キンタロー「ありがとう。つまらないモノだが、お礼SSを、用意しているそうだ」
高松「………こんなにつまらない、SSを読むのは?」
キンタロー「………ああ、初めてだ(苦笑)」
夕涼
日本支部では。連日三十度を越す、熱帯夜だった。
その上。夕立が近いのか、湿度まで80%を超えている。
さすがに、あんな暑苦しい総帥服を。
プライベートタイムにまで、着込んではいられない。
日本支部の屋敷の、窓という窓、扉という扉のすべてを開け放ち。
シンタローは、一風呂浴びた、浴衣姿で寛いでいた。
「うぇぇ、あっちィ~~~~~!!!」
今時珍しい『縁側』に座り込み、パタパタと団扇を仰ぐも。
風呂上りの体を冷やす効果は、さほど無い。
湿った風が、ぬるく傍らを過ぎて行くだけで―――けれど。
あの島から帰ってから………シンタローは。
エアコンの効いた室内より、こんな涼の取り方の方が。
余程にいいと、思うようになった。
それに―――夏という季節は。
あの親友と過ごした、幸福な時を。思い出させてくれるから。
ぱたぱたぱた、と。忙しく、団扇を動かして。
厚く雲に覆われた、真っ黒な夜空を見上げていると。
「ハイ、シンちゃん。夜食だよーvv」
「っ、ぎゃ―――――ッッ!!!」
ピタリ、と。
突然、頬に冷たい何かが押し付けられ。
シンタローは思わず、絶叫を上げる。
「マジック、てめ………あ?」
無意識に構えかけた、眼魔砲を。途中で、解いたのは。
振り向いた、その先に。
涼しげなガラスの器に盛られた、真白の氷の山があったから。
「………カキ氷?」
シンタローの疑問の視線に、応えるように。
マジックは、器を持つ手とは反対の手で。
テーブルに置いてある、手動式の、小さなカキ氷機を指差した。
「………うわ、なつかしー」
思わず、声が出た。
それは、その昔。
母親の里帰りも兼ね、連れてこられた、この日本支部で。
夜店のクジで、シンタローが引き当てた、四等の景品だった。
「日本の夏といえば、カキ氷だろ。蜜は、イチゴでいいかい?」
電動のカキ氷機が、数千円で買える今では。
子供のオモチャでしかない、チャチなソレを発掘してきて。
お揃いの浴衣で、ニコニコ笑っている、父親に。
シンタローは、小さく頷いて―――未だ本部で眠っている、最愛の弟を想う。
………早く、コタローが目を醒ませばいい。
そうしたら。
幾つだって、カキ氷を作ってやるのに。
赤も青も、黄色も緑も………虹色だって。
コタローが望むだけ、幾つも幾つも、作ってやるのに。
チリンと、風鈴が鳴る。
夕立の気配は、いよいよ濃くなり。
湿気を過分に含んだ風が、少しずつ、強くなる。
切なくなって、唇を噛み締めた、シンタローの頬に。
もう一度、冷たい容器が押し付けられ。
「………んぎゃっ!! この野郎っ!!」
―――一度ばかりか、二度までもッッ!!
シンタローは、今度こそ。
タチの悪い父親に、眼魔砲の照準を合わせたが。
シンタローの傍らに、赤い氷の器を置いた、マジックは。
もう片手で下げて来た、そのカキ氷機を。
両手で包み込み、首を傾げた。
「コレ、本宅に持って帰るかい、シンちゃん?」
「………あぁ。そうだな」
今、撃つと―――巻き添えに、しちまうな。
思いなおした、シンタローは。
嘆息と共に、その構えを解いて………代わりに、器を取り上げると。
銀のスプーンでひとさじ、口へと運ぶ。
スッキリ冷たい、氷の塊は。
唇から、食道をくぐり、胃に落ちて。
やがては、きーん、と。
細胞の隅々まで、広がっていく、涼。
その間に、マジックは。自らのカキ氷を持参して。
シンタローの隣に、あぐらをかく。
「夏だねぇ?」と。
さくさく、氷の山を崩す、何気ない彼の呟きに。
「夏、だな」と。
シンタローは。口元に僅かな微笑を刷き、そう応えた。
………間もなく、雨になるだろう。
湿気た南風は、絶えること無く。
軒下では、風鈴が。
しずこころなく、揺れている。
<終>
○●○コメント○●○ 夏も終わりに書いてしまった、夏らしいお礼です(笑)
マジシンって何だか、夜が似合うと勝手に思ってます。 逆に、真昼の明るい話が、まったく思い当たりません……困ったなァ(^^;;;
付き合い長すぎて、老成しちゃったんですか、ワタシ(^^;;;
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