ひゅっ。
氷の刃物を押し当てられたような冷気が背後から、髪をかき上げ、首筋を通っていった。
「っ! さびぃ~」
身体を震わせ、コートの襟を手で握りしめるようにして締め付けると、シンタローは、背後を振り返ってぼやいた。
しんと冬の冷たい空気が辺りに沈殿している。それゆえに少しの風でも、身を切られるぐらいの鋭い冷気を感じてしまう。空を見上げれば、星一つ見せぬ漆黒が重たげに澱んでいた。誰かが、今晩は雪だと言っていたが、その予報は、はずれていないかもしれない。
首筋が寒かった。コートの襟を立てても、僅かな温もりを得られるだけで、風が吹けば、それすらも奪い去られてしまう。
(マフラーが欲しいな)
その寒さに触れた時から、それは思っていたのだけれど、自分の首にはそれが存在していなかった。もちろん、最初はマフラーをして行くつもりだったのだ。だが、出かけに差し出されたそれを、自分が、拒絶してしまったのである。
寒くないからと、突っぱねたわけではない。そんな理由ではなく―――――。
「あいつが、まともなマフラーをくれれば……」
いまさら言っても無駄なのだが、思い返すたびに苛立ちと怒りはこみ上げてくる。
それは、つい半時ばかりの出来ごとだった。
『出かけるなら、このマフラーをしていってね♪』と言って、玄関で差し出されたのは、真っ白なマフラー。初お目見えのそれは、手編みであることは間違いないのだが、差し出された人物の腕が、かなり達者なために、売り物だといわれても納得できる出来栄えである。ならば、それを首に巻いたところでさしたる問題はないように思えた。ただ―――――その白いマフラーに丁寧に入れられていた文字がいかんともし難いものだった。
真っ赤な毛糸によってデカデカと綴られた言葉は『マジック命』。
どこの誰が、そんなマフラーをして出かけられるだろうが。もちろん、首にぐるぐると巻けば見えないようにすることもできるが、うっかり落として、見知らぬ誰かにそれを見られた日には、真冬のドーバー海峡の中を泳いでも足りにないほどの、居たたまれない熱にうなされるだろう。
そんなことは真っ平ごめんである。
結果、そのマフラーをその場で、地に叩き付け、真冬の外出にもかかわらず、マフラーなしで出かけるはめになったのだった。
もっとも、その寒さももうすぐの辛抱だ。
「さてと、何買おうかな」
もう少し歩けば、目当てのデパートにたどり着ける。久しぶりの外出で、少し気分が浮き立っているのか、口元には笑みが作られている。
道行く人達の足は、通りを吹き荒ぶ北風のせいか皆一様に忙しなく、店や街路樹に飾られたイルミネーションの光の中を進んでいた。シンタローも、どちらかと言えば足早に、肩を丸めるようにして歩いている。それでも、通りに面した店から覗けるディスプレーには、目が惹かれていた。
華やかに彩られ飾り立てられた品々と、店の奥から流れる明るい曲は、今の時期特有のもので、目や耳に触れるたびに、小さな子供の頃に戻ったように心をはずませる。
「もう明日がクリスマス・イブだもんな」
今日は、十二月二十三日。クリスマス前夜のさらに前夜である。店が両脇に並ぶこの通りでは、すでにクリスマス一色に染め上がっていた。
「グンマとキンタロー。それから………まだ、寝てるけど、コタローにあげる物は目星をつけているんだけどなぁ」
兄弟や従兄弟に買う予定の品を頭の中でリフレインさせ、シンタローは、よしっ、と小さく頷いた。
ガンマ団総帥がここにいる理由。それは、家族や従兄弟にあげるクリスマスプレゼントを買うためであった。
おかしなことだと思うだろうが、庶民的なシンタローには、それが普通のことだった。クリスマス前、家族のプレゼントを調達するため、一人で出かけ、買いに行くのは、すでに毎年の恒例となっているのである。
もっともガンマ団総帥になってからは、さすがに部下達に止められた。一人で街中に出歩くには、危険だと言うのだ。
確かにそうだろう。
だが、そんなことで、あっさりといつもの習慣をやめるほど聞き分けのいい人間ではない。説得というよりは、単なる我侭を押し通し、シンタローは、こうしていつもどおり一人で出かけてきていた。
それが前日ギリギリになったのは、年末の忙しさのあまり、この日の夜しか、空かなかったせいである。明日になれば、クリスマス・イブ。今年も、お祭り騒ぎ大好き、イベント大好き親父の呼び出しをくらい、一族総出でクリスマスパーティが行われるだろう。その後に、めいめいプレゼント交換がいつもの流れだった。
兄弟や従兄弟のプレゼントはいい。
グンマの奴は、実用性皆無でも、ちょっと変わった―――どこがかは自分には理解できないが―――魅力がいっぱいなキャラクターのくっだらないオモチャをあげれば喜んでくれるだろう。
反対にキンタローは、実用性一点にかかっている。しかも自分の気に入っているメーカーでなければ使わないという融通の聞かない頑固者だが、プレゼントはしやすい。いつもキンタローの傍にいれば、自ずと今年のプレゼントは決まってくる。
コタローには――クリスマス・イブが誕生日だということもあるから、毎年恒例の手作りケーキと、そしていつ起きても大丈夫なように身体にぴったりと合った服をあげている。半分以上、自分の望みが混じってしまっているが、それを着て一緒に出歩けるように願いを込めて服を贈る。
こんな風に、あげるプレゼントは決まっているのに、一人だけ、頭を悩ませる存在がいた。
「あいつのはどうすっかなあ」
毎年のことだけれど、いつも考え込んでしまう。
北風にさらわれた黒髪を押さえるように、後頭部に手をあて、ガリガリとかきむしり、悩む頭を刺激する。自然顔は、しかめっ面に変わっていた。
脳裏にちらつくのは、いつも余裕綽々の笑みを浮かべる元ガンマ団総帥の男であり、シンタローの父親であるマジックの姿。
「親父の奴、気に入らないもんをあげると使わねぇからな」
自分がくれたものだからと、その場では、物凄く喜んでくれるのだが、それがマジックの趣味にあわないものだったりすると、使わずにただ飾っておくだけなのである。
幼い頃は、それに気づかなかったが、ある日そのことに気づいてしまった時のショックはかなり大きかった。
それ以後、シンタローはそんな屈辱を受けないためにも、不本意ながら、マジックに贈る品だけは、かなり吟味するようになったのである。
贈ったからには、使ってもらいたいのは当然の心理だろう。
だが、難しいことに、ただ使えるものを贈ればいいというわけでもなかった。
「マジックが使うもので、こっちの被害にならないものっと……」
それが最重要である。
以前高性能なデジタルカメラを贈った時には、その機能を駆使され、信じられない場所での写真撮影がされていた。知った時には、その場で眼魔砲を放ち、ぶち壊してやったが、風の噂では、さらにその後にでた、それ以上の機能をもつ新機種を自腹で買ったらしい。しかし、また壊されることを用心しているのか、それはまだ見たことなかった。
とにかく、善意で贈ったものでこちらに被害があってはたまったもんではないのである。
そうなると、なかなか品物を決めかねる。
認めたくないが、ガンマ団総帥を退いたあの父親は、今ではすっかり愛息のシンタロー中心に回っているのである。もちろん、以前もそうだったが、あの頃は、自分の他に世界征服という野望もあったために、こちらに目が向けられないこともあった。だが、今は違う。
大人しく隠居爺になっておけばいいのに、下手をすれば四六時中付きまとわれる。
『趣味は?』と問えば、『手芸』。しかも、その趣味で作られるのは、シンちゃん人形と呼ばれる、愛息シンタローそっくりの人形である。もちろんそれ以外にも色々作っているようだが、実態がどうなっているのか、確認したくはない。噂では、かなりの力作が多々あるようだが、自分を模って作られた品など見たくなかった。下手につつけば、手痛いしっぺ返しも食らうし、こういうのは、無視を貫くのが一番である。
とにもかくにも、彼のプレゼントは未定のままだ。
「まあいいや。中に入れば、いいやつも見つかるだろう」
悩むのは、暖房のきいた暖かな場所がいい。こんな寒いところで考えても脳に血が巡りにくく、いい考えも浮ばない。
風になびくコートをさばき、足を進めたシンタローだが、不意にその足を止めた。
「んっ?」
通り過ぎようとしたビルとビルに少しばかり隙間がある。大人一人が入れるぐらいの幅しかないその奥に、周りの暗闇よりもさらに真っ黒な塊が見えた。シンタローは、それに視線を凝らした。四角いシルエットは、ダンボール箱のようだが、口が開かれたそこから、何かが動いているのが見えたのだ。
「猫…か?」
鳴き声は聞こえてこないが、もしかしたら心無い者が捨てた子猫かもしれない。そう思うと、そのまま見なかったふりも出来ずに、シンタローはそれに近寄った。
(捨て猫なら拾って帰ってやろう。そうしたら団員の中で飼ってくれる奴がいるだろうし)
意外に思うかもしれないが、団内では、猫など愛玩動物を飼うものは多い。殺伐とした職場に身を置いているためか、心のよりどころにしている者も数多くいるのだ。
癒しを求めるその行為をシンタローは、否定していない。
だから、ダンボールの中のものが動物だった場合は、拾って持ち帰っても差し障りは無かった。飼い主募集の張り紙をすれば、すぐに見つかるだろう。それに、持ち帰ったのが総帥となれば、無下に扱う者は、名乗りでないはずだった。
「何がいるんだ?」
そう言いつつも猫だと信じきっていたシンタローは、その中を見たとたん、しばし硬直した。
自分の目が信じられず、まじまじとその中を凝視する。
「…………嘘だろ?」
思わず自分自身で問いかけてみるが、誰もそれを否定してくれるものはいないし、肯定してくれるものもいない。
自分で結論を出さなければいけないのだが、結論も何も、その目に映っているのは、紛れのない事実であった。
どこぞの宅急便の会社名が入ったダンボール箱の中、真っ白な毛布に包まれて、そこにいるのは確かに動物で、しかし猫や犬などいうペットになりえるものではなかった。
そこにいたのは―――――。
「なんで、こんなところに赤ん坊が寝てるんだよっ!」
柔らかなホッペに、小さな手。どうみても、人間の形をしたその小さな生き物は、寒風吹き込むビルの谷間の中、スヤスヤと安らかな寝顔を見せていた。
「信じらんねぇ…誰だよ、こんなところに赤ん坊を捨てやがったのは!」
ベビーカーや揺り篭ならともかく―――それでも、こんなところで一人置き去りにされていれば変だが―――段ボール箱に入れられている赤ん坊というのは、どう見ても誰かが故意に捨てたものであろうことを容易に予想がつく。
(冗談じゃねぇ! 誰が、んなところに、赤ん坊を捨ててんだよ)
憤慨しつつ、シンタローは、辺りを見回してみる。だが、それは無駄なことだった。もちろん近辺に人影などなく、それらしい人物を見つけることはできなかった。
この赤ん坊に関することで何か手がかりになりそうなものはないかと、中を覗き込んで見てみるが、夜で視界が悪い上に、ここには常に風が吹いてきている。ぱっと見では、何も見つからなかった。
もしも、手紙が置かれていたとしても、赤ん坊の身体の下などに置かれてなければ、吹き飛ばされていてもおかしくない。
「どうするかなぁ」
顔をくしゃりと曲げて、シンタローは、その前にしゃがみこんだ。赤ん坊は、以前としてぐっすりと眠っている。気温はたぶん零度以下だというのに、たいしたものである。
けれど、そのままにしておくことも出来なかった。
「泣くなよ~?」
そう断りを入れて、シンタローは、そっとその中に手を差し込むと、その赤ん坊を抱き上げた。
「うわぁ」
柔らかな弾力に、冷え切った指先に伝わる温もり、腕にかかる確かな重み。
夢や幻ではなく、現実の感覚だ。
(赤ん坊を抱くなんて久しぶりだな…)
恐る恐るというのがぴったりな感じで、それを自分の胸に寄せた。
懐かしい感覚だった。弟のコタローが生まれた時には、自分が亡くなった母親の代わりに常に抱いてあげていたが、それもかなりの昔のことになってしまった。
それでも、自分の手はまだ、赤ん坊の抱き方というのを覚えてくれていたようで、たいして危なげなく、それは腕の中に納まってくれた。
パチッ。
同時に、赤ん坊の瞳が開く。
「あっ…」
そこにあったのは、髪と同じ漆黒色の瞳だった。
赤ん坊のくせに釣りあがり気味の瞳が、真っ向からシンタローを見上げた。後頭部に置かれた髪は、どちらかというと固めで突っ立っている。
なんとなく、どこかの誰かを彷彿させてくれるような赤ん坊だった。
そう思うと、こんな状況でマイペースに睡眠をとっていた、ふてぶてしいとも言える姿に納得してしまう。
今も、見知らぬ自分が抱いているというのに、泣きもせずに大きな瞳でじっとこちらを見ていた。
(パプワの赤ん坊の頃もこんなんだったのかな)
昔、彼の育て親のカムイに聞いた時は、パプワ島についたとたんその赤ん坊は、アナコンダで縄跳びした、と言っていたが、まさかこの子は、そんなことはしないだろう。
「あーあー」
初めて赤ん坊がしゃべった。それと同時に、小さな手が自分に向かって伸びてくる。どうやらあの寒さの中でも十分元気を残していたようである。
ばたばたと手が動き、シンタローの髪に手が触れると、行き成りそれを引っ張った。
「あてっ」
たいした痛みはなかったのだが、思わずそう呟くと、赤ん坊は一瞬ビックリしたような顔になり、それから、また二、三度引っ張ってくれた。
「ちょ、ちょっとまて。痛いって。なんだよ、てめぇは」
赤ん坊にしては愛想のない顔で、しきりに髪を引っ張る赤ん坊に、その手から髪を取り戻そうとすれば、偶然だろうが、空いていたもう一方の手が、シンタローの顎にヒットした。
「っ! ……てめぇは、マジにパプワか?」
そう疑いたくなるようなタイミングである。赤ん坊の手から、髪を奪い返す隙を失ったシンタローは、それから得心がいったように頷いた。
「ああ、わかった。お前、メシが欲しいんだろ? パプワの奴もメシ時になると凶暴性がアップしてたもんな」
それに目が覚めた後は、必ずメシだ。
そうだと言わんばかりに、赤ん坊は、「あー」と声を出して主張した。
とはいえ、男の自分に当然赤ん坊のメシになる乳など出るはずもない。ミルクを作ってあげるのが、妥当なところだが、ここにそんな設備も道具もなかった。
(どうすっかなあ)
さすがに人間の赤ん坊が捨てられているとは思ってもみなかったものだから、自分も少し動転しているのか、考えがまとまらない。
「いてっ」
考え込んでいれば、再び握られたままの髪が引っ張られる。やはり催促しているとしか思えない行動である。
「はーいはいはい、ちょっとまってなさいって」
しょうがねぇな。
腹をくくるしかなかった。シンタローは、赤ん坊を抱き上げると立ち上がる。ここにいつまでもいても仕方ないからだ。
片手に、赤ん坊が寝ていたダンボールを持ち、そのままネオンに照らされている大通りに近づいた。けれど、まだ通りには出ない。その前にやることがあった。さきほどいたビルの奥よりも、光が差し込む場所まで来ると、シンタローは、段ボール箱の中を探り始めた。
何か、赤ん坊の身元がわかるものはないかと調べるためだ。けれど、それらしき物は、残念ながら見当たらなかった。
中に入っているのは、真っ白な毛布と隅に転がっていたおしゃぶりだけだった。とりあえず、メシを催促するその子をゴマかすために、それを口に押し付け、シンタローは、入っていた毛布で赤ん坊の体にしっかりとくるんだ。
一応冬物の白いベビー服を着ていたが、もちろんそれだけではこの寒さは防げない。しっかりと防寒完備すると、
「よしっ。んじゃ、とりあえずまずは交番だな」
もう少辛抱してくれな。
赤ん坊の体を軽く揺すり、とんとんと背中を優しく叩くと、シンタローは、立ち上がった。
早く腹を満たしてやりたいが、そのまま団につれて帰るわけにはいかないだろ。こういう時は、早めの報告をした方が、親が見つかり易いはずだ。
シンタローは、赤ん坊を抱き、まだ必要になるかもしれないと、ダンボールをもって最寄りの交番に向かった。
氷の刃物を押し当てられたような冷気が背後から、髪をかき上げ、首筋を通っていった。
「っ! さびぃ~」
身体を震わせ、コートの襟を手で握りしめるようにして締め付けると、シンタローは、背後を振り返ってぼやいた。
しんと冬の冷たい空気が辺りに沈殿している。それゆえに少しの風でも、身を切られるぐらいの鋭い冷気を感じてしまう。空を見上げれば、星一つ見せぬ漆黒が重たげに澱んでいた。誰かが、今晩は雪だと言っていたが、その予報は、はずれていないかもしれない。
首筋が寒かった。コートの襟を立てても、僅かな温もりを得られるだけで、風が吹けば、それすらも奪い去られてしまう。
(マフラーが欲しいな)
その寒さに触れた時から、それは思っていたのだけれど、自分の首にはそれが存在していなかった。もちろん、最初はマフラーをして行くつもりだったのだ。だが、出かけに差し出されたそれを、自分が、拒絶してしまったのである。
寒くないからと、突っぱねたわけではない。そんな理由ではなく―――――。
「あいつが、まともなマフラーをくれれば……」
いまさら言っても無駄なのだが、思い返すたびに苛立ちと怒りはこみ上げてくる。
それは、つい半時ばかりの出来ごとだった。
『出かけるなら、このマフラーをしていってね♪』と言って、玄関で差し出されたのは、真っ白なマフラー。初お目見えのそれは、手編みであることは間違いないのだが、差し出された人物の腕が、かなり達者なために、売り物だといわれても納得できる出来栄えである。ならば、それを首に巻いたところでさしたる問題はないように思えた。ただ―――――その白いマフラーに丁寧に入れられていた文字がいかんともし難いものだった。
真っ赤な毛糸によってデカデカと綴られた言葉は『マジック命』。
どこの誰が、そんなマフラーをして出かけられるだろうが。もちろん、首にぐるぐると巻けば見えないようにすることもできるが、うっかり落として、見知らぬ誰かにそれを見られた日には、真冬のドーバー海峡の中を泳いでも足りにないほどの、居たたまれない熱にうなされるだろう。
そんなことは真っ平ごめんである。
結果、そのマフラーをその場で、地に叩き付け、真冬の外出にもかかわらず、マフラーなしで出かけるはめになったのだった。
もっとも、その寒さももうすぐの辛抱だ。
「さてと、何買おうかな」
もう少し歩けば、目当てのデパートにたどり着ける。久しぶりの外出で、少し気分が浮き立っているのか、口元には笑みが作られている。
道行く人達の足は、通りを吹き荒ぶ北風のせいか皆一様に忙しなく、店や街路樹に飾られたイルミネーションの光の中を進んでいた。シンタローも、どちらかと言えば足早に、肩を丸めるようにして歩いている。それでも、通りに面した店から覗けるディスプレーには、目が惹かれていた。
華やかに彩られ飾り立てられた品々と、店の奥から流れる明るい曲は、今の時期特有のもので、目や耳に触れるたびに、小さな子供の頃に戻ったように心をはずませる。
「もう明日がクリスマス・イブだもんな」
今日は、十二月二十三日。クリスマス前夜のさらに前夜である。店が両脇に並ぶこの通りでは、すでにクリスマス一色に染め上がっていた。
「グンマとキンタロー。それから………まだ、寝てるけど、コタローにあげる物は目星をつけているんだけどなぁ」
兄弟や従兄弟に買う予定の品を頭の中でリフレインさせ、シンタローは、よしっ、と小さく頷いた。
ガンマ団総帥がここにいる理由。それは、家族や従兄弟にあげるクリスマスプレゼントを買うためであった。
おかしなことだと思うだろうが、庶民的なシンタローには、それが普通のことだった。クリスマス前、家族のプレゼントを調達するため、一人で出かけ、買いに行くのは、すでに毎年の恒例となっているのである。
もっともガンマ団総帥になってからは、さすがに部下達に止められた。一人で街中に出歩くには、危険だと言うのだ。
確かにそうだろう。
だが、そんなことで、あっさりといつもの習慣をやめるほど聞き分けのいい人間ではない。説得というよりは、単なる我侭を押し通し、シンタローは、こうしていつもどおり一人で出かけてきていた。
それが前日ギリギリになったのは、年末の忙しさのあまり、この日の夜しか、空かなかったせいである。明日になれば、クリスマス・イブ。今年も、お祭り騒ぎ大好き、イベント大好き親父の呼び出しをくらい、一族総出でクリスマスパーティが行われるだろう。その後に、めいめいプレゼント交換がいつもの流れだった。
兄弟や従兄弟のプレゼントはいい。
グンマの奴は、実用性皆無でも、ちょっと変わった―――どこがかは自分には理解できないが―――魅力がいっぱいなキャラクターのくっだらないオモチャをあげれば喜んでくれるだろう。
反対にキンタローは、実用性一点にかかっている。しかも自分の気に入っているメーカーでなければ使わないという融通の聞かない頑固者だが、プレゼントはしやすい。いつもキンタローの傍にいれば、自ずと今年のプレゼントは決まってくる。
コタローには――クリスマス・イブが誕生日だということもあるから、毎年恒例の手作りケーキと、そしていつ起きても大丈夫なように身体にぴったりと合った服をあげている。半分以上、自分の望みが混じってしまっているが、それを着て一緒に出歩けるように願いを込めて服を贈る。
こんな風に、あげるプレゼントは決まっているのに、一人だけ、頭を悩ませる存在がいた。
「あいつのはどうすっかなあ」
毎年のことだけれど、いつも考え込んでしまう。
北風にさらわれた黒髪を押さえるように、後頭部に手をあて、ガリガリとかきむしり、悩む頭を刺激する。自然顔は、しかめっ面に変わっていた。
脳裏にちらつくのは、いつも余裕綽々の笑みを浮かべる元ガンマ団総帥の男であり、シンタローの父親であるマジックの姿。
「親父の奴、気に入らないもんをあげると使わねぇからな」
自分がくれたものだからと、その場では、物凄く喜んでくれるのだが、それがマジックの趣味にあわないものだったりすると、使わずにただ飾っておくだけなのである。
幼い頃は、それに気づかなかったが、ある日そのことに気づいてしまった時のショックはかなり大きかった。
それ以後、シンタローはそんな屈辱を受けないためにも、不本意ながら、マジックに贈る品だけは、かなり吟味するようになったのである。
贈ったからには、使ってもらいたいのは当然の心理だろう。
だが、難しいことに、ただ使えるものを贈ればいいというわけでもなかった。
「マジックが使うもので、こっちの被害にならないものっと……」
それが最重要である。
以前高性能なデジタルカメラを贈った時には、その機能を駆使され、信じられない場所での写真撮影がされていた。知った時には、その場で眼魔砲を放ち、ぶち壊してやったが、風の噂では、さらにその後にでた、それ以上の機能をもつ新機種を自腹で買ったらしい。しかし、また壊されることを用心しているのか、それはまだ見たことなかった。
とにかく、善意で贈ったものでこちらに被害があってはたまったもんではないのである。
そうなると、なかなか品物を決めかねる。
認めたくないが、ガンマ団総帥を退いたあの父親は、今ではすっかり愛息のシンタロー中心に回っているのである。もちろん、以前もそうだったが、あの頃は、自分の他に世界征服という野望もあったために、こちらに目が向けられないこともあった。だが、今は違う。
大人しく隠居爺になっておけばいいのに、下手をすれば四六時中付きまとわれる。
『趣味は?』と問えば、『手芸』。しかも、その趣味で作られるのは、シンちゃん人形と呼ばれる、愛息シンタローそっくりの人形である。もちろんそれ以外にも色々作っているようだが、実態がどうなっているのか、確認したくはない。噂では、かなりの力作が多々あるようだが、自分を模って作られた品など見たくなかった。下手につつけば、手痛いしっぺ返しも食らうし、こういうのは、無視を貫くのが一番である。
とにもかくにも、彼のプレゼントは未定のままだ。
「まあいいや。中に入れば、いいやつも見つかるだろう」
悩むのは、暖房のきいた暖かな場所がいい。こんな寒いところで考えても脳に血が巡りにくく、いい考えも浮ばない。
風になびくコートをさばき、足を進めたシンタローだが、不意にその足を止めた。
「んっ?」
通り過ぎようとしたビルとビルに少しばかり隙間がある。大人一人が入れるぐらいの幅しかないその奥に、周りの暗闇よりもさらに真っ黒な塊が見えた。シンタローは、それに視線を凝らした。四角いシルエットは、ダンボール箱のようだが、口が開かれたそこから、何かが動いているのが見えたのだ。
「猫…か?」
鳴き声は聞こえてこないが、もしかしたら心無い者が捨てた子猫かもしれない。そう思うと、そのまま見なかったふりも出来ずに、シンタローはそれに近寄った。
(捨て猫なら拾って帰ってやろう。そうしたら団員の中で飼ってくれる奴がいるだろうし)
意外に思うかもしれないが、団内では、猫など愛玩動物を飼うものは多い。殺伐とした職場に身を置いているためか、心のよりどころにしている者も数多くいるのだ。
癒しを求めるその行為をシンタローは、否定していない。
だから、ダンボールの中のものが動物だった場合は、拾って持ち帰っても差し障りは無かった。飼い主募集の張り紙をすれば、すぐに見つかるだろう。それに、持ち帰ったのが総帥となれば、無下に扱う者は、名乗りでないはずだった。
「何がいるんだ?」
そう言いつつも猫だと信じきっていたシンタローは、その中を見たとたん、しばし硬直した。
自分の目が信じられず、まじまじとその中を凝視する。
「…………嘘だろ?」
思わず自分自身で問いかけてみるが、誰もそれを否定してくれるものはいないし、肯定してくれるものもいない。
自分で結論を出さなければいけないのだが、結論も何も、その目に映っているのは、紛れのない事実であった。
どこぞの宅急便の会社名が入ったダンボール箱の中、真っ白な毛布に包まれて、そこにいるのは確かに動物で、しかし猫や犬などいうペットになりえるものではなかった。
そこにいたのは―――――。
「なんで、こんなところに赤ん坊が寝てるんだよっ!」
柔らかなホッペに、小さな手。どうみても、人間の形をしたその小さな生き物は、寒風吹き込むビルの谷間の中、スヤスヤと安らかな寝顔を見せていた。
「信じらんねぇ…誰だよ、こんなところに赤ん坊を捨てやがったのは!」
ベビーカーや揺り篭ならともかく―――それでも、こんなところで一人置き去りにされていれば変だが―――段ボール箱に入れられている赤ん坊というのは、どう見ても誰かが故意に捨てたものであろうことを容易に予想がつく。
(冗談じゃねぇ! 誰が、んなところに、赤ん坊を捨ててんだよ)
憤慨しつつ、シンタローは、辺りを見回してみる。だが、それは無駄なことだった。もちろん近辺に人影などなく、それらしい人物を見つけることはできなかった。
この赤ん坊に関することで何か手がかりになりそうなものはないかと、中を覗き込んで見てみるが、夜で視界が悪い上に、ここには常に風が吹いてきている。ぱっと見では、何も見つからなかった。
もしも、手紙が置かれていたとしても、赤ん坊の身体の下などに置かれてなければ、吹き飛ばされていてもおかしくない。
「どうするかなぁ」
顔をくしゃりと曲げて、シンタローは、その前にしゃがみこんだ。赤ん坊は、以前としてぐっすりと眠っている。気温はたぶん零度以下だというのに、たいしたものである。
けれど、そのままにしておくことも出来なかった。
「泣くなよ~?」
そう断りを入れて、シンタローは、そっとその中に手を差し込むと、その赤ん坊を抱き上げた。
「うわぁ」
柔らかな弾力に、冷え切った指先に伝わる温もり、腕にかかる確かな重み。
夢や幻ではなく、現実の感覚だ。
(赤ん坊を抱くなんて久しぶりだな…)
恐る恐るというのがぴったりな感じで、それを自分の胸に寄せた。
懐かしい感覚だった。弟のコタローが生まれた時には、自分が亡くなった母親の代わりに常に抱いてあげていたが、それもかなりの昔のことになってしまった。
それでも、自分の手はまだ、赤ん坊の抱き方というのを覚えてくれていたようで、たいして危なげなく、それは腕の中に納まってくれた。
パチッ。
同時に、赤ん坊の瞳が開く。
「あっ…」
そこにあったのは、髪と同じ漆黒色の瞳だった。
赤ん坊のくせに釣りあがり気味の瞳が、真っ向からシンタローを見上げた。後頭部に置かれた髪は、どちらかというと固めで突っ立っている。
なんとなく、どこかの誰かを彷彿させてくれるような赤ん坊だった。
そう思うと、こんな状況でマイペースに睡眠をとっていた、ふてぶてしいとも言える姿に納得してしまう。
今も、見知らぬ自分が抱いているというのに、泣きもせずに大きな瞳でじっとこちらを見ていた。
(パプワの赤ん坊の頃もこんなんだったのかな)
昔、彼の育て親のカムイに聞いた時は、パプワ島についたとたんその赤ん坊は、アナコンダで縄跳びした、と言っていたが、まさかこの子は、そんなことはしないだろう。
「あーあー」
初めて赤ん坊がしゃべった。それと同時に、小さな手が自分に向かって伸びてくる。どうやらあの寒さの中でも十分元気を残していたようである。
ばたばたと手が動き、シンタローの髪に手が触れると、行き成りそれを引っ張った。
「あてっ」
たいした痛みはなかったのだが、思わずそう呟くと、赤ん坊は一瞬ビックリしたような顔になり、それから、また二、三度引っ張ってくれた。
「ちょ、ちょっとまて。痛いって。なんだよ、てめぇは」
赤ん坊にしては愛想のない顔で、しきりに髪を引っ張る赤ん坊に、その手から髪を取り戻そうとすれば、偶然だろうが、空いていたもう一方の手が、シンタローの顎にヒットした。
「っ! ……てめぇは、マジにパプワか?」
そう疑いたくなるようなタイミングである。赤ん坊の手から、髪を奪い返す隙を失ったシンタローは、それから得心がいったように頷いた。
「ああ、わかった。お前、メシが欲しいんだろ? パプワの奴もメシ時になると凶暴性がアップしてたもんな」
それに目が覚めた後は、必ずメシだ。
そうだと言わんばかりに、赤ん坊は、「あー」と声を出して主張した。
とはいえ、男の自分に当然赤ん坊のメシになる乳など出るはずもない。ミルクを作ってあげるのが、妥当なところだが、ここにそんな設備も道具もなかった。
(どうすっかなあ)
さすがに人間の赤ん坊が捨てられているとは思ってもみなかったものだから、自分も少し動転しているのか、考えがまとまらない。
「いてっ」
考え込んでいれば、再び握られたままの髪が引っ張られる。やはり催促しているとしか思えない行動である。
「はーいはいはい、ちょっとまってなさいって」
しょうがねぇな。
腹をくくるしかなかった。シンタローは、赤ん坊を抱き上げると立ち上がる。ここにいつまでもいても仕方ないからだ。
片手に、赤ん坊が寝ていたダンボールを持ち、そのままネオンに照らされている大通りに近づいた。けれど、まだ通りには出ない。その前にやることがあった。さきほどいたビルの奥よりも、光が差し込む場所まで来ると、シンタローは、段ボール箱の中を探り始めた。
何か、赤ん坊の身元がわかるものはないかと調べるためだ。けれど、それらしき物は、残念ながら見当たらなかった。
中に入っているのは、真っ白な毛布と隅に転がっていたおしゃぶりだけだった。とりあえず、メシを催促するその子をゴマかすために、それを口に押し付け、シンタローは、入っていた毛布で赤ん坊の体にしっかりとくるんだ。
一応冬物の白いベビー服を着ていたが、もちろんそれだけではこの寒さは防げない。しっかりと防寒完備すると、
「よしっ。んじゃ、とりあえずまずは交番だな」
もう少辛抱してくれな。
赤ん坊の体を軽く揺すり、とんとんと背中を優しく叩くと、シンタローは、立ち上がった。
早く腹を満たしてやりたいが、そのまま団につれて帰るわけにはいかないだろ。こういう時は、早めの報告をした方が、親が見つかり易いはずだ。
シンタローは、赤ん坊を抱き、まだ必要になるかもしれないと、ダンボールをもって最寄りの交番に向かった。
PR
キンタロー「…………拍手、すまないな」
アラシヤマ「…………おおきに、どす」
キンタロー「………以下、お礼SSだそうだ」
アラシヤマ「………かまんかったら、読んどくれやす」
キンタロー「…………」
アラシヤマ「…………」
キンタロー&アラシヤマ「………(ナンでこの組合せでお礼なん(どす?)だ?)」(冷汗)」
風邪予防には、パパが効く?
「おっかえり~、シンちゃんvv」
「………おぅ」
士官学校を終え、粉雪の舞う中、帰宅してみると。
数週間ぶりに、父親が遠征地から帰宅していて。
………ちっ。
どっか寄り道してから、帰ればよかったゼ。
自分の姿を、認めた瞬間。
思いっきり眉間にシワを寄せた、不機嫌な表情の息子だが。
「お疲れ~、寒かっただろう? 早く入って入ってvv」
殆ど、夫の帰りを待っていた、新婚な妻のごとく。
マジックはその体を抱きしめんばかりに、家の中に引きずり込むと。
強引にコートを剥ぎ取り、スリッパを出す。
「言われなくても、入るっつーのっ! だぁぁっ、うっとおしいっ、まとわりつくんじゃねぇッッ!!」
「あ、そうそう♪ 甘酒あるんだケド、飲まない?」
―――さすがに、乳幼児からの、付き合いではある。
『うざってぇんだよ、てめぇはッッ!!!』と。
今日一日の、士官学校での疲れと。
父親より与えられる、ストレスの相乗効果に。
思わず暴れ出しそうだった、シンタローは。
その、ピンにポイントを突いてきた、誘惑に。
「………飲む」
思わず―――こっくり、と。素直に頷くと、リビングに向かう。
そこに鎮座していたのは、真冬の風物詩。
ほかほかと、見た目にも温かそうな”コタツ”に、潜り込むと。
冷え切った体を。じんわりと、心地良い温もりが包んでいく。
―――あー、やっぱ。コタツは、日本人のココロだよなァ………。
オレってやっぱ、根っからの日本人なんだよナ、と。
うっとり浸っている、シンタローの前に。
トン、と。
ほかほか湯気の立つ、甘酒の入った湯のみが置かれた。
「ハイ。お待たせ、シンちゃん」
「おぅ、サンキュ………!?」
冬はヤッパ、コレだよなァ♪ と。
手元に引き寄せようとして………しかして。
スイッと、その湯飲みは。
シンタローの手から、遠ざけられる。
「………テメ、何のつもりだョ」
「ところで、シンちゃん。帰ってきて、ちゃんとうがい手洗いした?」
「あぁ!? してねぇョ、それがどーした」
―――ガキじゃねーんだゾ、オレはっっ!! と。
せっかくのイイ気分に、水を差され。
ナニやら『お預け!』とか連想させる手付きで。
彼から湯飲みを遠ざけている、マジックに。
シンタローは、不機嫌な眼差しを向け………ソレを奪い取ろうとするが。
「ダメだぞぉ、シンちゃんvv うがい手洗いは、風邪予防のキホンだよ。ハイ、甘酒の前に、ガラガラしてきなさいvv」
~~~~ナメとんのかッ、このアホ親父ッッ!!!
にこにこ、にーっこり。
完全に『ワガママ息子を諭すパパ』な顔で、湯飲みを高く持ち上げられ。
「だ――――ッッ!! 風邪引くようなヤワな鍛え方、してねぇっつーのッッ!!」
盛大に、カチンときたシンタローは。
ムキになって伸び上がり、マジックの手からソレを奪おうとする(まだ成長期途中の、この時点では。マジックとの身長差は、結構あった)。
「風邪は、ウィルスなんだから。鍛えてるとか関係ナイんだヨ? ウィルスが強力だったり、大量に………」
「いーからっ、寄越せってッッ!!」
―――いい加減にしねーと、眼魔砲カマすぞ、テメェッッ!?
一向に、言うことをきこうとせず。
覚えたての、必殺技の構えまで見せる―――そのムキになっている様子は、鼻血ものに愛らしいのだが―――愛しい、ワガママ息子に。
どうしたものか、と。
高い位置で、甘酒の湯のみを掲げたまま、思案したマジックは。
「………ふぅ。しょうが無いねぇ」
―――まったく。幾つになっても、ワガママなんだから、と。
呟くと。
シンタローに、くるりと背を向け。
素早く一口、中味を口に含んで。
「あぁっ、オレの甘酒………!!??」
盗られた、と勘違いし。
盛大に抗議の声を上げかけた、シンタローの唇に………己の唇を、合わせた。
薄く開いた、シンタローの唇の隙間からは。
優しい甘さの液体が、ゆっくり流し込まれてきて。
「さて、どうする? シ………」
唇を、離した後も。
まだ、ボーゼンと固まっている、息子に。
ニッコリ微笑む、マジックの問い掛けの半ばで。
「……………………ぅッッッ!!!!!!!!!!!」
一気に、我に返ったらしい、シンタローは。
そのまま口元を押さえ、くぐもった悲鳴と共に。
猛然と、流し台へとダッシュを掛けて。
―――うぇぇぇぇっっ!!
ガラガラ、ゴロゴロッッ!! ペッペッペッ!! ガラガラゴロゴロッッ!!
………それはそれは、盛大な。
ジャーッという水流音と、うがいの音が、家中に響き渡った。
「シンちゃん………うがいしてくれるのは、嬉しいケド」
―――ソコまでやられると、パパ、ビミョーに傷付くナ。
自ら思いついたとは言え、思った以上に派手な息子のリアクションに。
マジックは、情けなさそうな顔で、呟く。
それは。
シンタロー、17歳の冬の出来事。
”ファーストキスを、父親に奪われる”という。
後々までのトラウマとなった、衝撃の事件であった。
<終>
○●○コメント○●○ というわけで、マジシンわっしょい!!! で。(←は???)
ウチでは、生臭い関係になったのは(←その表現、止めいっちゅーの!!!)基本的に卒業後、というわけでー(笑)
日々調教中♪ デスネvv
キンタロー「ありがとう。つまらないモノだが、お礼SSを、用意しているそうだ」
高松「………こんなにつまらない、SSを読むのは?」
キンタロー「………ああ、初めてだ(苦笑)」
夕涼
日本支部では。連日三十度を越す、熱帯夜だった。
その上。夕立が近いのか、湿度まで80%を超えている。
さすがに、あんな暑苦しい総帥服を。
プライベートタイムにまで、着込んではいられない。
日本支部の屋敷の、窓という窓、扉という扉のすべてを開け放ち。
シンタローは、一風呂浴びた、浴衣姿で寛いでいた。
「うぇぇ、あっちィ~~~~~!!!」
今時珍しい『縁側』に座り込み、パタパタと団扇を仰ぐも。
風呂上りの体を冷やす効果は、さほど無い。
湿った風が、ぬるく傍らを過ぎて行くだけで―――けれど。
あの島から帰ってから………シンタローは。
エアコンの効いた室内より、こんな涼の取り方の方が。
余程にいいと、思うようになった。
それに―――夏という季節は。
あの親友と過ごした、幸福な時を。思い出させてくれるから。
ぱたぱたぱた、と。忙しく、団扇を動かして。
厚く雲に覆われた、真っ黒な夜空を見上げていると。
「ハイ、シンちゃん。夜食だよーvv」
「っ、ぎゃ―――――ッッ!!!」
ピタリ、と。
突然、頬に冷たい何かが押し付けられ。
シンタローは思わず、絶叫を上げる。
「マジック、てめ………あ?」
無意識に構えかけた、眼魔砲を。途中で、解いたのは。
振り向いた、その先に。
涼しげなガラスの器に盛られた、真白の氷の山があったから。
「………カキ氷?」
シンタローの疑問の視線に、応えるように。
マジックは、器を持つ手とは反対の手で。
テーブルに置いてある、手動式の、小さなカキ氷機を指差した。
「………うわ、なつかしー」
思わず、声が出た。
それは、その昔。
母親の里帰りも兼ね、連れてこられた、この日本支部で。
夜店のクジで、シンタローが引き当てた、四等の景品だった。
「日本の夏といえば、カキ氷だろ。蜜は、イチゴでいいかい?」
電動のカキ氷機が、数千円で買える今では。
子供のオモチャでしかない、チャチなソレを発掘してきて。
お揃いの浴衣で、ニコニコ笑っている、父親に。
シンタローは、小さく頷いて―――未だ本部で眠っている、最愛の弟を想う。
………早く、コタローが目を醒ませばいい。
そうしたら。
幾つだって、カキ氷を作ってやるのに。
赤も青も、黄色も緑も………虹色だって。
コタローが望むだけ、幾つも幾つも、作ってやるのに。
チリンと、風鈴が鳴る。
夕立の気配は、いよいよ濃くなり。
湿気を過分に含んだ風が、少しずつ、強くなる。
切なくなって、唇を噛み締めた、シンタローの頬に。
もう一度、冷たい容器が押し付けられ。
「………んぎゃっ!! この野郎っ!!」
―――一度ばかりか、二度までもッッ!!
シンタローは、今度こそ。
タチの悪い父親に、眼魔砲の照準を合わせたが。
シンタローの傍らに、赤い氷の器を置いた、マジックは。
もう片手で下げて来た、そのカキ氷機を。
両手で包み込み、首を傾げた。
「コレ、本宅に持って帰るかい、シンちゃん?」
「………あぁ。そうだな」
今、撃つと―――巻き添えに、しちまうな。
思いなおした、シンタローは。
嘆息と共に、その構えを解いて………代わりに、器を取り上げると。
銀のスプーンでひとさじ、口へと運ぶ。
スッキリ冷たい、氷の塊は。
唇から、食道をくぐり、胃に落ちて。
やがては、きーん、と。
細胞の隅々まで、広がっていく、涼。
その間に、マジックは。自らのカキ氷を持参して。
シンタローの隣に、あぐらをかく。
「夏だねぇ?」と。
さくさく、氷の山を崩す、何気ない彼の呟きに。
「夏、だな」と。
シンタローは。口元に僅かな微笑を刷き、そう応えた。
………間もなく、雨になるだろう。
湿気た南風は、絶えること無く。
軒下では、風鈴が。
しずこころなく、揺れている。
<終>
○●○コメント○●○ 夏も終わりに書いてしまった、夏らしいお礼です(笑)
マジシンって何だか、夜が似合うと勝手に思ってます。 逆に、真昼の明るい話が、まったく思い当たりません……困ったなァ(^^;;;
付き合い長すぎて、老成しちゃったんですか、ワタシ(^^;;;
マジック「拍手、本当にありがとうvv すっごく嬉しいヨvvv」
シンタロー「以下、お礼SSだとよ。くっだらねぇケド、良かったら読んでやってくれよナ」
『あの頃』
「~~~~~~~~ッッッ!!! うっぎゃぁぁぁぁ~~~~!!!!」
どちらかというと。
断ッ然ッ!! 寝起きが悪い、と言い切れるオレが。
その日の朝、目覚めと共に、ハイテンションな絶叫を放ったのは―――もちろん、理由があった。
「………あ? おはよう、シンちゃん」
目をこすりつつ。むっくりと、隣で身を起こす人物に指を突きつけ。
シンタローは、あらん限りの大声で、相手を問い詰める。
「何でテメェ、隣で寝てやがるんだョ!!??」
「………ぁあ。そうそう、シンちゃんを起こそうとしたんだけど。あんまり気持ち良さそうに寝てるから、つられて………」
ふぁーあ、と。
欠伸をしつつ、ノンビリと答えたのは、オレの父親………ガンマ団総帥マジックだったが。
その寝ぼけ眼の台詞に、不吉な予感がしたオレは。
慌てて、枕もとに置いてあった目覚し時計を取り上げる。
アナログ時計の、目覚ましは。
長針は天辺。短針はその左側、綺麗な45度の角度を示しており。
「………九時ッッ!!?? 完璧、遅刻じゃねーかョッッ!!!!」
シンタローの口から。本日二回目の、絶叫が上がる。
顔を洗うヒマさえない。
慌ててパジャマを脱ぎ捨て、制服に着替えると。
床に転がるバッグを引っつかみ、転がるような勢いで階段を駆け下りる。
「あっ、待ちなさい、シンタロー!! 朝ご飯ぐらい、食べて行きなさい!!!」
「んな時間、ねぇッッ!!!」
ガンマ団士官学校への道を、疾走しつつ。
一体。今日、何だってこんなアクシデントに見舞われたのか、考えてみた。
昨夜、眠りに着く前。
間違いなくオレは、目覚ましのセットをした。
それも、朝に弱い自覚があるから。
増音スヌーズ機能のついた、強力なヤツを使っている。
にもかかわらず、気付かなかったのは…………。
多分、昨日の深夜―――というより、今朝方、遠征から帰ってきたのであろう。
半年振りに見た、父親の先刻の台詞を思い出す。
『シンちゃんを起こそうとしたんだけど………』
―――あんのぉ、アーパー親父ぃっッッ!!!
間違いなく、マジックが。
勝手に侵入した挙句、勝手に目覚ましを消し。
挙句、呑気に一緒にスヤスヤ寝ていたに違いない。
どうせ、遅刻は確定だ。
だったら、一発殴ってやらなければ気がすまない、と。
………振り向いた、オレの視界に。
「待ちなさい、シンタロー!! 朝食は、成長期のキホンなんだよッッ!!!」
朝食トレイを掲げて、住宅街を追いかけてくる。
フリフリピンクのエプロンに身を包んだ、父親の姿。
―――一気に、総毛立った。
「………ッッッ、来るんじゃねぇぇぇぇッッ!!!」
爽やかな、夏の朝――――三度目の、絶叫が。
平和なガンマ団内に、響き渡った。
―――それは、随分昔の話だ。
急ぎ足に、過ぎ去っていった。
鮮やかに残る、記憶の断片。
あの頃。
愛されているコトが、当たり前だった。
疑う術さえ、持っていなかった。
<終>
○●○コメント○●○ 今読み返して気付いたんですが、シンちゃん寮のハズなのに、何だって家にいるんでしょーね………。
うん、きっとパパだから!! きっとパパが、シンちゃんを寝てる間にお家にさらっちゃったのよッッ!!! (゜゜)(。。)(゜゜)(。。)ウンウン
素直に過ちを認めない管理人で、すみません…………(T^T)
でも、案外。シンちゃんだけは、パパ、寮生活認めないっていうか、ダダを捏ね回した挙句、無理矢理家に留めたような気がほんのり………。
Happy birthday,dear papa
―――♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪………
………ウルサイ………。
頭は完全に眠ったまま。
―――♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪♪♪♪……♪♪♪………
それでも鳴り続ける、聞き慣れたメロディに。
いつしか、体が勝手に反応し。
彼は、反射的に携帯を取っていた。
******************
「もー、シンちゃん、出ないよぉっ!!!」
いらいらと。
携帯を手にしたまま、グンマは唇を尖らせる。
「まぁまぁ、グンちゃん。シンちゃんは、忙しいから………」
「だって、おじ………じゃなかった、おとーさまっ! アレほど、ボクが何回も何回も何回もッッ!! メール入れておいたのにっ!!!」
―――招待状だって、100通は出したのにッッ!!!
…………ソレは、もう殆ど。
不幸の手紙とか、スパムメールの域に達しているのでは、無いだろうか、と。
思わず、キンタローは、溜息をついてしまう。
「そうです、マジック様!! この会場の飾り付けにしても、わたしとグンマ様が徹夜で行ったんですよ!?」
―――そんな健気な、グンマ様の真心を踏みにじるなど。全くもって、許し難い!!!
気炎を上げる、高松の後ろでは。
「あ。だから、こんなに飾り付けの趣味が悪いっちゃね♪」
それはそれは、無邪気に、トットリが。
招待客の誰もが言えなかったヒトコトを、代弁し。
………間髪入れずに、バイオハマナスに巻き付かれた。
******************
世間では、クリスマスムード一色に染め上げられる、この時期だが。
ここ、ガンマ団においてだけは―――少なくとも、表向きは。
年末最大の行事、と言えば。
12月12日の今日、つまりは総帥マジックの誕生日パーティである。
シンタローに代替わりした今では『元総帥』なのだが。
長年の習慣は代わることなく………イヤ、むしろ。
今年は、実はマジックの実の息子、と判明し。
にわかに権力を増してしまったグンマが、張り切って陣頭指揮をとったせいで。
規模は例年以上に拡大し――――殆ど強制的に集められた招待客は、例年の倍の広さの会場に、入りきらない上。
グンマと高松という、有る意味最強コンビが徹夜で行ったという、場内の飾りつけは。
あちこちに、微妙にファンシーなロボットやら、不気味に動き、客を威嚇するバイオ植物やらが、ゴテゴテと配置され。
極めつけに。バブル全盛期の結婚式を、彷彿とさせるような。中央にででん、と置かれた12段重ねのバースディケーキは。
『マジックくん、おたんじょうびおめでとう』の電光表示板を背負い、ところ狭し、とばかりに、あらゆる表情とポーズの、砂糖菓子製のシンタロー人形が飾られている。
………余りの不調和さに、コメディーを既に通り越し。
もはや、祝ってるんだか呪ってるんだか、というような有様で。
トットリの意見は、至極正しい、と。
この場で、当事者二人を除き、誰もが内心頷いていたが。
誰も―――それこそ。
通常なら、真っ先に眼魔砲で、このアヤシイ場を破壊しかねない、マジックの兄弟達でさえ。
大人しく、参加している理由は。
「もぉー、シンちゃん、出てよぉ………シンちゃんがいなきゃ、パーティが始められないじゃないぃ」
ほとんど、半べそで携帯に耳を押し当てている、グンマが。
本当に、頑張ったのだ、ということが解っていたから。
血の繋がらない息子を、溺愛する父親と。
そんな父親の気持ちに。
ちっとも応えようとしない、意地っ張りの息子の為に。
パーティの開始時刻を、とっくに過ぎた会場で。
グンマは、携帯を握りしめたまま、途方に暮れて立ち尽くす。
―――もう、いいから。始めよう………。
見かねた、マジックが。そう、声を掛けようとした瞬間。
『ふぁい、もしもし………』
プッ、という接続音と共に。如何にも寝起きです、と解る。
シンタローの、低く掠れた声が、響いた。
「あ、もしもし? シンちゃん!?」
ぱっ、と輝いた、グンマの顔は。。
しかし、次の瞬間、キッと引き締められ。
『あー。んだよ、グンマ。おめーかよ………』
「おめーかよ、じゃないよ!! 今日は、おじ……おとーさまの誕生日でしょ!? 招待状だって、送っておいたのに!!」
金切り声で、まくし立てると。
ただでさえ、寝起きの不機嫌そうなその声が。
いっそう低く、凄みを増した。
『………用事がそれだけなら、切るぞ。時差を考えろよ、何時だと思ってんだ、テメー』
「ちょっと、シンちゃん!!」
『オヤジに言っとけ。イイ年齢して、誕生日ごときで浮かれるなってナ』
――――――プツッ!!
「シンちゃん!? シンちゃん!!!」
呼びかけても、既に携帯は切れた後。
何度リダイヤルしても、電源を切られたらしく。
『しばらくたってから、おかけ直しください』のアナウンスのまま。
「………シンちゃんの、バカ――――――ッッ!!」
ぶわぁぁぁーんっっ!!! と。
切れた携帯を握り締め。グンマはついに、座り込み、大声で泣き出した。
「あ゙あ゙あ゙――――っ!! グンマ様を泣かすなど、許し難いッ!! もうあんな男は放って置いて、私達だけでパーティを始めましょう!!!」
「高松のおバカぁっ!! シンちゃんが来なきゃ、意味がないんだってばぁッ!!」
―――慰めるつもりが、逆に、言い返され。思わず鼻血と涙を同時にこぼし、高松は硬直する。
「仕方が無いだろう、グンマ。確かに、アイツの遠征の場所は、難しい場所だから………」
シンタローの、新総帥としての激務を知っている、キンタローも。
何とか、宥めようとするが。
しかし、グンマは大きな瞳からボロボロ涙をこぼしつつ、キッと
「忙しいのも、遠いトコに行ってたのも、キンちゃんだって一緒だもんっっ!!」
―――それでもキンちゃんは、ちゃんと時間の都合をつけて、来てくれたじゃないっっ。
………更に、言い返され。グゥの音も出なくなる。
確かに、キンタローは。
祝い事には、とにかく顔だけでも出すべきだ、という常識に従い。
招待状が届いて以来、身を粉にして働き。何とか今日一日の、時間の都合をつけたが。
しかし、その常識は。そもそもシンタローの内に在る間に、培われたモノで。
つまり、その原型たるシンタローが来なかった、という事は。
こちらの想像を絶するほどに、忙しいのでは、無いだろうか………とか。
そう言いたいのは、山々だったが。
グンマがどれほど頑張ったか、高松から聞いている、キンタローには。
この瞬間の、彼の怒りや、悲しみも、理解が出来て。
「シンちゃん、去年は南国でバカンス中で、お祝いもしてあげなかったしッッ!!」
――――だから。だから、今年こそは………。
「グンマ? シンタローは、バカンスしてたんじゃなくて、漂流した挙句、幼児と犬の家政夫になってたんだよ………?」
見かねたサービスも。身も蓋も無い、フォローを入れてみるが。
「同じことだもんッッ!!!」
―――ちっがーう!!!
………その突込みを、誰も入れられなかったのは。
駄々をこねつづける、グンマの秘石眼が。
キラキラと輝きを増し、発動寸前の状態であることを悟ったから。
ひぃぃぃっ、と一般団員は頭を抱え。
伊達衆はトットリ救出の為、バイオハマナスと格闘し。
固まったままの、高松とキンタロー。
説得を諦め、優雅に持参の紅茶を啜る、サービスに。
不穏な気配に、せめて一杯、と勝手にやりはじめた特選部隊。
もはや、収拾は不可能かと思われる混乱の中。
………ぱんぱんっ!! と。
小気味良い、破裂音が響いた。
「はぁい、ソコまで」
柔らかい―――けれど、良く通る低い声が、その場に響いて。
「さ。待たせちゃったけど、パーティを始めようか」
今までの混乱が、ウソのように。思わず全員が、動きを止め、注目する中。
すたすたと、マジックは。
会場の真ん中にいる、グンマの―――息子の元へ、歩いて行き。
―――ぽん、と。座り込んだままの彼の頭に、大きな手を乗せた。
途端に。
………すぅっと、引いていく、グンマの秘石眼の光。
「お……とーさま。だって………」
まだ、瞳に涙を溜めたまま。
くすんっ、と鼻を鳴らす、グンマに。
「ありがとう、グンちゃん。でもね、いいんだよ」
―――実はね。シンちゃんからは。もうちゃんと、プレゼントを貰ってるから。
そう、囁いたマジックに………ピタリ、とグンマの涙が止まる。
「え、ソレ、ほんと? おとーさま」
ホントなら。
ホントなら………シンタローは、マジックの誕生日を忘れていなかった、コトになる。
だったら。
招待状も、メールも。無駄では無かった、という事になり。
じっと、見つめてくる、グンマの視線に。
にっこり、と。マジックは上機嫌に微笑む。
「うん。シンちゃんが恥ずかしがるから、内緒にしてたんだ。ゴメンねvv」
「えー、ナニナニ? ナニもらったの!!」
―――今泣いたカラスが、何とやら。
見せて見せてvv と。
顔一杯に書いてわくわく、と詰め寄るグンマに、少し首を傾げ。
「見せる、というか………聞かせることなら、できるんだけど」
マジックは首を傾げつつ、答える。
「じゃあ、聞かせて聞かせてvvv」
「んんー、どうしようかなぁ?」
迷うそぶりながらも、聞かせたいのは明白な素振りの、彼に。
―――多分。
最初から、あの混乱を予想しておきながら。
ワザと黙っていたのだろう……と、簡単に想像のついてしまう、その歪んだ性格とか。
一瞬にして、あれだけの騒ぎを静めてしまった。未だ健在の、そのカリスマ性や。
シンタローが先刻、あれほど不機嫌だった理由さえ。
単純な、グンマと違い………ここまでのやりとりで。
色々なものが、見えてしまった、キンタローは。
それでも。
とりあえず、大事なイトコが泣き止んでくれた事に、ホッとして。
「………今はやめておけ、グンマ」
と。
肩を抱いて、囁いた。
―――そして、遅れること、一時間後に。
盛大なパーティは、始まった。
******************
「………ったく。なァにが、誕生日だよ」
ぶちっ、と携帯の電源を切り。
シンタローは。再び、ベッドに身を委ねる。
―――眠い、眠い、とにかく眠い。
何せ、色々あって。
眠りについたのは、午前4時を回っていた。
七時の起床まで、三時間は眠れる、と思っていたのに。
グンマの責任で、中途半端な時間に、叩き起こされて。
―――まァ、でも。しょうがないけどさ、今回は。
うとうと、と。
すぐに全身を気だるい眠気が包み―――やがて、完全に眠りに堕ちる。
―――Happy birthday,Dear papa………
………数時間前に、呟いた歌を。もう一度、夢の中で歌いながら。
………本能の求めるまま、眠りについたシンタローは、まだ知らない。
目覚めて、再び。電源をオンにした際、入ってくる爆弾メールの事を。
『昨夜は、お疲れさま(^-^)ニコ 今日はゆっくり休んでね♪
あ、そうそう。プレゼントは、着信音に登録しといたたヨvv』
―――眠気も、寝不足ゆえのだるささえ、吹っ飛ぶ。その、とんでもない内容に。
ワナワナ、と震えつつ。天井を仰いで。
「………あンの、クソ親父~~~~~~~ッッ!!!!」
と。絶叫するハメに、陥る事を。
******************
それから、しばらくの間。マジック元総帥の携帯が鳴る度に。
たどたどしくも、艶のある。
シンタローの声で謡われる「ハッピーバースディ」が響き渡り。
思わず聞き惚れる団員達で、業務が完全にストップする現象が多発し。
その為、シンタロー新総帥は。
溜まりに溜まった、書類業務の監督の為。
ガンマ団本部に、戻らざるを得なくなったのだった。
○●○コメント○●○ コレをUPしたかったが為に、予定のパパの誕生日のサイト開設が「なんちゃって開設」になってしまった、という、イワク付きのSSデス。
だって、パパの誕生日記念に作ったサイトに、パパへのプレゼントが無いなんて、許されないじゃあないですか(T^T)クゥー
ちなみに。色々と深読みが出来る内容ですが………深読み禁止でお願いします(苦笑)
その内、ウラを作ったら、書くでしょう、メールにまつわる色々。
ともあれ………大好きな、マジックパパvv 誕生日、おめでとうございました。今後とも、末永くお願い致しますvv