊躇いもなくそう告げるシンタローを前に、マジックはガーンと大きな文字を背負い、重苦しい背景をバックに、がっくりと両膝を折って床につけた。
 前のめりになった身体を両腕で支える。それが、ぷるぷると震えていた。
(な、何てことだ。シンちゃんとバスタイム……それが、それが出来ないなんてッッッ)
 床についた手を握り締める。強く、強くだ。
 どうしようもない怒りがふつふつと身体の奥底から湧き上がってくるのを、マジックはまざまざと感じた。
「一年に一度の私の楽しみを。しかも……しかも、高松なんぞに奪われるとは…………この恨み末代までたたってやるぅぅぅ~~~~~~!」
 許さんッ!
 行き成り仁王立ちしたマジックは、血の涙をだらだらと流していた。
 その形相はまさに悪鬼。
 そうしてクワッと開いた口からは、呪詛の言葉が縦糸に水のごとく零れ落ちてきた。
 一体いつ、そういうものを覚えてきたのかわからないが、呪うとなれば、余念はない。さすがはマジック総帥! と部下達に崇め奉られる存在である(違うけど)
「パパ? パパ? パパぁー!」
 シンタローの呼びかけにも答えずに、マジックは一心不乱に高松を呪っていた。

「もう、パパったら! 僕、グンマのとこに遊び行っておくね」
 それをしばらく見物していたシンタローだが、5分もすれば飽きてきた。
 こういう父親を見るのが初めてならば、あともう5分ぐらいは我慢して見れたかもしれないが、『いつもじゃないけど、たまにあるんです、こんなパパ』が日常なシンタローは、回りに散らかしていたプラモデルを手早く片付けると、立ち上がった。
 本当は、部屋でプラモデル作りを続けたいけれど、父親のせいで怨念がいたるところに漂う部屋に、これ以上いたくもないのである。
「パパ。ちゃんと後で、この部屋をお祓いしておいてね」
 そうでないと、父親の呪詛のおかげで、他の妙なものもよってきそうで怖いのである。お祓いをしてもらわない限りは、絶対にこの部屋には戻って来ないぞ! と決めたシンタローは、部屋を出ていこうとしたが、それを止められた。
「シンちゃん!」
 肩をがっちりとマジックにつかまれる。
 すでにその顔に、血の涙の後はなかった。血まみれの顔を綺麗にするというワザは、シンタローが生まれた時から、身につけたワザである。すでにプロ級。神業的まで磨き上げられたそれに、血のあとは欠片も残された無かった。
 それはそれとして、マジックは息子の肩を抱いたまま、言った。
「まだ、パパとやることがあるでしょ」
 まだ、先ほどの恨みを引きずっているのか、筋肉がひきつれたような笑みを浮かべる父親に、けれど、毎度のことだと、平然とそれを見返した息子は、可愛く小首を傾げてみせた。
「なぁ~に? パパ」
 やることはあるといわれても、こちらは心当たりは無い。
 きょとんとした顔を思わずしてしまえば、
「はぅッ! シンちゃん、ラブリ~ぃv」
 それにあっさりと悩殺された父親は、ボタボタと今度は鼻から血を流しだした。
 至近距離での流血。しかし、そんなことで動じるお子様ではなかった。
「パパ…鼻血ふいて。僕の部屋汚さないで」
 注目するのは、そこである。
 さきほどからこの父親は、息子の部屋でろくなことをしていない。行き成り血の涙を流すわ、呪詛を呟くわ、怨念を振りまくわ、あげくの果てに鼻血で床を汚し始めた。
 こどもの日だし、新しい部屋でもねだろうかな、とちらりと考えたりしている、ちゃっかりものの息子を前に、父親は、取り出したハンカチーフを鼻に押し当てた。
「おっと、ごめんごめん、シンちゃんv」
 それを鼻に詰め込む。それでようやく血を止めた。
 物凄く間抜け面になっているのだが、だが、やはりこれも見慣れた光景で、シンタローは笑うこともせずに、改めて自分の父親を見上げた。
「で、なに? パパ」
 そう尋ねるシンタローに、マジックは別の場所から、また布を取り出した。
「これを見てごらん。シンちゃん! 『ぴらりん♪』」
 自分で妙な効果音を出して、内ポケットから取り出したのは、赤い布だった。だが、それはけっして、おのれの鼻血で染め上げたものではない。
 ちゃんと染物屋さんが染めた赤い布である。
「さ、シンちゃん。今日は『こどもの日』だからねv パパに、これを着て見せてくれるかな♪」
「これ?」
 ひらひらと揺れる、大きな赤い布切れを受け取ったシンタローは、それを広げてみた。
 ひし形のような形のそれは、上部には、首にかけるようなヒモが、そして左右の角にも、それぞれ長い紐がついていた。
 なによりも特徴的なのは、その中央部には特徴的な文字『金』のひともじ。
「……パパ、これって」
 ぱっと見たところ服とは言えないそれは、けれどれっきとした由緒正しい服である。
 すでに蕩けきった顔で、マジックはそのただの布としか思えぬ服を息子に押し付けた。
「そっv キンタローさんだよ。さ、シンちゃん。パパにその逞しい姿を見せてちょうだい♪」
「う、うん……」
 気は進まないけれど、大好きなパパの頼みなら断れない。
 もう5月とはいえまだ半袖には少し早いこの季節。半袖どころか、後ろの布さえないこの服を着るのは、季節柄どうかと思うのだが、一応室内温度は、調節されているために、しばらくの間ならば、その服でも風邪引く問題はない。
 シンタローは、キンタローのコスプレをするために、ぽちぽちとシャツの前ボタンをマジックの前で、はずしだした。

(シンちゃんのストリップショー……)
 それを素晴しく怪しい目つきで鑑賞しているのが、父親である。
 その全てを目に焼き付ける!という勢いで舐めるように見ていたマジックは、そのために忍び寄る危険に気付けなかった。
 ひらり…。
 シャツのボタンが全て取れ、上着が脱がれる。そこから露になる魅惑の白い肌。胸元の桜色をした―――。
「ッッッッ!」
 ハンカチーフはすでに真っ赤に染め上げられ、それすらも一緒に噴出しかけたその時、
「やれやれ。またかい、兄さん―――眼魔砲ッ!」 
 とっても投げやりで、だが威力は抜群のそれが、放たれたのだった。

 ドゴォーーン!!

 いつもならば、こんな攻撃さらりと交わすガンマ団総帥だが、今回は、完璧に油断していた。
 ど真ん中ヒット。
 爆音を当りに轟かせながら、それは部屋を突き破って行った。
 
「あ! サービスおじさん!」 
 立ち込める煙。
 だが、それも薄れてくると、部屋に一人存在していたシンタローは、にぱっと笑顔を浮かべてドアにいた人物に向かって駆け寄っていった。
 視界が戻ってくるとドアの前に佇んでいる美貌の叔父の顔がはっきりと見える。
 その前に聞こえてきた声から、来ていたのはわかっていたけれど、やはり顔が見れると嬉しかった。傍までいくと、そこで足を止めて、見上げる。
「どこへ行ってたの?」
 シンタローは、そう尋ねた。
 いつもふらりと一人どこかへ出かけていっているサービスだが、こどもの日には、シンタローのためか、ガンマ団に戻ってくるのである。だが、一度シンタローに挨拶に来た後、この叔父は、今まで姿を消していたのだ。
 それで、どこにいたのかと尋ねると、サービスは、気だるげに視線を揺らしこたえた。
「ん? 高松のとこだよ。でも、行き成りあいつが口から血を噴出してのた打ち回りだしたからね。服が汚れる前に、こっちに戻ってきたんだよ」
「ふ~ん。―――パパの呪いってちゃんときいていたんだ」
 どうやらマジックの呪いはしっかりと高松へと届いていたようだった。
「そんなことはどうでもいいから、シンタロー。さ、風邪をひくから、服はちゃんと着てようね」
「でも、パパが、これにお着替えしなさいって」
 シンタローは、手にもっていたキンタローの服をサービスに見せた。とたんに、その柳眉が顰められる。
「あの馬鹿親め…」
 邪な思いをもって可愛いシンタローにこんな裸同然の服を着せようとしたマジックを罵りつつ、サービスは、そんな暗黒場面は欠片も見せずに、にこりと綺麗に微笑むと、シンタローの手からそれを取り上げた。
「でも、シンタロー。そのパパがいないなら、これは無駄だろ?」
「あ、そっか」
 その言葉に、シンタローは、ぽんと手を叩いた。
 サービスの言うとおりである。この部屋にはもうマジックは存在していなかった。
 パパは、さきほど、この美貌の叔父が放った眼魔砲によって、どこかへと吹き飛ばされてしまったのだ。
 部屋にはぽっかりと大きな穴だけが開いている。そこから吹き込む風は、風邪をひきそうなくらい冷たかった。
「くしゅん」
 思わずくしゃみが出てしまえば、優雅に、けれど素早くサービスが動いた。
「ほら、これを着なさい」
 床に落ちていたシャツを拾われ、シンタローの肩に乗せられる。
「うん」
 シンタローは、それを急いで身につけた。きっちりとボタンを上まで留められのを確認すると、サービスは、甥っ子の小さな肩に手を置いた。
「さ、むこうで柏餅が用意されていたから、食べに行こうね」
「はぁーい!」
 そう促され、シンタローはいい子の返事をして、サービスとともに部屋を後にしたのだった。





 一方、吹き飛ばされたマジックはというと。
「そうすーい! こいのぼりの真似は、危ないからやめてくださぁ~い!!」
「誰が、こいのぼりの真似なぞするか! サービスにここまで吹き飛ばされたのだ!! 早く助けんかぁ~!」
 眼魔砲で吹き飛ばされ、外へと放り出されたマジックだが、しかし、しっかりと生きていた。
 愛息のために立てたこいのぼりのポールにしがみついたマジックは、大きな真鯉よりも逞しく、父をアピールしていたのだった。













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